2017年8月3日木曜日

判例裁決紹介(平成28年8月22裁決、実質所得者課税原則)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年8月22日裁決で、飲食業を営む実質的な経営者に対して、それぞれ法規の実質所得者課税の原則等の適用により法人所得課税、消費税課税が行われ、その是非が争われたものです。

具体的には、本件は、請求人が異なる名義で営む飲食店において発生した収益が如何なる者に帰属するべきものであるのかという点が争われたものである。請求人が多数経営する飲食店においては、営業許可等は請求人以外の名義によって行われているものの、売上の管理や従業員雇用、設備費の負担等を総合的に勘案した結果、かかる収益は、法人税法11条及び消費税法13条に定める実質所得者課税の原則、資産の譲渡等における実質判定の規定により、請求人に帰属するとした更正処分の是非に関して、これを不服として提起されたものである。上記のように営業許可などの名義が異なる場合において如何なる者に対して収益が帰属されるべきであるのかという点が中心的な争点であり、実質的な帰属判定を行う、上記規定の適用が行われたものである。この適用の是非、如何なる基準によって判断されるべきであるのかという点が問題となっているものである。

下記、本件で問題となった実質的な判定は、英米法的な性格を有するものであり、その基本的な趣旨は共通しており、実質的な妥当性や租税負担の公平を企図したものであり、本規定は、租税法の基本的な要請として明確な要件を定め、法規による制約の点で予測可能性の確保や、法的な安定性の要請が問題となってきたものであると考えられる。従来この点は、かかる点で租税法律主義の観点から問題視されているものであり、本件もその適用を巡って争っているという点で、同様の類型に属するものと考えられる。かかる点で、その判断の合理的な基準をより具体化する上で、またこのような実際の名義が異なるような事実関係の経営が、実務的にも行われうるものであるのかという点は、一度実務家の皆さんにも聞いてみたいところであるが、所得の帰属のみならず、広義の点で実質的な判断による課税は広く行われていることも想定され、かかる点でも実務家においてもその具体的な帰属判断を行う上で、有益な事例であるように考えられる。

このような実質的な判断を行う規定の存在に対しては、単に適用要件が明確ではなく、その解釈として、適用が納税者の予測可能性に反するというような一面的な理解では、その制度趣旨を反映させえず、かかる点でその妥当性が欠けるものと批判することは容易であるものの、本件のように、租税法規の適用にあたって、実質的な判定の重要性は、上記のように、基本的な租税負担の公平性や実質的な租税負担を適正に実際の租税負担に反映させるという基本的な意図を考慮すれば、租税法律主義との間で、その衡平が図られた規定であり、当該規定の合理性は肯定され得よう。しかしながら、上記のように、本規定は、実質的な状況を反映させ租税負担・帰属を判断する法的な性格を有したものであり、租税法の基本的な要請に合致し得ない、納税者に取って、予測可能性に懸念のあることは否めない。例えば各種要素(売上管理、雇用等)を総合的に判断を行うことなどはその典型であろう。また、実質的な判断を行う対象が所得の帰属等や資産の譲渡等を行った者の判断、すなわち租税負担を行うべき帰属対象者を判定するという法規定の枠組みを超えて、対象を拡張し、私法の関係性を超過して、租税負担を帰着させるような判断を行うことは、法規定の、特に上記のように衡平を図った本件規定の趣旨にも反するものであり、あくまでも帰属等を判断する上での適用に限定されるものと考えるべきであろう。かかる点で、広く実務的にも実質基準、実質主義、実質課税の原則等の基準的な処置は、必ずしもその法的な性格として、合理性を有するものではないものといえる。この点は、旧来より議論されている点ではあるが、かかるような基本的な背景、制度趣旨に基づき、実質を総合的に判断する上で、考慮すべき要素が如何なるものであり、如何なる点で重視されるべきであるのかという点をより明示的にしていくことが検討課題であるといえよう。

第十一条  資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

第一三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。

本件は、その具体的な判断として、従来より議論が存在する法人税法における実質所得者課税の原則の適用に加えて、消費税法上の資産の譲渡等を行った者の実質的な判定を追加しており、法人税法の納税義務者を実質により判断するのみならず、消費税の納税義務者も同時に判断しており、同じ枠組みの中で判断している点で、特徴的である。

「法人税は、その営む事業から生じる所得に着目して課される税であり、その納税義務者は当該事業に係る費用収益の帰属主体である。また、消費税等は事業者が行う資産の譲渡等に着目して課される税であり、それらの納税義務者は課税資産の譲渡等を行った事業者である。そして、実質的な費用収益の帰属主体及び資産の譲渡等の帰属主体については、名義と実質が一致しない場合においては実質的にこれらを享受する者に対して課税されることとなる(法人税法第11条《実質所得者課税の原則》、消費税法第13条《資産の譲渡等を行った者の実質判定》参照)。 上記実質的な費用収益及び資産の譲渡等の帰属主体については、事業に至る経緯、経営の実態、経理関係、関係者の認識等を総合して判断されるべきである」

具体的に、判断においても上記のように、基本的に消費税法と法人税法の判断において、同様の枠組みにて検討を行っている。この判断根拠が如何なるものであるのかという点は定かではないが、単に上記規定が実質を判断するものではなく、租税法規の基本的な要請とのバランスにおいて成立していることを鑑みれば、この判断は、いかなる理由であるのかという点は疑問を覚える。

上記のように本件の中心的な争点は請求人が経営する各店舗の収益の帰属及び資産の譲渡等の実質的な行った者が如何なるものであるのかという点が問題になっているが、その判断はこのように同様の枠組みに基づき判断を行っている。すなわち本件における中心的な課題は、上記実質判定の基準が如何なるものであるのかという点にあるといえる。判断においては、詳細な事実認定と、各店舗それぞれの状況を詳細に検討を行った上で判断を行っており、収益管理の状況や雇用、設備負担の状況などに基づき判断を行っている(この点では実務上もその租税負担の帰属を判断することは。しかしながら請求人及び課税庁共に、実質的な判断を各種要素に基づき総合的に判断することで双方の主張を構成しており、かかる点で大きな相違はないものの、具体的にその判断を行っている要素は、ズレがある。この点は特に詳細に検討が行われてはおらず、上記のように、その判断において、事業に至る経緯、経営の実態、経理関係関係者の認識等、具体性に欠ける判断基準を示している。この点において、それぞれが如何なる点で本規定の趣旨目的に合致しているのかという点では詳細は不明であり、かかる判断は、実質的にフリーハンドによる負担帰属の判断を行うことになりかねない。かかる点で危惧される。

また既に言及したように、本件の特徴は、①及び②という基本的な租税構造が異なる全く別の法規による実質的な判断を同様の枠組みと捉え、認定判断を行っている点に疑問を覚える。法人税法と消費税法は、上記規定ぶりを見ても、必ずしも同一の帰属関係に基づくものではなく、その基本的な性格は、所得と資産の譲渡等と異なるものである。かかる点で相違するものに対してなぜ、同一の基準に基づく判断が妥当であるのか、確かに、両規定は実質的な判断を行う根拠規定として創設されたものであり、その基本的な趣旨は上記のように共通するものの、判断されるべき対象は納税義務を異にしている。通常の付加価値税と異なり、帳簿方式をその基礎としているわが国の消費税法の性格を鑑みれば、その判断において共通しているいるとの判断を行うことは必ずしも否定されるべきものではないのかもしれないが、法人税法と消費税法は間接直接税、課税方式、課税客体等が異なるものであり、各法規においてもその規定ぶりは共通している部分は多いものの、対象となる収益と対価という概念において決定的に相違しており、この点においても同一の枠組みで判断を行うことは非合理的ではないだろうか。特に、法人税法において、収益という概念自体が明示的ではなく、その定義規定が置かれておらず、原則的に企業会計の判断に依拠しているものであり、また消費税法における対価概念は、その具体的な意義がこちらも必ずしも定義されておらず、学説判決においてもその具体的な依拠すべき点で概念が必ずしも一義的に定まるものではないことが、現状であり、かかる点においてもその具体的な対象が必ずしも定かとはいえないものと考えられる。しかるに、同一の枠組みで判断を行っている点では、論理的には飛躍を覚える。

加えて総合的な判断を行っている点も検討を要する。本件のように実質的な判断を行うことは、重要であることは否定しようがないことであるが、実質のような、私法の状況を超過し、主観的な要因、幅のある概念の適用を行う上で、恣意的な判断が行われる懸念が存在する。各種要素を総合的に判断していることも、予測可能性や安定的ではないという意見も発生し得よう。但し、実質を適切に反映させ、適切な租税負担を行うためにも単一若しくは、限定的な要素を明示的に行うことは非常に困難であり、かかる処置はその実質的な判断を行う趣旨を損なうものであろう。この恣意の発生と租税負担の合理性を比較衡量し、如何なる要素が重要であるのかという点を明らかにして、恣意の発生する余地を減少させることが課題となる。この点が租税法の基本的な課題であり、本件のように判断すべき要素・基準が明示的ではないものは批判的に捉えられるべきである。実質を判断をすることは、必ずしもフリーハンドでの判断を肯定するものではないこともまた理解されるべきであろう。

以上、本制度は同族会社の行為計算否認と同様に、わが国の租税法規において、少し異質な存在であり、その基本的な趣旨としては租税法律主義の基本的な要請と、租税負担の実質的な公平性をバランスするものであり、かかる点で実質的な妥当性を図るものとして位置づけられる。しかしながらその規定はかかる性質上、一定の概念的に明確的ではない文言の使用を行わざるを得ず、またその制度適用の効果も、私法上の取引・契約構造を否認、越えて、租税負担を位置づけるものであり、かかる点で、その濫用、恣意的な運用が図られる危惧が避け得ない。課税庁にとっては、強力な手段でもあり、また最終手段であることは明らかであり、その具体的な適用においては慎重さ(具体的ではないので、意味は持たないかもしれないが)が必要であり、より明示的な要件の検討を図るべきものと捉えられる。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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