2017年4月15日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成28年5月24日、納骨堂に対する固定資産税の非課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は東京地判平成28年5月24日で、一部業界でも話題になっている、外注業者を利用した納骨堂に対する固定資産税の非課税措置の適用の是非が争われた事例です。

具体的には、宗教法人たる原告がその業務として、土地及び建物を所有し、納骨堂を運営(電動式で、イメージ的には機械式駐車場)していたところ、これを処分行政庁が固定資産税の非課税措置の対象とはならないとして固定資産税の賦課処分を行ったことに対して、原告が宗教法人の業務に活用するものであるとして非課税措置の適用があるものとして、提起した事案である。問題となった土地建物等、法令上の納骨堂経営の許可を行政(保健所)から受けており、ビルとして建築され、納骨参拝施設のほか法要の施設、会食施設等が復号的に整備された施設である。原告は、訴外の株式会社(仏壇等仏事設備の販売大手)に対して、この納骨堂に対する遺骨収集・販売業務について業務委託契約を締結している。この点が最終的には以下の条文の解釈において、中心的に争点となり、事実関係の認定において重要な判断の基準となったものと考えられる。また、当該施設は、曹洞宗の所属者以外にも納骨が可能であり、加えて原告の所属する曹洞宗以外の宗派の法要等を営むことが可能であり、実際に施設利用料を徴収して、広く訴外会社を活用して利用者を求めている。

以上から最終的に判示としては、原告の主張を排斥し、被告行政庁の主張を認め、これを以下の固定資産税の非課税措置の対象とはならないものとして判断している。

固定資産税は、その名の通り、不動産等、固定資産を課税客体とする租税であり、地方税、特に市町村において基礎的な財源として重要な位置づけを占める税源となっている。この性格の位置づけに関しては、種々議論があるところではあるが、基本的に課税対象の客観的な時価に基づき、課税標準を決定している。この評価は、不動産取得税等、その他の評価にも準用されており、租税制度において、極めて重要な意義を有するものとも評価されている。また、本件で主たる対象となった非課税措置に関しては、地方税法において定められており、課税を行うべきものを、公益性等、複数の趣旨に基づき、その課税を行わないとして制度化されたものである。その具体的な運用は各地方自治体に委ねられていることになっているが、地方税法の基本的な性格に基づき、その非課税は恣意的な運用を行うことは、租税法の基本的な要請に合致せず、租税負担の公平性を害することになる。このため、地方税法に基づく、一定の統一が図られているが、上記のように実際の運用レベルでは各地方自治体の判断によっており、この具体的な非課税規定の運用、解釈上の問題点は、かかる点で、租税法規の解釈論としても重要な意義を有するものと考えられる。

地方税法348条2項
 宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条 に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)
 墓地

地方税法は以上のように固定資産税の非課税となる対象を具体的に定め、個別に列挙する制度形式を採用している。本件で問題となった規定は上記地方税法348条2項3号4号であるが、この法規の解釈が中心的な問題となるといえよう。

そもそも、一般的に非課税規定の解釈の指針がいかなるものであるべきかという問題がある。租税法の基本的な要請から考えて、租税負担の公平性に上記のように影響を及ぼすものがこの固定資産税の非課税規定であり、問題はこの解釈においても、その意義の解釈において厳格に、解するべきであるのかという課題があろう。租税負担の公平性を考慮するならば、みだりに非課税規定の範囲を拡張的に解釈すべきものとは考えられないが、しかしながら、かえって厳格に解釈するべきであるとの判断は、必ずしも合理的ではない。そもそも租税法律主義の要請から考えるに租税法の文言に忠実に文理解釈することが原則的であると判断するべきであり、非課税規定であるがゆえに特別に配慮すべき点はないものと捉えられるが、非課税規定はその運用によっては、特定の納税者において有利となる取扱となる懸念もあり、また、他の納税者との間での公平性を損なうおそれがあることから、みだりに拡張的にその意義を理解するべきではないというレベルで非課税規定であるがゆえに特段の解釈指針と理解するのではなく、留意的な存在として理解しておくべきと考えられる。かかる点で、個別具体的な解釈を如何にして理解するのかという点が固定資産税の非課税規定の解釈として重要な課題となるのであろう。

本件で問題となる宗教法人に関する非課税規定の解釈としては、当然のごとく、憲法概念としての信教の自由との関連性も検討対象であろうが、本件では中心的な争点となっておらず、また、租税法規における解釈として、特段、かかる点を考慮して解釈事実認定を行うことを要請しているのかという点は課題であるが、私見として制度論として、この限定的な列挙方式において非課税規定を定める形式を採用する以上、解釈としてその範囲が具体的に解されるのであれば、特段信教の自由という憲法上の要請に抵触するものではなく、立法上の問題としては議論になるものではあるが、解釈として租税法の基本的要請に忠実であることが一義であるべきであり、かかる点で影響を及ぼするものではないものと考えられる。

個別の解釈においていかに示す専らの利用を想定する等の解釈、事実認定において、信教の自由との抵触との判断、指摘があろうことも想定されるが、例示列挙されている構造から考えて、この合理的な範囲に関しては、立法の判断するところであり、立法の合理的な裁量の余地に属する問題ではないだろうか。特に基本的な解釈において、以下にあるように宗教法人法の概念の借用が中心となって具体的な適用が判断されることになる。かかる点で個別具体的な解釈においても基本的には宗教法人法の制度的な要請を反映するものであり、基本的にはかかる法規の概念、制度の問題であると捉えられる場合が中心となるものではないかと理解される。

私見として、かかる点から個別具体的な地方税法の解釈として問題となるのは上記規定のうち、「専ら」及び「その本来の用に供する」という文言を如何に解釈するのかという点に集約されるのではないかと考えられる。墓地や境内地等の概念は基本的に宗教法人法、墓地埋葬法の概念であり、問題となるのはその概念の借用が原則的な対応に合致しているのかという点で判断されるところが問題になるものであろうからである

上記問題視される文言は、地方税法において、宗教法人に対する制約として、非課税規定の具体的な範囲を確定する上で、重要な判断指針を提供するものであり、非課税規定と租税負担の公平性、憲法上の信教の自由との間でこのような制約を付すことが妥当であるのかという点での議論はあろうが、制度的な問題であり、基本的には立法の問題であろう。私見としては、宗教法人の活動が基本的に精神的な作用をその主たる目的である以上、外形的にその判断を行うことは困難であり、何らかの立法的な手続規定、特に継続的な申請等の手続が設けられるべきものではないかと考えられるが、下記のように、宗教法人がその法人としての主たる目的以外の業務を行い、もって資金調達等を行うことが制度上も可能であり、かかる点で現状の一定の利用制限を課した制限は立法目的として合理性を喪失しているものとは評価し難い。

「非課税とする範囲を「宗教法人が専らその本来の用に供する」ものに限定した趣旨は,上記の境内建物及び境内地は,宗教法人の主たる目的のために必要で,本来的に欠くことのできないものであるとはいえ(上記(2)参照),宗教法人は,主たる目的たる宗教的な活動を行うほか,公益事業を行うことができ,さらに,その目的に反しない限り,公益事業以外の事業を行うこともできることから(宗教法人法6条1項及び2項)、上記の境内建物及び境内地が,これらの事業の用に供されることがあり得ることを勘案したものと解される(なお,地方税法348条3項参照)。

 そうすると,同号にいう「宗教法人が専らその本来の用に供する」とは,当該宗教法人が,当該境内建物及び境内地を,専ら,その宗教の教義をひろめ,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあることをいい,上記の目的以外の目的による使用が例外的にではなく行われている場合には,上記要件を満たさないと解することが相当である。 

 そして,日本国憲法20条1項,同条3項及び89条に規定する国家の宗教的中立性の趣旨,宗教法人法84条が規定する宗教上の特性及び慣習の尊重の趣旨に鑑みれば,地方税法348条2項3号の要件該当性の判断は,当該建物及び土地の実際の使用状況について,賦課期日以前の状態を踏まえて認められる外形的,客観的事実関係に基づき,一般の社会通念に照らして,賦課期日において同号の要件が認められるか否かを判断すべきである。」

歴史的にも、我が国の宗教法人に対する非課税規定の導入は、信教の自由という憲法上の価値観に依拠していることは否定しようがないものであるが、これのみを理由に非課税としての取扱を正当化するものと捉えるのは必ずしも妥当ではない。いわば複合的な趣旨から導かれるものであり、この背景の理解が法規定の解釈においても必要であるように考えられる。すなわち多様な宗教活動に一律に規制を加えることは妥当ではなく、かえって、信教の自由にも懸念を発生させることから、いわば現在の不確定概念としても評価しうるような制限規定が導入されているものであり、また、歴史的に各地の宗教施設は、地域のコミニュティの拠点施設となっており、一部公共的な性格の活動をになってきたことも、その背景にあるものと捉えるべきであり、現在においても災害等の避難箇所として指定される等、一定の公共的役割を有していることが、本件で問題となった宗教法人に対する非課税規定の背景にあると評価されるべきであろう。地方税法において非課税規定が一定の政策目的の達成のもと、課税を犠牲にしていることを鑑みるに、制度背景は重要なテーマであり、法解釈においても検討すべき対象であろう。

そもそも、宗教的な活動は基本的に人の精神作用に関わるものであり、外形的な要素を見出し難いものであり、ここの活動を明確にすることは困難であろう。従って人の精神作用に基づく課税要件の設定は事実上困難であり、上記のようにフリーハンドで、宗教法人における非課税の適用は困難であり、この衡平から法規定のような制約を設けているものと解するべきであり、この点で上記規定の合理性は担保されているものと考えられる。

しかしながら、純然たる宗教行為のみにおいてその非課税規定の存在を理由付けると考えるならば、宗教法人の信者等、一定の宗派としての組織内部への受益という視点が発生することになる。これは公益法人に於いても同様であるが、一定のメンバーに対する受益の存在が設定されるようなケースにおいて、果たして非課税としての理由付けとして今後も立法を支えていくことが可能であるのかという点は、今後の課題として考えられる。

また、本件でも境内地・境内建物の概念が基本的に宗教法人法から借用を行っている。必ずしもその理由付けは本件でも明らかにされていないが、租税法の基本的な要請として、法的な安定性を重視する考えを鑑みるに、宗教法人法の概念を借用することは合理的であると評価すべきである。しかしながら、一定の隔離された空間をもって宗教活動に関わる施設として区画することは、宗教活動の多様性から現実的には困難であり、例えば、宗教施設に付随する駐車場などの施設を宗教活動に要するものであるのかあるいは、その他の賃借に用いているような事案も想定されるところであり、課税の現実的な執行の観点から、立証責任の転換を図り、もって宗教法人の活動の多様性に配慮した形で、必要性、現実的な利用の状況を立証することで、非課税規定の適用を図るような制度的対応が検討されることも可能性としてはありうる。もちろん宗教活動に対する介入とならないよう、一定の第三者的審査及び継続的な審査の実施が必要であるであろうが(現状の、公益認定に近い)。また、このような場合、上記のように非課税規定の趣旨目的をより精緻化して、何をもって非課税規定の適用対象とすべきであるのか明確とするべきであり、ここに租税法の基本的な使命があることになろう。

より個別的に検討するならば、「専ら」とは如何なる程度をもって判断すべきであるのかという点は、明示的ではない。本来の用に供するという部分もまた、如何にして認識すべきであるのかという点は本件から新たに提示される問題であろう。宗教活動の多様性に鑑みるならば、その精神的な作用を客観的に把握することは現実的には困難であり、総合的な判断によるべきほかないものと考えられるところであるが、例えば、現実の利用状況の他に、かかる法人の宗教活動において客観的な必要性をも含む概念であるのかという点も検討すべきである。専ら本来の用に供することが客観的な必要性を伴う概念であるのか、また、目的・活動との対比において不可欠な施設であることを要するものであるのか、それとも単なる現実の利用状況に依拠するものであるのかという点は、見解が別れよう。私見としては、上記の多様な精神活動に依拠する宗教活動を前提とするならば、総合的に判断するほかないのであり、フリーハンドで非課税規定の適用を認めることはまた、本規定の趣旨に反することからも、対象資産と宗教活動において一定の必要性・関連性を求めることが妥当であると判断すべきものと考える。

また、当該資産の排他性も考慮対象となるのであろう。本件でもその判断において、施設の宗派外への利用が問題視されていたが、当該資産の宗教活動との、あるいは宗教法人の目的において、一定程度の排他的な利用が想定されるべきことが要請されているもの解するべきである。さらに納骨堂ののように、形式的な名称等にとらわれるのではなく、実質的な利用状況を基礎に判定されるべきものと解される。また、継続的な活動を営むものが法人であり、いかなるタイミングでその、利用状況を把握すべきであるのかという点もより検討されるべきである。

いずれにしても、このように、非課税規定の適用において、制約として事実上機能する、宗教法人の活動、宗教法人のその本来の目的とは如何なるものと解するべきであるのかという点は、この種の法規の適用において明らかとするべきであろう。

また、具体的に、本件事業に関する募集や契約業務等を外注業務をいかに評価するべきであるのかという点も法令解釈として如何なる点と対峙するものであるのかという点は、検討が必要である。本件のように、当該訴外会社である外部委託者を葬儀の際に推薦するなどのような関係性が存在する場合において、この点から見ても事実認定として、非課税規定の適用を否認することは妥当であるように考えられるところであるが、この法的な根拠をいかに捉えるのかということは今後の課題である。

加えて、本件でも問題となっているが、宗派を問わず本件施設の利用を認めていることも、検討材料であろう。宗教法人として、如何なるものがその活動であり、目的であるのかという点は、差異があろうが一定の組織性を有する以上、団体の構成員に対する受益と他者への受益(そもそも宗教法人の活動による受益と示すこと自体が問題かも知れないが、広い精神的な作用も含め、受益と捉えている)は、区分されるべきものであり、かかる点で、上記非課税規定の文言の解釈としても正当であると評価される。もちろん宗教活動の目的を一定の対象に限定することは妥当ではないとの指摘もありえようが、一定の団体性をもつ法人としての性格を考慮するに、その制約はやむを得ないものといえ、かかる点で、非課税規定の制約として留意されるべきものといえよう。

以上、毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

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