具体的には、原告課税庁(通常の租税訴訟では国が原告に立つことはないが徴収関係の訴訟ではこのように原告となる)が、滞納者である訴外会社の所有していたゴルフ会員権、当該滞納国税の回収のため、差し押さえた事案において、被告であるゴルフ場運営会社に対して、当該ゴルフ場会員権の預託金返還請求権を行使し、当該預託金の返還を求め、また、遅延損害金として6%の支払いを求めたことによって訴訟が提起されたものである。当該ゴルフ場の会員規約によれば、預託金返還請求の行使に関しては、規約上、本人(限る)の意思表示が必要であり、徴収職員が本人に代わり、当該退会の意思表示が可能であるのか否かという点が争点となったものである。
すなわち本件は、原告が滞納国税の差押にあたり、当該差押財産の回収に当たって、所有者本人にのみ、限定して、意思表示を求めているような状況にありながら、滞納国税の徴収のため、差し押さえた徴収職員がこのような意思表示、行為をなすことができるのか否かという点が、が問題になったものである。より具体的には、この徴収職員の差押、取立の法的根拠たる国税徴収法67条に定める取立権の法的意義がいかなるものであり、本人に限定されたような場合であっても意思表示や権利の行使が可能であるのか否かという点が問題になっており、事実認定というよりは、取立権の法令解釈が議論対象となっている。法人税法や所得税法のような実定法とは異なり、国税徴収法の問題であって、徴収職員の所有する権限がいかなるものであるのかという点が本件の起因となっていると理解されるべきである。差し押さえた債権の取立においてこのような意思表示が可能であるのかという点が、徴収職員の権限の意義を理解する上で重要な点であるように考えられる。あくまでも実定法の問題とは直接的に異なるものであり、基本的には、実務家としては参考となる事例ではないと考えるかもしれないが、本件の事例でも遅延損害金、すなわち利子が6%発生し、負担することになっており、民間実務家であってもその性格を認識しておくことは有益なものであると考えられる。より本質的には、租税法の基本的な性格を理解する上で、重要な検討課題である。
すなわち租税法の本質として、その基本的性格として、よく強制性、侵害規範であると理解されているが、単に財産権の侵害と抽象的に捉えるのではなく、徴収の側面において、このように具体的な徴収権限の存在を理解しておくことがより租税法規の基本的な実質的な性格を理解するうえで重要であるのではないだろうか。
本件はより具体的に検討するにおいて、上記のように、徴収職員がなした差押えに関する退会の意思表示が本人限定という制約を有している規約がありながらもその制約を超えて徴収のため、かかる意思表示が可能であるのか、徴収職員のなした意思表示が有効であるのか点が中心的な争点である。かかる問題の背景には、下記、67条の規定によって取得した取立権の性格が以下に解されるべきであるのかという点が重要な点である。取立件は本規定により創設的に発生するものであり、課税庁、徴収職員が保有する自力執行権の中核をなす概念であって、滞納者の代理・承継として取得するものではなく、純粋な民事法の性格とは異なるものである。
本件判断でも、下記のように、
徴収職員の取立権は、徴収法67条1項の規定によって創設的に取得するものであり、滞納者の代理人又は承継人として滞納者の名において取立てを行うものではなく、同職員が自己の名において取立てを行うものであること、徴収職員は、取立てのために必要な範囲で滞納者の一身専属的権利に属するものを除く一切の権利を行使することができる
徴収権の性格を解している。基本的に上記解釈は正当であり、通説として理解される。取立に必要な範囲でという一定の制約は存在するものの、基本的に滞納者の一身専属的な権利を除き、権利又は義務が特定人に専属し他の者に移転しない性質であるような権利、例えば、慰謝料請求権のようなもの以外は差押えの対象であり、かかる点で必要な行為は特段の制限なく、行使が可能なものである。一身専属的な権利とは民事法上の概念であり、租税法規においてそれをどの程度参酌すべきであるのかという点は別の議論ではあるものの、徴収法上の差押が権限が及ばないものの性格を検討する上では参考となるものといえる。実務上は、実質的には本件の債権取立てがこのような権利に該当するのか否かという点が課題となるものであろう。
いずれにしてもこのように取立権は、下記国税徴収法67条において法的な根拠を与えられており、実際の行使が可能であるのか否かという点は実務家としては、制約がある可能性はありうるものであるが、法令解釈として、たとえ、規約上に本人限定の規定がなされていたとしても、その権限の講師を必ずしも妨げるものではない。逆に差押た財産の取立において必要であれば、上記法的な制約を与えることは困難であるものといえる。
2
徴収職員は、前項の規定により取り立てたものが金銭以外のものであるときは、これを差し押えなければならない。
但し、上記条文を厳密に解釈するならば、単なるできる規定であり、特段の法的な制約が課せられているものではなく、67条によって創設的に取得する権利が徴収職員の取立権であるから、特段の制約はないものの、その目的との関連において、制約を法令解釈として与えられているものと理解される。つまり、取立権の行使は、独立の権利獲得であり、民事法上の債権取立てと同旨される部分を参照しつつ、法令解釈として徴収職員の取立権が形成されているものと理解される。本件もこの性格を形成する上で有益な裁判例であるといえよう。すなわち、本件は取立権の対象となる権利の制約に該当するのか否かという点を理解、検討する上で重要な事例である。
国税徴収法関連の通達においても、取立権を下記のように解釈し、一定の制約を設けている。実質的には取立の目的がいかなるものであるのか、その目的において取立が合理的である場合には、徴収上、裁判外においても権限の行使に制約はつかないものと理解される。但し、取立の目的がいかなるものであり、そのための必要性が如何に具体的に考えられるかという点は法令解釈上の課題であるが、私見としても、申告納税制度を基礎としつつ、我が国の租税徴収が、財産権の強制的な性格を有するものではあるものの、一定の留保は租税法律主義によって担保され、かつ適正な負担を行った納税者を保護し租税負担の公平性の実質的な担保を図り、大量反復的な徴収実務を比較衡量して、このような性格を取立権が有していることは合理性を持つものといえる。実質的な租税法の強制性を支える中核的な概念・権利として、地味ではあるものの、その性格を理解することは租税専門家として重要な手であるように考えられるだろう。
1 法第67条第1項の「取立」とは、徴収職員が、被差押債権の本来の性質、内容に従って、金銭又は換価に適する財産の給付を受けることをいう。(取立権取得の効果)
3 徴収職員は、債権差押えにより、その債権の取立権を取得するから、徴収職員が自己の名で被差押債権の取立てに必要な裁判上及び裁判外の行為をすることができる。ただし、滞納者が有する解除権又は取消権等の形成権については、一身専属的権利及び人格的権利並びに取立ての目的・範囲を超えるような形成権の行使はすることができない。したがって、支払督促の申立て、給付の訴えの提起、配当要求、担保権の実行、保証人に対する請求又は破産手続、会社更生手続若しくは民事再生手続への参加(例えば、債権の届出、議決権の行使等)等の行為をすることができるが、債務の免除、債権の譲渡、弁済期限の変更等取立ての目的を越える行為をすることはできない。
また、判示では、本件預 託金の返還請求権は、会員が退会の意思表示をすることを条件として発生する権利であるといえるところ、原告が同請求権を発生させ、これを取り立てるためには、本件ゴルフクラブからの退会の意思表示をすることが必要不可欠
との認定を行っており、必ずしも、必要性をその依拠すべき部分を明示していない点は問題視されるべきものかもしれないが、滞納国税の徴収のため、取立権の行使において、個人の人格権や一身専属的なものであるとして意思表示を制約するものとして本件の意思表示の効力を否定されることは、徴収における取立権の基本的性格から、制約を与えられるものとは理解することは困難であろう(異論はありえようが)。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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