2021年12月20日月曜日

判例裁決紹介(令和3年3月4日裁決、推計課税と処分理由の説明)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年3月4日裁決で、未申告・非協力な納税者に対して推計課税を適用した事例です。

具体的には本件は、自動車整備業を営む請求人(推計課税ではおなじみの業界でもありますが)自己の所得税の申告に関して未申告(調査への非協力)であったことから、処分庁が推計課税を実施し、更正処分等を実施したことにつき、過程における推計方法等に関する充分な説明がなかったことと当該推計方法に合理性があるのかという点が中心的な争点になっているものである。

調査手続における説明義務が国税に関する調査手続の改正に伴い制度化されて、しばらくたつが、最近はこのような説明義務を充分に果たしていないとして不服を提起するケースが増加している。いかなるものをもって充分な説明と呼ぶべきであるのかという点は些か明確ではなく、不毛であるという意見もあるが、この点を検討する上でも参考となろう。また、本件は推計課税の適用も行われており、古くて新しい論点であるが一部推計方法の課税庁の用いたものとは異なる形で修正している点も本件では見られ、いかなるものが合理性を有するものであるのか(最近は推計課税そのものに対する不服よりもこのような方法論の合理性を争うことが多い)が検討する上で参考となる事例でもあろう。

「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。もっとも、通則法は、通則法第25条《決定》の規定による決定処分について、「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含むものと解され、他方で、証拠収集手続自体に影響を及ぼさない手続の違法は、上記の原則どおり、課税処分の取消事由となるものではないというべきである。」

本件では、上記のように法令解釈の原則を示した上で、調査手続を一律に捉えるのではなく、証拠収取手続等に分類した上で処分の効力を相違するものとして解釈している。確かに重大な違法性がある場合のみ調査の違法を認定するという我が国の原則は租税の性格上肯定されるべきものであると考えられるが、このような手続の分類が適正であるのか、調査自身が受忍義務を追っており、立証責任や租税の強制性も考慮するという点は未だ議論が煮詰まっていないところであろう。租税手続と刑事手続の類似性は保持されるべきであるが、証拠収集等において限定的に手続の違法性を限定する考えは、租税に関する情報の大きな格差や適正な手続きの要請から肯定されるのか更に検討が必要であろう。

「証拠収集手続に重大な違法があった場合には、課税処分の取消事由になるものと解されるところ、仮に調査結果の内容の説明に不十分な点が認められたとしても、そのことは、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続ではないから、原処分を取り消すべき事由には当たらない。」

また、上記のように、この原則的な手続への分類から、調査終了の際の説明に関して、あくまでにもすでに終了手続であり、不十分な点があっても処分取り消し理由にならないという一律に理解している。この点は確かに充分であるのか否かという点は主観的な要因であり、また相手に依存するものであって、不毛なものであってこれが違法性を帯びているのか否かという点を判断することは困難なものであることは避け得ないが、このように一律に説明を終了のものであって収集に影響がないものとして理解することが、恣意を防ぎ、納税者の便宜を図る本制度の趣旨に合致しているのかという点は疑問である。

また、本件では主たる事業以外に付帯的な事業を行っている先の抽出が課題になっている。裁決では、かんたんに退けられているが、事業が付帯的に行われている企業も多く、この点を抽出、比較対象とする際には、どのように捉えるべきであるのかという点は課題となろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。




 

2021年12月11日土曜日

判例裁決紹介(令和2年3月3日、非営利型法人における資金貸付の収益事業該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年3月3日裁決で、非営利型法人における金銭貸付が収益事業に該当するのか否かという点が争点となった事例です。

具体的には、本件は、非営利型法人(社会貢献を目的とする)である一般社団法人である請求人が行った資金の貸付による利息が益金に算入されるのか否かという点が中心的な争点になっているものである。背景としては当該利子の基礎となる資金貸付が収益事業に該当するのか否かという点が起点となっているものである。非営利型法人の行う事業が収益事業に該当するのかという点が争われた事例は近年珍しく、従前の収益事業の判断との対比が必要であろう。

法人税法第2条
十三 収益事業 販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記法人税法に定めのある収益事業の該当性である。

「法人税法は、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている。そして、法人税法第2条第13号は、収益事業を「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」をいう旨規定し、同号を受けて、法人税法施行令第5条第1項は、一般営利企業と競合にないと認められる事業を収益事業の対象から除くなどして、課税対象とされる収益事業の範囲を個別具体的に規定している。」

判断では、上記のように、基本的に従前(著名なペット葬祭事例等と同様)であり(裁決である以上当然とも言えるが)、同様の事業を行う他の法人との競争上の条件を統一する、整合性を図ること、いわゆるイコールフッティングが基礎となっており、かかる点から判断が行われている。このような点で従前と継続性が確保されているものと言えよう。基本的には、公益法人改革のもとで、公益事業、公益財団法人社団法人の概念が整理され、公益性の判定により収益事業の枠外を措置が、制度化された。これは公益目的事業が対象であり、租税法規の枠外において定められている概念である。明確に上記立法措置が取られており、公益の概念自体が不明確な要素をはらみつつも一定の条件をつけること及び第三者による事業評価、事後検証を行うように手続対応、付与されたバランスが取られた制度である(実効性があるかどうかはまだ事例が少ないが)。本制度改正は、100年ぶりの民法改正も含む大幅な制度改正であり、民法の対応も含め、現実的には大きな混乱も生じつつも対応が整理されつつあるの現状であろう(一時的な公益認定~一般への移行などが行われつつあるのもそれを表していよう)。このような制度変更が租税法規においていかなる影響を及ぼすものであるのかという点が本件の起点となっているものと考えられる。

結論としては、上記のように裁決レベルでは、特段影響がなく、従前と同様の法令解釈が適用されているものと考えられる。収益事業の趣旨は変化せず、いわゆるイコールフッティングが基本となっている(そもそもこの考え方が収益事業一般に及びうるものであるという点は検討が必要であろうが)ことは変わりないことが見て取れる(実務上は)。理屈としてはこのあたりは、本当に公益性の認定などの影響が含まれるものではないのかという点が検討したいところ。私見としては課税要件の判断において、租税法律主義が基本出会って、本件で主張されるような非営利性、公益性は租税法規の枠外の概念であり、準拠すべき法律的根拠を付与されるとは言い難いものと考えられ、原則に反するものではないかと考えているが、分離して考えるべきであろう。そもそも公益性や非営利性とは明瞭性にかけるものであり、論者によってその意義は異なりうるものである。租税法規が養成する明確性を備えているものとして検討することは不安定性を抱え込むことになろう。
 
また、本件とは少々ズレるが収益事業における、継続して事業場を設けてという点も解釈上の課題だろう、近年は、オンライン上での提供も増えており、継続的な事情場という概念自体が時代遅れになりつつあるものとも言えよう。
 

以上です。

毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年12月4日土曜日

判例裁決紹介(函館地判令和元年5月15日、貸付債権の評価)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、函館地判令和元年5月15日で、相続財産における貸付金の評価が課題となっているものです。

本件は具体的には相続人たる原告が相続により取得した貸付金の評価が争点になっているものである。貸付金対象が相続発生後に実際に破綻した対象(精算)であり、最終的には金銭的な価値が喪失するような存在であって、元本金額である8000万で評価されるべきであるのか0評価であるべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。相続税において財産評価は基本的な論点であるが、その中心は株式と土地であることが多い。しかしながら意外と貸付金も紛争事例として上がってくる存在である。おそらく実務でも評価は比較的容易であることもあって、問題になることは少ないかもしれない(この辺は実務家に聞いてみたいところ)。おそらくは同族会社を中心とした対象への貸付金の有無が問題になることはあるだろうが対象企業の状況を反映して当該債権の評価が問題になるのが本件である。

貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)


以上のように、本件の中心的な争点は貸付債権の対象となる協同組合が、相続時点において、上記財産評価基本通達の評価額の引き下げの対象となっているのか否かという点である。実際に相続後数年立って、当該対象は破綻しており、事実的な裏付けがあるという点もあって、相続開始時点での評価額が課題になっていることが本件の起点だろう。基本的にはこの相続時点における状況が、回収不能性を有している、著しく困難であると評価されるかという点を対象とした事実関係の問題であろう。貸付金の評価は、基本的に上記のような状況でない限り、元本での評価が基本であり、この点が205通達の適用できるか否かの問題を大きくしている。

本件では、協同組合である貸付対象が相続時点で、継続的な赤字と、債務超過であり、追加の貸付による金融支援が実行されている状況にあったものであるが、

「個別に債権の回収率を算定して時価評価を行うべきこととすると、その評価が債務者の経営状況等必ずしも客観的一義的な評価方法が確立していない要素に左右され、納税者の恣意を許し、課税庁に過大な負担を強いることを踏まえ、貸付金債権等の評価方法として、原則として額面により評価し、例外として、評価通達205の列挙事由のように客観的に明白な事由が存在する場合に限り、その部分について元本の価額に算入しない取扱いをすることとしているものであって、同項の定めは、相続税法22条を具体的に適用する基準として合理的」

判示はこのように、貸付金の評価に対する通達評価の方法を肯定しており、納税者の恣意の排除などをその趣旨としていることを基本として、例外的な205通達の適用に関しては、列挙自由と同程度の客観的な明白な事由の存在を求めているものとして事実関係を評価している。

最終的には、相続開始時点では、まだ事業を継続しており、財務状況は非常に悪化しているものであるが、この点を元に客観的に破綻が明らかではないということで、205通達の適用が否定されている。事業の継続が重要な判断基準となっていることが読み取れる。最終的に破綻したことを考慮すれば、相続時点でも債務超過や赤字である状況を基礎に、評価の引き下げを求めることはごく当然でもあり、結果としては酷であるという点は、否めず、財産評価における貸付債権の留意が払われるべきことを示唆しているのではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。