2017年4月20日木曜日

判例裁決紹介(平成28年6月6日裁決、独立当事者間基準と同族会社の行為計算否認)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年6月6日裁決で、請求人がなした、関連会社への外注費の金額が不当に高額であるとして、132条の同族会社の行為計算否認を適用し、当該費用の損金計上を否認した事例です。

具体的には、Web Serverのレンタル、保守管理を業務とする請求人が、繰越欠損金を有する関連会社に対して業務を発注し、かかる業務発注に関する外注費として計上した金額が、請求人が請け負った受注金額よりも高額であり、かかる支払いは税負担を回避する目的に行われるものであって、不当に高額であると認定し、法人税法132条に定める同族会社の行為計算否認を適用し、損金計上を否認して、更正処分を行ったものであり、かかる処分の取消を求めて提起されたものである。最終的な判断としては、当該支払は、独立当事者間取引における価額と比して、不当に高額であり、処分行政庁の判断を是認して損金計上を否認している事例である。

本件は、Web Serverのレンタル保守管理を営む請求人が関連会社に外注した場合において、当該費用が高額であり、繰欠を活用した租税回避(このような表現が妥当であるのかは別途問題)、不当な法人税の減少を伴う行為であるとして、法人税法132条の同族会社の行為計算規定の否認が適用されるか否かが争われたものであり、中心的な争点は、その適用要件たる、一種の不確定概念であると判断される不当に減少、特に不当にという点を以下に解するべきであるのかという点が問題となったものと考えられる。基本的には、本件の意義としては、この不確定概念といってよい、不当概念、要件を如何に解するのかという租税法における従来の論点に位置づけられる問題であり、従来の議論の延長に属する問題であって、新規性という点で、かかる点からは特に問題となるものではないものと考えられる。但し、不当性を判断、不当な行為を認定する上で、かかる範囲を確定する点で参考となるものであり、実務的には有益なものであるとも捉えられよう。

しかしながら、本件では、かかる不当性の具体的な認定において、特徴的な点が見受けられる。すなわち、外注費の金額の不当性を判断するに当たって、その具体的な不当の判断材料として、明示的に独立当事者間の取引、価額の概念が活用され、具体的な判断が導かれている点が興味深い。

従来より下記のように、同族会社の行為計算否認を巡っては、下記の条文における法令解釈が従前争われており、学説も含め、如何なるものが、要件として不当に減少したものであるのかという点が、近年のIBM事件を紹介するまでもなく、議論が存在する。この点に関して金子『租税法』の第22版では、表現が修正され、如何なる意義をもって、その不当性を認定するのかという点が、議論が行われており、従来、その意義の変遷は租税法の中でも、現在においても、重要な課題であると考えられる。

第一三二条 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

上記のようにこの不当性の概念に関しては、当該行為等が純粋経済人の行為として不合理不自然であることとと解されることは明らかであり、近年の判例においてもまた、下記のように本件判断でも踏襲されている。ここで問題となるのがその具体的な判断基準となる客観的合理的な基準が如何なるものであるのかという点が問題であり、本件ではその点について、下記のように独立当事者間での通常の取引という概念との比準が提示されており、この点によって、判断が行われている。

 「法人税法第132条第1項の規定は、同族会社が少数の株主又は社員によって支配されているため、当該会社の法人税の税負担を不当に減少させる行為や計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、当該会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該会社に係る法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような上記規定の趣旨に照らせば、同族会社の行為又は計算が、法人税法第132条第1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される。そして、法人税法第132条第1項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を維持する趣旨であることに鑑みれば、当該行為又は計算が、純粋経済人として不合理、不自然なもの、すなわち、経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(以下「独立当事者間の通常の取引」という。)と異なっている場合を含むものと解するのが相当である。」
 
この独立当事者間の通常の取引という概念自体が、我が国の移転価格税制における独立当事者間基準と同一のものを指すものと解されるのかどうかという点は必ずしも本件判断では明示されていないが、基本的な概念として同一のものであると理解されよう。この独立当事者間基準による不当性の判断が本件のように明示的に活用されている点は、本件の特徴的な点であろう。本件は同族会社が行う否認対象の取引のうち、支払った損金の金額の不当性・合理性が問題となった事例であり、かかる点で、独立当事者間基準の概念が参照されうることは、今後の参考として実務的にも意義のあるものであるのではないかと考えられる。その他一般的に、すなわち金額の不当性の立証以外の局面において、利用されうるのかという点は、まだ検討課題であろうが、少なくとも金額の合理性を評価する上で、かかる概念からの判断が行われうることは留意すべき点である。

私見としては、このような金額に対する不当性、合理性の判断が事例として今後も増加している傾向にあるならば(おそらく、近年の傾向においてはグループ法人税制の適用・適用外しも増加しており、傾向に変化はないものと考えられる)、同族会社の行為計算否認規定が、歴史的に、その対象範囲を狭めてきている、すなわち不当に高額な役員給与等の規定が整備されてきた、歴史的な背景を考慮すると、移転価格税制の適用範囲の拡大等、制度的な、立法によって適用要件を明示的にするべく、対応が必要な状況になってくるのではないだろうか。
もちろんその具体的な独立当事者間基準の立証は、執行コストの増加を招くものであり、現状の移転価格税制を取り巻く環境も考慮するならば、その具体的な立証は、非常に負担をとmなうものであることも念頭に置かれる必要はあるが。

本件では具体的な当てはめにおいて、不当性の認定において、この独立当事者間の取引、金額とは異なるという点を判断根拠として実際の不当性の認定を行っている。現行の移転価格税制において、データベースや、事前確認、資料の整備等の規定が整理されてきたが、この点で、独立当事者間基準の適用は、同族会社の行為計算においては、明文の規定が存在しないものであり、高度な専門家が多数関わり(高コストではあるが)、その対応策が取られている移転価格税制とは立証の程度が、比準対象取引の算定や、金額の合理性を検証、異常ん取引の排除等において、異なる状態にある。この点が検討課題ではある。移転価格税制と同様のレベルでの立証は執行技術やコスト、納税者の理解等の状況から困難であり、具体的な基準を放棄により整備することで、その立証と執行の衡平を考慮した制度構築が図られるべきである。現状は、この独立当事者間基準の活用は課税庁、納税者共に如何なる基準の充足を図るべきであるのかという点が明確ではなく、双方による負担が増加するのみではないだろうか。

今後、同族会社の行為計算の否認規定の具体的な適用に対して、独立当事者間基準が特に金額の不当性・合理性を検証する段階において用いられていく傾向が支配的なものとなるか否かは、まだ不明瞭であるが、少なくとも同族会社の行為計算として対象となる取引として金額の合理性が問われるべき事例は、存在していくことであろうし、今後、専門家責任として、また、リスクマネジメントとして、移転価格税制における独立当事者間基準に対する理解に基づく、立証、資料の整備が必要となるような状況が求められることも考えられ、先行事例として移転価格税制に対する理解を深める必要があるように考えられる。

以上です。
毎度のごとく、論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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