2022年10月17日月曜日

判例裁決紹介(令和2年12月17日裁決、役員が負った損害賠償義務の肩代りと役員給与認定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は令和2年12月17日裁決で役員が負った損賠賠償義務を肩代わりしたことに対する役員給与とされたことが課題となっている事例です。 具体的には、本件は請求人(同族会社)の役員(法人代表者の子供)が他社に勤務している際に負った裁判上の和解に伴う損害賠償義務(連帯責任、未公開株関係)による弁済及び弁護士費用を請求人の損金(雑損失等)として確定申告した場合において、かかる支出は法人の業務との関連等はなく、役員給与であるとしてその損金性を否定した更正処分等を不服として提起された事例である。 このような役員の個人的な費消等に対して法人が支出した金員に関しては、役員給与であるとして、法人税法34条に基づき、損金算入を否定するとの処置が基本であり、法人税法実務における典型的な対応方法であろう。本件もその類型に属するものであり、実務家としては当然の発想でもあるのかもしれない。同族企業が中心的な我が国においてはこのような支出は特段珍しいものではなく、公私が未分化の状況であれば、このような支出は租税負担の軽減につながらないとの認識は一般的には受け入れられ難いようであるが、実務家にとっては身につけるべき基本的な思考であるように捉えられる。 しかし、個人的には、このような伝統的といっても良い役員給与の認定措置(なお、役員給与が我が国の現況において原則損金不算入とすることは必須ではあると考えるが)が本件のような場合においても安易に認定されているのではないかという私見が拭えない。結論として損金算入を否定することに関しては当然のものという印象ではあるが、 法人税法34条(役員給与) 4 前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。 上記のように法人税法が役員給与において、包括的に多様な経済的な利益を含むものとしていることを制度的に活用している本件のような役員給与認定は、租税法規が明瞭な規定に基づく処置によって対応を求めている基本的な姿勢に反するようにも考えられる。法人としての損金の意義が広く、多様なものを含みうる点や、同族会社の行為計算の否認が立証等の問題から適用が難しいとの理由はあろうが、損金算入を否定する点で変わりないとのことで役員給与の規定が用いられている。役員給与の損金不算入規定の趣旨はこのような公私が未分化の支出に対するものを否定する趣旨を含むものであることまでは否定されないが、本件の認定のように、そもそも法人の業務執行とは関係がないとの判断が前提となって法人の本来負担するものではないとのことで損金としての適格性を欠くものであって役員への経済的な便益の提供として対応するのみでは、結局のところ役員との資金の貸借に転換を図り(損金として否定はされるが)、短期的な潜脱の誘引になっているものとも考えられる。損金として正面から否定を行う規定の必要性があるように考えられる。 また、本件では、業務との関連を判断する上で、法人の事業の目的、定款と対比して本件損害賠償義務を生み出す行為との間で業務執行との関連性が判断されている。後出しのような文章などによって法人から主張されたものへの対応もあろうが、近年はこのような法人の目的との対応が重要なものとなりつつある。事実認定の問題であるかもしれないが、このような判断の枠組みは実務家として参考となるものだろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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