2020年6月9日火曜日

判例裁決紹介【平成30年12月18日裁決、横流しによる所得と消費税法上の事業)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年12月18日裁決で、従業員である請求人が勤務先から横流しにより取得した所得が課税対象となるのか否かが争われた事例です。

具体的には、請求人が勤務する職場の倉庫管理業務に携わっていたところ、その業務内容を活用し、商材(廃棄関係のもの)を横流しして所得(2億円以上)を10年以上の長期に渡り得ていたことにつき、当該所得は雑所得に該当し、また、消費税の課税対象であるとして決定処分を受けたことから、当該横流し、不法行為によるものは裁判により弁償が確定しているとしてその取消を求めた事例である。業務上の横領による損害金額、すなわち請求人の所得金額は長期間に渡り継続して得られたものとして2億円を超える大規模なものであり、単に不法行為による所得として(雑所得として)認定するのみならず、消費税法上の課税売上に該当するとして消費税の納税義務を負うのかという点が争点となっているものである(ちなみに損害賠償金は課税仕入には該当しないので、ほぼ所得金額かける税率が消費税の納税すべき義務を負うことになる)。結果として納税者の主張は全面的い否定され、課税対象として、更には消費税法上の課税売上に該当するものとして理解されているが、本件のように不法行為による所得が課税対象になるのかという点は、多様なケースが存在し、数多くの事例が存在するものの(包括的所得概念からほぼ課税対象となることは解釈として確定しているものといえよう、不法行為を結果として国家が認めそこから上前をはねているようで体裁が悪いとも指摘はあるものであるが)、金額が多額であり、消費税法上の課税事業者としての該当性までが、争いとなっている点は珍しい。更に、多くの不法行為による事例は、調査により発覚するなど法人側において損害賠償として、取り扱われるケースが多いが、本件のように、雑所得としての課税や課税売上に該当するなどの顛末まで扱っている事例は珍しく、本件の特徴と考えられよう。

「課税所得は専ら経済的に、又は実質的に把握すべきものであり、その原因となる行為が有効なものか無効なものか等には関係なく、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受して、その担税力を増加させている以上は、担税力に即した公平な税負担の配分という見地から、課税の対象とすべきであると解される課税の原因なった行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく、当該行為が関係当事者の間で有効なものとして取り扱われ、これにより、現実に課税の要件事実が満たされていると認められる場合である限り、当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられないものと解すべきである(最高裁昭和38年10月29日第三小法廷判決・集民68号529頁」

以上のように判断では、だいぶ古いものであるが、最判を引用して、課税所得における実質的な把握を前提とした、そしてたとえ不法行為であろうとも一義的に課税対象外となるものではないものと判断している。確かに、租税の基礎として、租税法律主義を徹底する点からは価値判断への中立を、不法等の評価は、必ずしも行うものではなく、課税要件の立脚すべきであって、本件のように、不法行為であるという点をもって行為の無効であるとして、課税対象外になることは、ならないというべきであろう。錯誤無効(新しい民法では錯誤取消)等の法的な取引が無効もしくは取消しとなるような場合であっても租税負担はどの様になるのかという点は、従来課題となってきているものであるが、本件はその事実関係として、当事者において、裁判による損害賠償が確定しているものであって、経済的な意味では確かに、所得は消えているものの、法的な行為が無効となっているわけではないことが重要である。近年は、訴訟でも裁決でも同様に、法的な行為が、取引がどの様になっているのか、課税要件を充足しているのかという点を起点に判断を下す事例が増加している傾向にあるが、あくまでも不法行為自身が無効とされているものではなく、代わりに損害を賠償していることが留意されるべきである。繰り返すが経済的にはほぼ違いがないものであり、手元に残ろう所得の存在は0であることに代わりはないものと言えるが、起点となる行為が大いに相違している点が強調されるべきである。租税法規の適用においては、課税庁民間問わず、実質的な点を重視して(あるいは経済的な成果の存在をベースとして)捉えるように、理解、トレーニングされているが、租税もまた法律による処分であり、租税法律主義の徹底が強調されるべきものである。上の最判がある意味誤解を招いているような印象でもあるが、スタートとして所得の認定において経済的に実質的に把握すべきものであるが、課税の原因となる行為がいかなるものであるのかという部分が中心的な課題であり(あわせてその所得を享受、管理していることも重大、本件では遊興費に費消している)、もって課税要件の充足が判断の基礎となることが重要な点である。実質的な判断のみが強調されるように、印象を受けるものであるが、ベースとなる行為の課税要件との対比が重要な基礎となっていることもあわせて理解されるべきであろう。かかかる意味で本件は、経済的な実質と行為の原因となる行為の対比がコントラストを形成しており、重要な事例であるように認識される。

また、本件では、消費税法上の課税売上に該当するのかという点も争われた。下記のように、事業所得に関しては、

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利
性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位と
が客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解される(最高
裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁
参照

所得税法の解釈がほぼ確定しており、固有概念として理解される。本件所得は、継続的な行為であることは言うまでもないことであるが、社会的な地位として客観的に認められるべきものではないとして、まあ、不法行為による所得がビジネス、事業として認められることは期待しがたいことは常識的な判断として納得が得られやすいものであろうが、雑所得として認定が行われている。この点は不法行為による所得に対して一般的な対応であろう。

問題は消費税法における事業としてという部分である。下記のように、法は所得税と消費税において事業という文言を用いて課税要件を規定している。上記のように所得税法上の事業としての該当性が否定され(雑所得として課税される)、もって同様に消費税法上の事業として行われる課税売上、資産の譲渡等に該当するのかという点が問題となる。

所得税法(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(給与所得)

消費税法
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

所得税法と消費税法は、同じ租税法規であることからも、租税法の基本的な要請から、事業という文言に輯しては同一の解釈を行うことが予測可能性という点では妥当であるとの主張もあり得よう。但し、本件及び現状の法解釈としては、この事業は、別の概念として理解されている。予測可能性の保護という租税法規の基本的な目的とは異なるものであり、かかる解釈は批判的に捉えられるが、私見としては、現実の制度として帳簿を通じて、所得税法における所得の把握と、消費税の課税売上がリンクしているため、同様のものとして理解することが妥当とも言えるが、近年は消費税法は、所得を対象とするものではなく、取引を課税対象として、捉えることが妥当であることが通説となっている。かかる点から同一のものと理解することは困難であると解することが一定の合理性を有しているものと考えているが、シンプルな租税法律主義からは批判も大きい。


消費税法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは事業として
対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨
定義している。そして、消費税は、一般的に、物品やサービスの消費
支出に担税力を認めて課される租税であり、消費税法は、消費に広く
負担を求めるという観点から、課税対象を、国内で事業者が対価を得
て行った資産の譲渡等(消費税法第4条)としてその範囲を広く定
め、課税の対象から除外される物品や役務等を限定的に列挙している
(同法第6条)。他方、所得税は、一般的に、人が収入等の形で新た
に取得する経済的利得すなわち所得を、直接対象として課されるもの
であり、所得税法は、利得を全て課税対象たる所得とすることを前提
に、その性質や発生の態様によってそれぞれの担税力の相違を加味す
る趣旨で、その源泉ないし性質に応じて所得を分類しており(所得税
法第23条《利子所得》から第35条まで)、その一つとして事業所
得(同法第27条)がある。そうすると、消費税の課税対象が、所得
税法上の課税区分の一つを生じさせるにすぎない「事業」の範囲にお
ける過程の消費に限定されるものということはできず、上記の消費税
の趣旨・目的に照らせば、消費税法上の「事業」の意義内容は、所得
税法上の「事業」概念とは異なり、「反復・継続・独立して行われ

る」ものであると解するのが相当である

判断では、上記のように明確に異なるものとして、反復継続を重要なものとしている点が強調される。趣旨から所得税法とは別意に解するとしても、反復継続を基礎とした形式的な判断を重視することになるのかという点は疑問は残る。但し、消費税の特性から非常に形式的な取引行為に着目するという点は妥当であるのかもしれない。いずれにしても、裁決段階であり、司法判断における検討が必要だろう。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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