2021年1月7日木曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年11月1日、簡易課税制度選択届の有効性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和元年11月1日で、過去の税理士による簡易課税制度選択届出の有効性が争われた事例です。

具体的には、本件は、弁理士たる原告が自己の消費税関係の申告において(当然所得税も)平成26年の申告として本則課税による申告を行ったところ、すでに15年以上まえに当時依頼していた税理士により簡易課税制度の適用選択の届出が出されているとしてその申告を否定し、簡易課税の適用による消費税の申告によるものとして更正処分を行ったことを不服として、かかる届出は税理士によるもので、委任されたものではなく(無権代理)、また、15年以上本則課税によるものを放置していたことを信義則の成立を主張して当該処分の取消を求めたものである。

基本的には、当該旧税理士による届出が有効であるのか否かという、事実認定の問題でもあるが、税理士の代理業務は、他の代理とは異なり、国税庁という存在のみを対象とするものであり、また、税務に関する専門的な業務を委任するものであるから、その具体的な範囲をどの程度であるのか確定させることは、本件のように具体的な認定が必要とされることは認識されるべきであろう。特に旧来このような委任に関しては、口頭での契約の成立が中心であり(現状でも特に変化はないのであろうが)、所得税のみなどのような本件で原告が主張するような個別の契約の成立する余地はかなり少ないものであろう。上記委任契約の性格上、包括的な契約の成立が基軸となることは改めて認識されるべきものとなる。カウンターとして税理士側も同様に包括的な委任が成立していることとなるだろう。この点で本件の事実認定の経緯は実務家にとっても重要なものであるものと捉えられる。また税務代理権限証書の提出が近年は求められるものとなっているが、本件でも提出がなかったように、当該証書の法的な位置づけは必ずしも強固なものではなく、一定の代理としての存在を示すものにとどまり、本件でも重要視されていないが、申告や届出の法的な効果に対しては、重要な位置づけが与えられていないとの基本的な考えは、通常の実務の認識とは異なるものであろう。ただし、近年は、オンラインでの申告が主流となりつつあるし、いくら代理の効果が本人に帰属するといえど、確認や申告業務や手続きの流れが変化していることは否めない。かかる点から立法論として、証書等の位置づけを見直す可能性もあり得ようが、現在はまだ未整備な状況にあり、今後の課題だろう。

また、本件は、旧税理士による手続、申告の後、別の現行の税理士となってから、15年以上、本則課税による申告を受付、受容してきた(合わせて本則課税の書類の税務署からの送付)ことが、法の一般原則である信義則の適用があるのか、そして簡易課税届出の否定につながりうるものであるのかという点も争点となっている。一般の法務関係者の認識であれば、15年もの長期に渡って、申告を受容していたことは、安定した法的な関係が間接的に成立しているものであり、信頼を保護すべきものとして捉えることは違和感はない。しかしながら、租税法規の適用においては、下記のように最判を本件も引用しているが、容易に信義則の成立が評価されるものではない。租税負担の公平性を鑑みて、限定的な成立の余地が示されているものである。特に公的な見解の表示が求められており、この部分が厳格なハードルとなって、本件でもその成立を否定している。積極的な情報、見解の提示が必要とされるものであり、申告納税を基軸とする以上、本人の申告はあくまでも租税法律関係の起点であって、これを受容した段階が継続したことをもって、法的な効果を間接的に期待されるものとして考えることは現行法の解釈としては成立し得ないとの判断が行われている。租税法規が負担の公平性を確保することを重要な原則とする以上、現行法の解釈としてはこのような結果となることは支持されよう。税務署からの書類の送付は単なるサービスであり、ここに法的な位置づけを与えていないことも従来と整合的な判断である。書類の送付は一般的な位置づけとしては継続的な受容と相まって納税者の立場からは現状の申告が是認されたものと評価することは税務の専門家ではない以上、やむを得ないものであるが、かかる認識の相違は立法の範囲に属するものであり、実務家は少なくとも認識しておくべきだろう(オンラインが主流の時代においては、案内やメールでの連絡がどのように位置づけられるべき出るのかという点は今後の課題であるが、現行法としては信義則の成立のハードルは高いものと考えられる)。

「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義
則の法理の適用により、上記の課税処分を違法なものとして取り消すことがで
きる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原
則が貫かれるべき租税法律関係においては、上記の法理の適用については慎重
でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請
を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護
しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に限られ、少
なくとも、税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこ
とにより、納税者がその表示を信頼してその信頼に基づいて行動したところ、
後に、当該表示に反する課税処分が行われて納税者が経済的不利益を受けるこ
とになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁がした表示を信頼し
てその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事情がな
いかどうかという点の考慮を要するというべきである(最高裁昭和62年判
決)」

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。本年もよろしくお願いします。

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