2016年10月29日土曜日

判例裁決紹介【平成28年3月7日裁決、任意組合持分の譲渡】

さて、また興がのったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年3月7日裁決で、任意組合の持分を譲渡したことによる所得の取扱が問題となった事例です。

具体的には、ホテル等を営む不動産に関する組合契約を結んだ請求人がその持分を他者に譲渡した場合において、得られた所得がいかなるものと捉えるのかが問題となったものです請求人は総合課税対象となる譲渡所得であるとして申告したところ課税庁が当該譲渡は組合契約の対象となる譲渡所得であると不動産と密接不可分の持分の譲渡であるとして分離課税の譲渡所得に関するものであるとして更正処分を行った事例です。

任意組合の法的性格は民事法における議論であり、その組合契約に関する所得の帰属等に関しては、法的な取扱に関する規定が存在せず、通達に依拠しているところですが、本件のように近年は組合契約に基づく資産の保有や、投資事業の実施など環境は変化しつつあるように思われますので、この点で、今後の実務においても検討すべき事項であるように考えています。

裁決では、課税庁の見解を採用して、本件のような任意組合の持分の譲渡を組合契約の主たる目的である財産の保有に対して密接不可分なものとして捉え、当該持分の譲渡は不動産の譲渡と実質的には同質なものとして分離課税による譲渡所得として認定しています。

この点で、組合の財産保有に関しては組合員の共有として評価される性格であることも鑑みるとたしかに財産譲渡に関する性格を有することに異存はないのですが、単に密接不可分な財産との紐付きのみの存在として認識するべきでしょうか。請求人は収益への参加など、組合員たる譲渡として一種の有価証券・株式と同様の地位にあるべきものとして評価しています。我が国の上記通達は組合契約の損益の帰属は直接組合員に帰属するものとして捉えており、財産持分の転化したものとして組合持分と捉えうることは合理的な考えとも評価できます。主として民事法上の組合の評価に関わるものであるのかもしれませんが、租税法規における評価として当該契約の資産に発生したcapital gainをいかなる帰属として考慮すべきかという点も含め、単に財産との不可分な持分としてのみ評価することは議論の余地があるものと捉えています。

過去の裁決では、類似の匿名組合契約の持分の譲渡や有限責任事業組合の持分の譲渡などは総合課税の対象たる譲渡所得課税として判断していますが、このような契約主体の相違により課税関係が異なることになるのは留意すべき点ではありますし、バランス上問題とも言えるでしょう。逆に考えれば、任意組合の持分と上記との間でいかなる差異が存在するのか、当該差異をいかなる意義に依拠して課税上取扱を異にする原因として評価しているのかは、解釈上議論すべき点であると言えるでしょう。

本件の取扱は米国におけるpartnershipによる持分の譲渡と類似する点は見られるのですが、近年の投資環境を考慮するならば、持分の譲渡以外にも、組合と組合員の間での取引の評価(りんご生産組合の事例のように)、損益分配時の源泉徴収、出資時の課税関係(労務出資等も含む)、新規での組合への参加、途中退出など、立法によって解決すべき段階に来ているのかもしれません。
そもそも所得の帰属に関して規定がないことが許容される情況は租税法律主義の観点からは問題とも考えられるところです。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに

2016年10月20日木曜日

判例裁決紹介【平成28年3月31日、みなし役員の認定】


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年3月31日裁決で役員として経営に従事しているとして更正処分を行った事例に対して、不服申し立てを行ったことに対して一部請求人の主張が認められ、役員としての地位にはなく、支払った金額は業務委託費であると認定されたものです。外注費と役員の関係は珍しいですが、役員給与の認定と関連してその経費の性格を議論したものとしては実務上も参考になるものと評価しています。

具体的に裁決は、保険代理店業務を営む請求人の株式50%超を保有している使用人がみなし役員に該当するとして当該使用人に対して支払った保険契約の募集に関する業務委託料は、法人税法におけるみなし役員に該当し、役員給与として更正処分を行ったものです。主たる争点は当該使用人が経営に従事している役員に該当するか否かという点ですが、設立時の経緯からも当該使用人の家族を代表者とするなど、経理的に未整備な企業であるようであり、他にも事業経費の損金性が問題となっています。

当該使用人は請求人の株式を50%超保有して、調査段階でも供述で代表者として業務を行っていたとの書類や契約書に代表取締役として署名しているなどの事実関係を有している状況にあるのですが、このような状況であっても役員としての認定を必ずしも裏打ちするものとはとらえず、裁決としては判断としてその役員として認定を退けました。通常であれば、株式会社の株式50%超の保有しているような状況では、取締役として登録されているべきであると判断して、通常は経営に従事していると判断してその者への支払いは役員給与として認定することが妥当であろうと考えられます。

しかしながら、本件では裁決としてその認定を否定しました。上記のような通常の一般的な観念に基づく役員の認定を行うことなく、株式の保有がその経営に直接的に結びつくものではないとして慎重に判断しています。役員としての認定に関しては、その実質的な業務内容等に関して、総合的に、客観的な事情に基づいて判断されるべきとして、認定を行ったことになります。

本件の主たる争点が役員としての認定にあるのではなく、請求人の支出がいかなる性格を有しており、租税法上いかに評価されるべきであるのかがその主たる争点であることに鑑みると、単に役員であることとしてみなされることがその役員報酬に該当するものではく、いかなる業務に対して支払われたものであるのかという、支出先ではなく、その支払対価としての性格に着目した判断ともいえ、冷静な判断過程に基づく判断と評価されるべきです。

特に判断を左右した点としては、基本的な認定が当該使用人の行動や供述にのみ基づいていることと考えられます。現在の業務を主宰する請求人の代表取締役等に調査を行っていないなど、調査手続き上、立証において調査段階での不備が問題になっていますが、他の争点でも本件は調査段階での問題が争点になるなど、調査上の不備が認定を支えるべき客観的な資料の要求に達しておらず、経営に従事しているとの認定が困難になったものと評価されるべきかもしれません。そのような意味でも調査における実質的な資料の入手が、判断上のプロセスの合理性が具体的な判断における重要なテーマになったものと考えるべきです。

もちろん、経営に従事しているとの認定においては、その経営に関する業務に従事していることが必要であるのですが、具体的に経営に関する業務とは如何なるものであるのかという点は、定かとは言えません。経営とは包括的な概念であるとは考えられますが、いかなるものがその業務に該当することになるのかという点は、本件に限らず、外注と人件費とを区分するうえでも問題視されるべきとはいえるのではないでしょうか。

また、別の争点になりますが、請求人の損金の認定において、その具体的な立証を図るうえで、いかなる事実関係にあるのか、業務との関連性、あるいはその実在性について、納税者と処分庁のいずれかにあるのかという点で明確に証拠との距離感から納税者に対して一定の責任を求めています。先般の東京地判でもありましたが、裁決例において事実上の立証責任の転換を図った事例としては注目されるべきものといえるのではないでしょうか。基本的に課税庁に立証責任があることは否定されていませんが、証拠との距離に照らして、更正処分時において損金の額について参入を認めることができないとの事実上の推認ができる場合には、納税者に推認を破る程度の具体的な反証を求めています。

このような立証責任についての考え方は、近年の傾向であるともいえますが、このような責任を分配する考え方は、いかなる形態の課税処分において適用されるのか、あるいは包括的に、一般的になされるべき責任分配であるのかという点についてはより詳細な検討が必要でしょう。

以上です。毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。裁決

2016年10月13日木曜日

【譲渡所得特別控除の要件・居住の意義】裁決平成28年3月17日

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は、裁決平成28年3月17日で、つい最近公開されたものです。事案としてはシンプルで譲渡所得課税の特例である、居住用財産の特別控除の適用して申告した請求人が、その具体的な適用要件である居住の用に供している家屋に該当性を否認されたことを不服として提起したものです。

具体的には請求人が租税特別措置法35条に定める譲渡所得の特例としての「居住の用に供している家屋』に対する特別控除の適用を申請したものの、当該家屋は相続以後、譲渡段階において水道ガス電気の契約がなく、住民票もないような状況であり、実際に居住の用に供しているとは認められないと認定された処分に対して不服を申し立てています。

請求人の主張を検討すると、住民票をおいている借家との対比において当該家屋が居住実態を有していることの根拠として
  • 当該家屋ではテレビもつけず
  • ウェットティッシュで体を拭き
  • 公園の水を使用
  • このような環境でも妻から責められるよりは心理的に安定している
と主張して居住の用に供しているとして、その特別控除の適用を求めています。
私見ながら、このような主張が認められると考えたところにも驚嘆しているところですが、なかなか悲哀も感じるところでもあり、近年の裁決例では屈指の存在です【(笑)】。
当然のごとく、裁決では、その判断として請求人の主張を退けていますが、法令解釈上は以下のような点で検討すべきものと考えています。
まずは、「居住の用に供している」という文言の意義です。
特に、この要件の解釈として、、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の本拠としていたことを要するものとして解釈しています。
すなわち、現に一定期間の居住の事実を求めて継続的に居住に関する事実関係の存在を求めている点は、興味深いところであります。純粋な文言の解釈においては、特に居住の用に供しているという文言において、継続的な過去の段階での居住の事実関係を求めているというよりはむしろ、譲渡時においていかなる事実関係において利用されているのかを問題とするように理解されます。この点につき、一定期間の継続的な居住の事実関係の必要性については、従前の判決等と整合的であり、安定的ではあります。
私見としても、本特別制度が、居住の事実に着目して、通常の家屋よりも今後の生活の拠点を整備する必要性から、担税力が小さいものとの判断に基づき、譲渡所得を減少させる納税者に取って有利な特別控除を制度化していることを鑑みて、また、単に一時的な居住事実をもって譲渡時点の担税力の減少を図るような租税回避行為を防止する観点からも、本要件の解釈として一定の期間における居住関係の事実を必要とする解釈は合理的なものと考えられます。このことは、当該特別控除が毎年度の適用を認めず、3年に一回の適用を認めている点からも整合的であるでしょう。
確かに文言上は継続的な要素を加味するべき条件は明確ではなく、法規に存在しない要件を付すものであり租税法の基本的要請たる予測可能性に反するとの意見も合理的ではありますが、制度趣旨等から鑑みて、当該条件は合理的な範囲を逸脱するものではないのではないかと評価しています。
なお、この場合、一定の期間の継続的居住がいかなる期間を指すものであるのかという問題は残ります。この点については裁決等でも明らかではなく、この点でより解釈上の問題があるものでもありますが、継続的な居住の要件が排除される可能性はないものと考えられます。
また、上記解釈では、別の用件として真に居住の意思の存在も必要とされています。この点も法文の解釈上、納税者の主観的な意思の存在を必要とする要件は、明示されていないのではないでしょうか。確かに、居住という行為自身は納税者にとって一様ではなく、納税者の主観的な意思に基づき、その判断をせざるを得ない状況も想定はできるところではあります。しかしながら、上記の解釈でも租税回避への対応を一つの争点としており、納税者の主観的意思に依拠した判断を実施すると言うよりはむしろ、主観的意思を標章するであろう、客観的な事実関係に着目した判断が合理的であり、租税特別措置法という一種の租税負担の公平性を犠牲にした制度において租税回避行為につながるような判断過程は妥当ではないと評価すべきでしょう。
主観的意思の考慮を如何にすべきかは、租税法の解釈にとって幅広い分野において問題となりうるものではありますが、本規定のような租税特別措置法の解釈においては一般的に議論の余地があると解するべきでしょう。そもそもの問題としてはいかなる状況にあることが合理的な居住に該当するのか、その居住という用語自身が保有する不明確さが問題であるように考えられます。規定の趣旨から考えて合目的な居住とは如何なるものを指すのか議論すべき課題ではないかと思います。
そのような意味で、本件のように、具体的な居住関係が争われた判断においていかなる具体的な基準としていかなる要素が、考慮されているのかという点は、検討に値するでしょう。本件では、電気水道ガス等の契約の有無に基づき、実際の使用において客観的な事実の標章としての存在による使用の事実関係のアプローチ、さらには家屋の老朽化などの機能面からのアプローチも採用しています。居住という太陽な意義を有する事実関係を背景にしていることからも総合的なアプローチになることは租税法として極めて合理的だと考えられますが、単に使用事実を推定する事実関係のみならず、実際の対象の状況などの機能面の状況も考慮している点は、参考になるのではないでしょうか。他にも、自治会への加入状況、近隣の証言なども考慮対象に含まれています。逆に住民票の存在は、考慮対象としては問題とされていません。
もちろん、このような判断過程を如何にして具体的な居住関係をサポートするかについては、納税者の主張にも左右されることではありますが、上記のような判断要素をその対象としている点は有益な判断要素ではないでしょうか。
加えて、本件では問題となっていませんが、本規定の具体的な要件の一つである、居住の用に供しなくなってから一定の期間までもこの措置の対象となります。その場合、この具体的な居住の用に供している期間が終了した日とは如何に認定されるのでしょうか。この点も上記のように居住自身の多様性から鑑みるに、容易には判断がつかない問題であるように考えられるところです。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いです。裁決

2016年10月6日木曜日

東京地判平成26年10月17日【瑕疵ある申告への国の責任】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成26年10月17日で、納税者がなした確定申告について総額で数億円規模の申告誤りを行い、その減額更正を請求したもののその起源を超過していたため、対象とならず、客観的に明確な、かつ重大な深刻に対する瑕疵があったにも関わらず、税務署長が減額の更正処分を行わないのは、担税力に基づかない課税であって、また財産権の侵害であり、課税の公平に反するもので、当該申告は無効であり、また、無効でなくとも、非常に明白な誤りが存在する深刻であって、税務署長には国賠法に基づく、減額更正を行うべき義務があったとして国家賠償を求めた訴訟です。

具体的に、この申告の瑕疵の原因となった取引は、原告が保有する海外子会社が発行した新株予約権に関する課税処理であり、給与所得として申告したのに対して、実際は一時所得として考えらえるべきものです。この内容自身、原告の主張や、裁判所の認定にもありますが、概ね通常の税理士では、ミスとなるような状況で、高度かつ複雑な案件であります。まあ、新株予約権による所得をストックオプションとして機械的に従前の処理に従って、給与所得として申告をしたものとも考えられますが、著名な最高裁の判断においてもそのように一律に給与所得とすべきものではなく、一時所得に該当する可能性も否定されていないという点は、通常の専門家であっても判断が困難なものかもしれません。
そのような意味では、本来ならば、委任した税理士に対して損害賠償をすべき案件であり、いい方は悪いかもしれませんが、納税者の逆切れといったような裁判例で、あまり、参考としてほしくはない事例ではありますが、課税処分に対する納税者の不服に対しては、なぜ、誤りを税務署が正してくれなかったのかという、素朴な思いを持つものでもあり、そのような思いに対する訴訟として記憶されるべきものと考えています。

解釈論としては、課税処分に関して国賠法上の違法となるのはいかなる場合かということが問題となったのですが、従前通り、納税者が主張するように結果的に課税処分の違法性をもってその対象として国賠の対象となるのではなく、公権力の行使の時点での職務上の法規違反等をその対象とする形で、判示としては納税者の主張の一端を退けています。
立法論としては変更の余地はあるものですが、課税処分自身が大量かつ反復的なものであるということを考えると、制度改正の誘因は低いものと判断されるべきものです。単に瑕疵があった申告があったという事実のみでは、違法とされる状態になく、税務署職員による誤った説示、慫慂等があって初めて成立するべきものと解されるでしょう。課税処分の性質等を考慮すれば妥当なものと判断されます。

かつての実務では、減額による場合も含め更正の請求ができる期間制限は、一年とされていましたので、このような減額の更正に関しては、嘆願書によるべきものとして処理されていましたが、平成23年の税制改正においてこの期間制限は延長され、5年とされましたので、本件のような請求の機会は減少するものと想定されるところでもありますが、基本的な納税者の意識は恐らく、変わりようがなく、このような思いに対する判断としては参考となるべきものとして、留意されるべきものでしょう。言い換えれば立法的に解決された問題とも評価できるかもしれません。

また、個人的に気になるのは、納税者の主張にもあるように、このような明白な瑕疵は財産権を侵害するものであり、課税の公平負担に反するものとして無効となるという主張です。あるい意味当然なのかもしれませんが、担税力という極めてあいまいな概念に基づいて、租税公平主義に関する法的な概念に合致するとしてその処分の無効を主張する意味はあるのでしょうか。確かに制度的に包括的所得概念を採用していることは通説となっていますが、特に条文にもない担税力の概念によって判断をすることは困難であるように思われるところです(判示でも特に判断していませんし、従前とも同様です)。このような法令外の要件が認められるのであれば、担税力の概念自身がすでに経済学的には、過去のものとなりつつあり、効率性や、最適性をもとに租税負担を解釈すべき見解もその考慮要素になってくるように思われます。少しずつ、租税法においても単に担税力といった概念に限定される法令解釈も成り立つと考えられるところでもありますが、法令の安定性を重視する租税法規の立場からは慎重な検討が必要になるのかもしれません。

以上です。
毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

判決