2021年9月13日月曜日

判例裁決紹介(横浜地判令和2年6月11日、相続税の申告における税理士の損害賠償責任、賠償金額の限定の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は横浜地判令和2年6月11日で、相続税の申告における税理士の損害賠償責任を扱った最新の事例です。

具体的には、原告たる相続人が被告税理士に委ねた相続税の申告における業務において、小規模宅地等の特例の適用を検討せずもってその適用を誤った過失責任を追求され、損害賠償責任を追うのかという点が中心的な争点となっている事例である。税理士への報酬が350万円程度で、負担すべき責任としての金額が2300万円を超過しており、報酬を大幅に超過した責任を追うことになるのかという点も含め争点となって、判決においてかかる損失負担の制限を行う当初の委任契約における条項が消費者契約法において反するものであり、かかる制限が向こうとされている点も特徴的な事例である。相続税における財産評価の困難
 小規模宅地等の特例の適用は基本的な事例であり、おそらくその適用の可否を検討することは初歩の初歩であろうが)における税理士の責任を検討する上で重要な事例であろう。

本件の中心的な争点は小規模宅地等の特例の適用における、適用要件の充足がなされているのか、すなわち、本件の事実関係において、特に相続時点において事業のように供されているのか、相当な対価の支払いが被相続人の死亡により行われていない段階での契約関係において、実質的に小規模宅地等の特例の要件を充足していたのかという点が第一の争点となっている。

判示ではこの点については、法文の条件において、事業のように供されているのかという点が判断の基準であり、相当な対価を支払われていることを実際に要求するものであるのかという点を消極的に解している。法文の分離に従えば、事業として契約の状況にあるのかという点が課題であることは必須と読み込むことは困難であり、租税法規の実質的な視点が過度に強調された適用は否定されているといえよう。本件では、相続税の負担軽減のため、事前に相当の対価の額が決定され、実行されているような事実関係にあることが税理士の判断を保守的にさせたものであるのかもしれない。認定においては、このような小規模宅地の特例の希望があることが原告においては明らかであり、このような認識を持てば通常租税の専門家としては、被告から適用の段階において厳しいとの判断を行ったのであれば、事前に伝えられることが通常であり、このようなプロセスを行っていないことが、実質的に小規模宅地等の特例の適用の税費を検討していないという過失の存在を肯定することになっている点は、本件の重要な点であろう。注意義務違反という形で税理士の責任が問題となっているものであるが、このような説明のプロセスが実施されていることがその過失責任を判断する重要な判断要因になっていることは認識されるべきであろう。このような注意義務違反の判断においては、やはり税理士への委任契約において、一般的に納税者の負担をできる限り調整することを求められていることが裁判所を及び一般的な認識にあることは前提として理解されるべきであろう。

また本件では、相続税の申告に関する契約において、税理士の責任を報酬相当額に限定する条項の是非が、消費者契約法において適正であるのかという点も課題となっている。税理士の契約が消費者契約法の視点から、消費者に一方的な不利益を課すものであるのかという点も争点となっている。税務に関する委任契約が消費者契約法の視点から争い(個人的には初めて紛争としては見聞きしたもの)になることが非常に珍しいケースであるが、明確に、税務委任契約の性格から、情報量や交渉力において差異があり、かかるような損害を制限する、免除する条項は適正なものではないという判断を行っていることも注目されよう。

裏を返せば、相続税の申告に関する損害の負担を如何に考えるのか(報酬が結果として高騰せざるを得ない、或いは保険の重要性がクローズアップされることになるだろうが)、専門家責任の重さをより認識するべき事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年9月4日土曜日

判例裁決紹介(令和3年4月13日裁決、勝馬投票券による所得の所得区分)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年4月13日裁決で、勝馬投票券による所得が課税対象としていかなる所得に該当するのかという点が争われた事例です。

具体的には、請求人がソフトウェア等を利用せず、年間で10億を超えるような金額を動かし、競馬による所得を得ていた(数年間では、マイナスの年も)ものでかかる所得が事業所得)に該当するとした主張に対して、一時所得に該当するとした課税処分の適否を争った事例である。

本件は近年大量の判例事例が積み上がっている競馬関係の所得区分の適否を争う事例であり(本件を始め思うところであるが、世の中には、投機行為に10億円を超える金額を投じている人が実は多く、存在しているんだな~という素朴な驚きで、ほとんどのケースは例外的な特殊な取引という認識であったのですが、どうも異なるのかもしれません)、一連の事例と同一の類型に該当するものである。なお、本件は、明確に事業所得に該当するという点が主張として争われたものであり、一時所得・雑所得という対立概念だけではなく、近年少しずつ登場してきた、類型でもあろう。金額的には一般の事業と比して遜色ないものであるが、このような所得がいかなる所得として社会通念も含め該当するのかという点を検討する素材となるだろう。事業所得という概念の検討においても資するものであるように捉えられる。

特に対価という概念がキーとなっている(一時所得の定義によるものであろうが)ものであり、事業所得や所得税における重要な概念として今後の検討素材となるだろう。

本件では、下記のように請求人の主張として

「競馬所得は、請求人の着順予想とい
う知的労働に基づく馬券購入という役務行
為に密接・関連して給付がなされたことに
より発生するものであり、また、馬券の発
売総額の15%相当額から賞金、JRAの
運営費、人件費等を差し引いた額の半分が
JRAの所得となることから、払戻金は、
着順予想の的中者に対するJRAの運営に
協力したことの見返りであるため、対価と
しての性質を有する。」

知的労働による所得であるとしてその対価が本件の対象所得であるという主張がなされている。このやり取りが本件でも特徴的であり、興味深いところであろう。

一般的に競馬の購入が知的労働なのか(ノウハウなどと同様に)というような議論もあり得ようが、投資や数多くの人的役務の提供においては、このような知的労働という存在が今後も登場しうるものであるのかもしれない。少し事例を離れるがそもそも対価という概念が物品販売(市場による)・一対一の関係を基礎とした印象が強いものであるが、近年、役務提供が主流となりつつあるような中(提供方法も多様化し)で、契約関係の対価がベースに構築された判断基準が対価の概念として妥当であるのかという問題意識は発生しよう。クラウンドファンディングがその典型であろうが。

このように対価という概念に営利性を含むものであるのか、それとも単なる契約関係の中での行為の対価という概念にとどまるものであるのか、本件をはじめとした、投機的行為のようなり~ターンが必ずしも明確に確定しているものではない、あるいは近年はNPOを始め、共感を基礎とした事業のベースが構築されているような事例も登場してきており、対価という概念は見直しが必要な時期に来ているように思われる。

以上です。
毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

判例裁決紹介(東京高判令和2年9月10日、税理士による簡易課税制度の選択届の有効性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年9月10日で、20年以上前に提出された税理士による消費税の簡易課税制度の選択届が有効であるのか否かが争点となった事例です。

具体的には、本件は控訴人たる弁理士が、なした本則課税における消費税の確定申告を、課税庁が簡易課税選択届が出ているとしてその適用を認めなかったことを不服として、提起された事例である。控訴人の主張は、当該届が提出されて以降、20年以上も本則課税による申告を受け入れており、かかる提出(当時の税理士による)が有効なものであるのか否か(無権代理によるものであるのか)という点が基本的な課題となっているものである。届け出を行った税理士が死亡しているような長期間経過している事例であり、係る書類の提出の有効性、経緯が具体的な争点となっているものの、その追求、立証においては課題があるように捉えられる。

本件でも控訴人は地裁とともに無権代理であることを主張しているが間接事実であり、税理士における通常の契約の包括的な税務委任が明確に評価されている点は本件の特徴でもある。かかる点から納税者の主張は認められていないが、本件のように20年以上も届け出とは異なる申告を許容していたとしても一旦有効に成立した納税関係に関する届け出は覆すのは困難であることはまずもって租税実務家においても認識されるべきであろう。

本件でも過去に提出された届け出の有効性が無権代理であるのか否かという点から争われているが、税務という性格上、特に以前は個別の税目等で委任契約を結ぶような慣習はなく(おそらく現在も相続税を除けば、包括的な契約が主体であろう、本件も口頭であり明確な契約書を交わしているわけではない)、無権であることを主張立証することは納税者にとってもハードルが高いものとなっている。専門家への委任であることからどうしても包括的な契約であることが想定されることが多い現状を反映しているものと言えよう。

私見としては、このような20年もの長期に渡って届け出とは異なる申告を受けて入れていた課税庁にも責はあるものと思われるところであるが、課税関係の安定を重んじる現行法の解釈としては信義則による救済の可能性は否定されるものであろうし(公の見解の表示はなく)、このような課題は立法の問題となろう。消費税は今後重要性をまし、個人の自営が増加する中では、本件のように一旦有効に成立した届け出の効力は、覆すのは容易ではなく、課税状況の判定も含め、慎重な判断が求められるべきことは再認識させられる事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。