2018年2月25日日曜日

判例裁決紹介(平成29年2月21日裁決、アンダーテーブルマネーの支払と損金)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、設備販売業を営む外国(中国)支払ったアンダーテーブルマネー(礼金、賄賂等)の損金計上が認めうるものであるのか否かが問題となった事例です。

具体的には、本件は電気設備販売業を営む請求人が中国において約4000万円の礼金(アンダーテーブルマネー)を支出したことにつき、その損金計上の是非を巡って争われたものであり、申告段階では損金計上を行っていなかったものの、更正の請求により、その損金計上を求めた請求を、課税庁が具体的な支出内容が明らかではないとして、更正すべき理由がないとした処分に対して不服を申し立てたものである。すなわち、当該支出金が損金であるのか否かという点、損金としての該当性が問題となったものであり、この種の支払に於いて課題とされることが多い、支出の違法性から損金の該当性を検討しているものではない。通常この種の相手方や使徒が不明、秘匿されているような場合においては、使途不明金あるいは下記のように使途秘匿金として取り扱われることになるが、本件もこの類型に属するものであり、明示的に使途不明金とはされていないものの、最終的には使途が明らかではないとして、その損金計上を否認しているものである(課税庁及び判断において)。

なお、判断の枠組みとしては、損金の一般的な意義を基礎として、検討されているものであるが、従来この種の相手側が不明、明らかとされない費用であっても下記のように、使途秘匿金としての認定に関して税務署長に一定の判断権限を付与する等しており(もちろんこの区分がいかにして行われるべきものであるのかという点は、実務上も含め裁量的な判断を抑止するためにも如何なる場合が秘匿金に該当するのか判断する基準が必要となることになるだろう)、必ずしも一律に損金の該当性(及び懲罰的な対象を判断することは困難であろう。上記のように本件もこの類型に属するものであり、さらには、国内のみならず、国外における取引に関する支出が課題となっている点でも興味深い事例である。この種の費用支出に関しては、取引における秘匿性の事情から、実際の紛争事例として取り扱われることは近年は稀であり、また海外での商習慣を垣間見るという点では本件は参考となる事例であると考えられる。


第六二条 法人(法人税法第二条第五号に規定する公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、同法第六十六条第一項から第三項まで並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の五第五項、第四十二条の六第十二項、第四十二条の九第四項、第四十二条の十第五項、第四十二条の十一第五項、第四十二条の十二の三第五項、第六十三条第一項、第六十三条の二第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。

なお、本件は上記使途秘匿金としての計上は、争点とされていない。使途が不明、あるいは明らかにされていないという点は本質的には秘匿の関係も争点とされるべきものであるが、かかる点は問題となっていない。かかる点は如何なる所以があるものであるのか、必ずしも定かではないものの、おそらくは、請求人自らがその適用を請求した更正の請求による事案であるという点に関わりがあるのではないだろうか。下記のように、本件はこの種の費用支出においてはまれながら、自らの手で当該支出の損金該当性を求める事案であり、かかる争い方を基礎とする以上、立証責任の観点からも(課税庁に原則として立証責任を帰属させるという原則論ではなく、自らの権利救済を求めるものとしての請求であり、すなわち自己の利益に(有利に)変更するものである以上、請求人である納税者にその立証責任が課せられることは明らかであろう)、納税者の使途を明示的に立証する必要性は高く、制約としては高いものであると認識されるべきものであろう。


通則法第23条第1項の規定による更正の請求は、納税者が自己の納税申告等によっていったん確定した課税標準等又は税額等を、自己に有利に変更すべきことを求めるものであるから、その有利な税額等を基礎付ける具体的事実の立証責任は、それを主張する納税者が負うと解すべきである。そして、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき金額について、法人税法第22条第1項及び第3項は上記1(2)ニのとおり規定しているところ、当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかでないものについては、損金の額に算入することができないと解するのが相当である。


以上のように本件の中心的な争点は当該支出(アンダーテーブルマネー)が損金として該当するのか否かという点である。本件の判断枠組みとして損金の基本的な意義から、一般的解釈を上記のように、業務遂行上、必要性が認められることを必要としていると解している。最終的にはこの支出の相手側の確認や使用・支出の確認ができず、もって業務との関連性が明らかではないいじょう、当該支出は損金として認められないとして請求人の主張を排除している。必要性や関連性が如何なるものであり、具体的な条文上の根拠を以下に有しているのかという点は、必ずしも定かではなく、検討すべき点であろうが、形式的に本件では支出相手側の情報等の不備をもって損金としての該当性を否定している。すなわち、支出の実質的な意義や用途等の中身を基礎として損金としての妥当性を判断するものではなく、基礎となる情報の不備という点をもって妥当性を判断しているものである。従って事実上かかるような情報の提供を帳簿等で立証することは納税者に求められているものであると考えられ、実質的に納税者に立証責任を転換しているものと捉えられよう。この点は、上記のように更正の請求によるべき争い方の問題であるのか、あるいは損金としての該当性一般においてこのような相手側の情報等の不備があってはならないものと解して、より一般的に責任を負うべきものであるのかという点についてはより検討が必要であるように考えられる。このように考えるならば、このような基礎情報の提供があって初めて実質的な支出の損金性が審査に服するものといえ(二段階の審査が予定されており)、しかるにこのような基礎的な情報が欠缺している場合には(周辺情報等による間接的な支出の証明のみでは)、客観性を欠くものであり租税法規における適格な情報として評価されず、第一審査において、損金としての該当性が否定的に捉えられる可能性が高いことは留意されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年2月21日水曜日

判例裁決紹介(平姓29年1月12日裁決、生産性向上設備投資促進税制と工業会証明、正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年1月12日裁決で、生産性向上設備投資促進税制における経産省が指定した工業会証明が撤回されたことによる修正申告、無申告加算税における正当な理由が存在するのかという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が導入した業務システムに関して生産性向上設備投資促進税制の適用がある旨の申告をなしていたところにおいて、当該申告による調査により、当該システムが、生産性向上設備投資促進税制の対象でない旨の指摘を受け、自主的に修正申告をした事案である。当該修正申告において過少申告加算税が賦課決定処分を受けたことから、正当な理由をゆうしていたものとして不服を申し出たものである。

第四二条の一二の五 青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法の施行の日から平成二十九年三月三十一日までの期間(以下第九項までにおいて「指定期間」という。)内に、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物、建物附属設備、構築物並びに政令で定めるソフトウエアで、同法第二条第十三項に規定する生産性向上設備等に該当するもの(以下この条において「生産性向上設備等」という。)のうち政令で定める規模のもの(以下この項において「特定生産性向上設備等」という。)の取得等(取得(その製作又は建設の後事業の用に供されたことのないものの取得に限る。)又は製作若しくは建設をいい、建物にあつては改修(増築、改築、修繕又は模様替をいう。)のための工事による取得又は建設を含む。以下この条において同じ。)をして、これを国内にある当該法人の事業の用に供した場合(貸付けの用に供した場合を除く。以下この条において同じ。)には、その事業の用に供した日を含む事業年度(平成二十六年四月一日以後に終了する事業年度に限り、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。第七項及び第八項において「供用年度」という。)の当該特定生産性向上設備等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定生産性向上設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定生産性向上設備等の取得価額の百分の五十(建物及び構築物については、百分の二十五)に相当する金額をいう。)との合計額とする。


(イ) 本件工業会は、減価償却資産の種類が「機械及び装置」であることなどを設備メーカーが確認していることを前提に証明書を発行している。
(ロ) しかし、国税当局が、「■■■■■■■」(当該システム)の「減価償却資産の種類」が「機械及び装置」ではなく「器具及び備品」に該当し、当該種類に係る「対象となるものの用途又は細目」として経済産業省令に規定された6つの項目のいずれにも含まれないことから、生産性向上設備等に該当しないことになるので本件制度の対象にならない旨の見解を示したことにより、本件工業会は、経済産業省から、設備ユーザーのリスク回避のために上記に該当する事案に係る証明書の回収に努めるよう要請を受けた。

このように、本件では、生産性向上設備投資促進税制の適用において条件とされる工業会における証明が上記理由により回収されたことを起点として当該税制の適用対象でない旨が遡上に上がっている。具体的な資産区分(機械装置、器具備品等)に応じて適用対象を指定しているが、本件は機械装置ではなく、器具備品であるとの国税庁が提示した見解が工業会等に対して示されてた結果、適用対象外となったものである。 証明の記載から本件各システムが生産性向上設備等に該当し本件制度の対象になると誤信したとしても、それは結局のところ請求人の税法の不知又は誤解に基づくものにすぎずとして最終的には正当な理由の該当性を否定した判断である。

この点につき、経産省は下記HPにおいて、具体的な適用に関する情報提供を行っているが、設備メーカーや工業会の関係から証明が付与されるのが本制度であり、ユーザーである請求人のような設備取得者は、基本的に具体的なスキームにおいて発行の依頼を行う対象に過ぎない。しかしながら、この部分をもってユーザーである納税者の税法に対する誤解・不知によるものとして不利益を被るものであるとの判断は、必ずしも下記のように納税者の帰責性を基礎とする判断において、妥当性を有するものであるのかという点は疑問を覚える。これを税法の不知として請求人のようなユーザーが負うべきものであるのか(若しくは民事上の責任の中で処理されるべきものであるのかもしれないが)、という点は検討の余地があるようにも評価しうるだろう。

http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/seisanseikojo.html
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以上のように、本件の中心的な争点は、上記のように生産性向上設備投資促進税制の適用要件を証明する経産省が指定した工業会による証明が後に撤回・回収されたことに起点をおいており、その具体的な適用を争っているものではなく、手続的に、調査による予知があったのか、あるいは正当な理由が存しているのか否かという点が課題となっているものである。調査による予知に関しては基本的に事実関係が問題となっているものであり、私見としては正当な理由を有しているのか否かという点が課題となるものとして捉えられる。このように基本的には下記、過少申告加算税における正当な理由の有無が問題となるべきものであり、かかる点は従前と同様に解釈が検討されている。基本的にはかかる解釈は過少申告加算税が如何なる趣旨・目的を有しているものであるのかという点に解釈の基礎が置かれるものであり、本件判断においても以下のように踏襲されているものである。基本的には事実認定が課題となっているものであるが生産性向上設備投資促進税制における適用を巡って争われた事例は少なく、特に適用の区分において差異が存することなど、実務上の留意点を示している点でも本件は参考となるものと考えられる。近年はかかるような設備投資が盛んであり、この適用要件を改めて確認することは有益であろう。

4 次の各号に掲げる場合には、第一項又は第二項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
一 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額
二 第一項の修正申告又は更正前に当該修正申告又は更正に係る国税について期限内申告書の提出により納付すべき税額を減少させる更正その他これに類するものとして政令で定める更正(更正の請求に基づく更正を除く。)があつた場合 当該期限内申告書に係る税額(還付金の額に相当する税額を含む。)に達するまでの税額
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。上記趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として、通則法第65条第4項が規定した「正当な理由」があると認められる場合とは、過少に税額を申告したことが真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づくような場合までも 含むものではないと解するのが相当である。

このように、正当な理由としては、公平性の担保を基礎としたものとのバランスを企図したものであり、行政上の措置としての適正な申告を促す機能を有していることから、納税者に対する帰責性と、趣旨の観点からの不当性を事実上の判断の基礎に、おいているものと解される。しかるに極めて限定的な状況においてのみ正当な理由の存在が認められるものと考えられることになる。かかる判断は、従前と整合的であり、この点において本件は特徴的なものではないが、必ずしもその具体的な当てはめにおいて如何にしてなされたのか、具体的な判断のメルクマールが定かではなく、上記のように安定性にかけるべきものではないかとも評価し得るところである。そもそもここでいう税法の不知等が如何なるものを指しているのか、そして、上記帰責性や趣旨との関連から、納税者の不知等を排除することになるのかという点は定かではなく、かかる点はより安定的な税務執行の観点からもより明確化していくべきものではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年2月8日木曜日

判例裁決紹介(平姓29年2月9日裁決、処分の前提となる調査の意義、犯則調査による資料収集の評価)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年2月9日裁決で、更正処分の前提となる調査が行われているのか否か、すなわち犯則調査により入手された資料を活用した更正処分が前提となる調査を行ったものと評価しうるか否かが争われたものです。

具体的に本件は、経営コンサルタントを営む請求人が業務委託費を損金計上し、確定申告を行ったところ業務委託費の事実関係を否定し、役務提供の時事は存在せず、その損金性を否定する更正処分(実質的な経営者に対する出会い系サイトの運営目的のための貸付金であるとして評価して)を行ったことに対して、当該処分は調査によるものではなく、犯則調査により入手された資料に基づくものであり、法の定める要件に合致しないとして当該処分の無効を求めたものである(他の論点として当該貸付の否定も主張している)。

争点としては下記のように更正処分の前提として調査によることを求めていることにつき、当該調査が行われているのか否かという点が課題となったものであり、すなわち、とうがい「調査」が如何なる意義を有しているのか、そしてのその対象に犯則調査による資料収集が該当するのかという点が課題となったものであろう。他の論点として実質的な貸付金、損失の発生を評価しうるものであるのかという点も主張されているものであるが、かかる点は単に主張がされている程度のものであり、実質的には請求人の立証不足によりその判断が否定されている(原則として立証責任を課税庁に求める傾向から逸脱し、事実上立証責任を納税者に転嫁しているという点には興味深い点であるが)。いずれにしても犯則調査による事案であり、裁決に現れていないような状況も想定しうるものであるが、手続面及び実質的な双方から争われた事例であり、実際の課税処分における事実においてこのような事案の発生も現実には発生しているということを理解する点で興味深い事案である。また、調査の意義が前提となっている事案でもあり、平成23年の国税通則法改正によって調査等に関する大規模な法令改正が行われた段階を経ていることからも、その具体的な意義を検討することは重要なものとも捉えられる。


(更正)
第二十四条 税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。

以上のように、本件の主たる争点は、犯則調査による資料収集が法が処分の要件としている調査として該当するのか否かという手続面から争われているものである、「調査」とは社会的な理解としては(おそらく課税庁経験者でもなければ租税専門家であっても)、いわゆる税務調査として理解される用語としての課税の事実関係を確認する納税者の拠点等への臨場による直接的なものを調査として捉えることが一般的であろう。本件における請求人の主張もこのような前提と基礎として構成されているものと理解されるところである。しかしながら、このような調査がいわゆる調査であることは否定しがたいものの、法規においては質問検査に基づく、「実地の調査」として理解され概念整理されているものである。かかる概念は上記のように、平成23年の税制改正において国税通則法が納税者への説明責任の強化のため(観念的には理解できるが、当該責任が如何なるものを指すものと解されるのかという点は明示的ではない)、事前通知や調査終了の際の手続が定められたことが起点となって制定されたものであり、従前は特段法令上は明示的に区分されていたものではなく、事前通知等の対象を明らかにする目的で精緻化されたものであると考えられる。しかるに上記法定の調査は実地の調査の言い換えであると捉え、調査の範囲を限定的に捉える見解を取るべきものであるのか、あるいは、調査の概念は多義的であり、複数の調査概念が混在している、あるいは多様な行為を含むものと解するべきであるのかという点が対立があるものといえる。改正前後において調査の意義がどのように理解されるのかその変遷を考える上で重要な論点であろう。

判断では、以下のように、

同条の調査の手続については何らの定めがないことによれば、その範囲、程度及び手段等は、税務署長及び国税庁等の当該職員の決するところに委ねられており、同条にいう「調査」には課税庁内部における調査も含まれているものと解すべきである。

として、定めがないことを根拠としてその具体的な判断を調査官等の職員の裁量に委ねられていると解している。課税庁は通達においても以下のように多義的に多様な行為を調査として捉えており実地の調査とは明示的に区分を行っているものと考えられる。上記もそのような解釈と整合的であるものである。

「調査」の意義)
1-1
  1. (1) 法第7章の2において、「調査」とは、国税(法第74条の2から法第74条の6までに掲げる税目に限る。)に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう。
    (注) 法第74条の3に規定する相続税・贈与税の徴収のために行う一連の行為は含まれない。
かかる点につき、私見としては結論として多様な行為を想定されるものであることは賛意を示すべきものと考えられるが、その具体的な根拠を裁量に委ねる見解は、平成23年の改正により、手続法が整備された趣旨と矛盾するものではないかと評価しうるものといえよう。法は国税通則法において、一定の調査の要件を定め手続的な保証をもって調査による課税処分を肯定しているものであり、公権力の行使、あるいは侵害法規としての租税法の基本的な性格から、広範囲の裁量に委ねられているとの判断は均衡を失するものではないだろうか。そもそも質問検査等の一連の調査手続の制定は、適正な課税処分を実現、担保し、申告納税制度を基礎としている我が国の納税制度において適正な申告を行った納税者との公平負担を図る趣旨の規定である。すなわち調査を処分の前提としている趣旨は、このような調査の要件を設けることで、上記の整合性、均衡を図りつつ適正な課税の実現を図ったものとして理解されるべきであり、法が第三者取引など反面調査を肯定している以上、すなわち明示的に禁止的な規定をおいていない以上、適法な手続を有する限り、調査としての該当性を否定する根拠は明示的ではないものと考えられる。しかしながら広範囲に裁量に委ねることは上記趣旨とも矛盾するものであり、無制限あるいは、あらゆる職員の行為が当該処分に該当するとの判断は適格なものではないともいえる。違法性がない、手続上の不備が損しない限りに広範囲の行為を調査として捉えるものであろうが、調査を前提としている趣旨に鑑みに個別にその妥当性が評価されるものと考えるべきである。

そこで犯則調査による資料収集が調査としての該当性が損なわれたものと評価しうるのかという点が課題となる。従来任意調査による資料が課税処分以外の行為の基礎となってはならないとする見解は、すなわち犯則調査に用いられるべきではないとのことは、憲法上の要請からも、判例、学説ともに整合的な点である。しかしながら、いわばその逆の点に関しては、特段の共通的な理解は存在しない。かかる点につき、判断では、以下のように、

犯則被疑事件において適法な犯則調査が行われた場合に、課税庁が犯則調査又はその過程で収集された資料を引き継ぎ、参考人その他の関係者に対する課税処分を行うために利用することは許されると解すべきである。
としてのその判断を肯定している。
しかしながらその理由は調査官の裁量による広範囲の調査概念を基礎としつつ明示的な否定根拠がないことを理由として、以下のような理由からその該当性を認めている。

犯則調査により収集された資料の引継ぎを受けてこれを課税処分を行うために利用することが許されないと解すべき根拠は見当たらず、これが許されないとすれば、改めて課税庁において同様の資料を収集することが必要となって、課税庁ばかりでなく資料の保有者等にも無用の負担を掛けることになること

上記のような判断はいわば実質的な理由付けによるものであり、かかる点からその調査において該当することを根拠付けることは。法令解釈の範囲を超えているとも評価しうる。
いかなる理由をもってその該当性を判断すべきであるのかという点はさらに検討が必要であろう。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2018年2月5日月曜日

判例裁決紹介(福岡地判平成28年7月28日、給与所得と事業所得の区分)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡地判平成28728日で、キャバレー・クラブ等で働いているホステス等に対して支払れた金員の所得区分、すなわち、事業所得、給与所得のいずれかに該当するのかが課題となったものです。

具体的には、キャバレーやバーを経営している原告がそのクラブ等で働いているホステス等に対して支払った報酬につき、課税庁が給与所得にがいとうするとして源泉徴収義務がある旨の納税告知処分を行ったことに対して、当該報酬は給与ではなく、事業所得に該当するとして当該処分の取り消しを求めた事例である。

中心的な争点としては上記のように本件では原告法人が営むクラブ等で、行われたホステス等に対する報酬・支払が、給与所得であるのか事業所得に該当するのかという点が課題となっているものであり、直接的には給与所得に該当することが前提として原告の源泉徴収義務の存否が直接的な争点となっているものと考えられる。従って給与所得と事業所得の区分を如何なる基準に基づき判断されるべきであるのかという点が課題となるものであり、当該区分に関しては、従来議論が多い部分、判例等の事例も豊富に存在する論点である、しかしながら、下記に引用する最判の基準が基本的に当該所得の区分に関する規範を提供しているものであり、本件も基本的にこの判決において明らかとされた基準をベースに、検討が行われている。ゆえに、基本的に当該所得区分に関する事実関係が基本的に問題となったものであり、法令解釈として特段特徴的なものではないが、基本的に事実関係に基づく判断枠組み、当てはめが中心的な争点となっているものと理解される。

しかしながら給与所得該当性を本件の事実関係から判断している点は、通常この種のホステス等が受け取る金員に関しては報酬として給与ではなく、事業所得であるとして取り扱うことが基本となっている現状が多いものと考えられるので(この点は実務的にはどのような状況であるのかという点は聞いてみたいところではある。本件の原告主張においても一般的にホステス等に対する支払は事業所得である旨の主張が存在している)、かかる点からも本件の結論は一般的な状況とは異なるものといえるのか知れないが、それであるがゆえに、より留意点をしめすものとも評価し得よう。

本件は犯則調査の案件でもあり、裁判において表現されていないような事実関係の要因もあるのかもしれないが、詳細な事実関係に基づき給与所得と事業所得を判断するトレーニングとして、好例となるものではないだろうか。単に形式や慣例に基づく判断ではなく、事実関係と法的基準に則って判断している姿勢は、法令及び裁判例基準の基本的な当てはめであり、かかるような判断枠組みの重要性は租税法の研究としては評価されるべきものかもしれない。

「「およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得(同 法二七条一項、同法施行令六三条一二号)と給与所得(同法二八条一項)のいずれ に該当するかを判断するにあたつては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所 得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目 的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。し たがつて、弁護士の顧問料についても、これを一般的抽象的に事業所得又は給与所 得のいずれかに分類すべきものではなく、その顧問業務の具体的態様に応じて、そ の法的性格を判断しなければならないが、その場合、判断の一応の基準として、両 者を次のように区別するのが相当である。すなわち、事業所得とは、自己の計算と 危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する 意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、  給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提 供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、 とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継 続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるもので あるかどうかか重視されなければならない。」

上記のように本件判示では、弁護士顧問料の所得区分が課題となった昭和56年の最高裁判決(最判昭和56424日)における事業所得と給与所得の区分が引用され判断が行われている。従って本件はこの枠組みへの当てはめが中心的な判断となっているものであり、基本的には事実関係から如何にして給与と事業の所得区分、両所得における境目を如何にして判断するのかという点が中心的な問題となっている。

第二七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

上記法令の記載の通り、基本的に給与所得と事業所得は区分されているものの、単なる法形式、あるいは契約関係によって判断されるものではなく、実質的な内容を反映させて判断すべきものとして捉えられる。特に契約内容等に依拠されるものであり、単に雇用や請負、委任等の法形式を如何に整えようとも具体的な内容にもとづくものとしている点は留意されるべきであろう。比較的小規模な人的役務の提供においては両所得の区分が課題となる事例は非常に多く、実際の区分に関しては多様な事例が積み重ねられているものであるが、基本的に上記最判における基準が基本となっているものと解されている。つまり従属性と独立性が課題となっているものとして判断されているが、本件は特にホステス等に対する従属性、時間的な拘束が根拠となって判断が行われている。近年の判例傾向として従属性に対する判断を重視する見解は少数派となってきており、基本的には独立性を基準として判断する傾向にあるように考えられているが、本件のように未だ従属性を重視する判断をまた存在していることは留意されるべきであろう。少なくとも本件のような事実関係においては、この判断基準が未だ有効性を有していることは留意されるべきものと言えよう。
実務においては以下のように消費税法に基本通達が示す具体的な基準が一義的には活用されるものであるとも考えられるが、かかる区分はあくまでも消費税法における取扱いを示したものであり(そもそも消費税法と所得税法における区分の相違に関しては、重要な検討テーマである)
個人事業者と給与所得者の区分)
111 事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 

私見としてはこのような業種における所得の区分は、非常に相対的、区分の明確なすみわけは困難であると捉えるべきであるとして理解される。この原因が如何なるものから発生するものであるのか、その原因は如何なるゆえんを有するものであるのかという点がまずは検討されるべきかと考えられる。上記のように法令上明らかに両所得は区分されており、源泉徴収や経費控除の考え方等も明らかに異なる。しかしながら本件のように事業所得と給与所得の区分が明示的ではないような状況は多々発生しており、相対的なものであり、事実関係から判断せざるを得ない状況が大いにあり得る。この点の原因、あるいは立法論としての区分の確定、中立的な所得区分の発生を如何にしてあるべきであるのかという点は今後も課題となるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。