さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は静岡地判平成29年3月16日で、消費税における簡易課税制度合理性、その適用における二年縛りの不合理を訴えたものです。
具体的には本件は建設業を営む原告が、当該事業の申告において従前簡易課税制度の適用を受けるため、簡易課税選択届を提出していたところ(課税売上は5000万円以下)、本則課税との間で約5倍の相違(本則課税が18万、簡易課税制度によれば103万)があることから、本則課税に拠る計算によって申告を行ったところ、簡易課税選択不適用届出が提出されていないとして更正処分等を受けたことからこの取消を訴えるものである。下記のように、本件の中心となる簡易課税制度に対しては、適用を取りやめる場合には、明確にその提出が事業年度前に義務付けられており、この点において解釈論としては検討の余地がないものと捉えられる。本件のような簡易課税制度における手続の処理(届けの提出)は、実務上も大きな問題となるものであり、ミスも多い分野であるところでもあるだろう。特に約5倍の租税負担金額の差異を生じさせるような状況は、事前に予想することが必要である点をもって慎重な判断が必要となるものである。中小事業者への配慮規定であり、金額的には小さなものであって負担の相違は大きな問題ではないものとも捉えられるものであるのかもしれないが、今後個人事業者が増加し、個人が消費税制度にアクセスする数は増加するだろう。特に適格請求書保存方式の導入は課税売上に関係なく、消費税の負担を発生しうるものであり、その負担の計算に関して、今後も従前と同様に中小企業等に対する簡易課税制度における適用や、その趣旨から一定の負担が発生しうるものであることは充分に認識されるべきものであり、本件は状況の変化に応じて、立法論として検討する上で参考となるものではないだろうか。私見としては今後のフリーランスの増加等を考慮するならば、簡易課税制度の存在意義はなお残るものであるが、この適用手続に関しては改善すべきだろう。
(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
3 第一項の規定の適用を受けようとする事業者は、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める期間は、同項の規定による届出書を提出することができない。ただし、当該事業者が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間から同項の規定の適用を受けようとする場合に当該届出書を提出するときは、この限りでない。
一 当該事業者が第九条第七項の規定の適用を受ける者である場合 同項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
二 当該事業者が第十二条の二第二項の新設法人である場合又は第十二条の三第三項の特定新規設立法人である場合において第十二条の二第二項(第十二条の三第三項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)に規定する場合に該当するとき 第十二条の二第二項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
三 当該事業者が第十二条の四第一項に規定する場合に該当するとき(前二号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 同項に規定する高額特定資産に係る同項に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日(当該高額特定資産が同項に規定する自己建設高額特定資産である場合にあつては、当該自己建設高額特定資産の同項に規定する建設等が完了した日の属する課税期間の初日)以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
4 前項各号に規定する事業者が当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合において、同項第一号若しくは第二号に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日又は同項第三号に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同項各号に掲げる場合に該当することとなつた日までの間に第一項の規定による届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しているときは、同項の規定の適用については、その届出書の提出は、なかつたものとみなす。
5 第一項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき、又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
6 前項の場合において、第一項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない。
以上のように、本件は、消費税法における簡易課税度の適用における、その制度の合理性が争われている。判示では下記のように、中小事業者への簡易的な計算の保証を行うことで、事務負担の軽減を企図したものであり、かかる点からは本件制度の合理性を疑い、公平負担の原則に反するものとしては評価できないものとしている。租税法規における違憲審査としては、大嶋訴訟以来、限定的な状況であるが本件もその負担に関して、一定の差が生じること(本件のような負担も許容されるようであるが率としては大きいものでも金額的には評価し難いのかもしれない)は許容されるものと解すべきとしている。消費税制度においてはこの事務負担という点が強調されるが、消費税制度の導入期と現状はソフトウェア等、差異は大きいものであり、現代的な意義において、負担との衡平はより議論されるべきではないだろうか。また、簡易課税制度の運用面、手続面(特に二年縛り)と負担の許容は、同一の立場で議論されるべきものであるのかという点は疑問に思うところではある。納税者の便宜の問題であり、執行との関係で、負担と便宜がどのようにバランスを取るべきかは、今後の適格請求書保存方式の本格導入を改めて検討されるべきではないだろうか。
「控除することができる仕入れに係る消費税額を、その課税期間の課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じた金額とみなすことにより、中小事業者にとって煩雑である仕入れに係る消費税額の計算を簡便にし、もって税の簡素化を図るとともに、仕入れに係る税額控除の要件とされる帳簿及び請求書等の保存を不要とすることにより、中小事業者の事務負担の軽減を図るものであって、合理性を有するといえる。そして、簡易課税を適用した課税期間については、当該事業者において、課税仕入れに係る消費税額の計算や帳簿、請求書の保存等の面で事務負担軽減の利益を享受することができる一方で、当該課税期間中の課税仕入高の金額いかんによっては、結果的に本則課税を適用した場合より消費税等の額が高くなる場合があり得る。しかしながら、簡易課税の適用にこのような利害得失があることは、一般的に予測可能なことであって、事業者においては、事務負担の軽減及び消費税等の額を考慮し、利害得失を自ら判断した上で、基準期間の課税売上高をもとに、簡易課税の適用を選択することが予定されているということができる。また、前提事実(1)ウのとおり、簡易課税の適用を選択した事業者は、その適用をやめようとする場合は、当該課税期間の前の課税期間の末日までに簡易課税選択不適用届出書を所轄税務署長に提出することにより、簡易課税の適用を受けないことができる。」
「このような簡易課税制度の趣旨、内容等を考慮すると、簡易課税の適用を受ける課税期間において、簡易課税を適用した場合の消費税等の額が、本則課税を適用した場合の消費税等の額を上回ることがあったとしても、このような結果は、事業者において、簡易課税の適用による事務負担の軽減の利益を享受しようとした自らの判断による選択の結果としてこれを甘受すべきものであるといえ、本則課税を適用した場合に比して公平を欠くものであるとはいえない。したがって、本件において、本則課税を適用した場合と簡易課税を適用した場合とで本件消費税額に80万8700円(約5倍)の差が生じたとしても、簡易課税を適用して本件消費税額を算出した本件更正処分が違法であるとはいえない。」