2021年4月19日月曜日

判例裁決紹介(令和元年5月30日裁決、定期同額給与の該当性、日当の最低支給額)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、病院の理事長に支給された宿直等の日当に関する規定の最低支給額をめぐる、定期同額給与に該当するのかいなかが争われた事例です。

具体的には本件は医療法人の理事長に対して支給された報酬において、宿直等の実務を行った際に支給される歩合の手当において設定されていた最低支給額を毎月支給していたことに対して、毎期一定額において支給されたものであるが、かかる支給は形式的には毎期同額の支給がなされているものの、支給規定は宿直等の特定の業務を行った際に、個別に付与されるものであり、毎期最低額が恒常的な状態で発生しているものとしても、これは定期同額給与には該当しないとした、更正処分を不服として提起された事例であり、この役員給与損金不算入制度の趣旨目的から主張がなされているものである。法人税法における役員給与の損金不算入は、不相当に高額であるのか否かという点を中心に多様な類型の事例が存在しているが、本件は、平成18年の改正において、改正された後の定期同額給与の該当性をめぐる事例であり、いささか特殊な給与の支給形態に起点を置くものであるが、本件のような手当が含有された報酬が支給されていることも多いものと考えられ、支給金額の一定であることのような形式的な状況に委ねるものではなく、定期同額給与の意義内容を考える上で実務上も参考となる事例であろう。定期同額給与の該当性をめぐる事案自体が珍しいものであるが、このような役員給与の損金不算入の規定は、法人税法特徴ともなるものであり、制度背景を考える上でも参考となろう。

(役員給与の損金不算入)
第三十四条 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)

以上のように本件は、支給実態としては毎期、規定の最低額を恒常的に支給していたものであるが、その支給要因が、歩合的な手当であることに着目して、その定期同額給与としての該当性を否定しているものである。歩合などの業績連動的な性格の強い報酬はそれを否定するものであるという本件の解釈がその背景にあるものと言えよう。上記のように、法は支給額が同額であることを起点としている法文になっており、実際の支給額が同額であることのみを要件としている、意図しているようにも読めるものであるが、支給要因、手当の規定の依拠した判断に基づく判断を行っている点が特徴的である。

請求人の主張としては平成18年改正前の状況を引用して、本件規定の趣旨が利益調整などの恣意的な課税を排除する趣旨にあるものであり、かかるような意図のない多少の変動等は許容されていたことをもとに、本件のような事実関係に基づく恒常的な状態で支給されていた手当等も定期同額給与に該当するものであるとした主張をしたものであるが、かかるような趣旨解釈は否定されている。私見としては本件は、このような趣旨解釈の適用の可能性を主張するのではなく、あくまでも法文の同額支給という文言に着目した論理展開であるほうが正当性があったように思料される(報酬規定に基づくものであり恣意性の介在する余地はないことも補足されるが)が、実務上は実際にこのような支給要因に着目した判断が行われているのかという点は更に検討したいところである。

法人税法における役員給与規制は法人税法の重要な特徴として、積み重ねられてきたものであるが、近年の業務の多様化などを背景に定期同額などの規定は(特に業績連動を中心に)、制度疲労を起こしているとの主張もあり得ようが(租税法規としては中立性に反しているとの主張はたしからしい)、これは立法に属する問題であり、今後の課題ではないだろうか。本件のような事例からも柔軟性にかける制度であり、職務執行の対価としての報酬の支払いまで制度趣旨を超えて否定しているような現況は問題であるように考えられよう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2021年4月14日水曜日

判例裁決紹介(福岡高判令和元年11月6日、架空仕入と立証責任)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和元年11月6日で、浜買いのような市場外での現金仕入を装った架空仕入とその立証の責任が争われた事例です。

具体的には水産物の加工会社である控訴人(原告、法人)が本社や営業所支店の所在各地で浜買いのような市場外での現金仕入を行ったとした確定申告につき、かかる仕入(4300回に及ぶと記録)が架空であるとして売上原価としての損金計上を否認されたことと不服として提起された事例である。水産物の市場外取引(浜買い)による慣例的な存在が明確に領収書も交付されないままで行われている現況を反映した(このような取引に対する適格請求書の存在がどの程度影響することになるのかという点は私見としては気になるところ、おそらく消滅することはないだろうが)、あるいはこれを利用したような取引が、帳簿上において記載されたことが契機となっている事例である。慣習的な取引の存在は実務家の皆さんのほうが了知であろうが、このような取引の存在が、繰り返される現況においては、本件のような帳簿の信憑性が問われる事になりかねない事例であることは留意されるべきであることを教えてくれる事例である。本件では法人税法の損金計上の是非飲みが問題とされており、消費税法上の保存等が争われたものではないが(おそらく、帳簿記載の信憑性や保存の問題で当該費用の肯定は困難であったであろうが)実務上、消費税の保存と損金計上は帳簿を通じて結びついており、本件で問題となった立証責任のアプローチが消費税においても適用されるものであるのかという点は興味深い。また、本件では取引の信憑性に関する主張が詳細に事実認定されており、実務に携わるものとしてトレーニング事例としても重要であろう。

本件では法人において架空のアルバイトによる人件費の計上を行う(この点は争いになっていない)、現金仕入と廃棄が併存しているなど不自然な取引が行われており、取引の信憑性、法人の帳簿記録に関する信憑性評価は極めて厳しいものとならざるを得ないが、本件控訴審では、大量の架空取引とされた更正処分の前提の現金仕入(4300回を超過する)、個々に関する取引の架空であることの立証が課税庁において不十分であるとして(概ね18%の取引に対する立証にとどまっており、この部分は課税庁の主張が認められているが)、更正処分の一部取り消しを行っているものである。18%の立証で全体を否定する課税庁の手法が否定された(確かに飛躍的ではある)ものである。

「そもそも、本件現金仕入れは、売上原価に関するものであるから、その
存否に係る主張立証責任は、被控訴人が負うものと解すべきで
ある。被控
訴人は、本件現金仕入れが全て架空であることを具体的に主張立証しなけ
ればならない。
しかし、被控訴人が本件現金仕入れに係る取引の不自然性、不合理性を
具体的に主張立証するのは、本件現金仕入れのうち約18.99%の取引
にとどまり、その余の約81.01%については、具体的な主張立証をし
ていない(原審における控訴人らの原告第1準備書面及び被控訴人の第3
準備書面等参照)。そうすると、この約81.01%の取引については、
いわゆる事実上の推定が適用される前提を欠くものといえる。
被控訴人は、本件物品出納帳の記載の全体としての信用性について、こ
れが低いものである旨縷々主張する。しかし、この主張は、控訴人らがし
た反証の証明力が低いということをいうにとどまるものであって、被控訴
人側の具体的な主張立証に替わるものではない。そして、本件現金仕入れ
のうちその不自然性、不合理性について具体的な指摘をしない約81.
01%の取引については、その取引のために支払われた控訴人らからの出
金やその取引に基づく売上げについても具体的に争っていない。」

本件では、上記のように売上原価に関するものであり、被控訴人が立証責任を負うものとしている。この点がまずは基礎となっている。如何なる程度の取引を立証すれば全体を裏付けるもの、推定を果たすものであるのかという点は裁判官に委ねられるべきものであるが、本件では、このような部分的な立証は必ずしも取引をベースとした損金計上の局面では妥当ではないものとされているものであろう。基礎となった立証責任が課税庁にある理由付けを本件では明確にしていないが、従前、質問検査などを背景に租税訴訟における立証責任は原則として課税庁にあるとした考えが基礎にあるものと言えよう。近年では、特に費用面において納税者にその立証責任を転換するケースが増加しているもの(私見としては帳簿記帳の促進、理由附記等の整備によって、一律に立証責任は課税庁にあるべきであるとした考え方は修正されるべきもので司法による適正な分配がなされるべきであると考えているが)であるが、かかる中で、明確に立証責任を高裁が課税庁に認めた本件の意義は今後の参考となるべきものであろう。

また、上記のように本件では法人税法の損金計上の是非が争われているが、一部の立証による帳簿全体の否定を、本件判示は否定的に捉えているようである。このような判断の枠組みが他の租税法規において肯定されるとした場合、特に消費税法においては如何に影響を及ぼすものであろうか。本件では必ずしも個々の取引の取引の是非存否を立証することを求めているものではないものと捉えられるが、膨大な取引を記録する帳簿において、租税法の適用を図る上では、個々の取引を立証することは現実的な措置なのであろうかという疑問が発生する。本件の判断が広く適用されるものであるとするならば帳簿の記録を否定することは(個々の取引を否定することの積み重ねとはいえ)負荷が高く、適正な課税の確保とのバランスにおいて均衡が課題となるのではないだろうか。特に消費税法においては、課税物件を個々の課税資産の譲渡等を対象としているものであり、適格請求書等の導入により、その保存が重要な判断の要素となってくる。立証の観点からも今後は適正な適格請求書の「保存」がますます重要性を帯びてくるものと考えられる。

以上です。毎度の如く備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2021年4月7日水曜日

判例裁決紹介(令和元年6月27日裁決、山林の貸付所得の人格なき社団への帰属)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月27日裁決で、山林の貸付による所得が山林所有者か、人格なき社団として森林管理組合にあるのかが争われた事例です。

山林に関する所得は、所得税法における所得の一つであるが、おそらく殆ど実務においてみる機会はないのが現状であろうが、本件は山林の貸付による所得がいかなる者に帰属するものであるのかという部分が課題となっているものである。山林所得の特殊性においても議論されるように、山林に関する所得は比較的長期間の時間軸をベースに構築される。このような中で関係者、特に本件のような地縁や周辺との関係によって構築された団体において、いかなる者に対して所得が帰属することになるのかという点で本件は興味深い事例であろう。おそらく時代の変化により、求められる管理なども変化しているのであり、当事者の関係、収益環境なども変化する中で、どのように所得の帰属を判断するべきであるのかという点は、法人税、所得税のように一種のフィクションとして年度を区切って納税を把握する環境とは相性が悪いものではないだろうか。本件は基本的な人格なき社団であることは特段議論が行われるものではなく、所有主と管理組合のいづれかにおいて所得が帰属するのかという部分が争いになっているものであるが、単年度ベースで所得の帰属関係が判断されているようにもみえ、より中心的にはこのような単年度ベースでの課税の構築が実態を反映できるものであるのかということが問われる点に特徴があるように捉えています(所得が実質的な帰属者を課税対象とすることから生じるものでもあるでしょうか。)。


第四章 所得の帰属に関する通則
(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように本件の中心的な争点は、人格なき社団としての森林管理組合と山林の所有者のいずれかが山林の貸付による所得を享受しているものであるのかという点である。基本的には事実認定の問題であるが、所得税法人税ともに実質的な所得の帰属者を課税対象としていることから、その判断において見解の相違が発生しているものである。人格なき社団が関与する場合は、このような所得の帰属をいかに判断されるべきであるのかという帰属をめぐる点も課題となることが多いが、本件はその典型的なケースであるように考えられる。

判断は、課税庁の主張を肯定し、人格なき社団において所得が帰属するという判断を導いているが、その判断の基礎は、事実関係において、資金や収益の管理状況をその基礎としておいている。法的な根拠を示さず、実質的な所得の帰属者を判断されているが、基本的には、上記の法人税法11条の実質所得者課税の原則をそのベースにおいているものであろう。判断や各主張にも表現されていないが。収益を享受するという側面をベースに法規程が整備されているが、本件判断も資金の管理をもとに帰属を判断しており、実質的な所得の帰属者においてはこの資金管理状況が一つのキーとなっていることは、他の帰属関係を争う事例と同様に、法的な権利者から実質的な所得者の認定(帰属)の判断において重要な点であろう。ただこの点において、山林を取り巻く環境や特性は殆ど考慮されていないことは指摘される。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。