さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年3月4日裁決で、未申告・非協力な納税者に対して推計課税を適用した事例です。
具体的には本件は、自動車整備業を営む請求人(推計課税ではおなじみの業界でもありますが)自己の所得税の申告に関して未申告(調査への非協力)であったことから、処分庁が推計課税を実施し、更正処分等を実施したことにつき、過程における推計方法等に関する充分な説明がなかったことと当該推計方法に合理性があるのかという点が中心的な争点になっているものである。
調査手続における説明義務が国税に関する調査手続の改正に伴い制度化されて、しばらくたつが、最近はこのような説明義務を充分に果たしていないとして不服を提起するケースが増加している。いかなるものをもって充分な説明と呼ぶべきであるのかという点は些か明確ではなく、不毛であるという意見もあるが、この点を検討する上でも参考となろう。また、本件は推計課税の適用も行われており、古くて新しい論点であるが一部推計方法の課税庁の用いたものとは異なる形で修正している点も本件では見られ、いかなるものが合理性を有するものであるのか(最近は推計課税そのものに対する不服よりもこのような方法論の合理性を争うことが多い)が検討する上で参考となる事例でもあろう。
「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。もっとも、通則法は、通則法第25条《決定》の規定による決定処分について、「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含むものと解され、他方で、証拠収集手続自体に影響を及ぼさない手続の違法は、上記の原則どおり、課税処分の取消事由となるものではないというべきである。」
本件では、上記のように法令解釈の原則を示した上で、調査手続を一律に捉えるのではなく、証拠収取手続等に分類した上で処分の効力を相違するものとして解釈している。確かに重大な違法性がある場合のみ調査の違法を認定するという我が国の原則は租税の性格上肯定されるべきものであると考えられるが、このような手続の分類が適正であるのか、調査自身が受忍義務を追っており、立証責任や租税の強制性も考慮するという点は未だ議論が煮詰まっていないところであろう。租税手続と刑事手続の類似性は保持されるべきであるが、証拠収集等において限定的に手続の違法性を限定する考えは、租税に関する情報の大きな格差や適正な手続きの要請から肯定されるのか更に検討が必要であろう。
「証拠収集手続に重大な違法があった場合には、課税処分の取消事由になるものと解されるところ、仮に調査結果の内容の説明に不十分な点が認められたとしても、そのことは、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続ではないから、原処分を取り消すべき事由には当たらない。」
また、上記のように、この原則的な手続への分類から、調査終了の際の説明に関して、あくまでにもすでに終了手続であり、不十分な点があっても処分取り消し理由にならないという一律に理解している。この点は確かに充分であるのか否かという点は主観的な要因であり、また相手に依存するものであって、不毛なものであってこれが違法性を帯びているのか否かという点を判断することは困難なものであることは避け得ないが、このように一律に説明を終了のものであって収集に影響がないものとして理解することが、恣意を防ぎ、納税者の便宜を図る本制度の趣旨に合致しているのかという点は疑問である。
また、本件では主たる事業以外に付帯的な事業を行っている先の抽出が課題になっている。裁決では、かんたんに退けられているが、事業が付帯的に行われている企業も多く、この点を抽出、比較対象とする際には、どのように捉えるべきであるのかという点は課題となろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。