2018年10月20日土曜日

判例裁決紹介(平成29年5月8日裁決、特定口座における株式の譲渡日)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年5月8日裁決で、特定口座における株式の譲渡日が課題となっている事例です。

具体的には、個人として株式投資を特定口座にて行っていた請求人が、当該取引において、年末において約定し、当該株式の受渡しを年明けに行ったケースにおいて、如何なるタイミングをもって、その譲渡日として、しかるに譲渡所得の起算日をカウントするものであるのかという点が中心的な課題となっている。本ケースは年末をまたいでおり、そのタイミング次第で、譲渡所得の起算日となる譲渡日が異なることになり、もってその譲渡所得の帰属日も変動することになるものである。一般的に譲渡所得のの計算において、如何なるタイミングをもって譲渡日とするのかという点は、その所得の起算、帰属を判断する上で、重要なものであり、その譲渡日をどのように認定するのかという点は留意されるべきものであろう。この点は言うまでもないことであるのかもしれない(実務家がそもそもそんなに気にしているのかという点はよくわからないが、どうだろう)。本件はこの譲渡所得において、特定口座における株式をどのように捉え、そもそもとして特定口座をどのようなものであるのかという点を考える上で、参考となるものであろう。実務的には、特定口座における取引は、証券会社等を通じて、その計算が行われるものであり、殆ど考慮に値するものではないのかもしれないが、かかる点において、本件のように、その譲渡日を約定日として、証券会社の計算とは異なり、自己の意思をもって主張する事例は特殊なものであると考えるべきであろうが、上記のように特定口座の性格に基づき、その譲渡日が判断されており、その口座の法的な性格を理解する上で参考となるものと考えられる。

特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等に対する源泉徴収等の特例)
第三十七条の十一の四 居住者又は恒久的施設を有する非居住者に対し国内においてその営業所に開設されている特定口座(前条第三項第一号に規定する特定口座をいう。以下この条において同じ。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡の対価又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等の決済(当該信用取引等に係る株式等(第三十七条の十第二項に規定する株式等をいう。)の受渡しが行われることとなるものを除く。以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「差金決済」という。)に係る差益に相当する金額の支払をする金融商品取引業者等は、当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者から、政令で定めるところにより、その年最初に当該特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡をする時又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等につきその年最初に差金決済を行う時のうちいずれか早い時までに、当該金融商品取引業者等の当該特定口座を開設する営業所に特定口座源泉徴収選択届出書(この項の規定の適用を受ける旨その他財務省令で定める事項を記載した書類をいう。第五項において同じ。)の提出があつた場合において、その年中に行われた当該特定口座(以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「源泉徴収選択口座」という。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡又は当該源泉徴収選択口座において処理された上場株式等の信用取引等に係る差金決済により源泉徴収選択口座内調整所得金額が生じたときは、当該譲渡の対価又は当該差金決済に係る差益に相当する金額の支払をする際、当該源泉徴収選択口座内調整所得金額に百分の十五の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する年の翌年一月十日(政令で定める場合にあつては、政令で定める日)までに、これを国に納付しなければならない。

居住者等が、上場株式等保管委託契約に基づき特定口座内保管上場株式等の譲渡をした場合の譲渡所得の計算は、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額等と区分して、個々の特定口座ごとに行うものとされ(措置法第37条の11の3第1項)、その計算を行う場合の必要経費又は取得費に係る計算は、いずれも特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として、金融商品取引業者等が計算を行うこととされている(措置法施行令第25条の10の第2項)。また、金融商品取引業者等は、特定口座年間取引報告書を作成して特定口座の開設者に交付するところ(措置法第37条の11の3第7項)、当該報告書には、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る収入金額のうち特定口座において処理された金額の総額、その取得費の額及び当該譲渡に要した費用の額の合計額の総額が記載され(措置法施行規則第18条の13の5第2項)、これらの金額はいずれも当該特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として計算した額となる。

以上のように本件の中心的な争点は特定口座を利用した株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日が認定されるものであるのかという点である。法は上記のように定め明確に特定口座における譲渡日を定めていない。法令上は上場株式等を譲渡した日を解釈し、その譲渡日を認定することになるだろう。

特定口座は証券取引税制の改正により、設けられたものであり、基本的に納税者の便宜を図ることをその基礎として、成立している特別措置であり、租税特別措置法において定められるものである。このような特殊な株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日とするのかという点が本件の背景にあるものと理解される。特に納税者の便宜において成立する制度において、さらに、納税者において選択の余地があるのかという点は興味深い。基本的にわが国の租税制度は、申告納税制度を基礎としており、本件もその前提があるものであり、納税者の一定の意思は考慮される可能性はあるものの、源泉徴収義務の成立、納税者の便宜を基礎とする制度において、このような点が認められるものであるのかという点は、検討課題であろう。

判断では、源泉徴収義務の成立をその起点としており、税額の確定におけるタイミングにおいて、その譲渡日を源泉徴収義務の発生と紐づけて理解している。その背景として納税者の便宜を趣旨とする制度であることと、もって金融業者に委ねている制度であると理解しているものであろう。しかるに、金融業者における計算書に記載された受渡日をもってその譲渡日として判断付けている。このように源泉徴収義務と紐づけて理解している点が特定口座の正確によるものではないだろうか。しかしながら、いわば、金融業者に委ねられているという理解と、源泉徴収義務との関連付け、紐づけ、そもそもの上記法規における譲渡日はいかなるものとして理解されるのかという点は、必ずしも明示的に関連付けられるものであろうか。必ずしも明示的に解されると理解することが可能であろうか。租税法規の選択適用が認められることは限定的であり、そもそもとしてこのような形で納税者の意思が介入することは、基本的に回避されるべきものとして解する傾向にあるが、口座の成立趣旨等から、その譲渡日と源泉徴収義務を紐付けることは一定の合理性があるものとも考えられるが、混乱を招かないように、法文においてより明示する必要があるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年10月13日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年5月11日、税理士が関与した代表報酬の潜脱、関連会社を利用した架空経費の計上)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年5月11日であり、税理士が関与したほ脱、代取報酬の潜脱、関連会社を利用した架空外注費の形状等が問題になった事例です。

具体的に本件は、整備業を営む原告法人が、代取への報酬の架空処理として顧問税理士への報酬を計上し、また関連会社を利用した給与の架空外注費等が問題となった事例であり、査察調査によりほ脱犯として刑事事件としては確定している事案で、その課税処分に関する点が対象となっているものである。調査手続、各種費用の損金性等、多様な点が争点になっている事例ではあるが、基本的に事実関係が問題になっているものである。刑事事件としての処理も、想定されていたことから非常に詳細な事実認定が行われており、瑕疵のある申告やほ脱への対応方法を学ぶ上では、参考となるべき事案であろう。特にここの論点は一般的な事例であるものの、丹念に事実関係を整理し、法令の適用を行っている点は課税実務家として有益な事案ではないだろうか。

なお、本件は、ほ脱等において租税の専門家として高度の倫理的責任を負うているべき税理士が関与している犯則事件でもあり、自身名義の口座を貸出し、実質的な代取の報酬の振込先として活用させるなど積極的な関与が認定されている。専門家としての責任や倫理を如何に捉えているのかという点で、強く非難されるべき行為であると考えられる。

また、本件では関連会社を利用した架空経費、報酬の利用をもって雇用契約に基づく給与の支払いとして利用していたことが課題となっているが、なかでも、この関連会社における源泉徴収義務が原告法人に対してどのように影響するのかという点が問題となる。原告における課税処分としては、関連会社が実態がないものとして、その報酬及び源泉徴収義務が発生しているものとして処理されている。従って第三者である関連会社名義でなされた源泉徴収義務の履行が原告法人に帰属されるものとして取り扱われるのかという点が問題になる。判示はその代替性を否定している。かかる点は特殊な関連会社によるものであるが、源泉徴収義務の法的性格を表しているものといえよう。基本的には、代替や第三者による源泉徴収義務の履行を本来の源泉徴収義務者に変わるものとして捉えることは認められないものと考えられる。源泉徴収義務が徴収の便宜上、特別な責任を法によって担保しているものであり、その地位の変更は困難なものとして理解されることが源泉徴収の性格から整合的であろう。

以上です。
毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成29年4月3日裁決、国内源泉所得における源泉徴収義務と支払)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月3日裁決で、関連法人からの借入に関する利子支払いを元本に組み入れた時点で、源泉徴収義務が発生するのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、国内法人である請求人が外国法人であるオランダ関連会社から借入を行っており、当該債務に係る利子の支払いを元本に組み入れていた処理を行っていた場合において、当該処理が国内源泉所得の「支払」に該当し、源泉徴収義務を負うべきものであるのか否かという点が問題になった事例である。国際的な取引、資金移動における源泉徴収義務の起点となるべき支払がいかなるものとして解されるべきであるのかという点が中心的な争点になっているものと捉えられる。近年はグローバル化、国際的な取引の増加や、単一の会社単位ではなく、資金管理・債権債務管理をグループ全体で管理し、実際の資金供給と債務の支払が一括して管理されているキャッシュタンクのような機能をもった会社機能として有しているような企業も、グループ単位で運営されているケースが増加している。本件もこのような背景が増加する中でより先例的な位置づけを与えられるべき事例であるだろう。このような統合的な、グループでの管理運営が多様化していくと、かかる中において、どのように資金管理、租税負担を行っていく、効率化した体制を構築していくのか、という点は国外展開、あるいはグループ企業において課題であり、租税条約や特典措置の適用等も鑑みて体制の構築に務めるべきものとして本件は参考となろう。


(源泉徴収義務)
第二百十二条 非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第百八十条第一項(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)又は第百八十条の二第一項若しくは第二項(信託財産に係る利子等の課税の特例)の規定に該当するもの及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(支払の意義)

181~223共-1 法第4編《源泉徴収》に規定する「支払の際」又は「支払をする際」の支払には、現実の金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれることに留意する。

以上のように本件の中心的な争点は所得税法に定める源泉徴収義務が発生する点につき、その法令上の起点となるべき「支払」につき、実際の債務者に対する資金拠出がない状況のようなものも対象として含むものと解されるのか否かという点が法令上の課題であろう。このような元本繰入れについては支払に含むものと解するのか否かという点については、上記のように所得税法基本通達において、例示として言及されているものであるが、かかる解釈が如何なる所以にあるのかという点が問題と考得られる。特に現代のような統合的な資金管理が主流となりつつあるような状況下においてこのような解釈が妥当であるのか否か、より検討すべきものと考えられる。

「所得税法第212条第1項に規定する「支払」には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払債務が消滅する一切の行為が含まれると解される。」

本件判断においても、特段の検討もなく、上記のように通達をそのまま引用し、国外源泉所得の支払の意義を述べている。裁決である以上、当然であるようにも捉えられるが、現状において、源泉徴収義務の起点となるべき支払の意義を如何に解するのか、という点は、今後の課題となろう。通常の文理であれば、金銭の資金拠出を伴うものが本来ならば、支払であり、一般的な納税者におけるレベルに置いてもその点は当然であろう。しかしながら現行法の解釈において本件のように、金銭等の支払がなくともその対象とされ、いわば、「支払」が非常に幅広い意義を有しているように捉えていることは、この納税者の予測可能性等、租税法規の基本的な要請に合致しているのか等の、是非も議論されるべきものであるが、専門家としては認識されるべきであろう。本件はあくまでも国外源泉所得における源泉徴収義務における起点を判断しているものであるが、租税法規一般においてこのように支払を考えているのか否かという点は検討すべきであろう。

現行法の解釈の所以が如何なるところにあるのかという点は定かではないが、国際的な資金移動において、国内源泉所得に対して課税漏れ、租税回避を招かず、適切な租税負担を企図したのとして理解するならば、このような解釈にも一定の合理性はあるものと考えられる。いわば固有概念として支出の有無にかかわらず、租税法規においては、少なくとも源泉徴収義務規定においては、広く支払を認識することとしているものとも理解され、納税者の予測と比較衡量されているものというべきであろう。しかしながら如何なるタイミングをもって支払とするのかという点は、必ずしも明らかではなく、例示に加えて、通達では債務の消滅を一つのメルクマールとしているが、抽象的であり、源泉徴収義務の発生のタイミングのみならず、損金としての計上のタイミングへも影響を及ぼすものであり、管理運営の際にもより慎重な判断が求められるのではないだろうか。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。