2018年3月26日月曜日

判例裁決紹介(平成28年11月1日裁決、

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年11月1日裁決で運送業における給与所得と請負契約による人的役務の提供に対する対価の支払(並行して)に関して、仕入税額控除の適用対象となるのか否かそして、それが否認された場合において給与所得に該当する支払であるとして、源泉徴収義務を負うものであるのかという点が課題となったものです。


具体的には、運送業を営む請求人が運転手に対して支払った金員につき、運転手に対して毎月2回に分けて支払、一方を給与として取扱、もう一方を請負契約によるものであるとして取り扱っていたものであるが、当該支払は労務への対価であるとして仕入税額控除の適用を否定した更正処分に対して不服を申立た事例である。本件では当該支払が如何なるものとして租税法規において評価されるべきであるのかという点が課題となっているものである。争点としては当該支払が人的役務の提供に関する給与であるのか、あるいは請負契約(傭車契約)に基づくものであるのかという点であろう。基本的に事実関係から如何なるものと評価しうるものであるのかという点が中心的な争点となるものであり、かかる点において特段特徴的な法令解釈が提示されているものではないが、この適用、事実認定により、消費税法上の仕入税額控除の対象となりうるものであるのかあるいは、給与に該当するとして請求人が源泉徴収義務を負うべきものであるのかという点は左右されることとなる。本件では基本的に同一の業務につき、上記のように一部を給与、一部請負契約によるものとして支払うような形式をとっており、かかる点をいかに捉えるべきであるのかという点が特徴的な点であろう。受領者側からは、事業所得と給与所得が混在するような稼得状態となっているものであるが、人的役務の提供に対する給与所得としての取扱は、仕入税額控除の対象とならないという現行制度上は、支払側として、このような人的役務の提供に関して請負契約による支払(いわゆる外注費)として扱う誘因が顕現しており、かかる点が本件の背景にあるものと考えられよう。最終的な判断としては本件は、各運転手の事業の許可や指揮命令系統、契約の不備等から給与としての判断を行っているが、比準対象となるような取引が同一の運転者に対して存在しているような、併存しているような契約形態において如何にして判断プロセスをへることで給与としての該当性が判断されているのかという点は参考となるべきものと考えられる。このような契約が併存しているような稼得形態は従前より多様な業務において想定されうるところであり、ICTの発展等により今後は働き方もこのような雇用的自営の存在が拡大してくる現況においては、本件のような稼得状況が複合的、あるいは給与所得と事業所得の境界上にあるような事例は増加することが想定され、特にこの今日は従前より問題視されてきた点でもある。本件もこの類型に属するものであるが、現代の働き方が変化しつつあるような状況において、本件のような境界は定かではないような(本件は明らかに租税負担の回避を企図したものであり、逆に境界の曖昧さを利用しているような事例ではあるが・・。本質的には同族会社の行為計算否認のような対象となるものであるが、消費税の負担の軽減は対象とならない)事例の増加が想定されるところでもあり、先例として、あるいは実務的にもこの区分を検討するうえで参考となるものといえよう。



第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

所得税法28条1項に規定する給与所得、すなわち「俸給、給料、
賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与にかかる所得」とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものであり、給与所得に該当するか否かの判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかが重視されるべきであると解される(前掲最高裁判所昭和56年4月24日第二小法延判決)

以上のように本件の中心的な課題は上記のように請求人が支払った金員が人的役務の提供に関して、給与として該当するのか否か、すなわち事業所得と給与所得の区分が課題となっているものである。基本的に外注費と給与を混在させているような状況であり、特殊な状況にあるようなものとも評価し得ようが、このような人的役務の提供に関する所得区分に関しては従前より課題となっているものであり、そのリーディングケースである上記最判での区分が、基礎となっているものである。本件も以下のように

 「人的役務の提供から生じる所得は、給与所得にも事業所得にも該当する要素があり、個別の役務提供の具体的態様に応じてそのいずれに該当するかを判断しなくてはならないが、その場合の判断の一応の基準として、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生じる所得をいい、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、給与所得に該当するかどうかの判断に当たっては、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視しなければならないと解する」

最判の基準に則り(消費税法上の対価の支払が課題となっている事例でもあり、明示はしていないが)、基本的に判断を行っている。かかる点ではクラッシクな事例でもあるが、上記のように具体的な基準として、従属性と独立性を基礎としており、ティーチングケースとしての位置付けにあるような事例でもある。近年は裁判例においても上記のような従属性をあまり重視しないような事例が出てきており、ICTや働き方の変化による対応として独立性を重視するような事例が豊富になってきた中で、このような事例の存在もまた、無視されるべきではないのかもしれない。最終的な判断としても請求人が主張する独立的な要因(対価の支払の変動等)に対しては排斥しており、実質的には指揮命令系統や従属性を基礎とした判断を行っており、境界における従属性の役割が強調されている点が留意される。具体的に何をもって従属的であるのか否かという点を判断するのかという点が、より課題であるわけであるが、多様な取引において一般的な基準は想定しがたいものの(この点を明らかにすることが課題でもあるが基礎としては指揮命令等を判断していくことになるものともいえる)、本件のように比準対象となるような取引が存在するような事例において、事業所得部分を単に金額の変動のみに、独立的な要因として基礎付けることは、対比として相違点には必ずしも該当し得ない可能性が考えられよう。いずれにしても、従属性を劣位におく判決の変遷とは異なり、このような消費税負担の回避を意図した取引に対する対応として従属性を、特に比準となるような給与が存在するような状況においては、未だ重要な判断要因であることは認識されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年3月16日金曜日

判例裁決紹介(診療所引継ぎに関する対価の営業権該当性、平成29年5月8日裁決)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成29年5月8日裁決で、医師夫婦間での診療所の引継ぎに関して支払った対価の額が営業権として該当するものであるのか否かという点が問題となった事例です。最終的には営業権の該当性を否定している事例です。

具体的に本件は医師である請求人が配偶者から診療所を引き継ぐに当たって対価として支払った金員が減価償却資産としての営業権に該当し、もって償却費の必要経費計上を含めた確定申告をなしたところ、当該営業権の計上が否認されたことを不服として提起された事例である。すなわち、医師間での契約による診療所引継ぎに係る支払対価の額につき、如何なる租税法規における評価を受けるものであるのかという点が問題となっているものと捉えられる。なお、営業権としての計上が否認される場合においては、当該支払額は所得税法56条に該当し、必要経費としての存在を抹消されるべき対象であることになるため、ここに営業権としての認定の重要性が隠れているものでもあり、いささか変則的ではあるが、従前より課題となっている専門家同士の夫婦・家族間における所得分散を禁止する所得税法56条における適用対象に関する課題が背景にあるものとも評価し得よう。但し、本件でも若干ではあるが請求人の主張に56条の適用制限、適用要件の縮小解釈の主張が行われているものであるが、本件では主たる論点とはなっていない。

あくまでも本件は医師という専門資格が前提となる専門職における事業承継時における金員の発生が起点となっているものであるが、上記56条の適用による所得分散における租税回避の防止の潜脱防止という観点も含め、さらには、個別具体的な資産の引継ぎ(おそらく実務ではこの個別的な認定が非常に細やかで煩雑であり、もって、算定が困難であるような事実関係から営業権を認定しているような状況も想定されるところではあるが)を超過してあるいは看板やブランド(実際に超過収益力を生み出す可能性があるものであるのかという点は、定かではないが)として認定し、一定の対価を支払う、プレミアムを支払うような行為は、通常取扱われるような状況であろうし、近年の事業承継税制の拡張に伴う一般的な事業承継の拡大を鑑みるに、このような支払対価の額を如何にして租税法規において反映させるべきであるのかという点は、上記のように本件は医師という専門資格によるべきものであるが、税理士や弁護士などの他の資格職、専門職においても本件のような取引は想定されるものであり、特に営業権の成立を否定したプロセス及びその前提となる営業権の解釈として本件は参考とすべき事例であるだろう。

第六条 法第二条第一項第十九号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

八 次に掲げる無形固定資産
イ 鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し又は採取する権利を含む。)
ロ 漁業権(入漁権を含む。)
ハ ダム使用権
ニ 水利権
ホ 特許権
ヘ 実用新案権
ト 意匠権
チ 商標権
リ ソフトウェア
ヌ 育成者権
ル 営業権

以上のように本件の中心的な争点は当該対価額が営業権として評価を受けるべきものであるのかという点が課題となっている。上記のように所得税法施行令では、減価償却資産として列挙を行っているが、当該項目において、無形資産を対象とすることとしており、さらに具体的に列挙を行っている。この中で営業権が規定されているものであり、この具体的意義が従前より検討されているものである。判断では、下記のように営業権を理解しており、
「営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係をいい、当該事実関係は、それが個々の主観的要素を離れて営業組織に客観的に結実した形で表象された場合に初めて減価償却資産となる営業権に該当するものと解するのが相当である。」

基本的に従前と異なるものではなく、かかる点では特段特徴的なものではないものと考えられる。しかるに具体的な事実関係と判断のメルクマールを如何にして抽出するものであるのかという点が本件の重要な点ではないだろうか。引継ぎ対象となる診療所がわずか10ヶ月しか運営されておらず、運営実績として評価するものとして実質的に短期間であることが、最も営業権としての認定に対して違和感を覚えさせているものであるように考えられるが、他の企業と比してより高い収益獲得能力に対して財産的価値を認めているものであり、その成立タイミングとして主観的な要素を離れて営業組織に帰属していることをその具体的な成立のタイミングとして解している。収益を基礎とした判断であり、収益を獲得しない法人においてはその成立を否定することになるものであるのかなど、より検討すべき点は多いものの(かかる点では医療系においては微妙ではあろうが)、本件においては主観的な要因を離れた形で結実しているのか否かという点が重要な判断要因になっており、具体的には医療という医師としての専門資格に基づく判断の集成として一身専属的であり、その営業権としての成立を否定しているものであろう。

課税庁は基本通達においても、下記のように営業権の評価として、以下のように示している。法令上の根拠がどこにあり、この措置の具体的な合理性をいかにして判断されるべきであるのかという点は疑問を覚えるものであるが、特に超過利益金額を標準企業者報酬と対比させた上で認定している点など、その具体的な評価に関してはより合理的な方策の余地があるように考えられる。またこの部分においても医師等の営業権に関しては評価を行わないとして明示している点もより重要な点であろう。この点も法規として如何なるものに依拠しているのかという点はより検討が必要であるものと考えられる。

基本通達

(営業権の評価)

165 営業権の価額は、次の算式によって計算した金額によって評価する。(平11課評2-12外・平16課評2-7外・平20課評2-5外改正)
平均利益金額×0.5-標準企業者報酬額-総資産価額 × 0.05 =超過利益金額
超過利益金額×営業権の持続年数(原則として、10年とする。)に応ずる基準年利率による複利年金現価率=営業権の価額
(注) 医師、弁護士等のようにその者の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権で、その事業者の死亡と共に消滅するものは、評価しない。
「医師は、一般に、その有する専門的知識、経験、医学的・経験的技能等を駆使して診療等の業務を行うものであるところ、医師が業務を行うに当たって執るべき診療方法等は、その職務の性質上、一律に定まるものではなく、個々の医師の専門的知識等により左右されるものである。また、医師の行う業務は、個々の医師の人格識見をはじめ、その有する専門的知識等に対する患者の信頼を前提に、守秘義務の下での患者からの心身の状況等についての率直な事実の開示や患者の承諾を得て承認された方法で行われる診療等に基づいて確立される個人的信頼関 係を基礎として行われるものである」
本件判断も上記のようにこの取扱を基本的に踏襲しており、医師としての業務に関わるものとして本件の診療所に関する対価は営業権としての性格を持ち得ないとして判断している。このような医師としての業務に基礎をおいた判断は、すなわち一身専属的な営業活動によるものとしての判断は、医師としての超過稼得価値を検討するものであり、より拡張的な判断に及び得るものとして他の専門職においても波及するものとして捉えられるものであり、かかる点からは法令上の根拠を如何にして検討すべきであるのかという点はより検討すべきでものではないだろうか。このような判断は事実上、専門職において営業権の成立を否定するような状況であり、実質的に営業権の範囲を限定的に捉えるものとしているとも指摘され、法が減価償却資産として営業権を対象としている点と矛盾するものとも評価されうるものという指摘もありえよう。
しかしながら営業権は無形固定資産として捉えられるものであり、かつ法的には他の特許権等とは異なり法的な保護を受けるべきものではない。しかるに安易な認定は上記のような所得税法56条による家族間の所得分散を潜脱、あるいは国際租税における所得分散(利用料等)にもつながるものであり、いわゆる租税回避に繋がる可能性が危惧される。事実関係の認定において租税回避を防止することはそもそも租税法律主義としての租税法規の基本的な要請において合致するものであるのかという点は議論の余地があろうが、主観的な要因に裏打ちされている段階ではその認定を否定する点は租税法規の適用として租税負担の公平性を確保する点で客観的な状況を基礎とすべきという観点からは、合理的なものであるとも考えられる。このような判断プロセスにおいて如何にして客観的な状況として認定されうるべきものであるのか、あるいは本件のような専門職において営業権の成立をそもそも否定するものであるのかという点は、興味深い点ではあるが、客観性をいかにして確保して超過稼得能力を証明することになるのかという点は、その立証において非常に困難が生じる(そもそも評判やブランドなどは主観的な要因に起点をおいているものであろう、例えば私から見ればブランド品なんてただの高いカバンだし・・・専門職に限らずこのような主観的な要因に基づくものである以上その具体的な認定は非常に困難であり、ここから頭の体操としては、口コミサイトの評判・評価を如何にして本件のような状況においてどのように取扱われるべきであろうか)点は留意されるべきであろう。おそらく時の経過(しかるに本件はこの点からも営業権の存在を認定し難い)が客観的なメルクマールとしては一般的かもしれないが、そもそも専門職においてこのような時の経過は必ずしも合理的であるのかという点は、必ずしも定かではなく、この点のみをもって営業権の裏打ちは困難でもあろう。
また上記のように、本件の中心的な争点とはなっていないが、下記のように本件のような配偶者間の所得の分散、対価の支払が必要経費として該当しうるものであるのか、すなわち56条の適用があるものであるのかという点が課題となる本件はこの潜脱にも関わる点もまた理解されるべきではないだろうか。従前よりこの56条の適用は弁護士夫婦事件(あまりこのような言い方は、裁判例を固有名詞とするもので好みではないのですが、)を契機に専門職を基礎とする家族間における費用支払までも適用対象とするものであるのかという点で多様な観点から法令解釈、立法論が存在しているところではあるが、本件のようにこのような対価の支払もこの対象となりうるものであるのかという点は興味深い。請求人が主張するように事業に従事したことその他の事由によりという部分を以下に解釈するのかという点がその適用対象を左右するものとして判断されることになろうが、このその他に関してその前の部分の事業に従事したとの関係をどの程度反映させるべきものであるのかという点からアプローチを行っている点が珍しいものではないだろうか。その他、その他のという法令用語としての一般的な法令解釈の有名な課題でもあるが、そもそもその堆肥対象たる事業の意義が租税法規において必ずしも明らかとは言えない点もまた留意されるべきものである。56条の存在意義は非常に議論が多い分野でもあるが、近年の働き方改革や、ICTの発達による給与所得者も含めた個人事業主の拡大は、このような所得分散の可能性を改めて議論すべき段階に来ているものともいえ、この法規の意義や限定適用等の議論が改めて必要となるものといえるのかもしれない。
(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
第56条  
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
以上、毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年3月12日月曜日

判例裁決紹介(平成28年11月17日裁決、居住用財産の譲渡所得に関する特別控除と対象家屋の判定)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年11月17日裁決で、居住用財産の譲渡所得課税の特例の適用を巡って当該対象財産としての家屋の判定において、当該財産が複数の家屋であるのか一つの家屋(一構えの家屋)として認定しうるか否かが問題になったものです。

具体的には、請求人が保有している家屋及びその敷地を譲渡した場合において下記、租税特別措置法35条に定める居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用がある旨の確定申告をなしたところ、当該土地には、家屋が複数存在しており、これらに対して当該特例が適用可能であるのか否か、あるいは、具体的に特例の適用対象財産をいかにして認定されるべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。納税者たる請求人は利用状況や自身の意図からいずれの家屋も居住用として活用しており、一体として機能した一つの家屋であるとして申告をなしているのに対して、課税庁は当該家屋は電気等の設備面から個々に独立して機能するものであり、もって一つの家屋として捉え、当該特例の適用対象とはならないとして更正処分を行った事例である。


(居住用財産の譲渡所得の特別控除)

第三五条 個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条第三十七条の四第三十七条の七、第三十七条の九の四若しくは第三十七条の九の五の規定の適用を受けるものを除く。以下この条において同じ。)若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この条において同じ。)をした場合又は災害により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものとともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に有する権利の譲渡を、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項又は第三十六条の二第三十六条の五、第四十一条の五若しくは第四十一条の五の二の規定の適用を受けている場合を除き、これらの全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。
一 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
租税特別措置法施行令 第二十条の三 
2 法第三十一条の三第二項第一号に規定する政令で定める家屋は、個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。以下この項において同じ。)とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする

以上のように、本件において上記租税特別措置法35条における具体的な適用対象が如何なるものとして判定されうるものであるのかという点が争点となっているものである。基本的には法令解釈というよりは対象財産として具体的に如何なるものとして事実関係が判断されるものであるのかという点が中心となっているものであり、かかる点からは特段特徴的な事例ではないものとも捉えうるものではあるが、判断の前提として居住の用に供していることの意味、そして複数存在している場合における主たる存在を具体的に判断する上で条文規定における解釈が基盤となるものであると考えられ、さらには、このような居住関係が財産の評価等への判定において影響を及ぼしたり、家屋の構造から具体的な判定単位を認定するようなケースは、多世帯住宅等も考慮するならば、今後も増加するような状況も想定されうるところでもあろう。従って本件特例の適用対象判定のみならず、租税法規における居住状況の判定においては、参考となるような事例ではないだろうか。

また、上記のように本件の中心的な争点は、所有する家屋等が複数の家屋として判定されうるのかあるいは一体として捉えられうるのかという点が起点となっているものであるが、法令上は上記のように主として居住の用に供していると認められる一の家屋という文言を如何に解されるべきものであるのかという点が検討対象となろう。すなわち、主たる一つの家屋を具体的に判断する基準をどのように理解されるのかという点が課題となるものと捉えられる。この主たる居住の用に供しているか否かという点は、本件特例に限らず多様な租税制度において活用されているものであり、かかる点においてこの認定は汎用性が高いものともいえるかもしれない。

なお、私見としては本件判断においては主たるものとして取扱われていない(納税者の主張には取り上げられておりこの部分が居住状況に対する主観的な意思の表明に関わっているものの判断においては、特段検討がない)が、濾水等の老朽化による影響を租税法規において如何に反映させるべきものであるのかという点も課題となりうるものとなる。近年の空き家等の状況は従前とは異なるものであり、特に地方部における空き家の急増等の状況を鑑みるならば、このような老朽化しているような状況を、機能劣化として租税法規における、適用対象の認定や居住状況、財産評価等において如何にして対応されるべきであるのかという点も今後の課題としてなってくる可能性があるのではないかと考えさせられる事例でもある。

いずれにしても本件は特例対象の認定が中心的な課題となっているものであるが、法はその適用対象として上記のように主たる一の家屋に限定しており、この一の家屋を具体的にどのような基準によって判断するべきであるのかという点が起点となる。家屋の構成単位をいかにして判断するのかという点、すなわち何をもって最小単位として捉えていることになるのかという点は法令上、あるいは社会通念としても明示的ではないだろう(例えば、増築や分割等を想定すれば良いだろう)。課税庁の主張としては、最終的に判断においても同様のロジックを取っているものであるが、negative判定というべきであろうか、単独での家屋としての機能を行い得るか否かという点を基礎においているがこれは単なる判定方法を提示しているものであり、そもそも独立の家屋が如何なるものとして捉えられ、どのような機能を有しているべきであるのかという点は明らかとしていない。最終的には社会通念と設備等の総合的な状況判定により、本件は判断を行っているものであるが、かかる判断の法令上の根拠をどこに求めるのかという点が必ずしも判別し難い。
法文はそもそも居住の用に供していること及び主たる存在であることを要請しており、まずは租税法規においてこの居住の状況を捉えているのかという点を明らかにする必要があり、かかる点から具体的な居住状況を判断する基準を導くべきものと考えられる。

また、特例の趣旨も考慮する必要があろう。判断では以下のように、本件特例を他の所得との相違において担税力が弱い(そもそも担税力という概念が曖昧模糊としたものであり指針として機能しうるかという点も疑問であるが)として捉えているように読めようが、あるいは生活上、居住拠点は不可欠なものであり、代替物の取得等が必要であるという点に力点を置くなどの趣旨も解されよう(このように捉えるならば、資産の売却後の状況が当該財産の判断において影響を及ぼすものと考えることも否定し難い)。また、居住という行為自身が、生活の拠点として場所を指し示すものともいえ、本件特例が租税負担能力の減少という主観的な要因を背景としているならば、その行為者の主観的な状況も反映させるべき・あるいは反映しうるものであるとの考え方も排除されるべきものとはいえないのではないだろうか。本件判断では、このような納税者の意思に依る部分は基本的に排しており、客観的な設備状況等に原則的に依拠した判断を行っている点が特徴的なものである。事実上、主たる居住の用に供しているか否かの判断においては、客観的な状況に裏付けられる必要があるものと解しているとも評価し得よう。

「本件特例は、個人が居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡所得につき3,000万円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることを考慮して設けられた特則、例外規定である。」

しかしながら、法が居住という概念を採用しておりかつ、上記のように担税力(税金の負担能力)という主観的な要因を背景としている制度である以上、本件判断のように客観的な状況に依拠すべきであるという点は、否定しがたいものの、主観的な要因(この要因をどのように区分して把握するのかという点は残ろうが)を介在させる余地がないのかという点が疑問となる。判断では以下のように、二次的に参酌すべきものとして位置づけているが、かかる点からどのように考慮すべきであるのかという点がより課題となろう。確かに主観的な要因を介在させることは恣意的な判断の余地を生み、課税の公平性や租税法律主義などの基本的な租税法規における要請に反する可能性がある。さらには一定の政策目的のもと、公平性を犠牲にしてもなお、設けられている租税特別措置の性格からは、下記のように濫用の防止の必要性があるといえよう(但し、法がこのように濫用の防止にまで踏み込んで趣旨としているものであるのかという点は必ずしも評価し得ないという見解もありうる。単に対象を明示的に判断しようとしたものと理解することも困難ではないだろう)。しかしながら、機能や設備面などの客観的な要因を重視するならば、逆に機能等の側面(そもそもこの機能が明示的であるのかという点は疑問ではあるが)のみに着目した判断を行う事になりかねず、実情の反映やかえって負担を回避するような行動を誘発する可能性もあり、実質的な判断の余地が必ずしも排除されていると理解することが妥当なのであろうか。さらに機能等の面に着目するならば、上記のように設備劣化等の反映もまた考慮されるべきであり、かかる点において請求人の主張を排している点は整合性を欠いているのかもしれない。

「本件特例の適用対象となる家屋については、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第23条第1項において準用する措置法施行令第20条の3第2項の規定により、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとされている。これは、租税負担公平の原則から、本件特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、本件特例の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。

 このような本件特例及び措置法施行令第20条の3第2項の規定の趣旨に鑑みれば、同条項の適用において、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等の客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当である。したがって、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるためには、単にこれらの家屋がその者及び社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の規模、構造、設備等の客観的状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。そうすると、二以上の家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。」

また、上記のように解釈として主観的な事情は二次的に位置づけられるとしても、この点から 独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない
として家屋の判断において機能面での判断を重視している点は論理に飛躍があるようにも捉えられる。事実上機能面での判断に依拠することが必要とされており、主観的な事情を排斥していると考えられる。

このように機能面を重視することは客観性の確保という点では有益であろうが、上記のように法が求める居住における機能面は多様な要因によって構成されており、必ずしも明示的な概念ではない。従って複数の要因により判断しているものであるが、このように複合的な判断を行うことはかえって、恣意の介在する余地を生じさせるものであり、矛盾を生じるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年3月5日月曜日

判例裁決紹介(平姓29年2月6日裁決、雇用者給与支給額増加に伴う特別控除と更正の請求)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成29年2月6日裁決で、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用にあたり、当初申告において、ミスにより当該支給額を誤って記載していたことに対して、事後的に更正の請求により救済されうる対象になるのか否かという点が争われたものです。

具体的には本件は、請求人が支給した給与等が前年度よりも増加しているにも関わらず雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用を申請する際に、誤って確定申告により記載する明細に対して増加額を記載せず(支給額を誤って記載)、かかる状況に対して更正の請求により当該特別控除の適用が行われうるものであるのかという点が課題となっている。更正の請求は下記のように法定の要件に合致していることを要件としており、より具体的には、申告段階において過大であるのかという点が中心的な争点となっているものと考えられる。一見すると、制度適用において、実質的な当該特別控除の適用要件は充足しており、もって申告段階では過大であることは明らかであるようにも捉え(一般的にはこちらの感覚が多いのかもしれない)、すなわち、実態として支給給与額の増加という実質的な要件を満たしているにも限らず、入力ミスという形式的な部分の誤りにより適用が否定されることは、バランスを欠いているのではないかという、思考が背景にあるようにも捉えられよう。一般的な感覚としてこのような理解を行うことは特段理解ができないところではないものの、結果としては、本件はこのような判断を否定しており(後述するように判断過程には疑問を持つものの、結論には賛成)、かかる判断枠組みは専門家として留意すべきものであるように考えられよう。確かに納税者にとって自らの責めに帰すべきものとはいえ(正確には税理士などの専門家が関与している場合が多かろうがこのような場合は、ミスに対する民事上の過失責任の問題である)、単なる形式的な誤りによる不備があることにより、租税制度上の不利益(得られし特別控除の適用)が適用できないことは甘受し難いとの思いを持つことは容易に想像ができることであり、かかる点からも留意点を示しているものといえよう。近年の租税制度においては、本件で課題となった雇用者給与等支給額増加に伴う特別控除は、その適用を増加させており(試験研究費関係や雇用増等と並び)、非常に重要な租税特別措置となっており、適用局面が多いことからも、当初申告におけるミスがそのまま救済の対象とはならず、すなわち事後においてもリカバリ対象とならないことは、当初申告要件が付与されている点においては当然のことにも考えられるが、租税専門家として、留意すべき点でありかかる点を明らかにしている点で本件は、参考となるものといえよう。また、本件制度以外にも、当初要件を付与された制度は増加傾向にあり(租税特別措置に対する見方の変化にもよるのかもしれないが)、かかる点からも当初要件の性格を理解する点でも本件は有益な事例であろう(他にも個人的には当初申告が不備であることによる制度適用の未充足が不当利得返還請求の対象となりうるものであるのかという点も気になるところであるが)。

(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、九年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。

以上のように本件は、請求人が当初申告において誤記を行ったことにより明細の金額に不備が発生したことに対して、更正の請求によるリカバリーが行われうるものであるのかという点が中心的な課題となっているものである。当初申告要件は、下記のように本件の特別控除においては、規定されていることは明らかであり、この充足がないという事実関係に関しては、特段争点となっているものではない。誤記があることにより当初申告における納税額の計算において過大が発生しているのか否かという点において上記更正の請求の対象となりうるものであるのかという点が具体的に問題となっているものと捉えられる。すなわちこの当初申告段階における明細の誤記による制度適用ができないことが、過大であることに該当するのか否かという点で議論となっているものであり、最終的に判断では、かかる点を否定し、当初申告要件が付与されていることから当初の申告段階で不備があろうとも、過大ではないとの判断が導かれ更正の請求の対象とはならないとして結論付けられている事案である。

第四二条の一二の四 青色申告書を提出する法人が、平成二十五年四月一日から平成三十年三月三十一日までの間に開始する各事業年度(第四十二条の十二の規定の適用を受ける事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下この項及び第四項において「雇用者給与等支給増加額」という。)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る。)は、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額(第四十二条の四第六項第二号に規定する調整前法人税額をいう。以下この項において同じ。)から、当該雇用者給与等支給増加額の百分の十に相当する金額(以下この項において「税額控除限度額」という。)を控除する。 この場合において、当該税額控除限度額が、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額の百分の十(当該法人が中小企業者等(同条第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいう。次項第五号ハ及びニにおいて同じ。)である場合には、百分の二十)に相当する金額を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の十に相当する金額を限度とする。
一 当該雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること
二 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えること。

 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。

このように本件では、当初申告要件に対して、単なる手続的な規程であり実質的なものではないと理解する納税者と制度適用において重要な要件であると解している課税庁との見解の対立が本件の起点になっているものであろう。私見としては当初申告要件が付与されていることは明らかであり、この記載の不備が原則として適用要件として機能するものであり、実質的な要件と区別すべきであるとは評価しがたい。誤記による修正が反映されうるものであるのかという点は当該特別控除の制度趣旨において当初申告要件が如何に位置付けられているものであるのかという点から検討すべきものであると考えられる。本件では以下のように、措置法一般の性格から判断を導いているが、一般的な検討によるものであり、必ずしも本件特別控除における誤記の存在や要件の性格を検討するものとしては捉えがたく、本件特別控除における制度趣旨から如何にしてこの当初申告要件が理解されるべきものであるのかという点の検討は行われていない。この点は留意が必要であるものと考えられる。

措置法は、種々の特例規定を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているところ、特例の適用を受ける場合には、申告に際してその適用を受けるべき金額を記載することや所定の書類を添付することなど、一定の手続の履行を要求し、もって課税手続の明確及び安定を図っている。

租税特別措置が基本的に一定の政策目的のもとで、租税負担の公平を犠牲としつつ当該目的の達成を企図するものである以上、申告段階において要件の充足を、明確に判断できるように、一定の手続を要請していること(事実上立証責任を転換している)は公平性と政策目的達成を整合的に図るべき趣旨として重要なものであると判断すべきであるが、本件においてもかかる点は相違はないものと考えられるが、原則的な当初申告要件の性格はかかる背景を持つものとして理解されるべきであるが、基礎となる制度趣旨との対比において、ミス等を本件制度において如何に位置づけるべきであるのかという点はさらに検討の余地があるのでないだろうか。もし、本件のような判断枠組みが適用されるものであるならば、租税特別措置一般において誤記のようなミスによる不備は救済対象としてはならないものと捉えられようが、このような一般的な結論はより詳細な検討が必要であるものとも考えられる。

納税者の主張にあるように、税額控除においてミスによる修正を、更正の請求として認めた最判(最判平成21年7月10日)もあるものであるが、かかる判決は、 法人税の確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)68条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除するに当たり,計算を誤ったために控除を受けるべき金額を過少に記載したとしてされた更正の請求が,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとされた事例 であり、租税特別措置の適用要件における誤記とは些か条件を異にするものと評価されるが、特に制度適用において背景とする趣旨が異なるものであり(配当の二重課税の調整と給与支給額の増加へのインセンティブ)、かかる点から本件特別控除における誤記の対応を限定的に解することは必ずしも直接的には導かれない(あくまでも判示の枠組みが直接的に適用可能ではないと導くものであろう)。しかるにより明示的に本件制度において個別の制度趣旨の観点からより詳細に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除において当初申告要件が如何なるものを担保しようとしているのかという観点からより個別具体的な検討が必要であるといえよう。

更正の請求の対象としてこのようなミスを含みうるものであるのかという点は、拡張的な解釈として、より明示的には拡大する方向を検討することもありえようが、かかる点は立法論として理解されるべきであり、租税特別措置においてこのような措置を取りうるべきであるのかという点は見解が別れることになるように捉えられる。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。