2020年6月20日土曜日

判例裁決紹介【福岡高判平成30年2月28日、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、福岡高判宮崎支部平成30年2月28日で、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用関係が争われたものです。

具体的には、本件は、ゴルフ場用地を保有する控訴人(原告、法人)が、当該用地に賦課された固定資産税の評価を巡って、固定資産税評価基準、ゴルフ場評価通知による山林比準評価方法による評価を適用された評価結果は、宅地比準評価による評価と一致するものであり、下記、地方税法附則において定められた負担調整措置の対象となるものであって、その適用を怠った処分庁の賦課決定は違法であるとして訴訟に至ったものである。地裁では、原告の主張は認められず、控訴審ではこの負担調整措置の対象となる宅地比準土地として山林比準評価方法によるゴルフ場用地、土地が対象となるものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。

非常にテクニカルな固定資産税評価に関する、それもゴルフ場用地に関する評価方法と地方税法が定める固定資産税の負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が課題となるものであり、おそらくマニアックな事例である。租税専門家であっても固定資産税に興味関心をもっている人は少ないものと言えようが、近年は、各種調整措置が導入されるようになり(中小企業への減免措置の導入など、)従来は、地方税、特に市町村における基幹税であるとして各種措置は導入されてこなかったものであるが、その傾向は変わりつつある。地方税における訴訟もこの固定資産税を中心に増加傾向にある。固定資産税は、収益の有無に関わりなく、その財産的価値に対して一定率を賦課されるものであり、租税負担としては、負担感が強いものであり、事業者等においては、今後もより関心が高まるものであろう。本件は、基礎知識を必要とする事例ではあるが、固定資産税評価基準における評価通知の位置づけを理解する上でも重要な事例(行政実例も含め)、固定資産税評価の基礎的な事例を学ぶ上では参考となる事例ではないだろうか。

ゴルフ場は、広大な用地を有して、山林を切り開くなどその成り立ちなどから、租税法規においてこれまで、会員権の取り扱いをめぐる課題など様々な課題を提示してきたものであるが、固定資産税においてもその特性から独自の評価通知が設けられているなど、特異かつ重要なものである。本件も、その評価通知における山林比準評価方法によって評価を行っている当該用地が、商業地等を適用対象となる負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が、すなわち宅地並みの課税を基礎とする措置を適用対象とすることが可能であるのかという点が争われているものである。


地方税法附則(現行法のもの、第18条)
4 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・六以上〇・七以下のものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等の当該年度分の固定資産税に係る前年度分の固定資産税の課税標準額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、前年度分の固定資産税の課税標準額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等据置固定資産税額」という。)とする。
5 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・七を超えるものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格に十分の七を乗じて得た額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、当該額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等調整固定資産税額」という。)とする。


以上のように、本件の中心的な争点は、負担調整措置の対象としてゴルフ場評価通知にある山林比準評価を用いた土地に対して、その適用を行うべきものであるのかという点が争いになっている。控訴人は主張において
「宅地だけではなく宅地比準土地を含めた商業地等を負担調整措置の対象とした趣旨は,宅地比準土地が近傍宅地との関係で「宅地並みの価格水準」にあるがゆえに,宅地と同様に,税の据置き,引下げ措置を講じて,税の負担水準の均衡化を図ろう」

として理解しており、租税負担の引下げのためのものであるという認識が強く主張されている。しかるに山林比準評価を適用したものであっても、この対象として評価に行政実例によって補正が加えられていることをもって対象となりうると主張していることになる。これに対して裁判所の判断は、均衡化という本来の趣旨を強調し、あくまでも租税負担の引下げも含む公平性の確保を意図したものとして下記のように、理解している。一見すると同じことを表現しているようであるが、その中身は異なるものであり、基本的な立法趣旨を租税負担の公平性確保を意図したものであって緩和的に対象を捉えることを戒め、あくまでも宅地並みのという趣旨をもっているものとして解釈による拡張的な理解を否定している。

負担調整措置の沿革となった平成9年法改正の趣旨が,課税の公平性確保の観点から,いわゆる負担水準の均衡化をより重視することを基本的な考え方として,負担水準の高い土地についてはその税負担を抑制しつつ,負担水準の低い土地についてはなだらかにこれを引上げる新しい税負担の調整措置を講じることにあり,「商業地等」について負担調整措置が講じられた趣旨が,宅地並みの価格水準にある土地を商業地等として負担調整措置の対象とすることにあるとしても,いかなる土地を宅地並みの価格水準にある土地として上記のような負担調整措置の対象とするかは,立法政策上の問題というべきところ,法附則は,宅地以外の土地のうち当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって決定されたものを宅地比準土地として住宅用地以外の宅地とともに18条4項及び5項の負担調整措置の対象としているのである。そして,法附則17条4号の宅地比準土地の定義規定からすれば,当該土地の価格が当該土地とその状況が類似する宅地の評価額を基礎として評価されていない土地をも宅地比準土地に該当すると解するのは,文言上無理があるというほかなく,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないから,控訴人らの主張するように,法附則の定める商業地等に関する負担調整措置の趣旨を根拠に,周辺宅地の評価額に対して当該土地の不動産特性に応じた比準割合,補正割合にて減額された価格水準にある土地を「宅地並みの価格水準」にある土地として,宅地比準土地に該当すると解することはできないというべきである。

租税法規の解釈として、文理によるべきという原則はあるものの、その解釈においては、特に政策的な規定の解釈においては重要となる。本件はそのような趣旨の理解によって対象範囲が変わるという点で特徴的な事案でもあり、減免措置への厳格な解釈、限定解釈とも言う場合もありえようが、一面的には同様の理解しているといえども解釈が異なることは本件においては留意されるべきであろう(期待があって理解が異なることになっているというようにも評価されるのかもしれない、)本件は山林比準評価方法を受け入れている以上、その評価方法の定めの趣旨への理解が及んでいない点によって原告の衡平に欠く主張が発端であるようにも考えられる事例である。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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