2021年1月23日土曜日

判例裁決紹介(大阪地判平成30年12月6日、不動産取得価額と評価額の大幅な乖離)

 

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成30年12月6日で、不動産取得税と固定資産税評価額がにつき、落札により入手した金額と評価額に大幅乖離があったことに対する国家賠償請求訴訟です。

具体的には、社会福祉法人たる原告が平成19年に取得した家屋(厚生省管轄の温泉施設、これで大体イメージが付きそうですが、、昭和40年代に建築された設備で取得時は休業中)に対する処分庁の不動産取得税評価額及び固定資産税評価額を付した各処分が減点補正率が不当に高く、もって付与された価額が不当に高額であったとして、国家賠償請求訴訟を求めているものである。問題の起点はかかる取得時における落札額が400万円程度であるのにも関わらず、付与された不動産取得税評価額が500万円を超過するような状況であって、約10年保有して固定資産税等を支払ってきたものである。このような落札額と評価額の乖離が本件の起点となっているものであり、処分庁の評価段階で付与された家屋損耗の程度を反映させる減点補正率の認定が中心的な争点とされているものである。訴訟のきっかけ、原告主張にある参考人の鑑定意見が減点補正率を0.1と大幅な評価減を求めているものであり(そもそも鑑定士の評価によるものであるのかは定かではない)、一般的な課税実務においてこのような減点補正率を採用することが極めてまれなものを俎上に載せるなどしている点から、訴訟の経緯に不明な点は残るものの、このような過去の取得金額や評価額に対して疑義が申し出られ訴訟となるようなケースが、特に地方税の評価額の算定において増加している。本件もそのような類型に属するものであるが、実際に固定資産税評価額において20年超の長きに渡って、過大に評価されてきた事例も存在しているところであり、人によっては固定資産税は住民の無関心に支えられているという人もいるのですが、近年は少しずつ潮目が変わりつつあるようにも捉えられるところである。本件のようなきっかけとなる減点補正率の算定は過度な主張であるように捉えられ、本件でも、算定の評価プロセスやその段階における不動産鑑定士の評価(減点補正率を0.1)としたものに対して、国家賠償の対象となるような過失は認められず原告の主張は退けられている。

しかしながら、このように話題になった厚生省関係の施設であって経年劣化した施設、家屋の評価は固定資産税評価額の算定において、非常に課題が多いものであろう。落札額と評価額の大幅な乖離が発生しているところがこの問題の起点となっていることは上記のとおりであるが、かかるような乖離を是認されるべきものであるのか、妥当な評価額はいかなるものであるのか(不動産取得価額も含め)、という点が本件においても含有されているように捉えられるものである。特に経年劣化の状況は家屋、資産の利用において、多大な影響をもたらすものであり、そもそもとして実需を反映した価格の評価そのものが非常に困難を伴うものであることは容易に想定される。

近年は、特に地方部において、このような老朽化した施設が相続などの局面によりあぶり出され、課題とされる事が多いが、一般的にも家屋、不動産は従来のように上昇をあるいは底堅いものであるとの前提は崩れており(今までの日本の状況からは寂しいものではあるでしょうが、実需において縮小は回避し難いのです)、租税法規が時価として客観的な交換価値を前提としていながらも、地方部では、売却市場の形成、が非常に困難になりつつあって鑑定などの評価に依拠せざるを得ない状況に変化していることが認識されるべきであろう。このような社会背景において、固定資産税評価に関しても何らかの変化が必要ではないのかという見解を有するものである。特に、従来の利用を前提とした家屋の評価と市場における評価の乖離は、今後も大きな課題となるだろう。

以上のように、本件は、入手時の落札額と固定資産税評価額が大幅な乖離していることがそもそもの起点となっているもの(この乖離自体が如何なる所以であるのかという点も興味深いが)であるが、本件の争点としては、家屋の経年による劣化、損耗の反映に関してその程度を反映させる減点補正率賀いかなるものであるのか、その算定が妥当なものであったのかという点が主たる争点となっており、この点に対する違法性の判断は、事実関係においてゆるぎようがないだろう。現行の固定資産税評価基準においては違法性の指摘は合致しないとの判示は妥当なものであるように考えられる。納税者の主張としては落札額の大幅な減少していること、非常に小学な金額での取得であることが実質的な現文の裏付けであるとの主張がなされているものであろうが、参考とした鑑定評価を行った者の恣意、感覚的な評価に依拠しているものであるとの裁判所の判断(そもそも原告参考人の主張でも固定資産税評価において充分な知見を有していないことは自認している)は、裁判を維持する材料として期待できなかったものとの判断が導かれている。

しかしながら、私見としてはより本質的な問題として、家屋における原則的な評価自体が家屋の現況と乖離しつつある現況が導出されているようにも思われる。固定資産評価基準は、家屋の評価において、再建築価格評価をベースと捉えており、執行レベルでは、評価基準において明確に定められているものであり、これを覆すことは非常に困難であろうが立法としては如何なることになるだろうか。

この再建築価格評価は、現況を捉え、利用をベースとしたものであり、この点が今後においても原則的なものとしてプライオリティを有するものであるのかという点は更に検討が必要であろう。現実の利用ではなく、利用を前提、仮定した形で、再建築価格を評価のベースにおいているものである(もちろん種々の調整は入るが)。これが時価として客観的な交換価値としての推定を受けうるものであるのであろうか。交換価値を支えるものとして実態の利用の状況、利用意図によって多様な状況が想定され、実際の利用の状況を反映させることは、執行のレベルでの実現可能性があるのかという問題はあろうが、一律に従前の利用を前提とした(そもそもこの利用という物自体がどのように理解されるべきであるのかという点も課題であろうが)、形での評価を行うことは大幅に執行に偏っているとの見解も起こり得よう。執行においては人員の問題もあろうが技術は進んでおり、利用前提の評価は変更の可能性を含みうるものとして構築することは困難であろうか、再検討の余地があるのではないだろうか。

また、本件では再利用にかかる修繕費用(約2億、客観的であるのかという疑問はあるが、全体の評価として原告のベースとなる主張に客観的な根拠が欠けているとの認識が裁判所にもあるのかもしれない)がかかることも主張において評価額の引き下げの要因として原告から主張されているが、判示では、明確な根拠を示さず、考慮要因として充分なものではないとしている。この点は再利用を前提とした中で、減耗において反映されているとの見解かもしれないが、利用を基礎とした評価において、一律に考慮対象外とすることは妥当ではないのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年1月22日金曜日

判例裁決紹介(令和元年6月7日裁決、利益連動給与の計算の適格性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年6月7日裁決で、法人税法の利益連動給与としての適格性が争われたものです。

具体的には本件は、法人たる請求人がその業務執行役員に対して支給した利益連動給与を損金として確定申告を行ったところ、かかる利益連動給与の算定方法が、具体的に開示されていない考課係数に基づくものであり、客観性にかけるものであるとして、損金算入を否定した事例である。現在は、業績連動給与に改正されているものであるが、近年の役員給与の支給形態が多様化しつつあることから認められたものであり、実際に紛争として扱われることは極めて珍しいものである。実質的には大手企業を対象とするものであり、租税の専門家でも関わったことは少ないものであろう。立法論として、中小企業への適用の拡大も議論されているところではあるが、本件の争点となる客観性がその中心的な課題となっている点は、認識されるべきであろう。本件は旧法における利益連動給与の事例であるが、支給における具体的な算定方法に関する客観性が中心的な争点となっているものであり、先例として有益であろう。そもそも租税法規では、客観性が重要視されているが、明文をもって客観的であることを要請している制度は少なく、この判断枠組みは注目されてよいのではないだろうか。

 内国法人(同族会社にあつては、同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る。)がその業務執行役員(業務を執行する役員として政令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)に対して支給する業績連動給与(金銭以外の資産が交付されるものにあつては、適格株式又は適格新株予約権が交付されるものに限る。)で、次に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに対して次に掲げる要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る。)
 交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数又は交付される新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数の算定方法が、その給与に係る職務を執行する期間の開始の日(イにおいて「職務執行期間開始日」という。)以後に終了する事業年度の利益の状況を示す指標(利益の額、利益の額に有価証券報告書(金融商品取引法第二十四条第一項(有価証券報告書の提出)に規定する有価証券報告書をいう。イにおいて同じ。)に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他の利益に関する指標として政令で定めるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る。イにおいて同じ。)、職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間若しくは職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標(当該内国法人又は当該内国法人との間に完全支配関係がある法人の株式の市場価格又はその平均値その他の株式の市場価格に関する指標として政令で定めるものに限る。イにおいて同じ。)又は職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の売上高の状況を示す指標(売上高、売上高に有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他の売上高に関する指標として政令で定めるもののうち、利益の状況を示す指標又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る。)を基礎とした客観的なもの(次に掲げる要件を満たすものに限る。)であること。

以上のように、本件は、社長が決定する考課係数が連動給与の算定方法として、法の求める客観性を備えているものであるのか、この解釈が問題となっているものである。裁決では、以下のように、法人税法における役員給与の損金算入規制を出発点として、その具体的趣旨から、所得操作、利益調整を排して、恣意性を排除することを求めているものであるとして、理解している。事前の開示と操作性のない、自動的な算定が中心的な概念になっていることが注目されよう。二段階の判断で、客観性を担保しており、単に恣意性を排除することで適正性を確保するのみならず、開示等による透明性の確保も客観性の解釈に求めていることは重要な点であろう。恣意を排除するのみであれば、主張のように限度額があるなどのような点でも一定の客観性が担保されているとの評価が行われても不思議ではないが、多様な役員給与の支給への対応として、多様な支給において(この辺は、他の支給方法も含まれることであろう)、中立性を確保することが必要であるという法的な趣旨が含まれていることが本件のように中立性を確保するため、透明性など相対的に厳格な判断の枠組みにつながっているものとして理解される。現行法においてもこの趣旨目的から厳格な客観性の判定が養成されるものであるのかという点は今後の検討課題であろう。


「法人税法においては、従来から、役員給与の支給の恣意性を排除することが
適正な課税を実現する観点から不可欠と考えられており、具体的には、法人段
階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされ
る範囲内に制限することとされてきたところである。特に利益連動給与につい
ては、法人の利益に連動して役員給与の支給額を事後的に定めることを許容す
ることは安易な課税所得の操作の余地を与えることになりかねず、課税上の弊
害が極めて大きいことから、損金算入が認められる余地はないと考えられてい
た。しかし、このような形態の役員給与であっても、職務執行の対価性に欠け
るものではなく、支給時期・支給額に対する恣意性を排除した上で損金算入の
余地を与えることとすれば、多様な役員給与の支給形態により中立的な税制
実現し得ることとなることから、平成18年度税制改正により、支給の透明
性・適正性
を確保するための一定の要件を課した上で、このような形態の役員
給与についても損金算入を可能とすることとされたものである。
このような平成18年度税制改正の経緯及び制度の趣旨に鑑みれば、法人税
法第34条第1項第3号イの「算定方法が‥客観的なもの」という要件を満た
すというためには、その算定方法が、個々の業務執行役員の給与の支給時期・
支給額の決定に恣意が働かないような算定方法、すなわち、当該算定方法に利
益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われ
るべき利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法であることを要し、事
前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法などは上記
要件を満たさないものと解するのが相当である。」

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。





2021年1月7日木曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年11月1日、簡易課税制度選択届の有効性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和元年11月1日で、過去の税理士による簡易課税制度選択届出の有効性が争われた事例です。

具体的には、本件は、弁理士たる原告が自己の消費税関係の申告において(当然所得税も)平成26年の申告として本則課税による申告を行ったところ、すでに15年以上まえに当時依頼していた税理士により簡易課税制度の適用選択の届出が出されているとしてその申告を否定し、簡易課税の適用による消費税の申告によるものとして更正処分を行ったことを不服として、かかる届出は税理士によるもので、委任されたものではなく(無権代理)、また、15年以上本則課税によるものを放置していたことを信義則の成立を主張して当該処分の取消を求めたものである。

基本的には、当該旧税理士による届出が有効であるのか否かという、事実認定の問題でもあるが、税理士の代理業務は、他の代理とは異なり、国税庁という存在のみを対象とするものであり、また、税務に関する専門的な業務を委任するものであるから、その具体的な範囲をどの程度であるのか確定させることは、本件のように具体的な認定が必要とされることは認識されるべきであろう。特に旧来このような委任に関しては、口頭での契約の成立が中心であり(現状でも特に変化はないのであろうが)、所得税のみなどのような本件で原告が主張するような個別の契約の成立する余地はかなり少ないものであろう。上記委任契約の性格上、包括的な契約の成立が基軸となることは改めて認識されるべきものとなる。カウンターとして税理士側も同様に包括的な委任が成立していることとなるだろう。この点で本件の事実認定の経緯は実務家にとっても重要なものであるものと捉えられる。また税務代理権限証書の提出が近年は求められるものとなっているが、本件でも提出がなかったように、当該証書の法的な位置づけは必ずしも強固なものではなく、一定の代理としての存在を示すものにとどまり、本件でも重要視されていないが、申告や届出の法的な効果に対しては、重要な位置づけが与えられていないとの基本的な考えは、通常の実務の認識とは異なるものであろう。ただし、近年は、オンラインでの申告が主流となりつつあるし、いくら代理の効果が本人に帰属するといえど、確認や申告業務や手続きの流れが変化していることは否めない。かかる点から立法論として、証書等の位置づけを見直す可能性もあり得ようが、現在はまだ未整備な状況にあり、今後の課題だろう。

また、本件は、旧税理士による手続、申告の後、別の現行の税理士となってから、15年以上、本則課税による申告を受付、受容してきた(合わせて本則課税の書類の税務署からの送付)ことが、法の一般原則である信義則の適用があるのか、そして簡易課税届出の否定につながりうるものであるのかという点も争点となっている。一般の法務関係者の認識であれば、15年もの長期に渡って、申告を受容していたことは、安定した法的な関係が間接的に成立しているものであり、信頼を保護すべきものとして捉えることは違和感はない。しかしながら、租税法規の適用においては、下記のように最判を本件も引用しているが、容易に信義則の成立が評価されるものではない。租税負担の公平性を鑑みて、限定的な成立の余地が示されているものである。特に公的な見解の表示が求められており、この部分が厳格なハードルとなって、本件でもその成立を否定している。積極的な情報、見解の提示が必要とされるものであり、申告納税を基軸とする以上、本人の申告はあくまでも租税法律関係の起点であって、これを受容した段階が継続したことをもって、法的な効果を間接的に期待されるものとして考えることは現行法の解釈としては成立し得ないとの判断が行われている。租税法規が負担の公平性を確保することを重要な原則とする以上、現行法の解釈としてはこのような結果となることは支持されよう。税務署からの書類の送付は単なるサービスであり、ここに法的な位置づけを与えていないことも従来と整合的な判断である。書類の送付は一般的な位置づけとしては継続的な受容と相まって納税者の立場からは現状の申告が是認されたものと評価することは税務の専門家ではない以上、やむを得ないものであるが、かかる認識の相違は立法の範囲に属するものであり、実務家は少なくとも認識しておくべきだろう(オンラインが主流の時代においては、案内やメールでの連絡がどのように位置づけられるべき出るのかという点は今後の課題であるが、現行法としては信義則の成立のハードルは高いものと考えられる)。

「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義
則の法理の適用により、上記の課税処分を違法なものとして取り消すことがで
きる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原
則が貫かれるべき租税法律関係においては、上記の法理の適用については慎重
でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請
を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護
しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に限られ、少
なくとも、税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこ
とにより、納税者がその表示を信頼してその信頼に基づいて行動したところ、
後に、当該表示に反する課税処分が行われて納税者が経済的不利益を受けるこ
とになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁がした表示を信頼し
てその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事情がな
いかどうかという点の考慮を要するというべきである(最高裁昭和62年判
決)」

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。本年もよろしくお願いします。