2019年7月24日水曜日

判例裁決紹介(平成30年4月19日裁決、推計課税の必要性、抽出基準の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年4月19日裁決で、推計課税の適用条件、抽出基準の合理性が課題となった事例です。

具体的には、本件は、個人事業主である請求人が未申告、帳簿等の保存が確認できなかった(調査への非協力)ことにつき、処分行政庁の調査により、実額での課税が困難であったことから、推計課税の適用が行われた事例であり、調査における違法性、第三者の立会(この時点で若干特殊な状況であるようにも想定されるところではあるのかもしれないが)等の手続面の違法性及び推計課税の必要性、推計課税の対象が合理的に抽出されているのか否かという点が争点となっている事例である。手続面においては、軽微な点が中心となっているものであり、請求人の主張は退けられている(従前と特に変わるものではないものと捉えられる)ものであるが、本件では、推計課税の抽出基準において、一部修正が結論において入っている点では珍しい事例であろう。推計課税は、その適用において間接証拠を用いて、課税額を決定するものであり、財産権の保護を基調とする租税法規の特徴、申告納税制度を基礎とする所得税制度においては例外的な存在として、位置づけられるものである。 推計課税は、いわば未申告者、帳簿未作成者等と適正に申告を行っている者との対比において、更にはて適切な帳簿等の記録に依拠した課税とは異なり、推計によって納税額を確定させるものとして、 実際においては、伝家の宝刀扱いを受けるようなものであるが従前、その適用に関しては議論が多かったものであるが、近年はその適用に関する実際の紛争は減少しているものと考えられる。かかる点から本件は近年における紛争事例としては珍しいものであり、また、当初処分行政庁が用いた推計対象の抽出基準が一部変更され、推計が行われている点において特徴的な事例(納税者が明確な立証を行っていない点が残念ではあるが)であり、参考となるべきものと捉えられよう。

(推計による更正又は決定)
第百五十六条 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる。

以上のように本件は所得税法156条が定める推計課税の適用の税費がその中心的な争点となった事例である。上記のように推計課税は法文において明確とされていないもののその適用にあたっては謙抑的であるべきであると考えられ、制約があることは解釈においてほぼ確定しているものと理解される。本件ではその推計の必要性に関しては以下のように解釈を示しており、実際の必要性をまずは議論している。必要性が求められることは特に異論がないところであろうが、いかなる場合において適用が行わるべきであるがという点が解釈論として課題となるものと言えよう。下記では3種の例示が行われているが、納税者の非協力が中心となって争われている。実地の任意調査として構築されている以上(実質的には異なるものと考えるかもしれないが)、大部分の非協力においてこの任意との調整が問題となるものと考えられる。事実上この推計課税が罰則として機能する場合には、任意を原則とする質問検査の位置付けが財産権の保障や適正手続の保護を基礎とする観点から問題視されることになるのではないだろうか。この非協力をどのように評価するという点に関しては、通常の納税者との衡平から判断されることになるのかもしれないが、非協力という点は、その程度において差異があるものであり、いかなる点を持って推計課税の適用をもって対応を図るべきであるのかという点を検討する必要があるのではないだろうか。

「所得税法第156条は、税務署長が所得税につき更正をする場合において、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているが、飽くまで課税処分における課税標準の認定は直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であることからすれば、推計による課税が認められるのは、やむを得ず推計によらざるを得ない場合、すなわち、①納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、②帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、又は③納税義務者が資料の提供を拒否するなど税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。」

また、本件では推計課税の合理性も問題となっている。当初適用された抽出基準が隣接地以外(所轄の税務署の隣の隣)も含まれていたという点から推計の再計算が判断において行われている。推計課税を行うにあたり対象を如何に抽出するのかという点は移転価格と同様に、課題が多い。特に単に取引の価格を算定するのではなく、収入、経費を含んで総所得を判断する必要があり、その適用にあたって類似の対象を選定することは重要な点である。また課税の情報に関しては納税者である請求人はアクセスすることが困難であり、かかる推計の合理性をあらそうにあたっては実際の所得金額の提示以外にはこの抽出基準の合理性を争うことになり、かかる点からも基準は重要であろう。

しかしながら推計対象の抽出において最終的な目標が類似というレベルであり、具体的な基準としては曖昧な状況である。いくつかの例示に応じて基準を選定することになる。従って基準において大きな相違が発生する事になり、ひいては推計所得に大きな変動が発生することが避け得ない。本件では以下のように、倍半基準など比較一般的な基準が用いられているが、類似と言う判断において納税者において如何にしてこれらの基準が合理的ではないと反証することになるのかという点が検討されるべきことになる。

A 抽出基準
原処分庁は、本件各年分ごとに、本件事業と業種、業態、事業内容、規模、事業所所在地等において類似していると認められる個人事
業者として、以下の抽出基準を設定した。
(A) K税務署及びK税務署の管轄区域に隣接する税務署管内において、塗装業を営んでいる個人事業者であること。
(B) 所得税等の申告において青色申告の承認を受けており、青色申告決算書を提出していること。
(C) 事業所得に係る総収入金額が、請求人の当該金額の2分の1以上2倍以下の金額の範囲内であること。
(D) 仕入金額の計上がない及び事業専従者がいないこと。
(E) 給料賃金又は外注工賃の計上があること。
(F) 塗装業以外の事業を兼業していないこと。
(G) 年の途中において、開廃業、休業及び法人成り等の事情がないこと。
(H) 災害等により、経営状態が異常であるとは認められないこと。
(I) 税務署長から更正又は決定処分がされ、当該処分に対して不服申立て又は訴訟提起されて現在審理中ではないこと

各基準がどのような意図を持っているのかという点は定かではない点が多いものの、実際の適用においてはこのような基準が一般的ではないだろうか。
そもそも実際の金額によることを放棄しているものであり、推計課税は、一定程度の合理性があれば推計として否定されるべきものではないことは、ほぼ確定しているが、最終的な類似、合理的な推計を求めるにあたって、どのような点を最終的に求めるのか、あるいは最低限の要求はどのようなものであるのかという点は必ずしも定かとは評価しがたいものであり、より今後の検討が必要なものではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成30年1月23日裁決、従業員が行った架空取引と重加算税)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年1月23日裁決で、従業員が行った架空取引に関する重加算税の賦課決定処分に対して、理由の提示、法人の行為であるとして重加算税の対象となるべきものであるのか否かという点が課題となっている事例です。

具体的には、本件は法人たる請求の従業員が架空の取引を行い外注費を計上して横領等を行っていた事を調査により指摘され、修正申告を行った事実関係において、かかる架空取引(仮装取引)が仮装または隠蔽を伴うものであるとして重加算税の賦課決定処分を受けたことを不服としているものであり、理由の提示が不備であったこと及び、法人の行為として同視できるものであるのかという点が争点となっている事例である。青色申告の理由附記をはじめ、処分理由の提示、開示は、近年の行政手続における充実強化として制度化されたものであり、その対象は拡張され、事実上、課税処分においては理由は網羅的に開示されることになりつつある。このような状況下において、従業員が行った架空の取引(外注費)であり、いわば被害者でもある法人が課税処分において、罰則的な重加算税のペナルティを付与されることが一般的な納税者の感覚において、納得の行くものではないのであろうが(この点が本件の起点となっているなのであろう)、本件において納税者によって主張された手続法部分としての不備として、理由の提示に関しては、そもそもこの理由の提示がどのような程度の提示を行うべきであるのか、他の制度(青色申告等)の理由附記と対比してどのような状態であるべきであるのかという点は必ずしも明確ではないものと考えられるところではあるが、実際の主張としてはかかる架空取引の当事者、実施者であった従業員の肩書に対するミスがあったことにとどまるものであり、現行法の解釈として課税処分の実施における手続面の瑕疵、不備に対して重要視しない現況下においては(すなわち、刑法に抵触する等の重大な瑕疵の存在がなければ)処分の取消事由にはならないとする点からも非常に軽微なものであり、かかる点からの処分の取消は困難であったものであろう。また、本件では、従業員の行為と法人の行為を同旨することが可能であるのかという点が争われているものであるが、架空取引という特殊な事実関係ではあるものの重加算税の対象となる行為の範囲をいかなる者が行っているのかという点において、基本的に従前と同様に対象範囲を従業員においても法人の行為と同視できるか否かという点で拡張的に判断しており(重加算税における納税者の意義をを拡張的に解している)、いかなる点をもって同視すべきであるのかという点を認定する上で参考となる事例ではないだろうか。


(重加算税)国税通則法
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

「通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課すこととしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。このような趣旨からすると、納税者が法人である場合には、隠ぺい又は仮装が法人の使用人によってなされたものであっても、その者の行為を納税者の行為と同視することができれば、その者が代表者ではなく、また代表者がその者の行為を知らなくとも、重加算税の対象となると解される。」

以上のように、本件では、重加算税の対象となる架空取引を行った者が従業員であり、法人の代表者等ではないのにもかかわらず、法人の行為と同視されることになるのか、いかなるいかなる点に着目して、判断されることになるのかという点が課題ではないだろうか。通常役員とは異なり、法人を代表して、取引をするものではなく、従業員(使用人)が行った行為が法人に帰属することになることが被害者でもある法人の行為となる点は、留意点であるように考えられる。私見としては納税者の意義を実質的に拡張することは重加算税の意図からは合理的なものであろう。

本件では権限の有無等、多角的な観点から認定が行われているが、その中でも、架空取引による金銭が如何に費消されているのか、あるいはどのような費消の意図を有しているのかという点を問題視(会社のために費消されているのか個人のために費消されているのかという点)せず、課税事実関係の隠蔽等が行われているのかという点が注意される。費消等の意図は主観的なものであり、あくまでも仮装等の行為が納税者の行為として認識されるべきものであるのかという点が問題視されているものと考えられる。但し、法人が従業員等の行為に対して必要な注意を払っていたのかという点も考慮要因とされているものであるが、なぜ、このような注意の欠缺が法人の行為としての同視される要因となるべきであるのかという点は必ずしも定かではないのではないかと言う疑問も覚える。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2019年7月13日土曜日

判例裁判例紹介(平成29年12月15日裁決、連帯保証に関する求償権の相続財産該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年1
2月15日裁決で、相続財産として被相続人が履行した連帯保証に関する求償権
の存在が課題となった事例です。

具体的には、本件は、租税の専門家である税理士を含む相続人である請求人がな
した相続税申告において、被相続人が相続開始前に和解協議等により負担するこ
ととなった連帯保証債務の履行に伴う求償権(対象は相続人)が、当該相続時点
において存在しており、相続財産を構成するものであるのか否かという点が課題
となっている事例である。課税庁がかかる求償権の存在を認定し、相続財産とし
て更正処分を行ったのに対して、請求人はかかる求償権は、発生はしたものの、
和解の中で、行使を実質的に制限しており、また和解成立後実際に4年以上にわ
たってかかる求償権の行使を行っていないことから、かかる求償権は相続開始時
点ではすでに放棄されたものであり、相続財産を構成しないとして主張に対立が
あるものであって、判断では課税庁の主張が認められているものである。連帯保
証の履行により求償権が発生したことは和解等においても確認されており、かか
る権利が放棄されているものと判断される状況にあるのか否かという点が基本的
な争点となっている。従って当該求償権がいかなる状態にあったのかという点が
課題であり、いわば事実認定の問題であるが、本件のような連帯保証に伴う求償
権の発生取得、そして権利の放棄のような状況は、被相続人の判断による権利で
あり、明示的な書類等の存在もなく、相続人が必ずしも明確に把握しているよう
な状況ではない場合も想定される。さらには、相続開始段階での混乱等も鑑みれ
ば、権利の消滅などに関する情報は混乱要因として想定されうるものであり(特
に本件のよう被相続人と相続人の関係における求償権であるような場合では)、
相続開始時点においていかなる権利が存在していたのかという点を検討する際に
は、本件のような求償権の放棄という特殊な権利関係であるともとらえられると
ころではあるかもしれないが、引用されている求償権が放棄されているものとし
て判断された事例を含め事実認定の参考として本件は捉えられるのではないだろ
うか。

「本件被相続人は、本件和解の成立時及びその直後の 段階では、本件求償権を
放棄する意思はなく、本件被相続人が黙示で あれ本件求償権を放棄したことは
なかったと認められる。」
「確かに、上記(1)のホのとおり、本件被相続人は、本件和解日か ら本件相
続の開始までの約4年7か月の間、■■■■■に対して本件 求償権を行使していない
が、長期間にわたって権利を行使しないこと が直ちに権利の放棄を意味するも
のではないから、このことをもって、直ちに本件求償権についての黙示的な放棄
の意思表示があったということはできない。」
「権利の放棄の意 思表示といえるためには、単に権利を行使しないだけではな
く、権利 を積極的に消滅させる意思が黙示であっても意思表示と評価できる程
度に認められるような事実関係が必要であるところ、上記イ並びに上 記(イ)
及び(ロ)で検討したとおり、本件被相続人については本件 求償権を放棄する
黙示の意思表示は認められない。」

以上のように本件では、和解により実質的に求償権の放棄、債務免除が行われて
おり、相続開始時点において、当該権利が存在しているのか否かという点が中心
的な争点となっている。上記では、事実認定の結果として、請求人の主張を否定
し、実質的に求償権を放棄しているかのような状況に対しては、認めがたいとの
認定を行っている点は着目されるべきであろう。相続人には税理士が含まれてお
り、求償権の放棄は一方で経済的負担を伴う債務の免除であり、贈与税等の対象
となりうることが懸念され、かかる点から、求償権の放棄を明文では明らかとは
していないものの、権利の放棄の意思は存在しているというような状況(長期間
の未行使等)から実質的に求償権の放棄による相続財産としての該当性を否定す
ることを意図したものと評価されている。

本件の判断は、和解条件や、その後における明確な意思表示の存在があったのか
否か、明示的な状況を作出していないとして放棄を認めていない。忠実に和解の
文言等に従っているものであり、客観的な放棄の状況を求めていることは基本的
な視点として留意されるべきであろう。特に請求人には租税の専門家としての税
理士等が含まれており、放棄による贈与税の申告がなされていないことなども考
慮要因としている点は特殊事情であると考えられる。引用裁決によれば、長期間
の権利の未行使も実質的に求償権の放棄に該当する場合もありうることを示して
いるが、本件では係る点に関しては家族内の求償権であるなど等を考慮して、長
期間の未行使による実質的な求償権の放棄を否定している点は、本件の特徴であ
ると考えられる。