2017年4月5日水曜日

判例裁決紹介を(東京地判平成28年3月2日、架空取引による簿外資金の所得該当性・源泉徴収義務)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は東京地判平成28年3月2日で架空取引によって発生した簿外資金の源泉徴収義務が争われたものです。

具体的には、取引先と架空取引による簿外資金を発生させることで法人税法を逋脱し、法人税法違反(重加算税賦課)に問われた原告に対して、別途、当該簿外資金は、代表者に対する給与所得であり、もって源泉徴収義務を有し、かかる源泉徴収義務の履行が果たせされておらず、かかる金員に係る所得税額に対して仮装隠蔽行為が行われることで、不当に当該納税義務を免れたとして、賦課決定処分が行われたことに対して不服を申し立てたものである

前提として、上記のように、原告と取引先の間で、架空の取引を形成し、原告が金員を支払ったものとして、当該金員部分を不当に損金に算入した旨は、別件訴訟によって確定しており、この事実関係に基づき、さらに、当該不当金員は、簿外資金として原告の代表者が管理支配しているとのことで、簿外資金(数億円規模)が代表者に対する給与(賞与)であり、この支給に伴い源泉徴収義務が課せられるべきであるとして、この潜脱に対して、重加算税付加される結果となっている。いわば当該金員に対して二重に課税を行う結果となっている。

実務的には、このような法人の代表者に対する給与課税に関しては、至極当然のこととして理解されていることと考えられる。私見としても従前との整合性の観点からは、このような処理が基本的なものと捉えられるべきであろうかと考えられるが、実質的に租税法規、所得税法における給与等に対する意義の通常の文言よりも拡張的に捉えられ、実質的に固有概念とかしている点は、租税法の基本的要請から留意されるべきものとも言えよう。

本件は、基本的にこのような簿外資金が如何なる性格を有するものであり、これを租税法規、特に所得税法に於いて、下記の給与所得、源泉徴収義務の対象として捉えられるのかという点が中心的な争点である。かかる点で法解釈とは一線を画するものであるともいえるが、上記のように、実質的な給与概念の理解が前提となっていることが認識されるべきと考えられる。租税法務においては、至極当然の処理であるが、この理解は一般法務や実務家に取って必ずしも当然の処置でないことは、念頭においておくべきであろう。反対に考えれば、租税法規、特に所得税法は、このような一般用語としてより広範囲に給与概念を捉えることで、適正な課税を図っているものと認識される。更には、源泉徴収義務と法人税法違反と二重に課税対象とすることで、重加算税による大きな負荷をかけている点も、適正な課税を図る意図に基づくものといえよう。
この点が如何なる根拠に基づくものであるのかという点がさらに、課題と考えられるが下記のように、所得税法28条においてもこれらの性質を有する給与という文言により規定されており、その背景には所得税が採用する所得概念が背景にあるものと考えられる。従って、この拡張的な方向性を有する文言をいかにして解するのかという点がフリンジ・ベネフィット等の多様な給与に対して給与所得概念の網を適用するのかという重要な争点を発生させることになる。

給与所得)
第二十八条  給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

本件もこの系譜につながるものとして捉えられるべきものであり、従前と同様に法人の代表者に対する給与概念に該当するとして理解している点で、新規性を有するものではないが、裁判例としてこのような違法所得を明示的に所得として捉え源泉徴収義務があるものと判断した事例としては珍しく、特に簿外資金に対する貸付けといういわばよくある主張を排して上記のような給与所得該当性を認め、源泉徴収義務を有するものと判断している点は、実質的に二重に処罰しており(実質的という点がキー、法務的に古典的であるが、二重処罰の問題も観念される)強い抑止をもつものとして実務的にも参考になるものといえるのではないだろうか。

但し、本件のような金員の発生は、同族会社のような法人における、如何に法人の代表者による行為であるとはいえ、法人と別個の存在である個人が行った行為であり、行為を法的に評価するならば、法人に対する損害を与えたものであり、横領等の行為に該当するものと捉えられる。法人における損金への違法行為に伴う支出の問題でもあるが、仮装行為としてこの損金性を否認し、さらに、当該金員を実質的に管理運営している代表者においては給与所得として捉えることは、所得税法と法人税法の連動という点からは、違和感がある、すなわち、損金性を否認していながら、一方で給与課税を行うことは、対応関係が図られていない。確かに所得税法と法人税法は別個の法体系であり、法規として連動が図られるべきものとして想定されていない。しかしながら源泉徴収義務として法人における問題として理解される点で、このような金員を如何に評価するのかという点は、整合性が図られるべきものではないだろうか。

また、従業員等の横領等に伴う損失は、法人税法上、損金として該当するものとして評価されている。この点もなぜ、役員や雇用者、被雇用者において、取扱が異なるのかという点は基本的に同一の犯罪行為に伴う金員の発生であり、バランスを欠いている。本件の中心的な争点はあくまでも所得税法、源泉徴収義務の存在の問題であり、法人の損金の問題ではないが、一定の行為によって発生した金員に対しては複数の論点が混在していることは認識されるべきであり、議論においては分類して議論されるべきものといえるのではないだろうか。

おそらくは、我が国の法人において過半を構成する中小企業、同族会社のような経営と所有が未分離な法人においては、代表者による行為である場合と被雇用者との行為においては損害の発生の有無等が異なるものとして認識されていることがその背景にあるものとの理解が、本件や上記のような損失に対する処理の相違につながっているものと考えられるが、旧所得としての該当性はあくまでも上記法文言の解釈によって判断を行うことが租税法の基本的な要請に合致し、また、損金としては、別段の定め、公正処理基準の問題であるが、それぞれ別の問題として問題点が整理される必要があるだろう。

第百八十六条  賞与(賞与の性質を有する給与を含む。以下この条において同じ。)について第百八十三条第一項(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は、次項の規定の適用がある場合を除き、次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号に定める税額とする。
 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し、その提出の際に経由した給与等の支払者が支払う賞与 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める税額
 その賞与の支払者がその支払を受ける居住者に対し前月中に支払つた又は支払うべきその他の給与等(以下この条において「通常の給与等」という。)がある場合(その賞与の支払者が支払う通常の給与等の支給期が月の整数倍の期間ごとと定められている場合にあつては、前月中に通常の給与等の支払がされない場合を含む。次号イ及び次項において同じ。) 前月中に支払つた又は支払うべき通常の給与等の金額(その賞与の支払者が支払う通常の給与等の支給期が月の整数倍の期間ごとと定められている場合には、その賞与の支払の直前に支払つた又は支払うべきその通常の給与等の前条第一項第一号に規定する月割額。次号イ及び次項において同じ。)、給与所得者の扶養控除等申告書に記載された主たる給与等に係る控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の有無及びその数に応じ別表第四の甲欄により求めた率をその賞与の金額に乗じて計算した金額に相当する税額
 イに掲げる場合以外の場合 その賞与の金額の六分の一(当該金額の計算の基礎となつた期間が六月を超える場合には、十二分の一。次号ロ及び次項において同じ。)に相当する金額並びに給与所得者の扶養控除等申告書に記載された主たる給与等に係る控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の有無及びその数に応ずる別表第二の甲欄に掲げる税額に六(当該賞与の金額の計算の基礎となつた期間が六月を超える場合には、十二。次号ロ及び次項において同じ。)を乗じて計算した金額に相当する税額
 前号に掲げる賞与以外の賞与 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める税額
 その賞与の支払者がその支払を受ける居住者に対し前月中に支払つた又は支払うべき通常の給与等がある場合 前月中に支払つた又は支払うべき通常の給与等の金額に応じ別表第四の乙欄により求めた率をその賞与の金額に乗じて計算した金額に相当する税額
 イに掲げる場合以外の場合 その賞与の金額の六分の一に相当する金額に応ずる別表第二の乙欄に掲げる税額に六を乗じて計算した金額に相当する税額
 賞与の支払者がその支払を受ける居住者に対し前月中に支払つた又支払うべき通常の給与等がある場合において、その賞与の金額が前月中に支払つた又は支払うべき通常の給与等の金額の十倍に相当する金額を超えるときは、当該賞与について第百八十三条第一項の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号に定める税額とする。
 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し、その提出の際に経由した給与等の支払者が支払う賞与 その賞与の金額の六分の一に相当する金額と当該通常の給与等の金額との合計額並びに給与所得者の扶養控除等申告書に記載された主たる給与等に係る控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の有無及びその数に応ずる別表第二の甲欄に掲げる税額と当該通常の給与等の金額並びに当該申告書に記載された主たる給与等に係る控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の有無及びその数に応ずる別表第二の甲欄に掲げる税額との差額に六を乗じて計算した金額に相当する税額
 前号に掲げる賞与以外の賞与 その賞与の金額の六分の一に相当する金額と当該通常の給与等の金額との合計額に応ずる別表第二の乙欄に掲げる税額と当該通常の給与等の金額に応ずる別表第二の乙欄に掲げる税額との差額に六を乗じて計算した金額に相当する税額
 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し、その年最後に支払う給与等が第百九十条(年末調整)の規定の適用を受ける通常の給与等であり、かつ、当該通常の給与等の支払をする日の属する月に賞与を支払う場合において、当該賞与を支払う日の現況によりその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定する給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。)につき同条の規定を適用した場合に同条に規定する不足額が生ずると見込まれるときは、当該賞与について第百八十三条第一項の規定により徴収すべき所得税の額は、第一項第一号又は前項第一号の規定にかかわらず、これらの規定による税額と当該不足額に相当する税額との合計額とすることができる。

また、本件では問題とされていないが、源泉徴収義務においては、上記の条文が基礎となっている。種々の論点が有りうるものであるが、本件に関連するものとして支払うべき通常の給与等を如何にして捉えるべきであるのか、という点は法解釈において、上記、給与所得の範囲と整理され、源泉徴収義務の範囲を律するものとしてその意義が必ずしも明らかといえないものといえよう。この点も問題である。


さらに、本件では、事実認定における基本的な判断要素の一つとして、すなわち簿外資金に於ける経済的利益の性格を決定するものとして、使用意図・実際の使用状況による認定を行っている。具体的に本件では、当該金員が代表者の株式の購入・土地の購入などの行為に利用されており、その金員の利用意図が重要な判断要素となって、かかる簿外資金の金員としての経済的利益の存在、判断を決定すべきものとして議論されている。一般的に経済的利益の所得区分の性質決定において、このような利用意図・用途がメルクマールとして機能することが許容されるものであろうか。もちろん利用意図と実際の利用状況・用途は区分されるべきものであり、その性格も異なるものであるが、我が国の所得の事業所得や給与所得等は、法文の解釈上、、また、所得の区分の趣旨目的においても、所得の源泉の相違によって、租税の負担能力の相違があることに起因しており、具体的な基準としては、当該経済的な利益の利用意図や用途を一般的に活用しうるものではないものと考えられる。しかるに所得区分の判断、所得の性格の決定という段階においては、利用意図や実際の用途は一般的な判断基準・メルクマールとして機能するものと評価することは困難であろう。

我が国の所得税法が幅広い・包括的な所得概念をもって、幅広く課税所得を構成するものとしていることは周知の事実であるが、所得の区分を行う必要があり、その所得分類を決定する基準は重要である。この基準を明らかにすることが租税法解釈の重要なテーマであるが、このような納税者の主観的な意思に基づく、判断、事実認定を行うことは、必ずしも客観性を有するものとはいえず、上記のように所得の源泉に基づく、各所得の該当性判断を行う基準とは整合性が取れていないものともいえる。

本件では、当該金員の代表者による返済の意思があることをもって当該金員の貸付金としての性格の有無に対する主張として行われているが、このように、経済的利益・金員の利用意図、利用用途に基づく判断は主観性を帯びるものであり、事実認定として必ずしも当事者の意思を廃するものではないが、所得区分の問題ではなく、あくまでも所得としての該当性、、所得の帰属が如何なるものであるのかという判断過程において、経済的利益の利用意図や利用用途が考慮されるべきものであり、具体的な所得の区分・分類とは異なる議論であると理解されるべきであろう。

本件のような犯罪に基づく利得が受け手段階において所得を構成することは、法的な権利の確定等は存在しないものの、所得概念・収入すべき金額の解釈において所得税法の一般的な理解として否定されるものではないと考えられる。本件は法人において行われた行為によって発生した金員・経済的利益の費用区分が問題になったものではなく、当該金員が如何なる所得として理解されうるものであるのかという点が基本的な争点であり、給与等とその他の所得の区分が一義的には問題となる。従来より租税法務において、このような金員・経済的利益が代表者による利得として認定されていることは、本件の判断と整合的である。また、中心的な争点とは相違するが上記のように損金の該当性の問題は基本的に法人税法の別段の定め及び公正処理基準の問題であるが、本件のような事実関係においては、簿外の問題であり、そもそも公正処理基準の枠外として損金性が議論されるものではない。加えて公正処理基準はかかる適用を配する性格を有しているのかという点(特に違法経費に対して)も議論されるべき問題である。
本件の中心的な争点はあくまでも源泉徴収義務の有無という所得税法の議論であり、かかる点において複雑化しているものであるが、このような架空の取引による経済的利益の発生が、いかなる性格を有しているのかという点は租税法規における他の法規との重要な相違であることは留意されるべきであろう。また、所得・利得としての該当性と、所得の区分・分類は法理的には別個の問題であり、この点の整理も必要と考えられる(本件では貸付金と所得の区分として現れている)。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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