2017年8月23日水曜日

判例裁決紹介(東京高判平成27年11月18日、関連会社への株式譲渡価額、帳簿書類の保存)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
東京高判平成27年11月18日で、関連会社に対する上場株式の譲渡が市場価格よりも低額(10%)であり、当該差額が寄附金として扱われるか否かが問題となった事案です。

具体的には、本件は納税者が行った関連会社への上場株式(取引企業であり、グループ外への売却は事実上不可)の譲渡を行った際に、その譲渡価額が、取引日における市場価格と比して低額(約10%低額)であり、かかる取引によって、一定の市場価値との差額部分に該当する価値が関連会社に対して移転したとして、寄附金課税されたことに対して、法が定める要件としての対価は、基本的に譲渡契約の当事者の約定金額であり、また、仮に時価であるとしても、その対価としては市場取引における時価として取引日の時価の範囲内であれば、足りるとして、低額譲渡には該当せず、もって寄附金としての位置付けを受けるべきものではないということから不服として提起されたものであり、さらには、過失によって紛失した総勘定元帳を調査時において提示できなかったことに対して、青色申告承認取消事由に該当するとした点も争われている。判示としては、地判と基本的に同一であり、納税者の主張を全面的に退けているものである。中心的な争点は2つ存在し、帳簿保存等における理由不備や紛失による取消の不当性等、帳簿等の保存に関する検討及び、有価証券譲渡における適性や益金の認定、時価の認定が問題となっているものである。いずれも基本的な論点ではあるものの、法人税法の基本となる22条2項、及び基礎としている会計帳簿等の保存をめぐる事例であり、かかる点で両点ともに基本的な法令の趣旨やその背景となる制度趣旨等を前提として検討されるべきものであって、より基礎的な理解が必要となるものであると捉えられる。また、上場株式の譲渡や帳簿書類等に対する紛失は、実務においても日常的に起こりうるものであり、このような取引に対する具体的な処理としては、実務家としても、更にはトレーニングとしても留意点を明らかにするという点で有益な事案であるように考えられる。

第百二十六条  第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。
 納税地の所轄税務署長は、必要があると認めるときは、第百二十一条第一項の承認を受けている内国法人に対し、前項に規定する帳簿書類について必要な指示をすることができる。

まず上記のように本件の中心的な課題となっているのは、法人税法126条以下における青色申告における帳簿書類の備付け保存が問題となっており、保存の要件として摘示による(質問検査権の行使などの)開示を含むことは、既に最高裁判決によって明らかであり、この点を前提として、過失による不備(紛失)が当該取消事由として不当ではないのか、すなわち、裁量を逸脱しており、妥当性を欠く処理であるとして争っているものである。保存の意義において通常の用法よりもより拡張的に解釈を行い、提示までも含むものと解した最判で問題となった事例とは異なり、調査への不協力ではなく、過失による紛失によって、当該帳簿書類を提示できなかったことをもって、これを取消対象としたことは妥当性を欠くものであるという点が控訴人の主たる主張である。

そもそも青色申告に於いては、上記のように、一定の帳簿書類の作成が義務付けられているものであり、その作成義務があることに異論の余地はない。しかしながら、如何なる程度をもって当該帳簿書類を作成を作成すべきものであるのかという点は、その具体的な程度、対象等必ずしも明瞭となっているものではない。上記法文では明文をもって記載しておらず、財務省令に委ねられているが、その具体的規定が下記のようになっており、複式簿記の原則、整然明瞭と曖昧な文言をもってプラグラムされている。対象は資産等に影響を及ぼす一切の取引としており、この影響を及ぼすという意義が法的評価として如何なるものを指すものであると捉えるべきであるのかという点はより検討が必要であるものと捉えられる。青色申告制度がその基本的な前提として制度導入に当たって適格な帳簿書類を作成し、特典をもってその作成を奨励し、もって適格な租税負担の能力を把握することにあることを鑑みるならば、単に手続規定として捉え、内容面等の不備は問題としないものと捉えることは制度の基本的な趣旨に反するものといえるのではないだろうか。しかるに適格な帳簿書類の作成が求められており、より具体的な適格な帳簿等を判断する基準が法人税法において如何なる点で求められているのかという点が課題となるだろう。

また本件とは直接的には別件ではあるが、上記126条2項において税務署長に対して、帳簿書類に対して、必要があると認められる場合には、必要な指示をすることができるとしている。この必要性が如何なるものであり、如何なる基準を以て必要性を判断すべきであるのかという点は明示的ではなく、さらに、税務署長の権限として必要な指示とは如何なるものであるのか、単に提示を求める等の権限を規定しているものであるのか、記録修正や関連書類の確認等、より広範囲の権限を有するものであるのかという点で解釈が争われよう。この点も必要性や、法が求める適格な帳簿書類等がいかなるものであるのかという点にも依拠するものといえよう。私見としては、青色申告制度が上記のように、内容面の適格性を要請しているものと解されることからも単に提示等を求めるものではなく、関連書類の確認や場合よっては記録の修正を求めることが可能であると解するべきものと考えられる。

この点に対して、法人税法は、22条4項において公正処理基準を作成し、基本的には、その具体的処理において企業会計等に依拠することを明記しているが、その具体的な手続として青色申告における重要な要素として、企業会計における概念との連動が図られているものである。しかるにこの基準をもって、法人税法が求める青色申告において適格な帳簿書類を判断すべきものと解するべきであろう。但し、公正処理基準の具体的な現れとして捉えるならば、青色申告において要請されているものとして限定的に捉えるべきものではなく、法が要請する適格な帳簿書類の意義として解するべきと考えられる法人税法が求める適切な納税者の負担能力を把握する観点からは、相違がなく、単に特典をもってその作成を企図しているものであり基本的な趣旨目的は同一であって、差異を設けるべきものではなく、単に適格性を欠く帳簿書類は青色申告における取消事由となりうるものであると考えるべきであろう。つまり青色申告における帳簿と白色における帳簿との間で、求められる適格性において相違はないものと考えるべきである。そもそも一般論として青色申告にち、法人税法において如何なる帳簿を揃えるべきであるのかという課題は、課税要件を法定し、明示的であることを要請する租税法律主義の立場からも、また適格な納税負担を図る上でも、より精緻化されるべきものといえよう。

第五十三条  法第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている法人(以下この章において「青色申告法人」という。)は、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づいて決算を行なわなければならない。
第五十四条  青色申告法人は、全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿(次条において「仕訳帳」という。)、全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿(次条において「総勘定元帳」という。)その他必要な帳簿を備え、別表二十に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならない。
第五十五条  青色申告法人は、仕訳帳には、取引の発生順に、取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載しなければならない。
 青色申告法人は、総勘定元帳には、その勘定ごとに記載の年月日、相手方勘定科目及び金額を記載しなければならない。

本件では、上記のように紛失によるいわば過失による総勘定元帳の紛失に起因して、青色申告の承認取消が争われている。本件取消原因が調査への不協力に起因して当該保存の不備を問題とした最判とは異なり、単に過失によるべきものであり、納税者に対する帰責性が程度として低いものと捉えていることが控訴人の主張に垣間見られる。確かに青色申告の取消は取消後の事業年度において影響を及ぼすものであり、申告納税制度において単なる一定時点の過失が、及ぼす影響しては過大であって衡平を失っているものと考えることもできよう。しかしながらこれは、帳簿書類や会計処理に対する認識の相違あるいは会計記録に対する基本的な知識不足であるかもしれないが(法律家に多い)、上記のように青色申告、ひいては法人税法が求める記録としての帳簿書類の適格性に対する基本的な前提を欠くものであろう。

そもそも、青色申告をもって特典を与え、適格な帳簿書類の作成を求めていることがあり、会計記録としては、単に単年度の記録としての不備として評価すべきものではない。複式簿記の原則によるものとしていることからも明らかなように、損益取引と財政状態を記録するものとして求めており、単なるフローの記録のみを求めているものではなく、財政状態を記録し、事業年度ごとを連環することで、継続的な記録を重視していることは明らかであり、会計記録において、単なる一定時点の不備は、記録の正確性や網羅性を欠くものと捉えられる。すなわち継続的な取引の記録として一定の適格性を備えているものが法の要請する帳簿書類であり、単なる一定時点に影響を及ぼす不備ではないものと評価すべきであり、一過性のものではなく、申告納税制度においては複数年度において影響を及ぼすべき重要な点であると評価すべきである。このように考えると、実務家としては結果の重要性も考慮して、正確な記録を連続性をもって確保することが重要なものであると理解するべきである。この連続性が会計記録上の重要な要素として、認識されておくべきであろう。

また、本件では上記手続上の問題と同時に実定法上の問題として、法人税法上、有価証券売買における対価の額が問題となっている。関連会社に対してその保有する株式を譲渡したことによって、生じた時価、市場価格との差額が如何なる評価を受けるのか、すなわち時価・市場価格よりも低額の譲渡(約90%、約10%の評価差額)として評価され当該差額が関連会社への寄附金として認定されうるか否かという点が争点となっている。より具体的には取引日の市場価格の約10%を差し引いて譲渡したものであり、この取引の合理性が問われたものである。

第六十一条の二  内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。
 その有価証券の譲渡に係る対価の額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)

(低廉譲渡等の場合の譲渡に係る対価の額)

2-3-4 法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合における法第61条の2第1項第1号《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡に係る対価の額の算定に当たっては、4-1-4《上場有価証券等の価額》並びに4-1-5及び4-1-6《上場有価証券等以外の株式の価額》の取扱いを準用する。(平12年課法2-7「四」により追加、平15年課法2-7「八」、平17年課法2-14「四」、平19年課法2-3「十」により改正)
納税者の主張にもあるように、法人税法上は、有価証券における譲渡損益の認定としては、上記のように法人税法61条の2に於いて対価として規定されている。この対価の額として、本件低額譲渡における譲渡価額が該当するのか否かという枠組みが問題となっているものであり、この対価の額がいかなるものであるのかという法令解釈が問題となっているものと考えられよう。

この対価の意義として通常の用法に従い、契約当事者における合意した価格として取り交わされた金額と捉えるのかまたは、法人税法独自の概念として適正な対価の額によるべきものとして理解されるべきであるのかという点が争いがあるものである。法人税法は法人税法22条2項に定める無償譲渡等と同様に、さらには、当該譲渡との間での租税負担の公平という点で、同じく低額譲渡における適正な価額による課税が肯定されているものであるが、この法人税法一般に益金として定めるものと本件規定がいかなる関係に立つものであるのかという点が法令解釈上の問題であろう。

本件規定が22条2項のと別段の定めであり、必ずしも22条2項と同様の状況にあるものと解することが当然視されるものではないが、この規定を如何に捉えるべきであろうか。判示に於いては、この対価の額に関しても、22条2項と同様に、一般的な益金の計上と異なるものではなく、同様の背景にあるものと捉えている。租税法がその基本的な要請として、課税要件の明確性を要請しているものと考えられ、基本的に文理解釈によるべきであり、その解釈として文言の用法に従うべきものと考えられるが、本件では、その解釈として、法人税法の根本に属する22条2項の解釈と特に分離することなく、固有の概念をもっているものと解しているものと考えられる。私見としても、当該規定は、別段の定めであるものの、有価証券取引における適切な譲渡損益をより明示的に規定したものと解され、かかる背景から鑑みるに、一般的な規定と別意に解するべき根拠は存在していないものといえよう。確かに別段の定めとして有価証券特有の計算方式を定めたものとの理解も可能ではあろうが、法人税法の最大の特徴である適正な所得益金計算の要請を調整するべきものとして理解することは非常に困難であろう。有価証券の取引においても、その特有の取引としての取扱を求めるべき要因を見出すことは懇談ではないだろうか。

また、この規定が適正な所得計算を求めるものであり、時価による課税を要求するものであり、無償、低額等の取引に対してこれを適正な金額(時価)での取引があったものとして引き直す根拠規定として解されるものと考えると、その適正な時価が如何なるものであるのかという点が課題であり、本件取引における約90%の取引金額がその時価に該当するのか否かという点が判断されることになるものといえる。

納税者の主張としては、当該市場取引が前提となっている限りにおいて、取引日の値動きに於いてその低額なものも時価に該当しうるとの主張を行っており、仮に本件規定が時価によるべきものを要請する規定であるとしても一定の合理性がある取引として本件取引による価額を捉え、すなわち対価の額に該当するものといえると判断しているものと考えられる。確かに時価という概念は法人税法にとどまらず、租税法規一般においてその具体的な算定は非常に困難を極めるものである。しかるに一定の幅のある概念であり、必ずしも一義的に算定が可能なものと捉えることはできないといえる。かかる状況において、法が求める価額、時価が如何なるものであるのかという点をより明確にする必要があるものと考えられる。

明示的に法令解釈としてこの対価の額が如何なるものであるのかという点は必ずしも明示的に規定されているものではないが、上記のように法人税法が求める適正な益金所得の額としての計算
を図るものとして捉えるならば、その求めるところとして、時価による課税を想定しているものといえよう。この時価がより具体的な如何なるものであるのかという点が課題であるが、その意義としては他の租税法規との統一的な解釈という点で、不特定多数による市場取引を前提とした客観的な交換価値がその具体的な意義として合理的であろう。客観的な金額の確定、公平負担を要請する観点からは、この市場取引を前提としている限りにおいて、特段の合理的な価格形成が期待できないような状況にないかぎりにおいては、基本的に市場取引における終値をその対象として理解するべきであり、租税法規が求める客観性や確定性が充足しているものと考える。主張にあるように、一定の幅の取引に於いてその操作性を認めることは、法人税法が求める客観性を求めている点で恣意性が介入する可能性があり、許容されるべき可能性は低いと評価される。より合理的な価格として主張するならば客観性や確定性、明示的な金額が確定することで恣意が介在することないとの一定の条件を認められることがまずは第一であり、その上で適正な対価額として比較衡量されることになるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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