2019年10月23日水曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年11月30日、相続税申告における広大地評価、財産評価基本通達にない未完了の改修の評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回東京地判平成30年11月30日で、相続税申告における財産評価、広大地評価の対象などが問題となった事例です。

具体的には、相続人たる原告がなした相続税の確定申告においてなした財産評価につき、争点とされている事例である。申告総額で15億を超える比較的規模の大きな案件ですが、それに伴い、多様な争点が争われているものである。特に広大地評価の適用対象として複数の土地の一体的把握(この点が最も中心的な争点であるが、一体的把握は土地の利用状況の個別的な事実関係に強く依拠するものと考えられる)が可能であるのか否か、葬儀費用における永代供養費用の区分(葬儀費用からの除外)、財産評価基本通達に定めのない相続財産における貸家評価における未完了の改修工事の評価反映を如何に行うべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。

財産評価は、相続税においてその課税対象を金額的に確定させるものであり、その重要性は言うまでもないものであるが、相続財産は多様であり(近年では仮想通貨やアルゴリズムなんかも対象になりうるみたいですね)、適正な評価額を付与することは著しく困難である。法令解釈上は、その課税対象は時価であり、客観的な交換価値を意味するものであることは、ほぼ確定しているものであるが、現実的には評価を巡って紛争事例を生み出すことが非常に多い。それ故、基本的な指針として課税庁が公開している財産評価基本通達において、その評価方法が示されており、従前の判例においても、時価として一定の金額的な合理性及び一律の評価による客観性の確保という二重の意味をもって、財産評価基本通達における評価は、事実上の時価としての推定を受けている。実務的には、とりあえず、この評価方法によっていることがほとんどではないだろうか(通達による評価を機械的に当てはめている)。そもそもとして時価という概念自身が幅広な意義を有するものであり、同一資産であっても購入者等の状況の相違によって価格が異なるような状況も想定されうる。近年は、この評価方法の機械的な適用を巡って、本来の時価との乖離が問題になりつつあり評価通達が離れた評価をいかなる場合にその合理性が担保されうるものであるのかという点も課題となっており、また評価方法が複雑になりつつあることからも現在の財産評価基本通達を取り巻く環境は一定の変化の必要を有しているのではないだろうか。いずれにしても本件は、いずれも相続財産の評価を巡って争いがあるものであり、個々の評価、あるいは評価基本通達の定めがない状況における対応等において、相続における財産評価という典型的な課題を取り扱ったものであるが、上記の点から租税実務家にとっても有益なものと考えられる。財産評価基本通達自身が問題となっているものではなく、その評価に事実上依拠している点を如何に評価することであるのかという点は、今後の課題だろう。

以上のように、多様な財産評価が課題となっているものであるが、興味深いのは財産評価基本通達にない、貸家として所有している財産への評価への未完了の改修の影響をどのように把握するのかという点である。法人税法などにおいては、資本的支出と修繕費の区分が課題となることは、実務家であれば言うまでもないことであろうが、本件では、このような未修段階の評価(当然、相続段階での固定資産税評価額等にも反映されていない)を如何にして相続税において評価反映させるべきであるのかという点を問題としているものである。上記のように不動産のリフォームなどの評価は、完了していても実際には争いになりうるものであり、工事の未了段階で、相続を迎えたタイミングでどのように反映させるべきであるのかという点が、特徴的な事例である(原告の主張としてはこの改修は機能面の維持を図ったものであるとして財産評価への反映そのものを否定している)。最終的には、課税庁が主張した評価通達に定めのある評価方法に準じた評価方法(70%評価)を合理性があるものとして判示しているが、この点がいかなる所以を持って合理性がある評価であると評価しているのかという点に関しては必ずしも明確ではない。このような準ずる評価方法の合理性に関しては、そもそもとして相続税法が定める時価の解釈、客観的な交換価値との対比において合理性を有しているものであるのかという点がまずは検討されるべきだろう。

また、葬儀費用に関しては、埋葬に関する費用、特に永代供養料を葬儀費用、葬式費用として申告していたことが問題になっている。
下記のように、相続税法は明確に、葬式費用を非課税としているが、何をもって葬式費用として解するのかという点は必ずしも定かではない。この点は社会通念として判断する他ないのかもしれないが葬式費用と埋葬やその後に維持管理に関する費用として、特に永代供養料として支払うことは特に珍しいことでもないだろう(費用の前払いと考えるのであろうか、埋葬管理、供養の受益は埋葬者とその相続人にいずれが享受するものであるのだろうか、こういう考え方は即物的であって宗教家、葬儀サービス提供者的には罰当たりなんだろうか)。そもそも近年は、墓地埋葬法等が想定する状況以外の葬儀や埋葬行為が存在しており(電子的なお墓や宇宙葬とか、海への散骨などが代表例だろう、このような費用)、事後の管理費用と葬式費用を明確に区分することは社会通念としてもあまり明確な線引が可能であるのかという点はより検討が必要であるように考える。特に親族の死という突発的な、異常な状況において、相続人たる者が葬式費用と他の費用を区分して捉えているような状況が果たして合理的な想定と捉えて良いものであるだろうか。葬式費用をどの段階までの費用と捉えるべきであるのかという点は法令解釈上の課題であるが、葬式というセレモニー費用に限定されているものと解すべきであるのか、あるいは、一定の葬儀提供者に関する費用負担を包括的に解するべきものであるのかは前者が文言に忠実であるが、現実的な状況において、かかるような葬儀費用の区分が行われうるのかという点も鑑みれば、後者の解釈も一定の合理性を有しているものと評価することも可能だろう。

(債務控除)
第十三条 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。

2019年10月15日火曜日

判例裁決紹介(平成30年8月28日裁決、米国において非課税の年金に対する所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年8月28日裁決で、米国からの年金に対して所得税法上の課税対象となるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が勤務中米国において、対象となった米国における社会保険給付として、年金を我が国において(現在は請求人は、国内に居住している)、課税所得として確定申告を行わなかったところ雑所得として課税対象であるとして、更正処分等を受けてことを不服として、当該給付は、日米租税条約の規定に基づき、我が国においては、課税対象とならない(課税権がない)として、提起されたものである。

近年は、労働役務の提供や、企業活動の展開がグローバル化しており、また、投資における国境の意義は低下している現状にあるものと考えられるが、このような状況を鑑みるに、本件のように、年金等の社会保険給付を我が国に基づくものばかりではなく、米国のような国外、国籍外の箇所から拠点とする団体から給付されるような状況の増加は、想定されよう。本件は、事案としてはシンプルであり、結論として課税対象としている点は(本件の起点は意図的であるのか否か定かではないが、日米租税条約の適用に関する自己都合が良い読み方をしている点がその背景にあろう)、特に異論がないものであるが、今後は給付される金員がどこにその、源泉を置くものであるのかという点は、一定の留保を行う必要が出てくるのかもしれない。本件では、所得区分を雑所得としているが、年金課税上もこの点は、議論のあるところ(立法論も含め)このような外国年金の存在も含め、今後の働き方の変容と合わせて、いかなる状況を課税対象とするべきであるのかという点を考える上では、参考となるような事例ではないだろうか。

日米租税条約(旧版)
退

以上のように、本件は、本件の対象となった米国からの年金給付が日米租税条約(旧版、最近やっと日米租税条約の最新版が比準手続が完了した模様)、上記17条の対象となって、居住者の所在する居住地国でのみ課税権を有することとしている点をもって、その適用対象として該当し、もって、米国で課税されている(この点は納税者たる請求人の認識でありそもそも、この点において明らかに状況は異なっている)が故に、我が国の所得課税の対象とはならないのかという点が中心的な争点となっている。

「日米租税条約は、国際的な二重課税の排除、両締約国間の課税権の配分及
び脱税の防止などを目的とするところ、所得者の居住地国において同国の税
法を適用して課税権を行使することに関しては、これを否定するものではな
く、また、源泉地国が非居住者の所得に課税することも否定するものではな
いことから、所得者が同一の所得に対し所得の源泉地国及び居住地国の両国
で課税される場合、二重課税を回避するための措置として、既に源泉地国で
課された外国税額を居住地国において控除する規定を設けるとともに両締約
国間における課税権の配分を目的とする規定を設けている。」

この点につき、上記のように判断では、租税条約の趣旨として二重課税の排除を基礎として、個別の条項として退職年金等に関しては以下のようにその趣旨を有するものとしている。下記のように、一般に少額所得であるがゆえに居住地国でのみ課税権を調整しているとして理解することは、いかなる所以によるものであるのかという点は定かではないが、本件では上記のように二重課税の対象となったものを排除する趣旨であるものとした基本的な租税条約の趣旨から結論を導いているように考えられる。すなわち、米国で課税対象となっていると納税者は主張するがあくまでも、0税率であり、実際に源泉徴収等の対象となってはいないことから、実質的な二重課税の状況にはそもそもないのであった、日米租税条約の規定を持ち出すまでもなく、我が国での課税権を否定することは困難であろう。しかしながら、このような二重課税ではないとする理解において、日米租税条約17条が排除すべき対象とした二重課税が如何なるものであるのかという点は重要である。課税対象となっていても、0税率(消費税のような理解であるが、政策的に一定の場合は、課税対象としながらも、課税を実施しないような場合も含まれよう)のような状況は二重課税とは評価されないのかという点は、検討されるべきであろう。私見としては二重課税の排除は、租税条約によって基本的な目標であるが、この排除はそれによって、投資の促進や負担の衡平を図るものであり、また、両国において如何なるものを課税を行うのかという点は国内法に基づくものであり、租税条約の規定が課税の状況にまで及ぶものと理解するのは困難であって、具体的な課税の状況までは考慮しているものではなく、まずは両国において金銭的な負担を伴う課税をその対象として捉え、各規定の対象に合致するものであるのかという点が判断されるべきものと考えられる。

「日米租税条約第17条1及び同条約第18条2は、政府職員の一定の退
職年金等を除き、一方の締約国の居住者が受益者である退職年金等に対して
は、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる旨規定してい
る。なお、この趣旨は、過去の勤務の対価としての性格をも有する退職年金
等につき通常の人的役務提供の場合と同様に役務提供地で課税することとし
た場合、一般に少額所得者が多いと思われる退職年金等の受益者がその居住
地国において外国税額を控除しきれないことが少なくないと考えられること
などから、居住地国においてのみ課税することを認める
こととしているもの
と解される。」

そもそも二重課税を排除するという点で、租税条約がその基本的な趣旨としていることは、言うまでもないことであるが、実際のところ、多様な形式、二重課税の状況は発生しうるものであり、租税条約がその基本的な趣旨としている二重課税は必ずしも明らかではなく(抽象的と評価されるべきであろう)、各規定における対象を吟味し、個々の規定の適用にあたって、その趣旨に合致した二重課税の排除を企図しているものであるのかという点が解釈上の起点とすべきであろう。その点において、各規定の調整の趣旨は重要なものであるが、この点に関しては、十分な検討が行われてはいないものと捉えられる。本件は、実質的に二重課税の状況にないということで、ほぼそのまま、そもそも日米租税条約によって調整すべき対象が存在しないという点で、検討が終了しているが、本来課税を行っているような場合においては、まずは、対象となる退職年金等に該当するのか、その意義は如何に解されるべきであるのかという点が、判断の起点となるものと考えられる。この点は非常に抽象的な規定であり、その解釈は幅が存在するだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年10月9日水曜日

判例裁決紹介(平成29年6月21日裁決、突発的な病気と正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月21裁決で、納期限における突発的な体調不良が附帯税における正当な理由を構成するのかという点が争われた事例です。

具体的には、個人事業として飲食業を営む請求人が納期の特例を申請し、承認されていたところ、当該納付につきその法定納期限において、突発的な体調不良により、納付を行わなかった(1~6月文の源泉所得税を不納付、9月に納付)ことに対して源泉所得税の不納付につき、不納付加算税の賦課決定処分を受けた。この点について、法定納期限当日における突発的な体調不良によるものであるとして正当な理由がある旨の不服を申し出たものが本件である。周知のように、附帯税として不納付加算税を賦課が行われる場合において、宥恕規定として、正当な理由が存在する場合には、その不納付加算税の成立を図らないこととされており、かかる点は以下の国税通則法においても明記されているものである。個別具体的な事例ではあるが、法定納期限等の日における突発的な体調不良(具体的にどのようなものであるのか不明、また、陳述によれば、納期限が属する7月初旬及び当日は、一部自己の飲食店を営んでいたことが確認されている)において、もちろん程度差はあるものであろうが、通則法に定める正当な理由に該当するのかという点が中心的な争点であり、正当な理由とは如何なるものと解されるのかという点が起点となっているものであろう。しかるに不納付加算税の趣旨自身も問われるものであり、特に現徴収の納期の特例を受けているものでもあり(実務的には特例というよりも、ごく当然の行為であるのかもしれないが)、この特例の対比においても正当な理由として突発的な体調不良が該当するのかという点も対比されるものとなるのではないだろうか。従前、正当な理由としての該当性としては、多様な事例が存在する分野であり、本件もその類型に属するものであって、法令解釈として特段特徴的なものではないが、突発的な病気であっても(この詳細な状況は争われていないので、どちらかというと納期限付近の請求人の状況に関する陳述が決定的な状況であったようであるが、)、正当な理由としては該当性は可能性は低いもの評価、特に源泉徴収においては判断されることになるものと考えられる。


(不納付加算税)
第六十七条 源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかつた場合には、税務署長は、当該納税者から、第三十六条第一項第二号(源泉徴収による国税の納税の告知)の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する。ただし、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
2 源泉徴収による国税が第三十六条第一項第二号の規定による納税の告知を受けることなくその法定納期限後に納付された場合において、その納付が、当該国税についての調査があつたことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないときは、その納付された税額に係る前項の不納付加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付された税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする。
3 第一項の規定は、前項の規定に該当する納付がされた場合において、その納付が法定納期限までに納付する意思があつたと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、当該納付に係る源泉徴収による国税が法定納期限から一月を経過する日までに納付されたものであるときは、適用しない。

以上のように、本件における中心的な争点は本件の事実関係における正当な理由の当否である。過少申告加算税と比して同じ附帯税としても不納付加算税は、その成立、事象の発生自体はシンプルにその成立が観念されるものであり、法定納期限からの超過と言う事実の存在がその判断基準であり、比較的その判断が容易なものであって正当な理由の存在が観念できるのか否かという点が、不納付加算税の賦課決定における中心的な争点となる。本件判断における正当な理由としては、下記のように、

不納付加算税は、源泉徴収による国税が法定納期限までに完納されなかったとう客観的な事実があれば、原則として納税者に課されるものであり、これによって、法定納期限までに完納した者との間の不公平の実質的な是正を図るとともに、法定納期限までに完納すべき義務の違反の発生を防止し、源泉徴収制度の適正な運用の実現を図り、もって納税の実を上げようとする行政上の制裁措置である。この趣旨に照らせば、例外的に不納付加算税を課さないこととする通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、法定納期限までに完納しなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、そのため、このような納税者に不納付加算税を課することが不当又は酷と評されるような場合であって、法定納期限までに完納した者との間の公平を損ねることになってもなお、その制裁を免除するのが相当である場合をいうものと解するのが相当である。

として、実質的な不公平の是正と制裁措置として実効性を確保することがその趣旨にあるものと解している。この点は従前の判例とも整合するものであり、特段特徴的なものではなく、納税者への帰責性と不当性が判断基準となっている。公平負担の確保を図るためであろうか、非常に限定的な状況に正当な理由を当てはめているものと評価される。特に納期の特例という、納期限の延長を許可されているものであり、納期限のタイミングと言うスポットの状況のみで納税者に帰責性がないものと評価することは、困難と判断されることになろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。