2017年8月9日水曜日

判例裁決紹介(平成28年8月2日裁決、長期譲渡所得課税特例と居住の意義)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年8月2日裁決で、長期譲渡所得の特例の適用対象要件として居住の用に供していたタイミングに対する終点が争われたものです。

本件は、請求人がなした建物等の譲渡が下記、租税特別措置法に定める居住用財産の長期譲渡所得の特例(6000万控除)の適用対象に該当するか否か争われたものである。より具体的には、当該制度の適用対象となる家屋等に該当するのか否か点が課題であり、請求人の所有していた家屋が居住の用に供されているか否か、あるいは居住が如何なるタイミングにおいて終了しているのかという点が中心的な争点となっているものである。すなわち居住のように供しているということが如何なる意義を有するものであり、その具体的な事実関係との当てはめにおいて、重要な概念として考えられるが、この点を如何に捉えているのかという点が中心的な解釈上の問題となるものといえる。本件では、請求人が農業、就農研究のために離居しており(賃借による家屋へ移転)、住民票は当該家屋に存在していたものの、既に別の居宅を有しており、かかる点で、法が定める居住の用に供することを終了したタイミングが如何に捉えられるのか本件特例の適用対象範囲であって如何なるタイミングにおいて居住を終了し、移転しているのかという判断が問題となっている。居住の用に供することは、他の租税特別措置法においても同様に要件となるものであり、租税法において重要な特に、担税力の減少を把握する(そもそもこの概念自体があやふやではあるものの)、租税負担を減少させる要因として規定されているものであり、この適用要件を具体的に検討することは、実務的にも重要ではあるだろう。

私見としては、近年納税者の生活の本拠として、住所概念を争う事例、具体的な事実関係を争う事案は存在している、議論が多いものの、本件は、文言としては別のものであり、居住という概念を、別物として理解すべきであり(より正確には租特の趣旨目的から具体的に判断すべきではあるが)、文言も異なり、住所としての生活の本拠という概念的意義は有しておらず、この対比としても居住の用に供していたということが如何なる概念であり、小規模宅地等の特例等、その他にも居住の用に供しているという要件は用いられており、検討の必要性は高いものといえる。係る制度適用の要件を判断する上でも参考になるべきものと考えられる。

第三十一条の三  個人が、その有する土地等又は建物等でその年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が十年を超えるもののうち居住用財産に該当するものの譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条 の規定又は前条、第三十三条から第三十三条の三まで、第三十六条の二、第三十六条の五、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の五(同条第五項を除く。)、第三十七条の六、第三十七条の七、第三十七条の九の四若しくは第三十七条の九の五の規定の適用を受けるものを除く。以下この条において同じ。)をした場合(当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、当該譲渡による譲渡所得については、第三十一条第一項前段の規定により当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対し課する所得税の額は、同項前段の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する額とする。
 課税長期譲渡所得金額が六千万円以下である場合 当該課税長期譲渡所得金額の百分の十に相当する金額
 課税長期譲渡所得金額が六千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額
 六百万円
 当該課税長期譲渡所得金額から六千万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額

 前項に規定する居住用財産とは、次に掲げる家屋又は土地等をいう。
 当該個人がその居住の用に供している家屋で政令で定めるもののうち国内にあるもの
 前号に掲げる家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたもの当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)
 前二号に掲げる家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等
 当該個人の第一号に掲げる家屋が災害により滅失した場合において、当該個人が当該家屋を引き続き所有していたとしたならば、その年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が十年を超える当該家屋の敷地の用に供されていた土地等(当該災害があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)
 第一項の規定は同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定に該当する旨を証する書類として財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
 税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。

本件のような事実関係においては、また居住のように供するという文言からは、まずは居宅としては、生活の本拠という解釈が確定している住所とは異なり、単一の場所的概念を必ずしもないことが前提であるように考えられるが、(もちろん何らかの生活の拠点としての意義を求めるものとしての共通点を有することからも、住所概念との対比は必要であるが、)、まずはこの居住の用に供するとは如何なる意義を有するのかという点が解釈上の争点となっているものである。

本件特例の趣旨としては判断にもあるように、

本件各特例は、個人が自ら居住の用に供している家屋又はその敷地等を譲渡するような場合は、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、担税力も高くない例が多いことなどを考慮して設けられた特例であると解される

としており、一般の財産との対比において、特殊事情としての居住、すなわち、何らかの次の場所が必要であるという背景を考慮した規定であるものと考えられる。単に担税力が低いとの判断は、そもそも担税力自体が概念として明示的ではなく、具体的な解釈の指針としては機能し得ないと考えられるので、まずは本件制度の具体的な背景を明らかとした上で判断すべきものであろう。この点があまり具体的に明らかにされていない点で居住の用に供するという概念の明示的な解釈は困難であり、一定の幅のある概念とならざるをえないものと捉えられる。少なくとも譲渡損益は、次の居所地を確保する上で必要な原資となるべきものであり、かかる点から課税対象としてなじまないとの判断であるのであろうか。制度適用対象として居住のように供さなくなってから時間的な制限をおいていることからも、かかる制度背景は、肯定されるべきものであり、居住の用自体は、複数の居所地が想定されるべき文言規定であるが、上記のようにその背景を捉えるならば、単に、管理所有している、事業にも使用している、別荘等に使用しているなどの一時的なもの等の場合は、その対象から離れると捉えるべきであり、現実に何らかの対象者が実際に居住していることを要請するものと解すべきものであろう。制度上は、配偶者その他特別の関係にある者であることを要するものとして居住主体が定められている。本件では単身者であり、あまり問題にならないが、法規定上は、まずは居住において如何なる者が主体であるのかという点の認定が確定されるべきである、これは居住が一定の者の住居として捉えられる以上自明のことかもしれないが、居住概念においても(住所概念と同様に)、主体が認定確定されるべきものといえよう。

かかる点において、本件判断では、他の法規の解釈も含め総合的に判断を行っているものの、最終的には実際の居住が事実関係として客観的に認定されることが必要と解している点で、結論としては合理性を有するものといえよう。

そもそも本件の居住の用に供するという概念において、居住とはいかなる状態を指すものであるのかという点は必ずしも明示的なものとは捉えられない。本件では事実認定として、具体的な居住関係を把握する際に、公共料金の使用状況が中心的な基準として活用しているが、この合理性を支えるものとしてまずは居住が如何なる概念であるのかという点を明らかにすることが求められるものといえよう(かつては別件であるが、ランプを持ち込み、公園の水道を利用してたというような居住を主張するような事例も存在している)。
しかしながら、この概念を明らかにすることは今後の課題ではあるものの、上記のように居住の用に供することは、実際の居住関係を要請するものという点からは、上記の公共料金による
認定は一定の合理性を有するものとも評価される。

住所概念においては、生活の本拠という形で何らかの主観的な意図が介在することになろうが(もちろん客観的な確定が可能であることが条件としては言うまでもないが)、居住に関しては、上記のように、実際の生活実態(実在性を)を重視した概念であり、かかる点からも客観的な事実関係として公共料金による判断は他の要素と比して優位性をもつものと考えられる。
しかしながら、このように考えると生活実態の実在性は、複数存在することも考えられ(本件では制度上一定の配慮として主たるという要件が追加されている)、住所とは異なり、居住においては、その概念として生活実態としての期間的な継続・連続性が必ずしも要請されていないものとも捉えられる。制度適用、特に租税特別措置として一定の政策的配慮を行うべき、特に特例適用によって何らかの租税負担の減少を図るべきものとしては、その背景として次の生活実態としての箇所を必要とすることを要請しているものであり、単に居住の外形的な事実関係に左右されるような状況は好ましいものではなく、管理支配等との概念的な相違を明らかとし、より、制度趣旨、背景に合致した要件の付与を要請すべきものであるものとも考えられるが、少なくとも事実関係に基づく、制度適用の要件の操作性は排除されるべきであり、より恣意的な判断とならないような制度的対応が必要であるように評価される。

また本件の直接の争点とはなっていないものの、本件の事実関係では、まず、請求人が確定申告において譲渡所得の特例適用の申請を行わず、本制度の適用を求めて更正の請求を行っている。この当初申告においては、当然の如く制度適用がないため、長期譲渡所得に関する特例適用条件たる書類添付等の要件を満たしていない。本件特例はその適用要件として手続要件として、書類添付の要件が定められている。かかるような事実関係を行った理由は附帯税に対するリスクを回避するべく、税理士のアドバイスに従ったものであるようであるが、当初申告要件を充足しておらず、上記のような実態的な事実認定のみならずこのような手続規定の不備がその適用を受けられないという判断を肯定しているものであるこの手続要件の不備を巡って宥恕規定の適用を争っているがこの点も否定されており、二重の意味で本件制度適用の合理性は否定されていることになっている。このような課税要件の充足に関するグレーな判断が必要とされるような状況下では、本件のように、とりあえず、適用を申請せず後に制度適用を争う手法を採用することが多いように(追徴のリスクを避けるためにも)思われる。
しかしながら、租特はその公平負担の原則を犠牲にし、一定の政策的な目的を達成しようとする以上、厳格な制度適用の要件が存在するものと解するべきであり、上記のような適用要件としての実態的なもののみならず、手続要件の充足も非常に重要視されるべきものである。これは租特の性格上、公平負担の犠牲を観念する以上、衡量としてその適用を充足するような事実関係にあるかどうかを明示的にしておく趣旨としていることからも合理性を有するものといえる。本件ではおそらく、専門家としての責任(最終的に適用はないので、大きな過失とはならないかも知れないが)として当初申告要件の重要性は改めて認識されるべきであり、そのリスクは充分に認識されておくべきであろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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