具体的には、病気により、納税の猶予を認められていた請求人(二年間)が、当該病気の継続によって、納税が困難であるとして、再度、納税の猶予制度の適用(一年間)を所轄税務署長に対してなしたところ、同一の理由に基づく申請は、延長の期間制限があり、その期間制限に抵触するとして、本件猶予申請の適用を否認・不許可としたことを不服として提起されたものである。
本件は、すでに納税の猶予が認められていた、請求人が同一の理由に基づき、再度当該猶予を求めたものであり、前提事実として基本的に、病気を理由とする納税者の納税が困難となった事案であり、納税者にとって、感覚的には・主観的には同情すべき事案ではあるが、かかる点を、基本としてその救済を目的とする議論は、人権等をベースとした議論として傾聴に値するものとしては、考えられるが、単なるヒューマニズムに基づいた議論は冷静な判断を損なうものであり、まずは、現行法制度を前提として如何に法文が解され、制度適用があるべきであるのかという点が一義的に議論されるべきであると考えられる。すなわち猶予制度の基本的な制度趣旨、制度背景と法に定めのない再申請(言葉の問題であるのかもしれないが、延長も)に対して、いかなる対応がなされるべきであるのかという点が問題となったものである。法令解釈として猶予制度における下記のような要件が如何に解され、適用されるべきであるのかという点が中心的な争点であり、下記条文の解釈論、特に国税通則法46条7項の解釈が争われたものであるが、同時に猶予制度の基本的な背景をベースとした立法論が問題となったものであると捉えられる。実務的に、納税の猶予が問題となるべき事案は少ないものと考えられるが、近年はこの種の猶予制度の適用は増加しており、事案としては珍しく、法が定めた猶予制度の基本的な要件の解釈論を理解する上で有益な事例であるものと考えられる。
第四六条 税務署長(第四十三条第一項ただし書、第三項若しくは第四項又は第四十四条第一項(国税の徴収の所轄庁)の規定により税関長又は国税局長が国税の徴収を行う場合には、その税関長又は国税局長。以下この章において「税務署長等」という。)は、震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害により納税者がその財産につき相当な損失を受けた場合において、その者がその損失を受けた日以後一年以内に納付すべき国税で次に掲げるものがあるときは、政令で定めるところにより、その災害のやんだ日から二月以内にされたその者の申請に基づき、その納期限(納税の告知がされていない源泉徴収による国税については、その法定納期限)から一年以内の期間(第三号に掲げる国税については、政令で定める期間)を限り、その国税の全部又は一部の納税を猶予することができる。
一 次に掲げる国税の区分に応じ、それぞれ次に定める日以前に納税義務の成立した国税(消費税及び政令で定めるものを除く。)で、納期限(納税の告知がされていない源泉徴収等による国税については、その法定納期限)がその損失を受けた日以後に到来するもののうち、その申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの
イ 源泉徴収による国税並びに申告納税方式による消費税等(保税地域からの引取りに係るものにあつては、石油石炭税法(昭和五十三年法律第二十五号)第十七条第三項(引取りに係る原油等についての石油石炭税の納付)の規定により納付すべき石油石炭税に限る。)、航空機燃料税、電源開発促進税及び印紙税 その災害のやんだ日の属する月の末日
ロ イに掲げる国税以外の国税 その災害のやんだ日
二 その災害のやんだ日以前に課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもののうちその申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの
三 予定納税に係る所得税その他政令で定める国税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもの
2 税務署長等は、次の各号のいずれかに該当する事実がある場合(前項の規定の適用を受ける場合を除く。)において、その該当する事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、一年以内の期間を限り、その納税を猶予することができる。前項の規定による納税の猶予をした場合において、同項の災害を受けたことにより、その猶予期間内に猶予をした金額を納付することができないと認めるときも、また同様とする。
一 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたこと。
二 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと。
三 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと。
四 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。
五 前各号のいずれかに該当する事実に類する事実があつたこと。
7 税務署長等は、第二項又は第三項の規定により納税の猶予をした場合において、その猶予をした期間内にその猶予をした金額を納付することができないやむを得ない理由があると認めるときは、納税者の申請に基づき、その期間を延長することができる。ただし、その期間は、既にその者につきこれらの規定により納税の猶予をした期間とあわせて二年を超えることができない。
本件の猶予制度の対象となった要件は、上記の国税通則法46条2項に定めのあるものが対象となった。1項に定める災害損失による納税が困難になった場合における納税の猶予制度とは異なり、一定の制限を設けた上で、税務署長等に対して一年以内に限り、その猶予を行うことを許可している。いわゆるできる規定であり、一定の事実関係のもとで、課税庁に対して一定の裁量を与え、その適用の是非を判断することを認めているものとなっていると解される。従って、一義的には、この課税庁における不許可の処分が妥当であるのか、裁量の範囲を逸脱したものであり、不当と評価されるべきものであるのかという点が問題となる。本件は上記のように、同一の理由に基づく、猶予の再申請であり、実質としてすでに許可された猶予制度の適用を延長することを目的としてなされた請求人の申請であるから、その適用は上記7項により、既にその者につき、これらの規定によりとして延長の期間制限が認められないと判断されたものである。基本的に条文を文言通りに解釈したものであり、その判断の是非は妥当と評価されるものである。
当該請求人は、本件の請求は再申請を行ったものであるとして、法令の定めとして、明文をもって再申請を禁止していない以上、その適用は、上記条文に基づき、一定の事実関係の存在を起点として、猶予制度の適用が判断されるべきであるとして主張しているが、かかるような請求人が求める再申請が7項に定める状況の対象外であるのかという点が問題となっている。私見としては、たしかに、法文は制度をもって明確にその再申請を禁止していないものの、延長や再申請という、文言の相違により、いわば言葉の問題であるように考えられるが、基本的に制度として納税の猶予は原則として、その適用期間を二年に制限しているということを考慮するならば、安易に拡張的・類推解釈を行って明文の禁止がないものとして、同一の理由に基づく再申請を許可すべきと解することは、法の定めた処理に反する処理を税務署長等に求めるものであり、租税法の基本的な要請、特に合法性の原則に反するものと理解するべきであろう。
2項は1項と異なり、適用において、該当する事実に基づくことが要請され(因果関係)、また、猶予金額も制限が付せられている。解釈論としてこの、法定の事実関係がいかなるものであるのか、という点がまず問題となる。本件で問題となった病気であるが、特に制限を付与しておらず、実際上、その適用の可否については、納付が困難であるとの事実関係との因果関係のみが問題となるものである。この因果関係をどの程度の関係性を求めるのかという点は、必ずしも定かではなく、この点は、検討すべき課題である。基本的には、1項の猶予制度とは異なり、災害損失の発生による損失を起因したものではなく、別制度として設けられていることからも他の納税者との衡平から考えて、事実関係と納税の困難であることとの間で、直接的な因果関係が認められべきものであるのではないだろうか。この点は、基本的に納税者の申請に基づく制度適用が図られていることからも肯定されるものと考えられる。
そもそも本件の判断と請求人の主張との相違は基本的な本件の猶予制度の基本的な理解、制度趣旨に対する認識の相違にあるものといえる。すなわち、納税者の基本的な権利、おそらくは憲法上の生存権の確保・財産権の保護に基づく要請であるとした理解と納税義務の発生と一定の事由の発生を背景とした例外的な救済的な制度であるのかという点で相違があるように考えられる。私見としては、本件猶予制度はあくまでも例外的な救済制度であり、納税義務の発生においては、その起因として一定の所得の発生が背景にあることからも、一定の事由に基づく、一時的な納税の困難を救済する制度であるとして理解するべきであり、通常の納税義務を果たした納税者との負担の公平性と一定の事実関係による救済との衡平がその背景にある制度であるとして理解するべきであり、基本的な権利としてその適用が、認められるべきと考えることは制度趣旨に反するものと理解するべきであろう。
(納税者の帰責性)
8-2 この条第2項各号に該当する事実は、納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じたものに限る。
また、本件とは直接の関連はないが、上記のように法令解釈通達が提示されている。この納税者に対する帰責性が如何にして解釈されるのかという点は、その根拠が必ずしも明確ではない。この点も猶予制度の実際の適用を判断するに当たって、上記の具体的な事実に対して当てはめる上で、重要な課題であり、実質的な適用対象範囲を律するものであろう。この点でおそらくは上記と同様に猶予制度の基本的な制度趣旨に基づくものと想定されるが、この点もより検討していくべきであろう。加えて、7項の適用において、二年間の猶予の期限に関しては、「既にその者につきこれらの規定により」 という制約が設けられている。これにより、本件の対象となるべき同一理由に基づく猶予制度の延長が認められないものと考えられるが、この転移つき、具体的な猶予の条件として、これらの規定を如何に理解するのかという点が問題となるように考えられる。すなわち、上記猶予制度の各1,2項の規定が同一の者に対して適用された場合において期間制限の対象とするのか、各一定の事実関係に応じて、判断されることになるのかという点が明示的ではない。この点は今後の課題であるといえよう。
本件の事例のような病気の場合、病気にも、例えば慢性的なものなど、多様なものが想定され、必ずしも、一律に規制を法によって確定することは、困難である。制度上の想定において詳細に定めていないことが問題であり、基本的な権利として理解する立場からからは、法の不備であるという指摘もありえようが(特に慢性的な、あるいは長期間に渡るような病気等に関しては如何にこの制度において捉えていくのかという点)、上記のように当該猶予制度を捉えるならば、基本的には納税義務の発生において、一定の所得の発生が想定され、納税が困難であるような状況との因果関係が問題になるものであり、納税者からの申請と税務署長等による裁量に委ねる制度が一定の合理性を有していると捉えられる。制度的に、あるいは立法論として、特に慢性的な病気や治療に長期間を要するような状況において、より実効的な期間制限を行うことは立法論として課題であることは否定し得ないが、単に請求人の状況が酷であるとの判断に基づく主張において、単なる感覚的・主観的な議論ではなく、上記のような基本的な猶予制度に対する納税者間の公平性や救済の衡平において、捉えた議論が必要であり、納税者側の基本的な事情のみを主張して制度的な解決を図ることは合理的な根拠を有しているものではないと考えるべきであろう。
以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。