2022年9月4日日曜日
判例裁決紹介(東京地判令和2年7月13日、更正処分による税理士が行う国家賠償請求)
また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は、東京地判令和2年7月13日で、繰延資産の償却費の否認等による更正処分によって精神的な苦痛を受けたとして処分を受けた法人の顧問税理士が国家賠償請求を行った事例である。
具体的には本件は非常に珍しいが、法人【訴外】の顧問、税務代理を担当していた税理士が、当該法人の税務調査によって、約一億円の繰延資産の償却費の損金計上を否認されたこと【本件においてはこの是非は争われていない】によって、夜も眠れないなどの精神的な苦痛を受けたとして国家賠償請求を行っているものである。
個別の国民の権利ないし法的利益に対する侵害があることを前提とし
ており、権利ないし法的利益の侵害が観念できない場合には、国又は公権
力の行使に当たる公務員の行為の違法性判断に立ち入るまでもなく、国賠
法上の違法を認める余地はない。
判示としては非常にシンプルであり、直接的な法的な利益の侵害が処分によるものは、あくまでも更正処分を受けた法人にあるものであり、税務代理人としての主張が排斥されたことによる心情が害されたにとどまるものとして、慰謝料請求、賠償請求を棄却しています。税務代理人として別に法的な保護を受けるものではないという判示が明確に示されている。
更正処分の適否を争うケースが通常であろうが、このような主観的な苦痛を前面に押し出す事例は極めて珍しく、どのような背景があったのかより、調べてみたいが、専門家として高度な判断を求められることはこのような悩みを感じることもまたあり得るのかなという感想を持ちました。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(岡山地判令和2年6月30日、一部資料の提示と推計課税)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、岡山地判令和2年6月30日で、調査上の不備に対して更正処分等の取消を求めるもので、一部資料を提示しており、推計課税の適用を受けたことを不服としている事例です。
具体的には本件は、民宿を営む個人(及び生計を一にする家族で)である原告がH21からH23年の事業所得の申告につき、調査を受け、推計課税(申告された所得では到底、家族の生計を維持することは困難)により更正処分等を受けたことを不服として、手続の違法性、推計の合理性、必要性を争点としているものである。複数の論点が存在しているが、最近また、増加傾向にある(おそらく適格請求書と証拠書類のない場合に対する立証責任の転換措置により今後もまた増加傾向になるだろうが)第三者が関与している案件でもあり、かかる第三者の立会から調査への非協力が起点となっている事例である。事前通知のない調査や反面調査の実施など、古典的な論点が混在しているものであるが(この点に関しては納税者の主張を排斥している)、古くて新しい論点であり、特に所得税・法人税法でも帳簿に関する立証責任の転換が一部制度化されるなど、環境が変化する中で、本件のような記帳義務を果たさない、納税者の存在に対してどのようにアプローチされ、あわせて適正な手続きの環境を構築していくのかというのは新たな課題として検討する余地があるのではないだろうか。少し本件とは離れるかもしれないが、調査への非協力が漠然とした概念であり、多様なケースが想定されるものであるが電子化や事業の多様化なども想定され、より調査手手続を精緻に議論することは必要なのではないだろうか。特に帳簿等の記録の不備に関しては、事務負担も以前とは比べ物にならないソフトウェア等の発展もあり検討の俎上に上げる必要性もないものと考えるが、申告納税、確定決算をベースとする(基本的には納税義務が背景にあるものであるが)中で、より重要性がましていくことが必要な段階にあるように考えられる。
本件は、基本的に事実認定の問題であり、第3者関与の事例として典型的な納税者の非協力が想定されるケースであり、通常の租税専門家であれば直面することはないのかもしれないが、このような事例をみると、どうしても立証責任の転換や仕入税額控除の保存の要件の厳格化は必須であるように捉えられる。自宅での現金の保管(その出処が密猟やお年玉という主張もなかなか興味深いが)に対する出処の追求など、司法の判断はその他認定においても参考となるものであろう。
また、本件では事前通知が制度化される前の事案(法施行の直前)であるが、事前通知なしで調査を行うことの是非について、判断を下している。事前通知無しでの調査を是認する理由として一定の合理性が要求されることは、現行法でも同様であるが、本件では家族4人が生活を支えられるような所得が申告されていない、以前の調査でも帳簿等の不備(本件と同様に全く存在しない)があったことが前提として事前通知を行わないことが許容されている。現行法にも繋がりうるものであり、参考とするべきものであろう。
さらに、本件では調査の過程において、一部資料の提示が行われている点が検討の素材だろう。保存に関する最判以来、調査官による求めに対して適時での提示が基礎であることが各種租税法規において基礎となることが明らかとなって実務でも前提となっているようであるが、本件では、一部の資料の提示が行われている。しかるに推計課税に至ったものであると考えられるが、提示が行われようとも不十分な資料のみである場合において、調査官の裁量に任せ非協力、あるいは立証責任の問題として対応していくのか、どのように適正な課税を実現していくのか(おそらく推計課税はハードルが高い)、基本的な資料を事前に登録し整備するように求めるなど青色申告の帳簿書類等(そもそも帳簿書類等の定義が必ずしもはっきりとしない)、私見ではあるが、より実態にあった形で明確化して事前の準備を促す制度に青色申告制度を作り変えるべき時期に来ているのではないだろうか(青色申告制度が特典として機能不全に陥っている)。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
登録:
投稿 (Atom)