2017年12月16日土曜日

判例裁決紹介(平成28年11月18日裁決、除却予定の建物の取得価額)

さて、また興が乗ったので判例採決紹介を作成しました。今回は平成281118日裁決で建物と土地を一括に取得し、その建物の除却損の計上が否認された事例です。

具体的には、本件は建物付の土地を購入した請求人が、土地の利用のため当該建物の除却費用(取り壊し)を損金計上した是非が争われたものである。当該購入時点において、当該建物は土地の活用を目的とした購入であって建物は取り壊しによる除却予定であったものであり、契約書金額において売買価格は、建物部分に関しては、零円と記載されていたものである。請求人はその確定申告において上記建物の除却損を計上して申告を行ったものであるが、上記契約金額の記載事項をもって、課税庁は当該建物の取得価額は零円であり、当該損金の計上を否認した更正処分を行ったところ、請求人が自己の経理処理として不動産取得税に基づく按分処理により当該建物の取得価額を算定し、除却費用を計上したことは構成処理基準に合致するものであるとして不服を申し出たものである。

すなわち、本件の中心的な争点は、除却予定にある建物の取得価額が如何なるものであるのかという点であり、その具体的な算定が問題とされたものであると捉えられる。実務上このような取り壊し予定がある場合の取得価額としては、下記の通達にあるように、土地の取得価額として算定することが一般的であろうが、その除却資産の損金計上を図ったものであり、請求人自らが結んでいる契約書の金額をオーバーライドして自己の判断による按分金額を取得価額としているものである。

一般に購入した資産、減価償却資産の取得価額に関しては、購入時点において、契約や支払いの事実が存在することにより、その算定が困難となるような場合は想定しがたいが、本件は他の資産との共同購入であり、さらには実質的に土地の取得を目的としたものであり(この点は事実関係からうら付けられている)、という状況に依拠したものであるが、かかるような取得価額が如何なるものであるのかという点(契約による譲渡代価の区分が不明瞭であり、按分等によって取得した資産の取得価額を法的にはいかなるものとして捉えるべきであるのかという点は)、単に本件のような除却損の金額を算定するのみならず、その具体的な金額の確定によって減価償却等においても重要な計算要因となるものであり、その具体的な意義、金額の確定に際しては、法が予定する取得価額とはいかなる意義を有するものであるのかという点を前提とするべきものであり、その具体的な意義、特に購入時点における代価が問題となるべきものと考えられる、通常、取得価額の算定においては、下記のように代価というよりはむしろ、直接要した費用(いわゆる付随費用)の存在がいかにして認定されうるものであるのかという点が課題とされることが多いものであるが、本件はいささか趣を異にするものであり、かかる点からも財産の取得価額を明らかにする上で、実務上も参考となるべき事案であると考えられる。

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
6 第一項の選定をすることができる償却の方法の特例、償却の方法の選定の手続、償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価額、減価償却資産について支出する金額のうち使用可能期間を延長させる部分等に対応する金額を減価償却資産の取得価額とする特例その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は、政令で定める。
(減価償却資産の取得価額)

第五四条 減価償却資産の第四十八条から第五十条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ各号に定める金額とする。

一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

(土地とともに取得した建物等の取壊費等)

736 法人が建物等の存する土地(借地権を含む。以下736において同じ。)を建物等とともに取得した場合又は自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額(廃材等の処分によって得た金額がある場合は、当該金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する。

上記のように本件における中心的な争点は、同時購入した土地およびその上に存していた建物の取得価額がいかなるものであるのかという点である。上記のようにその取得価額は法人税法本法の委任を受け、施行令において具体的に一定の類型のもとでそれぞれの取得価額の算定方法が法定されている。本件においては上記通達が示すような状況、すなわち建物の利用を企図したものではなく、あくまでも取り壊し等除却を行い、土地の利用を行うことが明らかである場合である場合において、建物における取得価額の存在を基礎とした除却損の計上が認められうるものであるのかということが問題となっている。実務上はこの取扱が基本となっていることであろうが、必ずしも根拠があるものではない。この点につき、本件においての中心的な法令解釈としては、この取得価額がいかなるものであるのか等意義をいかに解するものであるのかという点がその背景にあるものと認識される。

本件は土地の利用を前提とした取得を前提としたものであり、その取得した資産(建物)が除却対象であったという特殊な要因が起点となっているものであるが、契約書における購入の代価として記載されている金額がゼロ円である点が特徴的なものである。しかしながら、かかる点に限らず、同時購入あるいは請求人の主張にあるように、複数の資産の一括譲渡した場合における代価の区分等の状況においても、区別が明瞭ではない複数資産に関して問題となるような状況であり、かかる点は比較的上記のような事情に左右されることなく、重要な点であろう。

そもそも法が取得価額を上記のように法定していることは、他の一般的な会計処理とは異なるものであり、この点が取得価額の意義を解するうえで重要な点であろう。

  法人税法施行令第54条第1項第1号は、購入した減価償却資産の「取得価額」について、「当該資産の購入の代価」と「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨規定している。同号は、一般に公正妥当な会計処理の基準を要約したものと認められる企業会計原則第3の5を具体化した規定であるから、非減価償却資産である土地の取得についても類推 適用することができるところ、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかである。そして、売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって、購入の代価するのが合理的である。
  本件判断においては、上記のように一般に公正妥当な会計処理の基準の具現化と解している。このような点において減価償却に代表される固定資産の取引に関しての法定化の意義をとらえている点には疑問を覚える。そもそもこのような法定処理はその起点を所得計算における減価償却の特殊性に依拠していると理解すべきであろう。すなわち、減価償却は、通常の購入や役務提供とは異なり、多年度にわたり費用配分を行うことをその基礎としている点から、第三者の介在がなく、内部取引となる。つまり恣意的な活用によりその形状をコントロールして費用計上などを行うことが可能となるような恐れを有している。かかる点を考慮して、法、特に法人税法は執行の便宜や煩雑さを回避するべく、224項において公正処理基準を基礎とした計算規則を定めているものの、その例外として耐用年数、計算方法、損金経理の要請等を付与しているものであり、本件の中心的な争点である取得価額においても、この計算の基礎となるものであり、同様の趣旨をその背景においているものと解するべきであり、ゆえに上記のように一定の類型のもとで法定しているものと考えられる。ここに取得価額の意義の重要性が見いだされることになる。

本件で問題となっている建物の取得価額に関しては購入を行ったものであり、その具体的な意義としては購入の代価であることになっており、通常、民事法の概念も借用しつつ決定されるべきものである。すなわち代価という概念は購入契約における契約同意、もしくは実際の支払額に該当することはその文理からも特段、異論は存在しないであろう。上記取得価額においても基本的にこの点につき変更はないものと理解され、上記のような取得価額や減価償却において求められている趣旨に反するような状況にない限りにおいて、契約書の金額を否定して、別の金額を付与することは非常に困難であるものと考えられる。しかるに本件の結論には賛意を示すが、上記のようにその判断プロセスにおいて検討すべき点があるように考えらえる。

上記のように本件判断では、土地の存在を基礎としてその取得価額の判定を行っており、上記取得価額の規定を公正処理基準であることを基礎として類推適用を行うことができる旨をその前提としている。本来ならば、土地の取得価額がいかなるものであるのかという点からアプローチせずとも除却予定の建物の取得価額が除却損の前提となるものであり、この価額を具体的に判定すれば足りるものであろう。土地はその価値を時の経過に伴って減少するものではなく(私見としては価額の変動が存在しており、また、需要面の影響を受ける土地が非減価償却資産であるとの仮定は、現況において妥当であるのかという疑問はあるがこれは別の問題でもある)、非減価償却資産であり、その性格は法人税法においては減価償却資産と同様のものとは捉えることは困難である。もちろん複数の土地の一括売買においては別のアプローチが必要(立法論としては検討課題となろう)となろうが、少なくとも本件においては、必ずしも土地の取得価額に関してはその類推適用を行う観点から議論する必要性は如何なるところにあったのであろうか。私見としては上記のように、減価償却資産であることを前提とした規定であることを鑑みるならば、かかる判断は議論の余地があるものと考える。租税法規一般においてもその規定の本来のものとは異なるものに対して類推適用を行うことは租税法規の基本的な要請からみて、妥当であるのかという点は、消極に解するべきであろう。
また、そもそも上記規定が公正処理基準の具体化であるという判断には疑問を覚える。上記のように本規定は減価償却資産の性格に起因するものであり、その性格としては法人税法の独自の計算への考え方を反映させているものと理解するべきであろう。減価償却に関する会計基準も租税法の影響を受けているものであり、順序が異なるものである。
但し、このように基本的には、契約書の金額による購入代価の判定は一定の客観性が確保され、租税法規の基本的な要請に合致するものであると評価される。しかしながら、このような取得価額の判定は必ずしも支配的なものではなく、土地等や譲渡時における合理的な按分方法(例えば本件のような不動産取得税等に基づくもの)による取得価額を否定するものではないだろう。何をもって合理性を判断するものであるのかという点は、問題であるが、実務においては固定資産税等一定の客観性を確保しており、この点において一定の妥当性、合理性を有していることは否定しがたいもののあくまでも、このような算定方法は拡張的に適用されるべきものではなく、法規による購入代価という文言からは、原則的には契約書等の代価の判定が一義的であることは留意されるべきものであろう。租税法としては、この例外となる場合がいかなる状況であるのかという点を検討課題となるだろう。また、本件の利用用途のように、一定の例外的な状況を判断し、取得価額を算定する際には、この利用目的の把握が必要とされることとなり、取得価額の算定は、損金計上に於いて影響を与えるものであろうからより合理的な判断においては、取得意図の把握が必要となるものであり、その判断によって租税負担の差異が発生することは中立性という観点からは取得との関連性を如何に捉えるべきであるのかという点は検討の必要があるものと考える。


以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年12月9日土曜日

判例裁決紹介(平成28年8月25日裁決、復興法人税の納税義務者、賠償金と非課税措置)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今季は平
成28年8月25日裁決で、東日本大震災における福島原子力発電所自己に伴う受領した賠償金と復興法人税の課税対象を巡って争われた事案です。

具体的には、福島県に所在し東日本大震災に伴う原子力発電所自己による賠償金を東京電力から受け取った請求人(法人)が、当該金員を収益として計上しつつも申告段階において、当該金額を減算措置を行い申告をなしたところ、課税庁がその余な減算措置は行うことはできないとして、更正処分を行ったところ、上記に加えて自社は被災地域にある法人であり、復興法人税の課税対象として復興財源確保法に定める法人に該当するとして納税義務があると解することは、法令の趣旨に反すると主張して当該処分の取消を求めたものである。

本件は、被災地域にある請求人の自己の主張・見解(正式には、弁護士会の主張の引用をなしているとのことではあるが)に基づき、課税を非難するものであり、本来ならば立法によるべきものを自己の独自の見解に基づき不服を申し立てているものである。平成29年度税制改正による災害対応税制の制定など、東日本大震災及び福島原子力発電所事故は未曾有の災害であり、我が国の租税制度に投げかけた課題は多数存在するものの、本件もこの類型に属するものであり、法人として受領した賠償金、金員の租税上の取扱や復興に伴う財源確保のあり方など、議論対象として立法によるべきものを自己の課税処分の取消を求めた事例であり、些か政治的・政策的な主張を含むものとも評価して対応すべきものとも評価すべきものであるのかもしれないが(実際、判断においては、大部分が請求人の独自の見解に基づくものとして、合理性を否定する際に多用される表現であるが、否定されている)、法人という文言に対する趣旨解釈としても法令解釈の観点や、また先行事例として非課税措置に対する公平性を検討する際にも参考となるべきものと考えられる事案である。

第一点の賠償金の損金としての取扱あるいは益金減算措置に関しては、口蹄疫に伴う手当金の同額を損金として取扱、実質的に課税対象から除外する措置が行われている。本件の主張もこの規定の類推適用を図ったものとして主張が請求人から行われている。

3  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
  1. 一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
  2. 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
  3. 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
そもそも法人税法において課税対象から除外、損金として計上することに関しては、厳しい制限が加えられており、その範囲をみだりに変更することは、租税法律主義・公平負担の要請の双方から許容されるべきものとは解されない。かかる点からは本件のような主張は基本的に立法の範囲に属するべきものと捉えられ、口蹄疫対策の法令の類推適用は認められる余地はないものと考えるべきであろう。
しかしながらこのような災害等による見舞金や賠償金の受領は多様な事例において想定されるべきものであり、実際、東日本大震災においても見舞金等の支出先としての措置が特別措置法において定められている(交際費・寄附金等の例外)。本件はこのような先行事例との対比において非課税措置を求めるものであり、そのような非課税措置の性格を評価することが必要であろう。類推適用は租税法規の基本的な要請としてその適用の判断は困難であろうが、このような非課税措置が一旦導入されると立法論としても先行事例として本件のように先例として主張の根拠となり、立法対応を求められるものとなろう。実際、立法論としても先行事例の存在は反証が困難であるようなあがらい難い存在ともいえる(そもそも、より一般論としても先行事例の存在は重要な要因となるものでありかかる点において租税制度における歴史的な背景を検討することの重要性は存在しているものと考えられる)。一旦導入が決定されることとなろうが災害対応としてのフェアの観点からは同種対応がもとめられることになろうが、議論対象として歴史が証明することであろうが安易な非課税措置を導入することは総合的なフェアの観点からはリスクとなるものといえる。災害に伴う損失は情緒として寄り添うべきものであることは言うまでもないが、災害時における異常点を起点として、非課税措置を規定することは、そもそも何をもって非課税とするべきであるのか、その基準が議論されるべきであるが(もちろん類型化は困難でもあるが、かかる点は租税法の検討課題でもあるだろう)、総合的に・慎重に判断されるべきものであり、早急な対応が求められる災害対応としては相性が悪く本質的には困難を伴うものと認識されるべきであろう。私見ながら租税の基本的な、本質的な機能として本来は一般的な経費の調達をその基礎とするものであり、非課税措置の拡張はこのような財源調達機能を損なう可能性を発生させることになろう。急事に対応することが求められる災害としては給付等の他の諸制度とのバランスが取られるべきものであり、非課税措置のフェアの観点からの危険性は改めて認識され対応における機能分担の必要性が認識されるべきものとも考えられる。
また、第二の論点である「法人』の意義をめぐるものである。請求人が復興財源確保法に復興法人税法の対象となる法人に該当するのかという点が課題となっている。請求人の主張としては被災地域の復興に伴う財源の調達を担うべきものとされる法令の趣旨に基づき、その適用。課税対象となることはそもそも不適切であるとしている。処分対応として適切な主張であるのかという点はさておき(純粋に見れば、更正処分の理由となった点とは直接的な関連性は薄いと評価される)、確かに復興対象としての政策論として立法論としてかかる点が措置対象となりうるべきものと考えられることは(もちろん実質的に災害損失の存在により課税負担を行うべき対象となりえない可能性も高い)、必ずしも否定されるべきものとは捉えられないものと考えられようが、法令解釈として検討対象となりうるものであるのかという点は別の議論として捉えるべきであろう。
本件判断においても、独自の見解に基づくものであり、検討対象となりうるものではないとして特段の検討もなく、否定している(上記処分との関連性の観点からも係る対応の合理性は否定し難いが)。但し法令解釈として以下のように復興財源確保法の定める納税義務者としての意義を検討する価値はあろう。特段の定義規定をおいていないが、下記の定めにある法人とは如何なる意義であるのか、如何にして解すべきものであるのかという点は課題となろう。
(納税義務者)
第四十二条 法人は、基準法人税額につき、この法律により、復興特別法人税を納める義務がある。

請求人の主張としては、上記法人は、復興財源確保法の被災地域の復興財源確保の趣旨の観点から、被災地域に該当するものはその対象から除外されるべきものであるとして限定的・縮小的に解釈するべきものとしている。法令の趣旨に基づき(請求人の主張としてはこのような理解は弁護士会の主張が背景にあるものとして根拠としているが、あくまでもこれは単なる職能団体の一意見であり、立法や解釈において根拠としての有権性を有しているものではないことは言うまでもない、そもそもこのような趣旨を有しているものであるのかという点は厳格に検討されるべきものとも考えられる)、限定的な解釈を行うことは法令解釈としての一般論として必ずしも否定されるべきものではない。一般感覚としても課税対象を限定的に考えることに違和感を主張することに対して違和感を覚える可能性は低いともいえよう。しかるに見解として合理性が必然的に欠けるものとして理解することは必ずしも適当ではないともいえる。

但し、私見としては、租税法規において趣旨に基づく限定的な解釈を許容されるべきものとはいえないものと考えられる、租税法規における文理解釈の原則は揺るがすべきものとはひょうすべきものとは言えないだろう。特に非課税となるような限定的な解釈は上記のように先例的にも重要な判断であり、フェアの要請、要件など多様な点を考慮されるべきものである。本件も復興政策としての観点から議論されるべきものであり本質的には立法の範囲に属するものと評価されるべきものであろう。法人税法その他法令における法人の意義とのバランスも法的な安定性を担保すべき基本的な要請も鑑みるべきものとも考えられる。しかるに法令の趣旨を反映させ文言の解釈を限定的に行うことは、特に非課税を伴う場合に限らず厳格に捉えられるべきものと考えられる(不動産取得税の非課税対象を判断する事例においても趣旨の反映を図った高裁判断を否定した最判の事例も存在している)。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2017年12月2日土曜日

判例裁決紹介(平成28年12月5日、不動産鑑定評価の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年12月5日裁決で相続税の確定申告において不動産鑑定評価の利用につきその評価の妥当性が問題となった事例です。具体的には、請求人が相続により取得した相続財産の申告につき、当該評価額が問題となったものであり、中心的な争点としては当該取得した不動産(土地・借地権等)に対して不動産鑑定評価を用いたところ、当該評価額は相続税法の時価によるものとは合致するものとは考えられず、財産評価基本通達による評価額によるべきであり、当該鑑定評価額は、その財産評価基本通達による評価額に対して合理性を否定するものとしては、評価することは困難であるとして、更正処分を行ったものであり、この処分に対して不服を申し出たものである。

相続税法による時価、すなわち、相続財産の価額をいかに捉えるべきであるのかという点は、相続により取得した財産的価値を課税対象とするものとして捉えるならば、相続税法において非常に重要な概念であり、また重要な課税要件となるものである。しかるにその価額時価の算定は相続税法において重大な争点となっており、多様な争点事例が存在している。本件もその累計に属するものであり、特に財産評価を行う上で、不動産鑑定評価を利用することが最も想定されるところであるが、その利用した評価額を否定したものであり、財産評価を学ぶ上で重要な事例と考えられる。通常は、財産評価基本通達による評価、すなわちその適用が合理的であるのかという点が中心的な争点となるものであり、これにより算定された価額が相続税法が求める時価として高額であるのか否かという点が争点となることが多いものと考えられるのが相続税における財産評価の課題であるが、本件は多少趣が異なり、納税者が用いた不動産鑑定評価の妥当性が中心的な争点となっている。実際相続税申告においていかなる状況で不動産鑑定評価が用いられているのか、その位置付けは如何に捉えられているのかという点は定かではないが(この点については実務家にヒアリングしてみたいところではある)、不動産評価の申告における活用を問う上で参考となるものであり、如何なる点で相続税法に定める時価に合致するものではないのか、すなわち、以下のように相続税法22条に定める時価の解釈との関連においていかにして判断されるものであるのかという点を検討する上実務上も参考となるものであろう。
(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

特に本件における鑑定における収益還元価格の評価は特殊関係者間における取引を前提としたものであり、かかるような場合における収益還元価格評価の活用は困難ともいえる。このような点もより具体的には課題と言えよう。

最終的な判断として、本件で問題となった不動産鑑定評価や収益還元評価による評価額が相続税法において一般的に必ずしも否定されるものではないものと考えられるが、相続税法における時価の算定において、単なる価値の測定、価額自身のみならず、如何なるプロセスで、評価がされたものであるのか、その評価プロセスが合理的なものであるのかという点が問題となったものと考えられ(かかる点で本件で用いられた評価は非合理的であったものであろう、詳細な中身においては主観的な評価であると認定されうる)、この評価プロセスに対する評価もまた、評価額自身と同様に重要なものであると考えられることが指摘される。かかる点からは鑑定評価においてこのような評価プロセスの明記が重要なものとなり、鑑定評価が、評価基準に則り検証可能であるのか要求されているものともいうべきであろう。この点は鑑定評価の合理性を追求する上で重要な考慮要素となるものと考えられる。さらにどの程度具体的に検証可能であるのかという点が課題となるものだろうが、かかる点についても判断過程の検証を基礎とする更正処分における理由附記を参照として検討されるものと考えられる。

判断においては、以下のように、まず、相続税法における時価として
「 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為 準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」

相続税法における時価の意義、そしての具体的な算定方法において、財産評価基本通達の位置付けを検証している。そしてさらに、以下のように、

「 そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格ないし税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価して行われたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。
 したがって、このような場合には、請求人らにおいて、評価通達の定めに従って評価したという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがある等、その評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」
 
相続税法における時価と評価通達による評価額の関係性を認定して、広く合理性を有する旨の推定の作用、そしてその評価額における争い方として、算定プロセスの合理性若しくは、不動産鑑定評価などの資料によって評価額が時価を上回るものであると主張立証しなければならないと、判断プロセスを限定的に判断している。この点は従来と基本的に同様であり、このプロセスにおいて、不動産鑑定評価における評価額の合理性が争われ、鑑定評価を用いることの是非が判断されるものと判断している。

このように、本件における中心的な争点は請求人が用いた不動産鑑定評価が相続税法における時価として妥当であるのか否かという点がである。但し、最終的には財産評価基本通達による評価に基づくものであるとしており、この対比によって如何なる時価が相続税法において要求されているものであるのか、という点が課題となっている。22条は上記のようにその時価をもって相続財産の価額として折、時価とは取引等の行為で決定されるものであって本来ならば、その概念として多様な金額を含むものと考えられる。しかしながら、学説判例ともに、かかるような本来的に幅のある概念である時価に対して、客観的な交換価値をいうものと解しており、この点において本件も整合的である。すなわち第三者が関与するような市場取引を通じて客観性が認定されることを要請しているものであり、租税法規における基本的な要請においても合致しているものと考えられる。かかる点は異論がないところであり、財産評価の各種方法においてもこの要請と合致しているのか否かという点が求められるものと考えられる。

しかるにこの枠組にて本件における不動産鑑定評価の合理性が問われるものといえるが、単なる交換価値となるような金額を測定する・認定すれば足りるものではなく、客観性が重要であり、この検証が行えるかどうか、すなわち評価鑑定プロセスにおいて検証可能であるのかという点が重要な点であり、この点における評価が本件判断を左右している。

具体的には、本件においては収益還元価格法の採用が行われている。この評価方法の相続税法における活用の是非については従来多様な議論が行われているものであるが、本件もその類型に属するものである。まず実際に行われているものが、割合法評価との対比において、価格差を支える理由付の不備である。他にも割引率(約3.5%)の選定理由の明示がない、というように鑑定評価におけるプロセスの記載がなく、検証可能性に欠けていることが問題視されている。つまり、市場が形成されず、鑑定によって評価を行う以上、一定の見積もりが介在することは避けようがないものであるが、恣意的な評価を行うことは上記のほうが求める要請として客観的な時価としての要件を充足するものではなく、公平性を担保しているものであるとは、評価し得ないとしている。また、借地権評価においても、鑑定基準に従ったものではない、加味すべきではない要件を付与している等、その客観性を失わせる状況が、客観性を判断する上での不適格な要因が存在したことが本件判断における不動産鑑定評価の劣位を決定づけたものといえよう。

しかしながら、このように考えると、原則的な評価としての推定を受ける財産評価基本通達及びそれに基づく評価が如何に位置付けられるのかという点が課題となる。すなわち財産評価基本通達は単に通達であり、法源性を有していない。かかる点からは現状において通達による評価が原則的な位置付けを受け、実務における基準として認定されていることは租税法規の基本的な要精に照らして担保し得ない。しかるに、この位置付けを如何に捉えているのかという点が問題となる。私見としては、上記のように相続税法が、客観性に裏打ちされた交換価値を対象として要請しているという点から(及び判例も)課税庁において、統一的に一律に評価を行うことは執行の公平性や客観性を確保する上で、上記相続税法が客観性を要請することで租税負担の公平性と恣意的な課税を防止する趣旨であると解するならば、この評価通達における一律の評価は、二重の意味で合理性を有していることとなる。しかるに、上記のように、一定のプロセスの評価において客観性の確保が保証された場合においてのみ(このような限定された状況下に於いてのみ)当該評価額が財産評価通達評価額を上回っていることが明らかな状況下であることを捉えて初めて、当該評価通達の時価としての推定を覆しうるものと考えられる。このように厳格な推定を覆す要請が働いているものと解すべきであろう。しかるに評価金額の高低のみが問題となるものではなく、このような判断枠組みは租税法規において不適切として捉えられていることは留意すべきであり、ここに財産評価基本通達の法に根拠規定を置くべきであるのか、あるいは、例外的な状況を如何に判断すべきであるのかという点を検討する必要性が発生することになろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。