さて、また興が乗ったので判例採決紹介を作成しました。今回は平成28年11月18日裁決で建物と土地を一括に取得し、その建物の除却損の計上が否認された事例です。
具体的には、本件は建物付の土地を購入した請求人が、土地の利用のため当該建物の除却費用(取り壊し)を損金計上した是非が争われたものである。当該購入時点において、当該建物は土地の活用を目的とした購入であって建物は取り壊しによる除却予定であったものであり、契約書金額において売買価格は、建物部分に関しては、零円と記載されていたものである。請求人はその確定申告において上記建物の除却損を計上して申告を行ったものであるが、上記契約金額の記載事項をもって、課税庁は当該建物の取得価額は零円であり、当該損金の計上を否認した更正処分を行ったところ、請求人が自己の経理処理として不動産取得税に基づく按分処理により当該建物の取得価額を算定し、除却費用を計上したことは構成処理基準に合致するものであるとして不服を申し出たものである。
すなわち、本件の中心的な争点は、除却予定にある建物の取得価額が如何なるものであるのかという点であり、その具体的な算定が問題とされたものであると捉えられる。実務上このような取り壊し予定がある場合の取得価額としては、下記の通達にあるように、土地の取得価額として算定することが一般的であろうが、その除却資産の損金計上を図ったものであり、請求人自らが結んでいる契約書の金額をオーバーライドして自己の判断による按分金額を取得価額としているものである。
一般に購入した資産、減価償却資産の取得価額に関しては、購入時点において、契約や支払いの事実が存在することにより、その算定が困難となるような場合は想定しがたいが、本件は他の資産との共同購入であり、さらには実質的に土地の取得を目的としたものであり(この点は事実関係からうら付けられている)、という状況に依拠したものであるが、かかるような取得価額が如何なるものであるのかという点(契約による譲渡代価の区分が不明瞭であり、按分等によって取得した資産の取得価額を法的にはいかなるものとして捉えるべきであるのかという点は)、単に本件のような除却損の金額を算定するのみならず、その具体的な金額の確定によって減価償却等においても重要な計算要因となるものであり、その具体的な意義、金額の確定に際しては、法が予定する取得価額とはいかなる意義を有するものであるのかという点を前提とするべきものであり、その具体的な意義、特に購入時点における代価が問題となるべきものと考えられる、通常、取得価額の算定においては、下記のように代価というよりはむしろ、直接要した費用(いわゆる付随費用)の存在がいかにして認定されうるものであるのかという点が課題とされることが多いものであるが、本件はいささか趣を異にするものであり、かかる点からも財産の取得価額を明らかにする上で、実務上も参考となるべき事案であると考えられる。
(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
6 第一項の選定をすることができる償却の方法の特例、償却の方法の選定の手続、償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価額、減価償却資産について支出する金額のうち使用可能期間を延長させる部分等に対応する金額を減価償却資産の取得価額とする特例その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は、政令で定める。
(減価償却資産の取得価額)
第五四条 減価償却資産の第四十八条から第五十条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ各号に定める金額とする。
一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
(土地とともに取得した建物等の取壊費等)
7-3-6 法人が建物等の存する土地(借地権を含む。以下7-3-6において同じ。)を建物等とともに取得した場合又は自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額(廃材等の処分によって得た金額がある場合は、当該金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する。
上記のように本件における中心的な争点は、同時購入した土地およびその上に存していた建物の取得価額がいかなるものであるのかという点である。上記のようにその取得価額は法人税法本法の委任を受け、施行令において具体的に一定の類型のもとでそれぞれの取得価額の算定方法が法定されている。本件においては上記通達が示すような状況、すなわち建物の利用を企図したものではなく、あくまでも取り壊し等除却を行い、土地の利用を行うことが明らかである場合である場合において、建物における取得価額の存在を基礎とした除却損の計上が認められうるものであるのかということが問題となっている。実務上はこの取扱が基本となっていることであろうが、必ずしも根拠があるものではない。この点につき、本件においての中心的な法令解釈としては、この取得価額がいかなるものであるのか等意義をいかに解するものであるのかという点がその背景にあるものと認識される。
本件は土地の利用を前提とした取得を前提としたものであり、その取得した資産(建物)が除却対象であったという特殊な要因が起点となっているものであるが、契約書における購入の代価として記載されている金額がゼロ円である点が特徴的なものである。しかしながら、かかる点に限らず、同時購入あるいは請求人の主張にあるように、複数の資産の一括譲渡した場合における代価の区分等の状況においても、区別が明瞭ではない複数資産に関して問題となるような状況であり、かかる点は比較的上記のような事情に左右されることなく、重要な点であろう。
そもそも法が取得価額を上記のように法定していることは、他の一般的な会計処理とは異なるものであり、この点が取得価額の意義を解するうえで重要な点であろう。
法人税法施行令第54条第1項第1号は、購入した減価償却資産の「取得価額」について、「当該資産の購入の代価」と「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨規定している。同号は、一般に公正妥当な会計処理の基準を要約したものと認められる企業会計原則第3の5を具体化した規定であるから、非減価償却資産である土地の取得についても類推 適用することができるところ、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかである。そして、売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって、購入の代価するのが合理的である。
本件判断においては、上記のように一般に公正妥当な会計処理の基準の具現化と解している。このような点において減価償却に代表される固定資産の取引に関しての法定化の意義をとらえている点には疑問を覚える。そもそもこのような法定処理はその起点を所得計算における減価償却の特殊性に依拠していると理解すべきであろう。すなわち、減価償却は、通常の購入や役務提供とは異なり、多年度にわたり費用配分を行うことをその基礎としている点から、第三者の介在がなく、内部取引となる。つまり恣意的な活用によりその形状をコントロールして費用計上などを行うことが可能となるような恐れを有している。かかる点を考慮して、法、特に法人税法は執行の便宜や煩雑さを回避するべく、22条4項において公正処理基準を基礎とした計算規則を定めているものの、その例外として耐用年数、計算方法、損金経理の要請等を付与しているものであり、本件の中心的な争点である取得価額においても、この計算の基礎となるものであり、同様の趣旨をその背景においているものと解するべきであり、ゆえに上記のように一定の類型のもとで法定しているものと考えられる。ここに取得価額の意義の重要性が見いだされることになる。
本件で問題となっている建物の取得価額に関しては購入を行ったものであり、その具体的な意義としては購入の代価であることになっており、通常、民事法の概念も借用しつつ決定されるべきものである。すなわち代価という概念は購入契約における契約同意、もしくは実際の支払額に該当することはその文理からも特段、異論は存在しないであろう。上記取得価額においても基本的にこの点につき変更はないものと理解され、上記のような取得価額や減価償却において求められている趣旨に反するような状況にない限りにおいて、契約書の金額を否定して、別の金額を付与することは非常に困難であるものと考えられる。しかるに本件の結論には賛意を示すが、上記のようにその判断プロセスにおいて検討すべき点があるように考えらえる。
上記のように本件判断では、土地の存在を基礎としてその取得価額の判定を行っており、上記取得価額の規定を公正処理基準であることを基礎として類推適用を行うことができる旨をその前提としている。本来ならば、土地の取得価額がいかなるものであるのかという点からアプローチせずとも除却予定の建物の取得価額が除却損の前提となるものであり、この価額を具体的に判定すれば足りるものであろう。土地はその価値を時の経過に伴って減少するものではなく(私見としては価額の変動が存在しており、また、需要面の影響を受ける土地が非減価償却資産であるとの仮定は、現況において妥当であるのかという疑問はあるがこれは別の問題でもある)、非減価償却資産であり、その性格は法人税法においては減価償却資産と同様のものとは捉えることは困難である。もちろん複数の土地の一括売買においては別のアプローチが必要(立法論としては検討課題となろう)となろうが、少なくとも本件においては、必ずしも土地の取得価額に関してはその類推適用を行う観点から議論する必要性は如何なるところにあったのであろうか。私見としては上記のように、減価償却資産であることを前提とした規定であることを鑑みるならば、かかる判断は議論の余地があるものと考える。租税法規一般においてもその規定の本来のものとは異なるものに対して類推適用を行うことは租税法規の基本的な要請からみて、妥当であるのかという点は、消極に解するべきであろう。
また、そもそも上記規定が公正処理基準の具体化であるという判断には疑問を覚える。上記のように本規定は減価償却資産の性格に起因するものであり、その性格としては法人税法の独自の計算への考え方を反映させているものと理解するべきであろう。減価償却に関する会計基準も租税法の影響を受けているものであり、順序が異なるものである。
但し、このように基本的には、契約書の金額による購入代価の判定は一定の客観性が確保され、租税法規の基本的な要請に合致するものであると評価される。しかしながら、このような取得価額の判定は必ずしも支配的なものではなく、土地等や譲渡時における合理的な按分方法(例えば本件のような不動産取得税等に基づくもの)による取得価額を否定するものではないだろう。何をもって合理性を判断するものであるのかという点は、問題であるが、実務においては固定資産税等一定の客観性を確保しており、この点において一定の妥当性、合理性を有していることは否定しがたいもののあくまでも、このような算定方法は拡張的に適用されるべきものではなく、法規による購入代価という文言からは、原則的には契約書等の代価の判定が一義的であることは留意されるべきものであろう。租税法としては、この例外となる場合がいかなる状況であるのかという点を検討課題となるだろう。また、本件の利用用途のように、一定の例外的な状況を判断し、取得価額を算定する際には、この利用目的の把握が必要とされることとなり、取得価額の算定は、損金計上に於いて影響を与えるものであろうからより合理的な判断においては、取得意図の把握が必要となるものであり、その判断によって租税負担の差異が発生することは中立性という観点からは取得との関連性を如何に捉えるべきであるのかという点は検討の必要があるものと考える。
以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。