平成28年7月4日裁決で法人が減価償却資産の取得により減価償
却費を計上することができるか否かという点が問題となった事例で
あり、
資産の取得日が如何なるものであるのかという点が争われた事例で
す。
具体的には、
本件は請求人が主張する減価償却費の計上に当たって、
当該減価償却資産の計上を申告年度において計上が可能であるのか
という点が問題となった事例であり、
年度末までにおいて取得済みであるとして減価償却費を計上した法
人税の確定申告を、
当該資産の引渡しが終了していないとして更正処分を行い、
2月末には設置済みであるとして不服として提起した事例である。
すなわち、
3月末の決算期末において2月末に設置された請負契約に基づく当
該減価償却資産が、検収が終了し、
取得したもとして年度末において引渡しが終了しているものである
のか否か中心的な争点となっており、
これにより法人税の減価償却費の計上、
中小企業者向けの特別控除、
消費税における仕入税額控除の適用が行われるものであるのかとい
う点が課題となっている。
本件は当該資産の取得に関わる状況が完成品の納品を旨とする請負
契約による資産の取得が課題となっており、
かかる契約がそもそも年度をまたぐものであり、
この取得が認められるか否かにより減価償却費の計上が左右される
こととなり、わずか「取得」、「有する」
という用語の解釈によってその取扱が異なるものと考えられるもの
である。しかるにこの文言の解釈が法人が有する、
取得した段階に至ったものであるものと考えられるものであるのか
という点が、すなわち、具体的な意義を有しているのか、そして、
事実関係においていかにして判断されうるものであるのかという点
が中心的な命題となるものである。
本件は減価償却資産の取得が如何なるタイミングであるのかという
、特に請負による機械装置の設置、取得、引渡しという、
ごくありふれた取引ではあるが、取得、引渡し、
有するという法人税法、消費税法上の概念が如何なるものであり、
所有権の保有、移転を基礎とする民事法の概念をベースとしつつ、
実質的な所有関係に基づく課税関係を構築するべく、
より広義の意義により取得等を理解する租税法規の基本的な考え方
が現れた事例でもあり、
かかる点においても実務上も資産取得のタイミングを如何に判断す
るのか、
留意点を理解する上でも有益な事例であるものと考えられる。
特に減価償却資産のタイミングの判定においては定義規定より事業
のように供するタイミングを如何に捉えるべきであるのかという点
が従前議論対象となっているものであるが合わせて理解すべきもの
であろう。
以上のように本件の基本的な争点は資産取得が如何なるタイミング
をもって引渡しを完了し、取得した、
あるいは有する状態になったものであるのかという点が中心的な争
点となっている。
多様な資産に関する制度適用が問題になったものであり、
以下のような条文の適用、
解釈が問題となったものであると考えられる。
一定の不具合の存在は前提としつつも年度末前の段階で設置が完了
し、
事業のように供していたことは事実関係としては問題とされておら
ず、当該設置請負契約による検収(不具合の修正も含む)
が年度をまたがったものであったことを根拠として当該資産の取得
等は事業年度酋長の時点で完了していないとする課税庁と、
実質的に稼働状況にある資産の状態を前提とし生産量の増大等の収
益稼得への貢献をしているという事実関係を基礎に減価償却資産の
取得が完了して計上を行うべきとする納税者の主張が対立している
ことが本件の起因となっているものである。
第三十一条 内国法人の各
事業年度終了の時において有する減価償却資産につき
その償却費として第二十二条第三項(
各事業年度の損金の額に算入する金額)
の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入す
る金額は、
その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理を
した金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、
その取得をした日及びその種類の区分に応じ、
償却費が毎年同一となる償却の方法、
償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定め
る償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償
却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、
償却の方法のうち政令で定める方法)
に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「
償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
第四二条の六 第四十二条の四第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等で
、青色申告書を提出するもの(以下この条において「
中小企業者等」という。)が、
平成十年六月一日から平成二十九年三月三十一日までの期間(
次項及び第七項において「指定期間」という。)内に、
次に掲げる減価償却資産(
第一号又は第二号に掲げる減価償却資産にあつては、
政令で定める規模のものに限る。以下この条において「
特定機械装置等」という。)
でその製作の後事業の用に供されたことのないもの
を取得し、
又は特定機械装置等を製作して、
これを国内にある当該中小企業者等の営む製造業、
建設業その他政令で定める事業の用(
第四号に規定する事業を営む法人で政令で定めるもの以外の法人の
貸付けの用を除く。以下この条において「指定事業の用」という。
)に供した場合には、
その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(
合併による解散を除く。)
の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。
以下この条において「供用年度」という。)
の当該特定機械装置等の償却限度額は、法人税法
第三十一条第一項
又は第二項の規定にかかわらず、
当該特定機械装置等の普通償却限度額と特別償却限度額(
当該特定機械装置等の取得価額(
第四号に掲げる減価償却資産にあつては、
当該取得価額に政令で定める割合を乗じて計算した金額。
第七項において「基準取得価額」という。)
の百分の三十に相当する金額をいう。)との合計額とする。
仕入れに係る消費税額の控除)
第三〇条 事業者(
第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除
される事業者を除く。)が、
国内において行う課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物に
ついては、
次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課
税期間の
第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費
税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」
という。)から、
当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(
当該課税仕入れに係る支払対価の額に百八分の六.
三を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)
及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(
他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。
以下この章において同じ。)
につき課された又は課されるべき消費税額(
附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)
の合計額を控除する。
一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
確かに、法人税法が22条4項において公正処理基準を採用し、
もって、収益との一定の因果関係を前提として、
益金との関連において、
損金計上のタイミングを決定するべきとしていることが法人税法の
基本原則としているものと解される。
かかる点において一般論としては多様な経費支出に配慮して、
法人税法が具体的な状況を反映させ、
収益との関連から損金としての計上を認める処理を肯定していると
解されることは異存はない。しかしながら、
減価償却費に関しては、その内部取引としての性格から、
当該原則的な処理は法的に修正を受けている。すなわち、
資産の取得、引渡しをもって、その資産の有する状況となって、
もって、
収益を稼得する事業の用に供していることがその前提とされている
ことはまずは理解されるべきであろう。従って、
内部的な取引として恣意的な減価償却費の計上を排することを目的
とした処置であり、かかる要請は、
租税法規の基本的な要請に基づくものであると考えられる。
この取得、引渡しが完了し、
もって当該資産を有する状況と至った場合に於いて減価償却の要件
として機能しているものであり、
かかる状況の発生が重要と認識されるべきである。しかるに、
かかる意義が如何なるものであるのかという点が重要な点である。
かかる点につき裁決は、以下のように解している。特段の根拠なく、法人税法、租税特別措置法及び消費税法における概念を引渡しをもって完了した資産の移転を指すものとして理解している。
かかる判断の意義が如何なる所以に基づくものであるのか、という点は定かではないものの、契約書の文言である検収をもって引渡しを完了させている点において客観性がより事業への貢献等に比して確保されているという特徴があるものといえよう。私見としては引渡し、特に消費税法における仕入税額控除の要件と同様の解釈をもって当てている点は違和感を覚えるところであるが、、取得と引渡しは契約当事者における双方の主体からの判断であり、さらに契約等の行為に依拠する用語であると捉えられるが、対して、有するとは、所有権を基礎としていることは法的な要件としては揺るぐものではないものともいえるが、前記のように実質的な判断も租税法規においては必要となるべき判断要素であり、これらを同列な要件として整理することが妥当であるのかという点は疑問を覚えるものといえる。いずれにしても減価償却にかかる資産の計上に関しては、法人税法が一般的な原則とは対照的に修正を付与したものであり、事業の用に供するという文言の意義内容、と同様に、その解釈は、課税要件の判断としてはより明示的な基準が検討されるべきものではないだろうか。