さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回東京地判平成30年11月30日で、相続税申告における財産評価、広大地評価の対象などが問題となった事例です。
具体的には、相続人たる原告がなした相続税の確定申告においてなした財産評価につき、争点とされている事例である。申告総額で15億を超える比較的規模の大きな案件ですが、それに伴い、多様な争点が争われているものである。特に広大地評価の適用対象として複数の土地の一体的把握(この点が最も中心的な争点であるが、一体的把握は土地の利用状況の個別的な事実関係に強く依拠するものと考えられる)が可能であるのか否か、葬儀費用における永代供養費用の区分(葬儀費用からの除外)、財産評価基本通達に定めのない相続財産における貸家評価における未完了の改修工事の評価反映を如何に行うべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。
財産評価は、相続税においてその課税対象を金額的に確定させるものであり、その重要性は言うまでもないものであるが、相続財産は多様であり(近年では仮想通貨やアルゴリズムなんかも対象になりうるみたいですね)、適正な評価額を付与することは著しく困難である。法令解釈上は、その課税対象は時価であり、客観的な交換価値を意味するものであることは、ほぼ確定しているものであるが、現実的には評価を巡って紛争事例を生み出すことが非常に多い。それ故、基本的な指針として課税庁が公開している財産評価基本通達において、その評価方法が示されており、従前の判例においても、時価として一定の金額的な合理性及び一律の評価による客観性の確保という二重の意味をもって、財産評価基本通達における評価は、事実上の時価としての推定を受けている。実務的には、とりあえず、この評価方法によっていることがほとんどではないだろうか(通達による評価を機械的に当てはめている)。そもそもとして時価という概念自身が幅広な意義を有するものであり、同一資産であっても購入者等の状況の相違によって価格が異なるような状況も想定されうる。近年は、この評価方法の機械的な適用を巡って、本来の時価との乖離が問題になりつつあり評価通達が離れた評価をいかなる場合にその合理性が担保されうるものであるのかという点も課題となっており、また評価方法が複雑になりつつあることからも現在の財産評価基本通達を取り巻く環境は一定の変化の必要を有しているのではないだろうか。いずれにしても本件は、いずれも相続財産の評価を巡って争いがあるものであり、個々の評価、あるいは評価基本通達の定めがない状況における対応等において、相続における財産評価という典型的な課題を取り扱ったものであるが、上記の点から租税実務家にとっても有益なものと考えられる。財産評価基本通達自身が問題となっているものではなく、その評価に事実上依拠している点を如何に評価することであるのかという点は、今後の課題だろう。
以上のように、多様な財産評価が課題となっているものであるが、興味深いのは財産評価基本通達にない、貸家として所有している財産への評価への未完了の改修の影響をどのように把握するのかという点である。法人税法などにおいては、資本的支出と修繕費の区分が課題となることは、実務家であれば言うまでもないことであろうが、本件では、このような未修段階の評価(当然、相続段階での固定資産税評価額等にも反映されていない)を如何にして相続税において評価反映させるべきであるのかという点を問題としているものである。上記のように不動産のリフォームなどの評価は、完了していても実際には争いになりうるものであり、工事の未了段階で、相続を迎えたタイミングでどのように反映させるべきであるのかという点が、特徴的な事例である(原告の主張としてはこの改修は機能面の維持を図ったものであるとして財産評価への反映そのものを否定している)。最終的には、課税庁が主張した評価通達に定めのある評価方法に準じた評価方法(70%評価)を合理性があるものとして判示しているが、この点がいかなる所以を持って合理性がある評価であると評価しているのかという点に関しては必ずしも明確ではない。このような準ずる評価方法の合理性に関しては、そもそもとして相続税法が定める時価の解釈、客観的な交換価値との対比において合理性を有しているものであるのかという点がまずは検討されるべきだろう。
また、葬儀費用に関しては、埋葬に関する費用、特に永代供養料を葬儀費用、葬式費用として申告していたことが問題になっている。
下記のように、相続税法は明確に、葬式費用を非課税としているが、何をもって葬式費用として解するのかという点は必ずしも定かではない。この点は社会通念として判断する他ないのかもしれないが葬式費用と埋葬やその後に維持管理に関する費用として、特に永代供養料として支払うことは特に珍しいことでもないだろう(費用の前払いと考えるのであろうか、埋葬管理、供養の受益は埋葬者とその相続人にいずれが享受するものであるのだろうか、こういう考え方は即物的であって宗教家、葬儀サービス提供者的には罰当たりなんだろうか)。そもそも近年は、墓地埋葬法等が想定する状況以外の葬儀や埋葬行為が存在しており(電子的なお墓や宇宙葬とか、海への散骨などが代表例だろう、このような費用)、事後の管理費用と葬式費用を明確に区分することは社会通念としてもあまり明確な線引が可能であるのかという点はより検討が必要であるように考える。特に親族の死という突発的な、異常な状況において、相続人たる者が葬式費用と他の費用を区分して捉えているような状況が果たして合理的な想定と捉えて良いものであるだろうか。葬式費用をどの段階までの費用と捉えるべきであるのかという点は法令解釈上の課題であるが、葬式というセレモニー費用に限定されているものと解すべきであるのか、あるいは、一定の葬儀提供者に関する費用負担を包括的に解するべきものであるのかは前者が文言に忠実であるが、現実的な状況において、かかるような葬儀費用の区分が行われうるのかという点も鑑みれば、後者の解釈も一定の合理性を有しているものと評価することも可能だろう。
(債務控除)
第十三条 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。