今回は、京都地判平成27年7月3日で、
上場株式等に係る譲渡損失の損益通算、繰越控除の適用が、
当該譲渡の委託先が、外国証券会社であり、
わが国の金融商品取引法に定める金融取引業者ではないことを理由
として、その適用が否認されたことが争われた事案です。
具体的には、
本件は原告が行った株式取引による譲渡損失が租税特別措置法37
条の12-
2に定める損益通算及び繰越控除の対象となるのか否かという点が
争われた事案であり、判示としては、
その適用を否認した要件規定が租税法における公平性の観点から適
合するのか否か、すなわち合憲性が問われた事案である。
より具体的には、本件の損益通算等の対象となる譲渡損失を、
下記のように、
金融商品取引法における取引業者に限定した売委託先としているこ
とに対して、原告がなした売却に伴う売委託先が本件対象業者(
外国事業者)ではなかった事によって、
その特別措置の対象とならないことを不服としたものであり、
係る要件規定が中心的な争点となっている。従って、
下記のように、本件対象となる、法規定自身は、
その適用要件としての解釈は明快であり、
かかる点で個別の租税法規の解釈論というよりは、また、
事実関係の認定当てはめが問題となったものではなく、
租税制度として係る要件規定を定めていることが、憲法規定、
租税の公平性の観点から検討して、合理的、
妥当であるのかという点が中心的な争点となったものである。
しかるに、基本的には憲法論、
政策論として理解されるべきものであり、かかる点で、
実務上の参考となるものではないのかもしれないが、かかる点は、
いわゆる大嶋訴訟以来、わが国の違憲審査基準として、
緩やかな合理性基準、
合憲性の推定が働くとした判断枠組みが基本であり、
本件もかかる枠組みの中で判断がされ、
租税法規における違憲立法審査に対する一連の判断の系譜に連なる
ものである。判示においても下記のように大嶋訴訟の判示を基礎として判断を行っている。
租税法の定立については、基本的には、国家財政、社会経済、国民所得、
国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、
技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、
基本的にはその裁量判断を尊重せざるを得ないから、租税法の分野における課税対象等の取扱いの区別は、
その立法目的が正当なものであり、かつ、
当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、
その合理性を否定することができず、
これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないと解される
として、国会における立法の幅広い裁量を認め、明らかな合理性違反が存在しない限り、違憲判断を受けることがないとして、合憲性の推定を受けている。そしてその具体的な合理性の判断に関しては、立法目的と手法の観点から審査を受ける事となっている。特に本件対象が租税特別措置であり、そもそも、租税特別措置は、課税負担の公平性を犠牲としつつ、一定の政策的目的の達成のため設けられている制度であり、政策目的が妥当であることが前提であるがその公平性が問題となる可能性は小さいものと理解される。本件は被告原告ともにこの前提と基礎として判断しており、下記のような判示が行われ、合憲性の推定を覆すものとは理解されていない。
上記繰越控除制度の適用を本件特例対象業者への売委託により行う上場株式等の譲渡等に限定すること(
租税特別措置法37条の12の2第2項1号)は、上記立法目的のうち、特に適正・
公平な課税を実現することに資するものであって、
当該立法目的とのとの関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえない。
実務的には法規の適用の是非が争われたものではなく、
法規の妥当性が争われたものとして、
特段の問題になるものではないのかもしれないが、
当然のことかも知れないが、租税専門家として、
このような外国事業者を活用した場合には、
譲渡損失の利用ができないことは、認識しておくべきものであり(
意外と租税特別措置法においては、
このように一見すると適用可能でありながら、
形式要件において外国事業者が排除される規定は多い)、
かかる点では参考となるだろう。また、このような点で、
実際の立法のあり方を考える上で、
論文のテーマとしても参考となるものではないかと考えられる。
但し、本件は、従来の個別租税法規の違憲性を問う中では、
他の事例とは異なり、租税特別措置法そのものの、合理性、
妥当性が問われたものではなく、
具体的な適用に当たっての適用要件の合理性が問われたものであり
、かかる点で特徴であるとは考えられよう。
すなわち、法規定の目的としての合理性が問われたというよりも具体的な手法が妥当であるのか否かという点が問題となったものであり、政策目的を有する規定そのものの合理性とは異なる、
判断枠組みがあることも想定はされうるところではあるが(
もちろん租税法規において特段区別することの合理性も議論の余地
はあるとはいえる)、基本的に本件は、
従来の大嶋訴訟以来の判断枠組みを維持しており、
具体的な適用要件に関しても、強い立法府の裁量を認め、
強い合憲性の推定を認める見解が維持されていることを改めて理解
しておくべきであろう。より具体的には、
何をもって合理性を判断するのか、租税法規において、
こお様な規定が求めている合理性とは如何なるものであるのかとい
う点をより検討する上で参考となるものであるといえる。より具体的には、租特の適用を受けるにあたって、証券市場の活性化という基本的目的とそれを受けた情報収集の要請との間で対象業者を限定することは一定の合理性を有するものと判断されたものと評価される。
第三十七条の十二の二
確定申告書(第九項(
第三十七条の十三の二第十項において準用する場合を含む。)
において準用する
所得税法第百二十三条第一項
(
同法第百六十六条
において準用する場合を含む。)の規定による申告書を含む。
以下この条において同じ。)
を提出する居住者又は恒久的施設を有する非居住者の平成二十八年
分以後の各年分の上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合には
、第三十七条の十一第一項後段の規定にかかわらず、
当該上場株式等に係る譲渡損失の金額は、
当該確定申告書に係る年分の第八条の四第一項に規定する上場株式
等に係る配当所得等の金額を限度として、
当該年分の当該上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除す
る。
2
前項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額とは、
当該居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、
上場株式等の譲渡のうち次に掲げる上場株式等の譲渡(
第三十二条第二項の規定に該当するものを除く。)
をしたことにより生じた損失の金額として政令で定めるところによ
り計算した金額のうち、
その者の当該譲渡をした日の属する年分の第三十七条の十一第一項
に規定する上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しても
なお控除しきれない部分の金額として政令で定めるところにより計
算した金額をいう。
また、下記、原告の主張にもあるが、本件特例の適用にあたり、適用対象業者であるのか必ずしも事前に判断することは困難で合って、実質的に課税要件が明確ではないとの主張も行われている。判示においては、HP等の公表もあり、問題視されていないが、借用概念、あるいは他の法規定の規定を参照している場合において、その意義内容が明確ではない場合においても課税要件明確主義違反への抵触が、観念されうるのかという点は、より検討すべきであるのかもしれない。立法論としてではあるが。
本件特例は、本件特例対象業者への売委託より生じた上場株式等に係る譲渡損失に限って繰越控除を認めている(
租税特別措置法37条の12の2第2項1号)が、納税者は、
取引時においていずれの業者が本件特例対象業者であるかが判明しない限り、
本件特例の適用を受けることができるか否か が判明しないから、このような場合、
本件特例が結果として憲法84条が定める課税要件明確主義に抵触するのではないかという疑問がある。
以上です。
毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。