さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、病院の理事長に支給された宿直等の日当に関する規定の最低支給額をめぐる、定期同額給与に該当するのかいなかが争われた事例です。
具体的には本件は医療法人の理事長に対して支給された報酬において、宿直等の実務を行った際に支給される歩合の手当において設定されていた最低支給額を毎月支給していたことに対して、毎期一定額において支給されたものであるが、かかる支給は形式的には毎期同額の支給がなされているものの、支給規定は宿直等の特定の業務を行った際に、個別に付与されるものであり、毎期最低額が恒常的な状態で発生しているものとしても、これは定期同額給与には該当しないとした、更正処分を不服として提起された事例であり、この役員給与損金不算入制度の趣旨目的から主張がなされているものである。法人税法における役員給与の損金不算入は、不相当に高額であるのか否かという点を中心に多様な類型の事例が存在しているが、本件は、平成18年の改正において、改正された後の定期同額給与の該当性をめぐる事例であり、いささか特殊な給与の支給形態に起点を置くものであるが、本件のような手当が含有された報酬が支給されていることも多いものと考えられ、支給金額の一定であることのような形式的な状況に委ねるものではなく、定期同額給与の意義内容を考える上で実務上も参考となる事例であろう。定期同額給与の該当性をめぐる事案自体が珍しいものであるが、このような役員給与の損金不算入の規定は、法人税法特徴ともなるものであり、制度背景を考える上でも参考となろう。
(役員給与の損金不算入)
第三十四条 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
以上のように本件は、支給実態としては毎期、規定の最低額を恒常的に支給していたものであるが、その支給要因が、歩合的な手当であることに着目して、その定期同額給与としての該当性を否定しているものである。歩合などの業績連動的な性格の強い報酬はそれを否定するものであるという本件の解釈がその背景にあるものと言えよう。上記のように、法は支給額が同額であることを起点としている法文になっており、実際の支給額が同額であることのみを要件としている、意図しているようにも読めるものであるが、支給要因、手当の規定の依拠した判断に基づく判断を行っている点が特徴的である。
請求人の主張としては平成18年改正前の状況を引用して、本件規定の趣旨が利益調整などの恣意的な課税を排除する趣旨にあるものであり、かかるような意図のない多少の変動等は許容されていたことをもとに、本件のような事実関係に基づく恒常的な状態で支給されていた手当等も定期同額給与に該当するものであるとした主張をしたものであるが、かかるような趣旨解釈は否定されている。私見としては本件は、このような趣旨解釈の適用の可能性を主張するのではなく、あくまでも法文の同額支給という文言に着目した論理展開であるほうが正当性があったように思料される(報酬規定に基づくものであり恣意性の介在する余地はないことも補足されるが)が、実務上は実際にこのような支給要因に着目した判断が行われているのかという点は更に検討したいところである。
法人税法における役員給与規制は法人税法の重要な特徴として、積み重ねられてきたものであるが、近年の業務の多様化などを背景に定期同額などの規定は(特に業績連動を中心に)、制度疲労を起こしているとの主張もあり得ようが(租税法規としては中立性に反しているとの主張はたしからしい)、これは立法に属する問題であり、今後の課題ではないだろうか。本件のような事例からも柔軟性にかける制度であり、職務執行の対価としての報酬の支払いまで制度趣旨を超えて否定しているような現況は問題であるように考えられよう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。