具体的には、税理士業を営む原告の事業所得において妻に対して支払った給与額が、青色事業専従者給与に該当するのか否か、かかる点において必要経費の額として如何なる金額であることが必要であるのかという点が問題となったものである。他にも、別件税務訴訟費用としての弁護士費用が事業所得における必要経費に該当するのかという点もあわせて争っているものの中心的な争点は、青色事業専従者給与における相当性、過大額の判定であろう。この点において本件は特徴的なものであり、従来青色事業専従者給与に於ける具体的な争点は、対象者が如何なる者であるのか、あるいは、内部的な関係に基づき(生計を一にする親族)を対象としたものであり、実際に勤務状況等が把握されうるのかという点(実在性)が中心的な課題となって議論検討されていたが、本件では、金額の相当性が争われた事案であり、単に税理士業における青色事業専従者給与の相当額に限らず、他の業務における実際の金額の判定においても参考となるべきものと考えられる。実務においては実際、この支給する金額は如何なる方法をもって決定しているのかという点は興味深い点であり、リサーチしてみたいところであるが、上記のような争点を検討するにとどまり実際には具体的な金額そのものを検討することは限定的ではないだろうか(あまり事例が存在していない、確かに個人事業であり通常あまり金額的に相当程度を超過するものの支給という事実関係は想定し難い)。かかる点で実務的にも留意点を明らかにする上で有益な事例であろう。特に本件で問題となる過大額の判定は、通常法人税法における役員給与退職金に於いて問題となることが中心でもあり、その対比という点でも興味深いものであると捉えられる。特に法令は青色事業専従者給与において一定の判断要素をもってその過大額を判定する旨明示的に定めており、適用事例は多くないものの、この具体的な解釈及びその判定基準の適用、さらには事実への当てはめにおいて本件は重要な判断であるものと考えられる。
第五十六条
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
第五十七条
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
本件はその中心的な争点として、上記のように、青色事業専従者給与の相当性が争われたものであり、原告が営む事業において勤務する専従者の労務(この点が本来、特徴的な規定である、役員とは異なり、職務ではなく労務としての支払が想定されている)、と比して高額であるのか否かという点が事業所得の必要経費としての該当性という点で問題となっている。当該条文は所得税法57条において、規定されているものである。
同じく従来、支給額の相当性が問題となっていた事例としては役員給与退職金の相当性が問題となっている事例が中心的なものであったが、近年はその具体的な適用事例が減少しているものと考えられるものの、金額的な相当性に関しては、租税法規において多様な争点が提供されている。この対比としても本件は興味深いものであるが、所得税法の青色事業専従者給与の相当性が問題になった事例として、極めて珍しく、個別的な事業(税理士業)における判断であるものの、特に相当性を判断する枠組みをより具体化するという点で有益な事例であると捉えられる。役員たる者に対する支給額が問題とされる法人税法規定とは異なり、専従者はその業務内容ととして、必ずしも多様なものではなく、以下のように、使用人としての労務の対価としての相当性が中心として施行令に於いて規定されている。役員業務の多様性からとは若干距離があり、他の企業との対比、同種同程度の他者との比較以外にも、他の使用人との労務内容との比較がその中心として捉えられている。本件にもその具体的な認定においては、当該専従者が担う業務、職務内容との類似、労働時間などが主たる判断基準として具体的な相当額が認定されている。この点が法人税法との大きな相違であり、このように考えれば、実は、他の従業員との比較という明示的な対比基準が事業主体内部でも把握可能であり、リスクマネジメントとしても、特異点をより把握することが金額の相当性を主張立証する根拠となるべきものであるだろう。
すなわちその相当性を判断する上で、過大額を判定することが比較的容易であり、この点は充分に認識されるべきものと考えられる。機械的な判定が行われるべきものとといえよう。少なくとも、業務内容と、職務内容との対比において内部との調和は重要な点であるように考えられる。
第百六十四条
法第五十七条第一項
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する政令で定める状況は、次に掲げる状況とする。
二
その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況
三
その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
このような判断は、本規定が、規制する対象者として専従者として事業主と生計を一にする親族を前提としたものであり、役員とは異なり、選定プロセス等において大きな相違があることも影響しているであろう。また、規定として57条が単独で規定されているものではなく、56条において事業から対価を受ける親族に対する特例として、累進課税構造を前提として、所得を分割し、租税回避を防止することを原則的に禁止する規定とセットで解釈されているものと考えられる。法人税法規定は平成18年において、同様に役員給与を原則禁止し、その例外として一定の支給を許容する構造に規定が変化しているが、本件規定はその制定当初より、この構造を採用しており、例外として厳格に運用されるべきものと評価すべきであろう。
青色事業専従者給与は、そもそも青色申告における特典であり、また法人役員以上に、その操作性は高いものと評価せざるを得ない(従って従来その実在性が中心的な問題となっていたものといえよう)。かかる点を背景として生計を一にする親族という特殊な関係を前提とし、さらには、担う職務においても、通常の労働等も対象となるものであり、原則的に経費計上を否認する対応の例外的な規定であるものと解するべきであり、その適用範囲は幅広く、具体的な認定としては実際は厳格に運用されるべきものと考えられる。
すなわち、単に利益調整や租税回避の意図などは必要とされるべきものではなく、少なくとも相当程度に金額的な高額であることを要請するものではなく、単に職務内容との対価として適正な金額であることを要請する基本的な性格を本件規定は有しているものと解するべきであろう。
判時においても、以下のように例外的な必要経費としての算入を明確にしている。
青色事業専従者に支給した給与の額が、その労務の対価として相当であるといえる場合に、例外的に必要経費としての算入を認めていることからすれば、当該給与が必要経費として認められるためには、提供された労務との対価関係が明確であることが必要であるというべきである。
さらに、労務との対比において支給金額が対価関係として明確であることが必要であるというべきとしており、かかる判断は上記のような判断から導かれるものとして合理的なものといえよう。つまり、本件規定はその対象としている租税回避が特殊関係者に対する所得分割を対象としており、恣意性の排除や利益調整に対応する役員給与とは若干異なるものとも考えられる。かかる点が上記解釈にも影響を及ぼしているものと捉えるべきである。単に租税回避の防止をその趣旨としているものと理解するのみならず、背景としている具体的な租税回避をも考慮して、具体的な基準を導くべきものといえよう。もちろん、上記規定においても同業種との対比も考慮されているものであるが、より特徴的な部分である内部との対比という点も特徴的な点として再認識されるべきものと解するべきであろう。
以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。