また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は、裁決平成28年3月17日で、つい最近公開されたものです。事案としてはシンプルで譲渡所得課税の特例である、居住用財産の特別控除の適用して申告した請求人が、その具体的な適用要件である居住の用に供している家屋に該当性を否認されたことを不服として提起したものです。
具体的には請求人が租税特別措置法35条に定める譲渡所得の特例としての「居住の用に供している家屋』に対する特別控除の適用を申請したものの、当該家屋は相続以後、譲渡段階において水道ガス電気の契約がなく、住民票もないような状況であり、実際に居住の用に供しているとは認められないと認定された処分に対して不服を申し立てています。
請求人の主張を検討すると、住民票をおいている借家との対比において当該家屋が居住実態を有していることの根拠として
- 当該家屋ではテレビもつけず
- ウェットティッシュで体を拭き
- 公園の水を使用
- このような環境でも妻から責められるよりは心理的に安定している
と主張して居住の用に供しているとして、その特別控除の適用を求めています。
私見ながら、このような主張が認められると考えたところにも驚嘆しているところですが、なかなか悲哀も感じるところでもあり、近年の裁決例では屈指の存在です【(笑)】。
当然のごとく、裁決では、その判断として請求人の主張を退けていますが、法令解釈上は以下のような点で検討すべきものと考えています。
まずは、「居住の用に供している」という文言の意義です。
特に、この要件の解釈として、
、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の本拠としていたことを要するものとして解釈しています。
すなわち、現に一定期間の居住の事実を求めて継続的に居住に関する事実関係の存在を求めている点は、興味深いところであります。純粋な文言の解釈においては、特に居住の用に供しているという文言において、継続的な過去の段階での居住の事実関係を求めているというよりはむしろ、譲渡時においていかなる事実関係において利用されているのかを問題とするように理解されます。この点につき、一定期間の継続的な居住の事実関係の必要性については、従前の判決等と整合的であり、安定的ではあります。
私見としても、本特別制度が、居住の事実に着目して、通常の家屋よりも今後の生活の拠点を整備する必要性から、担税力が小さいものとの判断に基づき、譲渡所得を減少させる納税者に取って有利な特別控除を制度化していることを鑑みて、また、単に一時的な居住事実をもって譲渡時点の担税力の減少を図るような租税回避行為を防止する観点からも、本要件の解釈として一定の期間における居住関係の事実を必要とする解釈は合理的なものと考えられます。このことは、当該特別控除が毎年度の適用を認めず、3年に一回の適用を認めている点からも整合的であるでしょう。
確かに文言上は継続的な要素を加味するべき条件は明確ではなく、法規に存在しない要件を付すものであり租税法の基本的要請たる予測可能性に反するとの意見も合理的ではありますが、制度趣旨等から鑑みて、当該条件は合理的な範囲を逸脱するものではないのではないかと評価しています。
なお、この場合、一定の期間の継続的居住がいかなる期間を指すものであるのかという問題は残ります。この点については裁決等でも明らかではなく、この点でより解釈上の問題があるものでもありますが、継続的な居住の要件が排除される可能性はないものと考えられます。
また、上記解釈では、別の用件として真に居住の意思の存在も必要とされています。この点も法文の解釈上、納税者の主観的な意思の存在を必要とする要件は、明示されていないのではないでしょうか。確かに、居住という行為自身は納税者にとって一様ではなく、納税者の主観的な意思に基づき、その判断をせざるを得ない状況も想定はできるところではあります。しかしながら、上記の解釈でも租税回避への対応を一つの争点としており、納税者の主観的意思に依拠した判断を実施すると言うよりはむしろ、主観的意思を標章するであろう、客観的な事実関係に着目した判断が合理的であり、租税特別措置法という一種の租税負担の公平性を犠牲にした制度において租税回避行為につながるような判断過程は妥当ではないと評価すべきでしょう。
主観的意思の考慮を如何にすべきかは、租税法の解釈にとって幅広い分野において問題となりうるものではありますが、本規定のような租税特別措置法の解釈においては一般的に議論の余地があると解するべきでしょう。そもそもの問題としてはいかなる状況にあることが合理的な居住に該当するのか、その居住という用語自身が保有する不明確さが問題であるように考えられます。規定の趣旨から考えて合目的な居住とは如何なるものを指すのか議論すべき課題ではないかと思います。
そのような意味で、本件のように、具体的な居住関係が争われた判断においていかなる具体的な基準としていかなる要素が、考慮されているのかという点は、検討に値するでしょう。本件では、電気水道ガス等の契約の有無に基づき、実際の使用において客観的な事実の標章としての存在による使用の事実関係のアプローチ、さらには家屋の老朽化などの機能面からのアプローチも採用しています。居住という太陽な意義を有する事実関係を背景にしていることからも総合的なアプローチになることは租税法として極めて合理的だと考えられますが、単に使用事実を推定する事実関係のみならず、実際の対象の状況などの機能面の状況も考慮している点は、参考になるのではないでしょうか。他にも、自治会への加入状況、近隣の証言なども考慮対象に含まれています。逆に住民票の存在は、考慮対象としては問題とされていません。
もちろん、このような判断過程を如何にして具体的な居住関係をサポートするかについては、納税者の主張にも左右されることではありますが、上記のような判断要素をその対象としている点は有益な判断要素ではないでしょうか。
加えて、本件では問題となっていませんが、本規定の具体的な要件の一つである、居住の用に供しなくなってから一定の期間までもこの措置の対象となります。その場合、この具体的な居住の用に供している期間が終了した日とは如何に認定されるのでしょうか。この点も上記のように居住自身の多様性から鑑みるに、容易には判断がつかない問題であるように考えられるところです。
以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いです。
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