さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年5月8日裁決で、特定口座における株式の譲渡日が課題となっている事例です。
具体的には、個人として株式投資を特定口座にて行っていた請求人が、当該取引において、年末において約定し、当該株式の受渡しを年明けに行ったケースにおいて、如何なるタイミングをもって、その譲渡日として、しかるに譲渡所得の起算日をカウントするものであるのかという点が中心的な課題となっている。本ケースは年末をまたいでおり、そのタイミング次第で、譲渡所得の起算日となる譲渡日が異なることになり、もってその譲渡所得の帰属日も変動することになるものである。一般的に譲渡所得のの計算において、如何なるタイミングをもって譲渡日とするのかという点は、その所得の起算、帰属を判断する上で、重要なものであり、その譲渡日をどのように認定するのかという点は留意されるべきものであろう。この点は言うまでもないことであるのかもしれない(実務家がそもそもそんなに気にしているのかという点はよくわからないが、どうだろう)。本件はこの譲渡所得において、特定口座における株式をどのように捉え、そもそもとして特定口座をどのようなものであるのかという点を考える上で、参考となるものであろう。実務的には、特定口座における取引は、証券会社等を通じて、その計算が行われるものであり、殆ど考慮に値するものではないのかもしれないが、かかる点において、本件のように、その譲渡日を約定日として、証券会社の計算とは異なり、自己の意思をもって主張する事例は特殊なものであると考えるべきであろうが、上記のように特定口座の性格に基づき、その譲渡日が判断されており、その口座の法的な性格を理解する上で参考となるものと考えられる。
特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等に対する源泉徴収等の特例)
第三十七条の十一の四 居住者又は恒久的施設を有する非居住者に対し国内においてその営業所に開設されている特定口座(前条第三項第一号に規定する特定口座をいう。以下この条において同じ。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡の対価又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等の決済(当該信用取引等に係る株式等(第三十七条の十第二項に規定する株式等をいう。)の受渡しが行われることとなるものを除く。以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「差金決済」という。)に係る差益に相当する金額の支払をする金融商品取引業者等は、当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者から、政令で定めるところにより、その年最初に当該特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡をする時又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等につきその年最初に差金決済を行う時のうちいずれか早い時までに、当該金融商品取引業者等の当該特定口座を開設する営業所に特定口座源泉徴収選択届出書(この項の規定の適用を受ける旨その他財務省令で定める事項を記載した書類をいう。第五項において同じ。)の提出があつた場合において、その年中に行われた当該特定口座(以下この条から第三十七条の十一の六までにおいて「源泉徴収選択口座」という。)に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡又は当該源泉徴収選択口座において処理された上場株式等の信用取引等に係る差金決済により源泉徴収選択口座内調整所得金額が生じたときは、当該譲渡の対価又は当該差金決済に係る差益に相当する金額の支払をする際、当該源泉徴収選択口座内調整所得金額に百分の十五の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する年の翌年一月十日(政令で定める場合にあつては、政令で定める日)までに、これを国に納付しなければならない。
居住者等が、上場株式等保管委託契約に基づき特定口座内保管上場株式等の譲渡をした場合の譲渡所得の計算は、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額等と区分して、個々の特定口座ごとに行うものとされ(措置法第37条の11の3第1項)、その計算を行う場合の必要経費又は取得費に係る計算は、いずれも特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として、金融商品取引業者等が計算を行うこととされている(措置法施行令第25条の10の第2項)。また、金融商品取引業者等は、特定口座年間取引報告書を作成して特定口座の開設者に交付するところ(措置法第37条の11の3第7項)、当該報告書には、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る収入金額のうち特定口座において処理された金額の総額、その取得費の額及び当該譲渡に要した費用の額の合計額の総額が記載され(措置法施行規則第18条の13の5第2項)、これらの金額はいずれも当該特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として計算した額となる。
以上のように本件の中心的な争点は特定口座を利用した株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日が認定されるものであるのかという点である。法は上記のように定め明確に特定口座における譲渡日を定めていない。法令上は上場株式等を譲渡した日を解釈し、その譲渡日を認定することになるだろう。
特定口座は証券取引税制の改正により、設けられたものであり、基本的に納税者の便宜を図ることをその基礎として、成立している特別措置であり、租税特別措置法において定められるものである。このような特殊な株式取引において、如何なるタイミングをもってその譲渡日とするのかという点が本件の背景にあるものと理解される。特に納税者の便宜において成立する制度において、さらに、納税者において選択の余地があるのかという点は興味深い。基本的にわが国の租税制度は、申告納税制度を基礎としており、本件もその前提があるものであり、納税者の一定の意思は考慮される可能性はあるものの、源泉徴収義務の成立、納税者の便宜を基礎とする制度において、このような点が認められるものであるのかという点は、検討課題であろう。
判断では、源泉徴収義務の成立をその起点としており、税額の確定におけるタイミングにおいて、その譲渡日を源泉徴収義務の発生と紐づけて理解している。その背景として納税者の便宜を趣旨とする制度であることと、もって金融業者に委ねている制度であると理解しているものであろう。しかるに、金融業者における計算書に記載された受渡日をもってその譲渡日として判断付けている。このように源泉徴収義務と紐づけて理解している点が特定口座の正確によるものではないだろうか。しかしながら、いわば、金融業者に委ねられているという理解と、源泉徴収義務との関連付け、紐づけ、そもそもの上記法規における譲渡日はいかなるものとして理解されるのかという点は、必ずしも明示的に関連付けられるものであろうか。必ずしも明示的に解されると理解することが可能であろうか。租税法規の選択適用が認められることは限定的であり、そもそもとしてこのような形で納税者の意思が介入することは、基本的に回避されるべきものとして解する傾向にあるが、口座の成立趣旨等から、その譲渡日と源泉徴収義務を紐付けることは一定の合理性があるものとも考えられるが、混乱を招かないように、法文においてより明示する必要があるのではないだろうか。