2020年12月19日土曜日

判例裁決紹介(平成31年1月18日裁決、介護施設への入居と居住用不動産の判定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年1月18日で、介護施設への入居により居住用不動産の譲渡に関する租税特別措置法規定の適用が否定された事例です。

具体的には本件は、請求人の父が平成15年頃より介護施設へ入居を行っている状況下にあって、もともと自宅として使用していた家屋や土地を売却した事案において、確定申告にて下記、租税特別措置法に定める居住用不動産譲渡所得に関する特別控除の適用を申告したところ、課税庁は、当該譲渡対象資産は、居住の用に供されているものではないとして、その適用を否定した処分の取消を求めるものである。

租税法規の適用において住所や、居住の用に供されているような状況は、実際の法規の適用や租税負担の起点として非常に重要な位置づけを占めることが多い。本件で課題となった特例は非常によく活用される租税特別措置法の一つであり、実務においても見かける機会が多いのではないだろうか。本件はその譲渡所得課税の特例の適用(3000万の特別控除)の是非が争点となったものであり、特に中心的な要件たる居住用財産の適否が基本的な争点となっている点で、本件は参考となるものであろう。現行の実務は通達を基礎として(治療等による一時的な離脱は許容している傾向にあるだろう)、居住に関する認定、その判断が行われている現況にあるが、通達の背景にある考えと実際の居住環境の対応が争点となっているという点で比較的汎用性が高い、留意すべき項目であろう。特に現代は社会構造が変化し、介護の社会化が進み、介護施設の利用や、近親の近接居住がまれな状況下においては介護施設への入居は一時的なもの、恒久的なもの、それぞれ、一般化しているものであり、かかるような状況から、居住の状況を如何に判断されるべきであるのか、従来と変化すべきものであるのかという点は課題となっているものである。


居住用財産の譲渡所得の特別控除
第三十五条 個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなつた場合には、その年中にその該当することとなつた全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。
 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
 第三十二条第一項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から三千万円(短期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

 その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの(以下この項において「居住用家屋」という。)の譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の八若しくは第三十七条の九の規定の適用を受けるものを除く。以下この項及び次項において同じ。)又は居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この項及び次項において同じ。)をした場合

以上のように、本件の基本的な論点は、居住の用に供されているのか否かを介護施設への入所(事実認定では一時的に帰宅したこともあり、水道等は基本料金を支払いいつでも使用可能な状況としている)ような状況を反映しうるものであるのかという点が課題とされていることになる。現況は入院等の一時的な居住地からの離脱は、居住の用に供しているのか否かという点において判断材料としないことは、主流であるが、本件のようにいつでも戻れる状況にしていることが居住をしているものとみなされるべきものであるのかという点が主張されている。

「本件特例が、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得につき一定額の特別控除額
を認めている趣旨は、個人が居住の用に供している家屋又は当該家屋と共にする
敷地の用に供されている土地を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財
産を取得するのが通常であるなど、
一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があ
り、その担税力が弱い
ことから、居住用財産の譲渡につき30,000,000
円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取
得を容易にすることにあるものと解される。
このような本件特例の趣旨に照らすと、居住用家屋とは、真に居住の意思をも
って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋
をいうと解す
のが相当である。」

裁決は、その判断として上記のように、当該特例の趣旨を他の譲渡と比べて担税力が低い(そもそも担税力という概念が定かではないが)としてかかる点を根拠に、真なる居住の意思と外観的な一定期間の生活の拠点とすることを求めている。担税力の減少という事情を反映させるべく、意思と実態による2要件を求めているものと解されよう。なぜ居住の意思(真なると表現しているところに如何なる所以があるのかという点も興味深いが)が重要視されるのかという点も、おそらくこの特殊事情の反映において重要な点を表現しているのであろう。ただし意思を重要視しつつも、実態とのバランスをとっているものである。

このように、本件では、居住実態も重視し(一定期間というものが裁量幅が広く、定かではないともいえようが)、請求人の主張するような意思を重視した拡張的な居住の用に供しているとの判断の否定している点は、留意されるべきであろう。居住の用に供するという、資産保有者の意思が介在することが予想される判断枠組みにおいて、居住実態を要求することで真実性、客観性を意図していることが本件解釈の重要な点であるように考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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