さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年6月7日裁決で、法人税法の利益連動給与としての適格性が争われたものです。
具体的には本件は、法人たる請求人がその業務執行役員に対して支給した利益連動給与を損金として確定申告を行ったところ、かかる利益連動給与の算定方法が、具体的に開示されていない考課係数に基づくものであり、客観性にかけるものであるとして、損金算入を否定した事例である。現在は、業績連動給与に改正されているものであるが、近年の役員給与の支給形態が多様化しつつあることから認められたものであり、実際に紛争として扱われることは極めて珍しいものである。実質的には大手企業を対象とするものであり、租税の専門家でも関わったことは少ないものであろう。立法論として、中小企業への適用の拡大も議論されているところではあるが、本件の争点となる客観性がその中心的な課題となっている点は、認識されるべきであろう。本件は旧法における利益連動給与の事例であるが、支給における具体的な算定方法に関する客観性が中心的な争点となっているものであり、先例として有益であろう。そもそも租税法規では、客観性が重要視されているが、明文をもって客観的であることを要請している制度は少なく、この判断枠組みは注目されてよいのではないだろうか。
三 内国法人(同族会社にあつては、同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る。)がその業務執行役員(業務を執行する役員として政令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)に対して支給する業績連動給与(金銭以外の資産が交付されるものにあつては、適格株式又は適格新株予約権が交付されるものに限る。)で、次に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに対して次に掲げる要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る。)
イ 交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数又は交付される新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数の算定方法が、その給与に係る職務を執行する期間の開始の日(イにおいて「職務執行期間開始日」という。)以後に終了する事業年度の利益の状況を示す指標(利益の額、利益の額に有価証券報告書(金融商品取引法第二十四条第一項(有価証券報告書の提出)に規定する有価証券報告書をいう。イにおいて同じ。)に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他の利益に関する指標として政令で定めるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る。イにおいて同じ。)、職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間若しくは職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標(当該内国法人又は当該内国法人との間に完全支配関係がある法人の株式の市場価格又はその平均値その他の株式の市場価格に関する指標として政令で定めるものに限る。イにおいて同じ。)又は職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の売上高の状況を示す指標(売上高、売上高に有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他の売上高に関する指標として政令で定めるもののうち、利益の状況を示す指標又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る。)を基礎とした客観的なもの(次に掲げる要件を満たすものに限る。)であること。
以上のように、本件は、社長が決定する考課係数が連動給与の算定方法として、法の求める客観性を備えているものであるのか、この解釈が問題となっているものである。裁決では、以下のように、法人税法における役員給与の損金算入規制を出発点として、その具体的趣旨から、所得操作、利益調整を排して、恣意性を排除することを求めているものであるとして、理解している。事前の開示と操作性のない、自動的な算定が中心的な概念になっていることが注目されよう。二段階の判断で、客観性を担保しており、単に恣意性を排除することで適正性を確保するのみならず、開示等による透明性の確保も客観性の解釈に求めていることは重要な点であろう。恣意を排除するのみであれば、主張のように限度額があるなどのような点でも一定の客観性が担保されているとの評価が行われても不思議ではないが、多様な役員給与の支給への対応として、多様な支給において(この辺は、他の支給方法も含まれることであろう)、中立性を確保することが必要であるという法的な趣旨が含まれていることが本件のように中立性を確保するため、透明性など相対的に厳格な判断の枠組みにつながっているものとして理解される。現行法においてもこの趣旨目的から厳格な客観性の判定が養成されるものであるのかという点は今後の検討課題であろう。
「法人税法においては、従来から、役員給与の支給の恣意性を排除することが
適正な課税を実現する観点から不可欠と考えられており、具体的には、法人段
階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされ
る範囲内に制限することとされてきたところである。特に利益連動給与につい
ては、法人の利益に連動して役員給与の支給額を事後的に定めることを許容す
ることは安易な課税所得の操作の余地を与えることになりかねず、課税上の弊
害が極めて大きいことから、損金算入が認められる余地はないと考えられてい
た。しかし、このような形態の役員給与であっても、職務執行の対価性に欠け
るものではなく、支給時期・支給額に対する恣意性を排除した上で損金算入の
余地を与えることとすれば、多様な役員給与の支給形態により中立的な税制を
実現し得ることとなることから、平成18年度税制改正により、支給の透明
性・適正性を確保するための一定の要件を課した上で、このような形態の役員
給与についても損金算入を可能とすることとされたものである。
このような平成18年度税制改正の経緯及び制度の趣旨に鑑みれば、法人税
法第34条第1項第3号イの「算定方法が‥客観的なもの」という要件を満た
すというためには、その算定方法が、個々の業務執行役員の給与の支給時期・
支給額の決定に恣意が働かないような算定方法、すなわち、当該算定方法に利
益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われ
るべき利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法であることを要し、事
前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法などは上記
要件を満たさないものと解するのが相当である。」
適正な課税を実現する観点から不可欠と考えられており、具体的には、法人段
階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされ
る範囲内に制限することとされてきたところである。特に利益連動給与につい
ては、法人の利益に連動して役員給与の支給額を事後的に定めることを許容す
ることは安易な課税所得の操作の余地を与えることになりかねず、課税上の弊
害が極めて大きいことから、損金算入が認められる余地はないと考えられてい
た。しかし、このような形態の役員給与であっても、職務執行の対価性に欠け
るものではなく、支給時期・支給額に対する恣意性を排除した上で損金算入の
余地を与えることとすれば、多様な役員給与の支給形態により中立的な税制を
実現し得ることとなることから、平成18年度税制改正により、支給の透明
性・適正性を確保するための一定の要件を課した上で、このような形態の役員
給与についても損金算入を可能とすることとされたものである。
このような平成18年度税制改正の経緯及び制度の趣旨に鑑みれば、法人税
法第34条第1項第3号イの「算定方法が‥客観的なもの」という要件を満た
すというためには、その算定方法が、個々の業務執行役員の給与の支給時期・
支給額の決定に恣意が働かないような算定方法、すなわち、当該算定方法に利
益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われ
るべき利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法であることを要し、事
前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法などは上記
要件を満たさないものと解するのが相当である。」
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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