具体的には、本件は電気設備販売業を営む請求人が中国において約4000万円の礼金(アンダーテーブルマネー)を支出したことにつき、その損金計上の是非を巡って争われたものであり、申告段階では損金計上を行っていなかったものの、更正の請求により、その損金計上を求めた請求を、課税庁が具体的な支出内容が明らかではないとして、更正すべき理由がないとした処分に対して不服を申し立てたものである。すなわち、当該支出金が損金であるのか否かという点、損金としての該当性が問題となったものであり、この種の支払に於いて課題とされることが多い、支出の違法性から損金の該当性を検討しているものではない。通常この種の相手方や使徒が不明、秘匿されているような場合においては、使途不明金あるいは下記のように使途秘匿金として取り扱われることになるが、本件もこの類型に属するものであり、明示的に使途不明金とはされていないものの、最終的には使途が明らかではないとして、その損金計上を否認しているものである(課税庁及び判断において)。
なお、判断の枠組みとしては、損金の一般的な意義を基礎として、検討されているものであるが、従来この種の相手側が不明、明らかとされない費用であっても下記のように、使途秘匿金としての認定に関して税務署長に一定の判断権限を付与する等しており(もちろんこの区分がいかにして行われるべきものであるのかという点は、実務上も含め裁量的な判断を抑止するためにも如何なる場合が秘匿金に該当するのか判断する基準が必要となることになるだろう)、必ずしも一律に損金の該当性(及び懲罰的な対象を判断することは困難であろう。上記のように本件もこの類型に属するものであり、さらには、国内のみならず、国外における取引に関する支出が課題となっている点でも興味深い事例である。この種の費用支出に関しては、取引における秘匿性の事情から、実際の紛争事例として取り扱われることは近年は稀であり、また海外での商習慣を垣間見るという点では本件は参考となる事例であると考えられる。
第六二条 法人(法人税法第二条第五号に規定する公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、同法第六十六条第一項から第三項まで並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の五第五項、第四十二条の六第十二項、第四十二条の九第四項、第四十二条の十第五項、第四十二条の十一第五項、第四十二条の十二の三第五項、第六十三条第一項、第六十三条の二第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
3 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。
なお、本件は上記使途秘匿金としての計上は、争点とされていない。使途が不明、あるいは明らかにされていないという点は本質的には秘匿の関係も争点とされるべきものであるが、かかる点は問題となっていない。かかる点は如何なる所以があるものであるのか、必ずしも定かではないものの、おそらくは、請求人自らがその適用を請求した更正の請求による事案であるという点に関わりがあるのではないだろうか。下記のように、本件はこの種の費用支出においてはまれながら、自らの手で当該支出の損金該当性を求める事案であり、かかる争い方を基礎とする以上、立証責任の観点からも(課税庁に原則として立証責任を帰属させるという原則論ではなく、自らの権利救済を求めるものとしての請求であり、すなわち自己の利益に(有利に)変更するものである以上、請求人である納税者にその立証責任が課せられることは明らかであろう)、納税者の使途を明示的に立証する必要性は高く、制約としては高いものであると認識されるべきものであろう。
通則法第23条第1項の規定による更正の請求は、納税者が自己の納税申告等によっていったん確定した課税標準等又は税額等を、自己に有利に変更すべきことを求めるものであるから、その有利な税額等を基礎付ける具体的事実の立証責任は、それを主張する納税者が負うと解すべきである。そして、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき金額について、法人税法第22条第1項及び第3項は上記1(2)ニのとおり規定しているところ、当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかでないものについては、損金の額に算入することができないと解するのが相当である。
以上のように本件の中心的な争点は当該支出(アンダーテーブルマネー)が損金として該当するのか否かという点である。本件の判断枠組みとして損金の基本的な意義から、一般的解釈を上記のように、業務遂行上、必要性が認められることを必要としていると解している。最終的にはこの支出の相手側の確認や使用・支出の確認ができず、もって業務との関連性が明らかではないいじょう、当該支出は損金として認められないとして請求人の主張を排除している。必要性や関連性が如何なるものであり、具体的な条文上の根拠を以下に有しているのかという点は、必ずしも定かではなく、検討すべき点であろうが、形式的に本件では支出相手側の情報等の不備をもって損金としての該当性を否定している。すなわち、支出の実質的な意義や用途等の中身を基礎として損金としての妥当性を判断するものではなく、基礎となる情報の不備という点をもって妥当性を判断しているものである。従って事実上かかるような情報の提供を帳簿等で立証することは納税者に求められているものであると考えられ、実質的に納税者に立証責任を転換しているものと捉えられよう。この点は、上記のように更正の請求によるべき争い方の問題であるのか、あるいは損金としての該当性一般においてこのような相手側の情報等の不備があってはならないものと解して、より一般的に責任を負うべきものであるのかという点についてはより検討が必要であるように考えられる。このように考えるならば、このような基礎情報の提供があって初めて実質的な支出の損金性が審査に服するものといえ(二段階の審査が予定されており)、しかるにこのような基礎的な情報が欠缺している場合には(周辺情報等による間接的な支出の証明のみでは)、客観性を欠くものであり租税法規における適格な情報として評価されず、第一審査において、損金としての該当性が否定的に捉えられる可能性が高いことは留意されるべきであろう。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。