さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は横浜地判令和2年6月11日で、相続税の申告における税理士の損害賠償責任を扱った最新の事例です。
具体的には、原告たる相続人が被告税理士に委ねた相続税の申告における業務において、小規模宅地等の特例の適用を検討せずもってその適用を誤った過失責任を追求され、損害賠償責任を追うのかという点が中心的な争点となっている事例である。税理士への報酬が350万円程度で、負担すべき責任としての金額が2300万円を超過しており、報酬を大幅に超過した責任を追うことになるのかという点も含め争点となって、判決においてかかる損失負担の制限を行う当初の委任契約における条項が消費者契約法において反するものであり、かかる制限が向こうとされている点も特徴的な事例である。相続税における財産評価の困難
小規模宅地等の特例の適用は基本的な事例であり、おそらくその適用の可否を検討することは初歩の初歩であろうが)における税理士の責任を検討する上で重要な事例であろう。
本件の中心的な争点は小規模宅地等の特例の適用における、適用要件の充足がなされているのか、すなわち、本件の事実関係において、特に相続時点において事業のように供されているのか、相当な対価の支払いが被相続人の死亡により行われていない段階での契約関係において、実質的に小規模宅地等の特例の要件を充足していたのかという点が第一の争点となっている。
判示ではこの点については、法文の条件において、事業のように供されているのかという点が判断の基準であり、相当な対価を支払われていることを実際に要求するものであるのかという点を消極的に解している。法文の分離に従えば、事業として契約の状況にあるのかという点が課題であることは必須と読み込むことは困難であり、租税法規の実質的な視点が過度に強調された適用は否定されているといえよう。本件では、相続税の負担軽減のため、事前に相当の対価の額が決定され、実行されているような事実関係にあることが税理士の判断を保守的にさせたものであるのかもしれない。認定においては、このような小規模宅地の特例の希望があることが原告においては明らかであり、このような認識を持てば通常租税の専門家としては、被告から適用の段階において厳しいとの判断を行ったのであれば、事前に伝えられることが通常であり、このようなプロセスを行っていないことが、実質的に小規模宅地等の特例の適用の税費を検討していないという過失の存在を肯定することになっている点は、本件の重要な点であろう。注意義務違反という形で税理士の責任が問題となっているものであるが、このような説明のプロセスが実施されていることがその過失責任を判断する重要な判断要因になっていることは認識されるべきであろう。このような注意義務違反の判断においては、やはり税理士への委任契約において、一般的に納税者の負担をできる限り調整することを求められていることが裁判所を及び一般的な認識にあることは前提として理解されるべきであろう。
また本件では、相続税の申告に関する契約において、税理士の責任を報酬相当額に限定する条項の是非が、消費者契約法において適正であるのかという点も課題となっている。税理士の契約が消費者契約法の視点から、消費者に一方的な不利益を課すものであるのかという点も争点となっている。税務に関する委任契約が消費者契約法の視点から争い(個人的には初めて紛争としては見聞きしたもの)になることが非常に珍しいケースであるが、明確に、税務委任契約の性格から、情報量や交渉力において差異があり、かかるような損害を制限する、免除する条項は適正なものではないという判断を行っていることも注目されよう。
裏を返せば、相続税の申告に関する損害の負担を如何に考えるのか(報酬が結果として高騰せざるを得ない、或いは保険の重要性がクローズアップされることになるだろうが)、専門家責任の重さをより認識するべき事例であろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。