2017年8月24日木曜日

判例裁決紹介(鳥取地判平成27年12月18日、青色事業専従者給与の相当性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は鳥取地判平成27年12月18日で、事業を営む原告の妻に青色事業専従者給与を支出した際に、当該金額が課題であるとして、その過大額の必要経費性を否認した事例です。

具体的には、税理士業を営む原告の事業所得において妻に対して支払った給与額が、青色事業専従者給与に該当するのか否か、かかる点において必要経費の額として如何なる金額であることが必要であるのかという点が問題となったものである。他にも、別件税務訴訟費用としての弁護士費用が事業所得における必要経費に該当するのかという点もあわせて争っているものの中心的な争点は、青色事業専従者給与における相当性、過大額の判定であろう。この点において本件は特徴的なものであり、従来青色事業専従者給与に於ける具体的な争点は、対象者が如何なる者であるのか、あるいは、内部的な関係に基づき(生計を一にする親族)を対象としたものであり、実際に勤務状況等が把握されうるのかという点(実在性)が中心的な課題となって議論検討されていたが、本件では、金額の相当性が争われた事案であり、単に税理士業における青色事業専従者給与の相当額に限らず、他の業務における実際の金額の判定においても参考となるべきものと考えられる。実務においては実際、この支給する金額は如何なる方法をもって決定しているのかという点は興味深い点であり、リサーチしてみたいところであるが、上記のような争点を検討するにとどまり実際には具体的な金額そのものを検討することは限定的ではないだろうか(あまり事例が存在していない、確かに個人事業であり通常あまり金額的に相当程度を超過するものの支給という事実関係は想定し難い)。かかる点で実務的にも留意点を明らかにする上で有益な事例であろう。特に本件で問題となる過大額の判定は、通常法人税法における役員給与退職金に於いて問題となることが中心でもあり、その対比という点でも興味深いものであると捉えられる。特に法令は青色事業専従者給与において一定の判断要素をもってその過大額を判定する旨明示的に定めており、適用事例は多くないものの、この具体的な解釈及びその判定基準の適用、さらには事実への当てはめにおいて本件は重要な判断であるものと考えられる。

第五十六条  居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
第五十七条  青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

本件はその中心的な争点として、上記のように、青色事業専従者給与の相当性が争われたものであり、原告が営む事業において勤務する専従者の労務(この点が本来、特徴的な規定である、役員とは異なり、職務ではなく労務としての支払が想定されている)、と比して高額であるのか否かという点が事業所得の必要経費としての該当性という点で問題となっている。当該条文は所得税法57条において、規定されているものである。

同じく従来、支給額の相当性が問題となっていた事例としては役員給与退職金の相当性が問題となっている事例が中心的なものであったが、近年はその具体的な適用事例が減少しているものと考えられるものの、金額的な相当性に関しては、租税法規において多様な争点が提供されている。この対比としても本件は興味深いものであるが、所得税法の青色事業専従者給与の相当性が問題になった事例として、極めて珍しく、個別的な事業(税理士業)における判断であるものの、特に相当性を判断する枠組みをより具体化するという点で有益な事例であると捉えられる。役員たる者に対する支給額が問題とされる法人税法規定とは異なり、専従者はその業務内容ととして、必ずしも多様なものではなく、以下のように、使用人としての労務の対価としての相当性が中心として施行令に於いて規定されている。役員業務の多様性からとは若干距離があり、他の企業との対比、同種同程度の他者との比較以外にも、他の使用人との労務内容との比較がその中心として捉えられている。本件にもその具体的な認定においては、当該専従者が担う業務、職務内容との類似、労働時間などが主たる判断基準として具体的な相当額が認定されている。この点が法人税法との大きな相違であり、このように考えれば、実は、他の従業員との比較という明示的な対比基準が事業主体内部でも把握可能であり、リスクマネジメントとしても、特異点をより把握することが金額の相当性を主張立証する根拠となるべきものであるだろう。

すなわちその相当性を判断する上で、過大額を判定することが比較的容易であり、この点は充分に認識されるべきものと考えられる。機械的な判定が行われるべきものとといえよう。少なくとも、業務内容と、職務内容との対比において内部との調和は重要な点であるように考えられる。


第百六十四条  法第五十七条第一項 (事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する政令で定める状況は、次に掲げる状況とする。
 法第五十七条第一項 に規定する青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
 その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況
 その事業の種類及び規模並びにその収益の状況

このような判断は、本規定が、規制する対象者として専従者として事業主と生計を一にする親族を前提としたものであり、役員とは異なり、選定プロセス等において大きな相違があることも影響しているであろう。また、規定として57条が単独で規定されているものではなく、56条において事業から対価を受ける親族に対する特例として、累進課税構造を前提として、所得を分割し、租税回避を防止することを原則的に禁止する規定とセットで解釈されているものと考えられる。法人税法規定は平成18年において、同様に役員給与を原則禁止し、その例外として一定の支給を許容する構造に規定が変化しているが、本件規定はその制定当初より、この構造を採用しており、例外として厳格に運用されるべきものと評価すべきであろう。

青色事業専従者給与は、そもそも青色申告における特典であり、また法人役員以上に、その操作性は高いものと評価せざるを得ない(従って従来その実在性が中心的な問題となっていたものといえよう)。かかる点を背景として生計を一にする親族という特殊な関係を前提とし、さらには、担う職務においても、通常の労働等も対象となるものであり、原則的に経費計上を否認する対応の例外的な規定であるものと解するべきであり、その適用範囲は幅広く、具体的な認定としては実際は厳格に運用されるべきものと考えられる。

すなわち、単に利益調整や租税回避の意図などは必要とされるべきものではなく、少なくとも相当程度に金額的な高額であることを要請するものではなく、単に職務内容との対価として適正な金額であることを要請する基本的な性格を本件規定は有しているものと解するべきであろう。

判時においても、以下のように例外的な必要経費としての算入を明確にしている。

青色事業専従者に支給した給与の額が、その労務の対価として相当であるといえる場合に、例外的に必要経費としての算入を認めていることからすれば、当該給与が必要経費として認められるためには、提供された労務との対価関係が明確であることが必要であるというべきである。

さらに、労務との対比において支給金額が対価関係として明確であることが必要であるというべきとしており、かかる判断は上記のような判断から導かれるものとして合理的なものといえよう。つまり、本件規定はその対象としている租税回避が特殊関係者に対する所得分割を対象としており、恣意性の排除や利益調整に対応する役員給与とは若干異なるものとも考えられる。かかる点が上記解釈にも影響を及ぼしているものと捉えるべきである。単に租税回避の防止をその趣旨としているものと理解するのみならず、背景としている具体的な租税回避をも考慮して、具体的な基準を導くべきものといえよう。もちろん、上記規定においても同業種との対比も考慮されているものであるが、より特徴的な部分である内部との対比という点も特徴的な点として再認識されるべきものと解するべきであろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

2017年8月23日水曜日

判例裁決紹介(東京高判平成27年11月18日、関連会社への株式譲渡価額、帳簿書類の保存)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
東京高判平成27年11月18日で、関連会社に対する上場株式の譲渡が市場価格よりも低額(10%)であり、当該差額が寄附金として扱われるか否かが問題となった事案です。

具体的には、本件は納税者が行った関連会社への上場株式(取引企業であり、グループ外への売却は事実上不可)の譲渡を行った際に、その譲渡価額が、取引日における市場価格と比して低額(約10%低額)であり、かかる取引によって、一定の市場価値との差額部分に該当する価値が関連会社に対して移転したとして、寄附金課税されたことに対して、法が定める要件としての対価は、基本的に譲渡契約の当事者の約定金額であり、また、仮に時価であるとしても、その対価としては市場取引における時価として取引日の時価の範囲内であれば、足りるとして、低額譲渡には該当せず、もって寄附金としての位置付けを受けるべきものではないということから不服として提起されたものであり、さらには、過失によって紛失した総勘定元帳を調査時において提示できなかったことに対して、青色申告承認取消事由に該当するとした点も争われている。判示としては、地判と基本的に同一であり、納税者の主張を全面的に退けているものである。中心的な争点は2つ存在し、帳簿保存等における理由不備や紛失による取消の不当性等、帳簿等の保存に関する検討及び、有価証券譲渡における適性や益金の認定、時価の認定が問題となっているものである。いずれも基本的な論点ではあるものの、法人税法の基本となる22条2項、及び基礎としている会計帳簿等の保存をめぐる事例であり、かかる点で両点ともに基本的な法令の趣旨やその背景となる制度趣旨等を前提として検討されるべきものであって、より基礎的な理解が必要となるものであると捉えられる。また、上場株式の譲渡や帳簿書類等に対する紛失は、実務においても日常的に起こりうるものであり、このような取引に対する具体的な処理としては、実務家としても、更にはトレーニングとしても留意点を明らかにするという点で有益な事案であるように考えられる。

第百二十六条  第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。
 納税地の所轄税務署長は、必要があると認めるときは、第百二十一条第一項の承認を受けている内国法人に対し、前項に規定する帳簿書類について必要な指示をすることができる。

まず上記のように本件の中心的な課題となっているのは、法人税法126条以下における青色申告における帳簿書類の備付け保存が問題となっており、保存の要件として摘示による(質問検査権の行使などの)開示を含むことは、既に最高裁判決によって明らかであり、この点を前提として、過失による不備(紛失)が当該取消事由として不当ではないのか、すなわち、裁量を逸脱しており、妥当性を欠く処理であるとして争っているものである。保存の意義において通常の用法よりもより拡張的に解釈を行い、提示までも含むものと解した最判で問題となった事例とは異なり、調査への不協力ではなく、過失による紛失によって、当該帳簿書類を提示できなかったことをもって、これを取消対象としたことは妥当性を欠くものであるという点が控訴人の主たる主張である。

そもそも青色申告に於いては、上記のように、一定の帳簿書類の作成が義務付けられているものであり、その作成義務があることに異論の余地はない。しかしながら、如何なる程度をもって当該帳簿書類を作成を作成すべきものであるのかという点は、その具体的な程度、対象等必ずしも明瞭となっているものではない。上記法文では明文をもって記載しておらず、財務省令に委ねられているが、その具体的規定が下記のようになっており、複式簿記の原則、整然明瞭と曖昧な文言をもってプラグラムされている。対象は資産等に影響を及ぼす一切の取引としており、この影響を及ぼすという意義が法的評価として如何なるものを指すものであると捉えるべきであるのかという点はより検討が必要であるものと捉えられる。青色申告制度がその基本的な前提として制度導入に当たって適格な帳簿書類を作成し、特典をもってその作成を奨励し、もって適格な租税負担の能力を把握することにあることを鑑みるならば、単に手続規定として捉え、内容面等の不備は問題としないものと捉えることは制度の基本的な趣旨に反するものといえるのではないだろうか。しかるに適格な帳簿書類の作成が求められており、より具体的な適格な帳簿等を判断する基準が法人税法において如何なる点で求められているのかという点が課題となるだろう。

また本件とは直接的には別件ではあるが、上記126条2項において税務署長に対して、帳簿書類に対して、必要があると認められる場合には、必要な指示をすることができるとしている。この必要性が如何なるものであり、如何なる基準を以て必要性を判断すべきであるのかという点は明示的ではなく、さらに、税務署長の権限として必要な指示とは如何なるものであるのか、単に提示を求める等の権限を規定しているものであるのか、記録修正や関連書類の確認等、より広範囲の権限を有するものであるのかという点で解釈が争われよう。この点も必要性や、法が求める適格な帳簿書類等がいかなるものであるのかという点にも依拠するものといえよう。私見としては、青色申告制度が上記のように、内容面の適格性を要請しているものと解されることからも単に提示等を求めるものではなく、関連書類の確認や場合よっては記録の修正を求めることが可能であると解するべきものと考えられる。

この点に対して、法人税法は、22条4項において公正処理基準を作成し、基本的には、その具体的処理において企業会計等に依拠することを明記しているが、その具体的な手続として青色申告における重要な要素として、企業会計における概念との連動が図られているものである。しかるにこの基準をもって、法人税法が求める青色申告において適格な帳簿書類を判断すべきものと解するべきであろう。但し、公正処理基準の具体的な現れとして捉えるならば、青色申告において要請されているものとして限定的に捉えるべきものではなく、法が要請する適格な帳簿書類の意義として解するべきと考えられる法人税法が求める適切な納税者の負担能力を把握する観点からは、相違がなく、単に特典をもってその作成を企図しているものであり基本的な趣旨目的は同一であって、差異を設けるべきものではなく、単に適格性を欠く帳簿書類は青色申告における取消事由となりうるものであると考えるべきであろう。つまり青色申告における帳簿と白色における帳簿との間で、求められる適格性において相違はないものと考えるべきである。そもそも一般論として青色申告にち、法人税法において如何なる帳簿を揃えるべきであるのかという課題は、課税要件を法定し、明示的であることを要請する租税法律主義の立場からも、また適格な納税負担を図る上でも、より精緻化されるべきものといえよう。

第五十三条  法第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている法人(以下この章において「青色申告法人」という。)は、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づいて決算を行なわなければならない。
第五十四条  青色申告法人は、全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿(次条において「仕訳帳」という。)、全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿(次条において「総勘定元帳」という。)その他必要な帳簿を備え、別表二十に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならない。
第五十五条  青色申告法人は、仕訳帳には、取引の発生順に、取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載しなければならない。
 青色申告法人は、総勘定元帳には、その勘定ごとに記載の年月日、相手方勘定科目及び金額を記載しなければならない。

本件では、上記のように紛失によるいわば過失による総勘定元帳の紛失に起因して、青色申告の承認取消が争われている。本件取消原因が調査への不協力に起因して当該保存の不備を問題とした最判とは異なり、単に過失によるべきものであり、納税者に対する帰責性が程度として低いものと捉えていることが控訴人の主張に垣間見られる。確かに青色申告の取消は取消後の事業年度において影響を及ぼすものであり、申告納税制度において単なる一定時点の過失が、及ぼす影響しては過大であって衡平を失っているものと考えることもできよう。しかしながらこれは、帳簿書類や会計処理に対する認識の相違あるいは会計記録に対する基本的な知識不足であるかもしれないが(法律家に多い)、上記のように青色申告、ひいては法人税法が求める記録としての帳簿書類の適格性に対する基本的な前提を欠くものであろう。

そもそも、青色申告をもって特典を与え、適格な帳簿書類の作成を求めていることがあり、会計記録としては、単に単年度の記録としての不備として評価すべきものではない。複式簿記の原則によるものとしていることからも明らかなように、損益取引と財政状態を記録するものとして求めており、単なるフローの記録のみを求めているものではなく、財政状態を記録し、事業年度ごとを連環することで、継続的な記録を重視していることは明らかであり、会計記録において、単なる一定時点の不備は、記録の正確性や網羅性を欠くものと捉えられる。すなわち継続的な取引の記録として一定の適格性を備えているものが法の要請する帳簿書類であり、単なる一定時点に影響を及ぼす不備ではないものと評価すべきであり、一過性のものではなく、申告納税制度においては複数年度において影響を及ぼすべき重要な点であると評価すべきである。このように考えると、実務家としては結果の重要性も考慮して、正確な記録を連続性をもって確保することが重要なものであると理解するべきである。この連続性が会計記録上の重要な要素として、認識されておくべきであろう。

また、本件では上記手続上の問題と同時に実定法上の問題として、法人税法上、有価証券売買における対価の額が問題となっている。関連会社に対してその保有する株式を譲渡したことによって、生じた時価、市場価格との差額が如何なる評価を受けるのか、すなわち時価・市場価格よりも低額の譲渡(約90%、約10%の評価差額)として評価され当該差額が関連会社への寄附金として認定されうるか否かという点が争点となっている。より具体的には取引日の市場価格の約10%を差し引いて譲渡したものであり、この取引の合理性が問われたものである。

第六十一条の二  内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。
 その有価証券の譲渡に係る対価の額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)

(低廉譲渡等の場合の譲渡に係る対価の額)

2-3-4 法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合における法第61条の2第1項第1号《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡に係る対価の額の算定に当たっては、4-1-4《上場有価証券等の価額》並びに4-1-5及び4-1-6《上場有価証券等以外の株式の価額》の取扱いを準用する。(平12年課法2-7「四」により追加、平15年課法2-7「八」、平17年課法2-14「四」、平19年課法2-3「十」により改正)
納税者の主張にもあるように、法人税法上は、有価証券における譲渡損益の認定としては、上記のように法人税法61条の2に於いて対価として規定されている。この対価の額として、本件低額譲渡における譲渡価額が該当するのか否かという枠組みが問題となっているものであり、この対価の額がいかなるものであるのかという法令解釈が問題となっているものと考えられよう。

この対価の意義として通常の用法に従い、契約当事者における合意した価格として取り交わされた金額と捉えるのかまたは、法人税法独自の概念として適正な対価の額によるべきものとして理解されるべきであるのかという点が争いがあるものである。法人税法は法人税法22条2項に定める無償譲渡等と同様に、さらには、当該譲渡との間での租税負担の公平という点で、同じく低額譲渡における適正な価額による課税が肯定されているものであるが、この法人税法一般に益金として定めるものと本件規定がいかなる関係に立つものであるのかという点が法令解釈上の問題であろう。

本件規定が22条2項のと別段の定めであり、必ずしも22条2項と同様の状況にあるものと解することが当然視されるものではないが、この規定を如何に捉えるべきであろうか。判示に於いては、この対価の額に関しても、22条2項と同様に、一般的な益金の計上と異なるものではなく、同様の背景にあるものと捉えている。租税法がその基本的な要請として、課税要件の明確性を要請しているものと考えられ、基本的に文理解釈によるべきであり、その解釈として文言の用法に従うべきものと考えられるが、本件では、その解釈として、法人税法の根本に属する22条2項の解釈と特に分離することなく、固有の概念をもっているものと解しているものと考えられる。私見としても、当該規定は、別段の定めであるものの、有価証券取引における適切な譲渡損益をより明示的に規定したものと解され、かかる背景から鑑みるに、一般的な規定と別意に解するべき根拠は存在していないものといえよう。確かに別段の定めとして有価証券特有の計算方式を定めたものとの理解も可能ではあろうが、法人税法の最大の特徴である適正な所得益金計算の要請を調整するべきものとして理解することは非常に困難であろう。有価証券の取引においても、その特有の取引としての取扱を求めるべき要因を見出すことは懇談ではないだろうか。

また、この規定が適正な所得計算を求めるものであり、時価による課税を要求するものであり、無償、低額等の取引に対してこれを適正な金額(時価)での取引があったものとして引き直す根拠規定として解されるものと考えると、その適正な時価が如何なるものであるのかという点が課題であり、本件取引における約90%の取引金額がその時価に該当するのか否かという点が判断されることになるものといえる。

納税者の主張としては、当該市場取引が前提となっている限りにおいて、取引日の値動きに於いてその低額なものも時価に該当しうるとの主張を行っており、仮に本件規定が時価によるべきものを要請する規定であるとしても一定の合理性がある取引として本件取引による価額を捉え、すなわち対価の額に該当するものといえると判断しているものと考えられる。確かに時価という概念は法人税法にとどまらず、租税法規一般においてその具体的な算定は非常に困難を極めるものである。しかるに一定の幅のある概念であり、必ずしも一義的に算定が可能なものと捉えることはできないといえる。かかる状況において、法が求める価額、時価が如何なるものであるのかという点をより明確にする必要があるものと考えられる。

明示的に法令解釈としてこの対価の額が如何なるものであるのかという点は必ずしも明示的に規定されているものではないが、上記のように法人税法が求める適正な益金所得の額としての計算
を図るものとして捉えるならば、その求めるところとして、時価による課税を想定しているものといえよう。この時価がより具体的な如何なるものであるのかという点が課題であるが、その意義としては他の租税法規との統一的な解釈という点で、不特定多数による市場取引を前提とした客観的な交換価値がその具体的な意義として合理的であろう。客観的な金額の確定、公平負担を要請する観点からは、この市場取引を前提としている限りにおいて、特段の合理的な価格形成が期待できないような状況にないかぎりにおいては、基本的に市場取引における終値をその対象として理解するべきであり、租税法規が求める客観性や確定性が充足しているものと考える。主張にあるように、一定の幅の取引に於いてその操作性を認めることは、法人税法が求める客観性を求めている点で恣意性が介入する可能性があり、許容されるべき可能性は低いと評価される。より合理的な価格として主張するならば客観性や確定性、明示的な金額が確定することで恣意が介在することないとの一定の条件を認められることがまずは第一であり、その上で適正な対価額として比較衡量されることになるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年8月9日水曜日

判例裁決紹介(平成28年8月2日裁決、長期譲渡所得課税特例と居住の意義)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年8月2日裁決で、長期譲渡所得の特例の適用対象要件として居住の用に供していたタイミングに対する終点が争われたものです。

本件は、請求人がなした建物等の譲渡が下記、租税特別措置法に定める居住用財産の長期譲渡所得の特例(6000万控除)の適用対象に該当するか否か争われたものである。より具体的には、当該制度の適用対象となる家屋等に該当するのか否か点が課題であり、請求人の所有していた家屋が居住の用に供されているか否か、あるいは居住が如何なるタイミングにおいて終了しているのかという点が中心的な争点となっているものである。すなわち居住のように供しているということが如何なる意義を有するものであり、その具体的な事実関係との当てはめにおいて、重要な概念として考えられるが、この点を如何に捉えているのかという点が中心的な解釈上の問題となるものといえる。本件では、請求人が農業、就農研究のために離居しており(賃借による家屋へ移転)、住民票は当該家屋に存在していたものの、既に別の居宅を有しており、かかる点で、法が定める居住の用に供することを終了したタイミングが如何に捉えられるのか本件特例の適用対象範囲であって如何なるタイミングにおいて居住を終了し、移転しているのかという判断が問題となっている。居住の用に供することは、他の租税特別措置法においても同様に要件となるものであり、租税法において重要な特に、担税力の減少を把握する(そもそもこの概念自体があやふやではあるものの)、租税負担を減少させる要因として規定されているものであり、この適用要件を具体的に検討することは、実務的にも重要ではあるだろう。

私見としては、近年納税者の生活の本拠として、住所概念を争う事例、具体的な事実関係を争う事案は存在している、議論が多いものの、本件は、文言としては別のものであり、居住という概念を、別物として理解すべきであり(より正確には租特の趣旨目的から具体的に判断すべきではあるが)、文言も異なり、住所としての生活の本拠という概念的意義は有しておらず、この対比としても居住の用に供していたということが如何なる概念であり、小規模宅地等の特例等、その他にも居住の用に供しているという要件は用いられており、検討の必要性は高いものといえる。係る制度適用の要件を判断する上でも参考になるべきものと考えられる。

第三十一条の三  個人が、その有する土地等又は建物等でその年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が十年を超えるもののうち居住用財産に該当するものの譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条 の規定又は前条、第三十三条から第三十三条の三まで、第三十六条の二、第三十六条の五、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の五(同条第五項を除く。)、第三十七条の六、第三十七条の七、第三十七条の九の四若しくは第三十七条の九の五の規定の適用を受けるものを除く。以下この条において同じ。)をした場合(当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、当該譲渡による譲渡所得については、第三十一条第一項前段の規定により当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対し課する所得税の額は、同項前段の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する額とする。
 課税長期譲渡所得金額が六千万円以下である場合 当該課税長期譲渡所得金額の百分の十に相当する金額
 課税長期譲渡所得金額が六千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額
 六百万円
 当該課税長期譲渡所得金額から六千万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額

 前項に規定する居住用財産とは、次に掲げる家屋又は土地等をいう。
 当該個人がその居住の用に供している家屋で政令で定めるもののうち国内にあるもの
 前号に掲げる家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたもの当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)
 前二号に掲げる家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等
 当該個人の第一号に掲げる家屋が災害により滅失した場合において、当該個人が当該家屋を引き続き所有していたとしたならば、その年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が十年を超える当該家屋の敷地の用に供されていた土地等(当該災害があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)
 第一項の規定は同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定に該当する旨を証する書類として財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
 税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。

本件のような事実関係においては、また居住のように供するという文言からは、まずは居宅としては、生活の本拠という解釈が確定している住所とは異なり、単一の場所的概念を必ずしもないことが前提であるように考えられるが、(もちろん何らかの生活の拠点としての意義を求めるものとしての共通点を有することからも、住所概念との対比は必要であるが、)、まずはこの居住の用に供するとは如何なる意義を有するのかという点が解釈上の争点となっているものである。

本件特例の趣旨としては判断にもあるように、

本件各特例は、個人が自ら居住の用に供している家屋又はその敷地等を譲渡するような場合は、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、担税力も高くない例が多いことなどを考慮して設けられた特例であると解される

としており、一般の財産との対比において、特殊事情としての居住、すなわち、何らかの次の場所が必要であるという背景を考慮した規定であるものと考えられる。単に担税力が低いとの判断は、そもそも担税力自体が概念として明示的ではなく、具体的な解釈の指針としては機能し得ないと考えられるので、まずは本件制度の具体的な背景を明らかとした上で判断すべきものであろう。この点があまり具体的に明らかにされていない点で居住の用に供するという概念の明示的な解釈は困難であり、一定の幅のある概念とならざるをえないものと捉えられる。少なくとも譲渡損益は、次の居所地を確保する上で必要な原資となるべきものであり、かかる点から課税対象としてなじまないとの判断であるのであろうか。制度適用対象として居住のように供さなくなってから時間的な制限をおいていることからも、かかる制度背景は、肯定されるべきものであり、居住の用自体は、複数の居所地が想定されるべき文言規定であるが、上記のようにその背景を捉えるならば、単に、管理所有している、事業にも使用している、別荘等に使用しているなどの一時的なもの等の場合は、その対象から離れると捉えるべきであり、現実に何らかの対象者が実際に居住していることを要請するものと解すべきものであろう。制度上は、配偶者その他特別の関係にある者であることを要するものとして居住主体が定められている。本件では単身者であり、あまり問題にならないが、法規定上は、まずは居住において如何なる者が主体であるのかという点の認定が確定されるべきである、これは居住が一定の者の住居として捉えられる以上自明のことかもしれないが、居住概念においても(住所概念と同様に)、主体が認定確定されるべきものといえよう。

かかる点において、本件判断では、他の法規の解釈も含め総合的に判断を行っているものの、最終的には実際の居住が事実関係として客観的に認定されることが必要と解している点で、結論としては合理性を有するものといえよう。

そもそも本件の居住の用に供するという概念において、居住とはいかなる状態を指すものであるのかという点は必ずしも明示的なものとは捉えられない。本件では事実認定として、具体的な居住関係を把握する際に、公共料金の使用状況が中心的な基準として活用しているが、この合理性を支えるものとしてまずは居住が如何なる概念であるのかという点を明らかにすることが求められるものといえよう(かつては別件であるが、ランプを持ち込み、公園の水道を利用してたというような居住を主張するような事例も存在している)。
しかしながら、この概念を明らかにすることは今後の課題ではあるものの、上記のように居住の用に供することは、実際の居住関係を要請するものという点からは、上記の公共料金による
認定は一定の合理性を有するものとも評価される。

住所概念においては、生活の本拠という形で何らかの主観的な意図が介在することになろうが(もちろん客観的な確定が可能であることが条件としては言うまでもないが)、居住に関しては、上記のように、実際の生活実態(実在性を)を重視した概念であり、かかる点からも客観的な事実関係として公共料金による判断は他の要素と比して優位性をもつものと考えられる。
しかしながら、このように考えると生活実態の実在性は、複数存在することも考えられ(本件では制度上一定の配慮として主たるという要件が追加されている)、住所とは異なり、居住においては、その概念として生活実態としての期間的な継続・連続性が必ずしも要請されていないものとも捉えられる。制度適用、特に租税特別措置として一定の政策的配慮を行うべき、特に特例適用によって何らかの租税負担の減少を図るべきものとしては、その背景として次の生活実態としての箇所を必要とすることを要請しているものであり、単に居住の外形的な事実関係に左右されるような状況は好ましいものではなく、管理支配等との概念的な相違を明らかとし、より、制度趣旨、背景に合致した要件の付与を要請すべきものであるものとも考えられるが、少なくとも事実関係に基づく、制度適用の要件の操作性は排除されるべきであり、より恣意的な判断とならないような制度的対応が必要であるように評価される。

また本件の直接の争点とはなっていないものの、本件の事実関係では、まず、請求人が確定申告において譲渡所得の特例適用の申請を行わず、本制度の適用を求めて更正の請求を行っている。この当初申告においては、当然の如く制度適用がないため、長期譲渡所得に関する特例適用条件たる書類添付等の要件を満たしていない。本件特例はその適用要件として手続要件として、書類添付の要件が定められている。かかるような事実関係を行った理由は附帯税に対するリスクを回避するべく、税理士のアドバイスに従ったものであるようであるが、当初申告要件を充足しておらず、上記のような実態的な事実認定のみならずこのような手続規定の不備がその適用を受けられないという判断を肯定しているものであるこの手続要件の不備を巡って宥恕規定の適用を争っているがこの点も否定されており、二重の意味で本件制度適用の合理性は否定されていることになっている。このような課税要件の充足に関するグレーな判断が必要とされるような状況下では、本件のように、とりあえず、適用を申請せず後に制度適用を争う手法を採用することが多いように(追徴のリスクを避けるためにも)思われる。
しかしながら、租特はその公平負担の原則を犠牲にし、一定の政策的な目的を達成しようとする以上、厳格な制度適用の要件が存在するものと解するべきであり、上記のような適用要件としての実態的なもののみならず、手続要件の充足も非常に重要視されるべきものである。これは租特の性格上、公平負担の犠牲を観念する以上、衡量としてその適用を充足するような事実関係にあるかどうかを明示的にしておく趣旨としていることからも合理性を有するものといえる。本件ではおそらく、専門家としての責任(最終的に適用はないので、大きな過失とはならないかも知れないが)として当初申告要件の重要性は改めて認識されるべきであり、そのリスクは充分に認識されておくべきであろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年8月3日木曜日

判例裁決紹介(平成28年8月22裁決、実質所得者課税原則)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年8月22日裁決で、飲食業を営む実質的な経営者に対して、それぞれ法規の実質所得者課税の原則等の適用により法人所得課税、消費税課税が行われ、その是非が争われたものです。

具体的には、本件は、請求人が異なる名義で営む飲食店において発生した収益が如何なる者に帰属するべきものであるのかという点が争われたものである。請求人が多数経営する飲食店においては、営業許可等は請求人以外の名義によって行われているものの、売上の管理や従業員雇用、設備費の負担等を総合的に勘案した結果、かかる収益は、法人税法11条及び消費税法13条に定める実質所得者課税の原則、資産の譲渡等における実質判定の規定により、請求人に帰属するとした更正処分の是非に関して、これを不服として提起されたものである。上記のように営業許可などの名義が異なる場合において如何なる者に対して収益が帰属されるべきであるのかという点が中心的な争点であり、実質的な帰属判定を行う、上記規定の適用が行われたものである。この適用の是非、如何なる基準によって判断されるべきであるのかという点が問題となっているものである。

下記、本件で問題となった実質的な判定は、英米法的な性格を有するものであり、その基本的な趣旨は共通しており、実質的な妥当性や租税負担の公平を企図したものであり、本規定は、租税法の基本的な要請として明確な要件を定め、法規による制約の点で予測可能性の確保や、法的な安定性の要請が問題となってきたものであると考えられる。従来この点は、かかる点で租税法律主義の観点から問題視されているものであり、本件もその適用を巡って争っているという点で、同様の類型に属するものと考えられる。かかる点で、その判断の合理的な基準をより具体化する上で、またこのような実際の名義が異なるような事実関係の経営が、実務的にも行われうるものであるのかという点は、一度実務家の皆さんにも聞いてみたいところであるが、所得の帰属のみならず、広義の点で実質的な判断による課税は広く行われていることも想定され、かかる点でも実務家においてもその具体的な帰属判断を行う上で、有益な事例であるように考えられる。

このような実質的な判断を行う規定の存在に対しては、単に適用要件が明確ではなく、その解釈として、適用が納税者の予測可能性に反するというような一面的な理解では、その制度趣旨を反映させえず、かかる点でその妥当性が欠けるものと批判することは容易であるものの、本件のように、租税法規の適用にあたって、実質的な判定の重要性は、上記のように、基本的な租税負担の公平性や実質的な租税負担を適正に実際の租税負担に反映させるという基本的な意図を考慮すれば、租税法律主義との間で、その衡平が図られた規定であり、当該規定の合理性は肯定され得よう。しかしながら、上記のように、本規定は、実質的な状況を反映させ租税負担・帰属を判断する法的な性格を有したものであり、租税法の基本的な要請に合致し得ない、納税者に取って、予測可能性に懸念のあることは否めない。例えば各種要素(売上管理、雇用等)を総合的に判断を行うことなどはその典型であろう。また、実質的な判断を行う対象が所得の帰属等や資産の譲渡等を行った者の判断、すなわち租税負担を行うべき帰属対象者を判定するという法規定の枠組みを超えて、対象を拡張し、私法の関係性を超過して、租税負担を帰着させるような判断を行うことは、法規定の、特に上記のように衡平を図った本件規定の趣旨にも反するものであり、あくまでも帰属等を判断する上での適用に限定されるものと考えるべきであろう。かかる点で、広く実務的にも実質基準、実質主義、実質課税の原則等の基準的な処置は、必ずしもその法的な性格として、合理性を有するものではないものといえる。この点は、旧来より議論されている点ではあるが、かかるような基本的な背景、制度趣旨に基づき、実質を総合的に判断する上で、考慮すべき要素が如何なるものであり、如何なる点で重視されるべきであるのかという点をより明示的にしていくことが検討課題であるといえよう。

第十一条  資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

第一三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。

本件は、その具体的な判断として、従来より議論が存在する法人税法における実質所得者課税の原則の適用に加えて、消費税法上の資産の譲渡等を行った者の実質的な判定を追加しており、法人税法の納税義務者を実質により判断するのみならず、消費税の納税義務者も同時に判断しており、同じ枠組みの中で判断している点で、特徴的である。

「法人税は、その営む事業から生じる所得に着目して課される税であり、その納税義務者は当該事業に係る費用収益の帰属主体である。また、消費税等は事業者が行う資産の譲渡等に着目して課される税であり、それらの納税義務者は課税資産の譲渡等を行った事業者である。そして、実質的な費用収益の帰属主体及び資産の譲渡等の帰属主体については、名義と実質が一致しない場合においては実質的にこれらを享受する者に対して課税されることとなる(法人税法第11条《実質所得者課税の原則》、消費税法第13条《資産の譲渡等を行った者の実質判定》参照)。 上記実質的な費用収益及び資産の譲渡等の帰属主体については、事業に至る経緯、経営の実態、経理関係、関係者の認識等を総合して判断されるべきである」

具体的に、判断においても上記のように、基本的に消費税法と法人税法の判断において、同様の枠組みにて検討を行っている。この判断根拠が如何なるものであるのかという点は定かではないが、単に上記規定が実質を判断するものではなく、租税法規の基本的な要請とのバランスにおいて成立していることを鑑みれば、この判断は、いかなる理由であるのかという点は疑問を覚える。

上記のように本件の中心的な争点は請求人が経営する各店舗の収益の帰属及び資産の譲渡等の実質的な行った者が如何なるものであるのかという点が問題になっているが、その判断はこのように同様の枠組みに基づき判断を行っている。すなわち本件における中心的な課題は、上記実質判定の基準が如何なるものであるのかという点にあるといえる。判断においては、詳細な事実認定と、各店舗それぞれの状況を詳細に検討を行った上で判断を行っており、収益管理の状況や雇用、設備負担の状況などに基づき判断を行っている(この点では実務上もその租税負担の帰属を判断することは。しかしながら請求人及び課税庁共に、実質的な判断を各種要素に基づき総合的に判断することで双方の主張を構成しており、かかる点で大きな相違はないものの、具体的にその判断を行っている要素は、ズレがある。この点は特に詳細に検討が行われてはおらず、上記のように、その判断において、事業に至る経緯、経営の実態、経理関係関係者の認識等、具体性に欠ける判断基準を示している。この点において、それぞれが如何なる点で本規定の趣旨目的に合致しているのかという点では詳細は不明であり、かかる判断は、実質的にフリーハンドによる負担帰属の判断を行うことになりかねない。かかる点で危惧される。

また既に言及したように、本件の特徴は、①及び②という基本的な租税構造が異なる全く別の法規による実質的な判断を同様の枠組みと捉え、認定判断を行っている点に疑問を覚える。法人税法と消費税法は、上記規定ぶりを見ても、必ずしも同一の帰属関係に基づくものではなく、その基本的な性格は、所得と資産の譲渡等と異なるものである。かかる点で相違するものに対してなぜ、同一の基準に基づく判断が妥当であるのか、確かに、両規定は実質的な判断を行う根拠規定として創設されたものであり、その基本的な趣旨は上記のように共通するものの、判断されるべき対象は納税義務を異にしている。通常の付加価値税と異なり、帳簿方式をその基礎としているわが国の消費税法の性格を鑑みれば、その判断において共通しているいるとの判断を行うことは必ずしも否定されるべきものではないのかもしれないが、法人税法と消費税法は間接直接税、課税方式、課税客体等が異なるものであり、各法規においてもその規定ぶりは共通している部分は多いものの、対象となる収益と対価という概念において決定的に相違しており、この点においても同一の枠組みで判断を行うことは非合理的ではないだろうか。特に、法人税法において、収益という概念自体が明示的ではなく、その定義規定が置かれておらず、原則的に企業会計の判断に依拠しているものであり、また消費税法における対価概念は、その具体的な意義がこちらも必ずしも定義されておらず、学説判決においてもその具体的な依拠すべき点で概念が必ずしも一義的に定まるものではないことが、現状であり、かかる点においてもその具体的な対象が必ずしも定かとはいえないものと考えられる。しかるに、同一の枠組みで判断を行っている点では、論理的には飛躍を覚える。

加えて総合的な判断を行っている点も検討を要する。本件のように実質的な判断を行うことは、重要であることは否定しようがないことであるが、実質のような、私法の状況を超過し、主観的な要因、幅のある概念の適用を行う上で、恣意的な判断が行われる懸念が存在する。各種要素を総合的に判断していることも、予測可能性や安定的ではないという意見も発生し得よう。但し、実質を適切に反映させ、適切な租税負担を行うためにも単一若しくは、限定的な要素を明示的に行うことは非常に困難であり、かかる処置はその実質的な判断を行う趣旨を損なうものであろう。この恣意の発生と租税負担の合理性を比較衡量し、如何なる要素が重要であるのかという点を明らかにして、恣意の発生する余地を減少させることが課題となる。この点が租税法の基本的な課題であり、本件のように判断すべき要素・基準が明示的ではないものは批判的に捉えられるべきである。実質を判断をすることは、必ずしもフリーハンドでの判断を肯定するものではないこともまた理解されるべきであろう。

以上、本制度は同族会社の行為計算否認と同様に、わが国の租税法規において、少し異質な存在であり、その基本的な趣旨としては租税法律主義の基本的な要請と、租税負担の実質的な公平性をバランスするものであり、かかる点で実質的な妥当性を図るものとして位置づけられる。しかしながらその規定はかかる性質上、一定の概念的に明確的ではない文言の使用を行わざるを得ず、またその制度適用の効果も、私法上の取引・契約構造を否認、越えて、租税負担を位置づけるものであり、かかる点で、その濫用、恣意的な運用が図られる危惧が避け得ない。課税庁にとっては、強力な手段でもあり、また最終手段であることは明らかであり、その具体的な適用においては慎重さ(具体的ではないので、意味は持たないかもしれないが)が必要であり、より明示的な要件の検討を図るべきものと捉えられる。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。