2019年8月28日水曜日

判例裁決紹介(静岡地判平成29年3月16日、簡易課税制度の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は静岡地判平成29年3月16日で、消費税における簡易課税制度合理性、その適用における二年縛りの不合理を訴えたものです。

具体的には本件は建設業を営む原告が、当該事業の申告において従前簡易課税制度の適用を受けるため、簡易課税選択届を提出していたところ(課税売上は5000万円以下)、本則課税との間で約5倍の相違(本則課税が18万、簡易課税制度によれば103万)があることから、本則課税に拠る計算によって申告を行ったところ、簡易課税選択不適用届出が提出されていないとして更正処分等を受けたことからこの取消を訴えるものである。下記のように、本件の中心となる簡易課税制度に対しては、適用を取りやめる場合には、明確にその提出が事業年度前に義務付けられており、この点において解釈論としては検討の余地がないものと捉えられる。本件のような簡易課税制度における手続の処理(届けの提出)は、実務上も大きな問題となるものであり、ミスも多い分野であるところでもあるだろう。特に約5倍の租税負担金額の差異を生じさせるような状況は、事前に予想することが必要である点をもって慎重な判断が必要となるものである。中小事業者への配慮規定であり、金額的には小さなものであって負担の相違は大きな問題ではないものとも捉えられるものであるのかもしれないが、今後個人事業者が増加し、個人が消費税制度にアクセスする数は増加するだろう。特に適格請求書保存方式の導入は課税売上に関係なく、消費税の負担を発生しうるものであり、その負担の計算に関して、今後も従前と同様に中小企業等に対する簡易課税制度における適用や、その趣旨から一定の負担が発生しうるものであることは充分に認識されるべきものであり、本件は状況の変化に応じて、立法論として検討する上で参考となるものではないだろうか。私見としては今後のフリーランスの増加等を考慮するならば、簡易課税制度の存在意義はなお残るものであるが、この適用手続に関しては改善すべきだろう。


(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
3 第一項の規定の適用を受けようとする事業者は、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める期間は、同項の規定による届出書を提出することができない。ただし、当該事業者が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間から同項の規定の適用を受けようとする場合に当該届出書を提出するときは、この限りでない。
一 当該事業者が第九条第七項の規定の適用を受ける者である場合 同項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
二 当該事業者が第十二条の二第二項の新設法人である場合又は第十二条の三第三項の特定新規設立法人である場合において第十二条の二第二項(第十二条の三第三項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)に規定する場合に該当するとき 第十二条の二第二項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
三 当該事業者が第十二条の四第一項に規定する場合に該当するとき(前二号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 同項に規定する高額特定資産に係る同項に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日(当該高額特定資産が同項に規定する自己建設高額特定資産である場合にあつては、当該自己建設高額特定資産の同項に規定する建設等が完了した日の属する課税期間の初日)以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
4 前項各号に規定する事業者が当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合において、同項第一号若しくは第二号に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日又は同項第三号に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同項各号に掲げる場合に該当することとなつた日までの間に第一項の規定による届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しているときは、同項の規定の適用については、その届出書の提出は、なかつたものとみなす。
5 第一項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき、又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
6 前項の場合において、第一項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない。

以上のように、本件は、消費税法における簡易課税度の適用における、その制度の合理性が争われている。判示では下記のように、中小事業者への簡易的な計算の保証を行うことで、事務負担の軽減を企図したものであり、かかる点からは本件制度の合理性を疑い、公平負担の原則に反するものとしては評価できないものとしている。租税法規における違憲審査としては、大嶋訴訟以来、限定的な状況であるが本件もその負担に関して、一定の差が生じること(本件のような負担も許容されるようであるが率としては大きいものでも金額的には評価し難いのかもしれない)は許容されるものと解すべきとしている。消費税制度においてはこの事務負担という点が強調されるが、消費税制度の導入期と現状はソフトウェア等、差異は大きいものであり、現代的な意義において、負担との衡平はより議論されるべきではないだろうか。また、簡易課税制度の運用面、手続面(特に二年縛り)と負担の許容は、同一の立場で議論されるべきものであるのかという点は疑問に思うところではある。納税者の便宜の問題であり、執行との関係で、負担と便宜がどのようにバランスを取るべきかは、今後の適格請求書保存方式の本格導入を改めて検討されるべきではないだろうか。

「控除することができる仕入れに係る消費税額を、その課税期間の課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じた金額とみなすことにより、中小事業者にとって煩雑である仕入れに係る消費税額の計算を簡便にし、もって税の簡素化を図るとともに、仕入れに係る税額控除の要件とされる帳簿及び請求書等の保存を不要とすることにより、中小事業者の事務負担の軽減を図るものであって、合理性を有するといえる。そして、簡易課税を適用した課税期間については、当該事業者において、課税仕入れに係る消費税額の計算や帳簿、請求書の保存等の面で事務負担軽減の利益を享受することができる一方で、当該課税期間中の課税仕入高の金額いかんによっては、結果的に本則課税を適用した場合より消費税等の額が高くなる場合があり得る。しかしながら、簡易課税の適用にこのような利害得失があることは、一般的に予測可能なことであって、事業者においては、事務負担の軽減及び消費税等の額を考慮し、利害得失を自ら判断した上で、基準期間の課税売上高をもとに、簡易課税の適用を選択することが予定されているということができる。また、前提事実(1)ウのとおり、簡易課税の適用を選択した事業者は、その適用をやめようとする場合は、当該課税期間の前の課税期間の末日までに簡易課税選択不適用届出書を所轄税務署長に提出することにより、簡易課税の適用を受けないことができる。」

「このような簡易課税制度の趣旨、内容等を考慮すると、簡易課税の適用を受ける課税期間において、簡易課税を適用した場合の消費税等の額が、本則課税を適用した場合の消費税等の額を上回ることがあったとしても、このような結果は、事業者において、簡易課税の適用による事務負担の軽減の利益を享受しようとした自らの判断による選択の結果としてこれを甘受すべきものであるといえ、本則課税を適用した場合に比して公平を欠くものであるとはいえない。したがって、本件において、本則課税を適用した場合と簡易課税を適用した場合とで本件消費税額に80万8700円(約5倍)の差が生じたとしても、簡易課税を適用して本件消費税額を算出した本件更正処分が違法であるとはいえない。」


以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年8月9日金曜日

判例裁決紹介(平成29年7月5日裁決、特定支出控除の対象、帰宅旅費と自家用車の利用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月5日裁決で、特定支出控除における帰宅旅費の範囲が課題となった事例です。

具体的には本件は大学教員たる請求人がその、給与所得に関する支出として支払った金員(帰宅旅費として高速代やガソリン代、オーダースーツ等)が所得税法の特定支出に該当するとして申告をなしたことにつき、当該支出は特定支出には該当しないとして(書類不備、添付不備、対象外)として、更正処分を行ったことを不服として提起された事例である。所得税法における特定支出控除制度は、大嶋訴訟以来の立法的な解決、提案として給与所得者が実際に支出した金額を事実上、給与所得に関する必要経費として控除対象としうる制度であり、制度当初はその適用事例は非常に限定されていたものである。しかしながら近年では、制度改正もあり、その適用が増加傾向にある(実際に実務ではどのように捉えられているのかという点は興味深いところ)。本件はこのような制度における具体的な支出が対象となりうるのか否かという点が課題となった珍しい事例であり、今後の特定支出控除の対象を検討する上では有益な事例であるように考えられる。残念ながらスーツ代などの必要性に関しては、(本件では大学教員という些か特殊な職業であるが)、古典的な課題であるものの特に判断がなされていない、正確には制度適用の手続き要件である書類添付に不備があることで実際の適用を排除(請求人の主張としてはこの添付に関するHPの説明が不十分であるとして無効を訴えているが、申告納税制度を前提とする中で考慮されうるものであるのかという点は厳しいだろう)しているが、最大の支出項目である帰宅旅費に関しては一定の判断を行っており、実務上も参考となるのではないだろうか。



(給与所得者の特定支出の控除の特例)
第五十七条の二 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 前項に規定する特定支出とは、居住者の次に掲げる支出(その支出につきその者に係る第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合における当該補塡される部分及びその支出につき雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第十条第五項(失業等給付)に規定する教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第三十一条第一号(母子家庭自立支援給付金)に規定する母子家庭自立支援教育訓練給付金又は同法第三十一条の十(父子家庭自立支援給付金)において準用する同号に規定する父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分を除く。)をいう。
一 その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出
二 転任に伴うものであることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた転居のために通常必要であると認められる支出として政令で定めるもの
三 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののための支出
四 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
五 転任に伴い生計を一にする配偶者との別居を常況とすることとなつた場合その他これに類する場合として政令で定める場合に該当することにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた場合におけるその者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるもの
六 次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
イ 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものとして政令で定めるもの及び制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服で政令で定めるものを購入するための支出
ロ 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
3 第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書(次項において「申告書等」という。)に第一項の規定の適用を受ける旨及び同項に規定する特定支出の額の合計額の記載があり、かつ、前項各号に掲げるそれぞれの特定支出に関する明細書及びこれらの各号に規定する証明の書類の添付がある場合に限り、適用する。
4 第一項の規定の適用を受ける旨の記載がある申告書等を提出する場合には、同項に規定する特定支出の支出の事実及び支出した金額を証する書類として政令で定める書類を当該申告書等に添付し、又は当該申告書等の提出の際提示しなければならない。
5 前三項に定めるもののほか、第二項に規定する特定支出の範囲の細目その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

以下のように、本件では、特定支出控除における対象としていわゆる帰宅旅費に関して最終的に自家用車を利用した高速代やガソリン代が含まれるものであるのか否かという点が課題となり、判断としては文理解釈上(施行令の文言により)その対象から除外している。

「所得税法第57条の2、所得税法施行令第167条の3及び第167条の5並びに所得税法施行規則第36条の6のいずれの観点からしても、条文のつくりを子細に検討すると、文理上、交通用具の使用のための支出が特例対象帰宅旅費に該当しないことは明らかである。」

上記のように、本件判断では、通勤費との対比において自家用車の利用に関する費用の控除を排除しているものと解して、本件支出の控除を否定している。施行令における文言からは、このように自家用車のような交通用具の使用(そもそも交通用具という概念が明確な概念であるとは言い難いものとも言えようが、例えば近年流行りのシェアなどはどのようになるのだろう)、を帰宅旅費は対象としていないものとして捉えている。すなわち本法規定は帰宅旅費に関しては明確に記載せず、施行令に委ねているが、施行令(特に下記手続としての書類添付対象)において限定的に記載している(この点は法の委任の範囲にあるのかという点は争いになるだろうが)ものとしている事になり自家用車を対象から除外していることになろう。通勤費との対比からしても、なぜ自家用車を利用することを排除しているのかという点は定かではないが、現行法の解釈としてかかるような判断が出ていることは留意されるべきであろう。立法の範囲に属するものであるのかしれないが、いかなる理由をもって自家用車を排除するのかという点は課題となるのではないだろうか。また、本件では判断されていないが、このような帰宅旅費においても通常性が要求されているが、かかる点はどのように判断されるものであるのかという点も解釈上の課題となりうるのではないだろうか。




(給与所得者の特定支出の範囲)
第百六十七条の三 法第五十七条の二第二項第一号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める支出は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する支出(航空機の利用に係るものを除く。)とする。
一 交通機関を利用する場合(第三号に掲げる場合に該当する場合を除く。) その年中の運賃及び料金(特別車両料金その他の客室の特別の設備の利用についての料金として財務省令で定めるもの(以下この号において「特別車両料金等」という。)を除く。)の額の合計額(当該合計額が法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法による一月当たりの定期乗車券又は定期乗船券の価額(特別車両料金等に係る部分を除く。)の合計額を超えるときは、当該合計額)
二 自動車その他の交通用具を使用する場合(次号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法により交通用具を使用するために支出する燃料費及び有料の道路の料金の額並びに当該交通用具の修理のための支出(第百八十一条各号(資本的支出)に掲げる金額に相当する部分及びその者の故意又は重大な過失により生じた事故に係るものを除く。)でその者の通勤に係る部分の額のその年中の合計額
三 交通機関を利用するほか、併せて自動車その他の交通用具を使用する場合 前二号の規定に準じて計算した金額

(特定支出の支出等を証する書類)
第百六十七条の五 法第五十七条の二第四項(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める書類は、次の各号に掲げる支出の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法第五十七条の二第二項第一号から第四号まで及び第六号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類
二 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類並びに次に掲げる場合の区分に応じ次に定める書類
イ 航空機を利用する場合 その航空機に搭乗をした年月日及び搭乗区間につき、財務省令で定めるところにより、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十八項(定義)に規定する航空運送事業を営む者が証する書類
ロ 鉄道、船舶又は自動車(以下この条において「鉄道等」という。)を利用する場合(その利用に係る運賃及び料金の額が財務省令で定める金額以上である場合に限る。) その鉄道等を利用した年月日及び乗車又は乗船の区間につき、財務省令で定めるところにより、鉄道事業法第七条第一項(事業基本計画の変更等)に規定する鉄道事業者、海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二条第二項(定義)に規定する船舶運航事業を営む者又は道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第二項(定義)に規定する自動車運送事業を営む者が証する書類

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2019年8月5日月曜日

判例裁決紹介(平成29年12月13日裁決、取得費としての5%評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年12月13日裁決で、取得費として5%推計を活用した評価を公示価格に基づくもので覆すことができるか否かが問題となった事例です。

具体的には、相続により土地を取得した請求人が当該土地を譲渡した事により発生した譲渡所得の計算において、収入金額の5%を取得費とする譲渡所得の計算を行って申告をなし、かかる取得費は、地価公示価格に拠る推計よりも高く、取得費は当該推計価格に拠るべきとして更正の請求をなしたところ、その適用を否定されたことからその取消を求めたものである。5%取得費に関しては、現行の実務においては、土地等の価格が不明である場合において、中心的な作業となっているものであろうが(実際には実務的にどのように行っているものであるのかは聞いてみたいところ)、この価格を活用することは事実上95%をその所得とすることになり、計算上の便宜さは当然において享受されるものであるが、一方で、その負担の計算上実質的な所得とからは超過となるような状況も多いものでないだろうか(取得費が不明である以上、一定の不利益は甘受すべきものとも言えるのであろうが)。この5%評価は非常に簡便な計算方法であり、あまり課税上問題となることは少ないものと考えられるが、本件は、その推計を覆すことが争われた珍しい事例であり、結果的に公示地価に基づく推計に拠る価格の適用を否定しているものであるが、否定された理由は実際の取引日ではないものという認定が基礎となっている。本件の5%評価は、実際の金額が不明な場合において、用いられるものであり、近年のように、土地等の価格が低下傾向が続く現況に鑑みれば、いかなるものを取得費として認めるべきものであるのかという点(制度論)を検討する上では、一定の参考となるものではないだろうか。特に昭和28年以後の取得資産に関しては、通達によってその適用が拡張されているに過ぎないものであり、実際の取得費やそれに類似した金額を以下に捉えるべきであるのか、事実上制度的な割り切りが適用されているような状況であるが、適正な所得負担を考える上でどのような取得費が適正と認定されるのかという点を検討すべきであろう。

本件としては、審判所の権限を持って取引相手の金額をさかのぼって調査し、昭和40年代の取引であるであることを認定しており、当事者の一方の金額を入手することで実際の金額を認定しているものであって、納税者において、活用できる方法ではないが、納税者段階においていかなる条件を充足するものを金額とすれば、取得費として実際の金額として捉えられるのかという点は今後の課題であろう。不明なケースにおいて適用されるものである以上、何かしらの線引は必要であろうが、公示地価に拠る推計は適用可能であるのかという点は、面白い論点ではないだろうか。そもそも土地取引価格自身が不明瞭、幅の大きいものであり、一定の推計は成立しうるところではあろうが、当事者以外には知り得ない情報も含まれるものであり、かかる点を考慮すれば、不明な場合においていかなる推計評価が合理的であるのかという部分は租税法規の安定的な適用、予測可能性という点においてはかなり制約が大きいものと考えざるを得ないものと考えられる。本件自身は、上記のように実際の金額や取引の認定を行っている事実認定のみの事例であり、個別的な問題であるが、取引価格が不明な場合と取得費というものがどのように捉えられるべきかという点を問題として提起する上では本件は有益な事例であろう。

(長期譲渡所得の概算取得費控除)
第三十一条の四 個人が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第三十八条及び第六十一条の規定にかかわらず、当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第三十八条第二項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額


昭和28年以後に取得した資産についての適用)

31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに