さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、歯科技工業務に関する消費税の簡易課税の適用の際の業種区分、製造であるのかサービス業であるのかが争われた事例です。
具体的には、本件は、歯科技工所を営む法人である請求人が、その消費税の申告において簡易課税の適用を申請し(手続上の瑕疵はない)、第三種の製造業に当たるとして申告したところ、課税庁よりサービス業として第5種事業に該当するとして更正処分を受けたことから、これを不服として提起された事例である。
簡易課税の適用区分をめぐる事案は多いが、本件も日本標準産業分類を適用することの是非が中心的な争点となっている。歯科技工という業務が素材となっているものであるが、人的役務の提供におけるサービス業(そもそも法にサービス業という非常に曖昧な概念を導入している事自体が個人的には疑問)として如何に捉えられるべきであるのかという点は今後の社会情勢の変動から多様化、多発化する事例であり、今後の参考として留意されるべき事例であろう。
日本標準産業分類の利用は通達を根拠としているものであり、この是非が解釈として妥当であるのかどうかという点は、今後の残る疑問であろうが、そもそも業種業態
が多様化している現在において、このような簡易課税のアプローチ自身が岐路を迎えているのではないだろうか(そもそも適格請求書制度の導入によりこの制度自体の存在意義自体が疑われるべきものであろうが)。
(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
一 当該事業者の当該課税期間の課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の六十に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)
二 当該事業者の当該課税期間の特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条の二第一項に規定する特定課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額を控除した残額
以上のように本件は上記消費税法が定めるいわゆる簡易課税制度の適用における業種区分が課題とされているものである。実務上は日本標準産業分類が基礎となっていることが事実上の標準となっているものであり、特段疑われることがなく、適用されているところであろうが、具体的な法としては、下記のように施行令において、各種事業の定義が定められている。
施行令
前各項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 第一種事業 卸売業をいう。
二 第二種事業 小売業をいう。
三 第三種事業 次に掲げる事業(前二号に掲げる事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)をいう。
イ 農業
ロ 林業
ハ 漁業
ニ 鉱業
ホ 建設業
ヘ 製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)
ト 電気業、ガス業、熱供給業及び水道業
四 第五種事業 次に掲げる事業(前三号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
イ 運輸通信業
ロ 金融業及び保険業
ハ サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)
五 第六種事業 不動産業(前各号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
六 第四種事業 前各号に掲げる事業以外の事業をいう。
七 売上げに係る税抜対価の返還等の金額 法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額から同項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に七十八分の百を乗じて算出した金額を控除した金額をいう。
6 前項第一号の卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとし、同項第二号の小売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業以外のものをいうものとする。
そもそも、この立法案自体が日本標準産業分類を前提として作成されたものであるとの意見もあろうが、サービス業やその他事業、製造業など具体的な意義が定まっていないものが導入されているものであり、多くの紛争事例が発生している要因の一つであろう。6号において、卸売と小売の境界となるべき基準は示されているが、他の区分における判断基準は、明瞭とされているものではない。上記のようにサービス業とは如何なるなものであるのか、必ずしも明確ではないだろう。事実上イメージに依拠した区分であり、金額的に少額なものを対象とするものであるとしても、制度として、執行において租税法律主義の観点から疑義が含まれるものであることは否めない。
イ 消費税法施行令第57条第5項第3号及び第4号は、第三種事業及び第五種事業に該当する業種を列挙するのみで、第三種事業及び第五種事業に
該当する各業種自体の内容を明らかにした定義規定は存在しておらず、「製造業」と「サービス業」の意味内容ないし用語例についても、必ずし
も一義的に解釈可能なほど明確な概念とまではいえないことから、「製造業」と「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに当たっては、簡
易課税制度における税負担の公平性等を考慮した上で解釈するのが相当である。
該当する各業種自体の内容を明らかにした定義規定は存在しておらず、「製造業」と「サービス業」の意味内容ないし用語例についても、必ずし
も一義的に解釈可能なほど明確な概念とまではいえないことから、「製造業」と「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに当たっては、簡
易課税制度における税負担の公平性等を考慮した上で解釈するのが相当である。
この点に関しては、判断は上記のように明確に定義がないことを示した上で、下記のように、日本標準産業分類の活用を肯定している。
ロ ところで、日本標準産業分類は、上記(1)のイの(イ)のとおり、統
計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において
社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての
経済活動を分類するものであり、統計の正確性と客観性を保持し、統計の
相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定されたものであるか
ら、課税政策に基づいて設定された消費税法上の事業区分とは目的を異に
するものではあるが、消費税法施行令第57条第5項第3号及び第4号に
掲げる業種(なお、「製造業」は同項第3号ヘに、「サービス業」は同項
第4号ハに掲げられている。)は日本標準産業分類の大分類に列挙されて
いる産業と一致している上、日本標準産業分類における分類は、社会通念
に基づく客観的なものであり普遍性を有しているといえるから、簡易課税
制度を公平に適用するためには、この産業分類が有用であるといえ、ある
事業が「製造業」又は「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに
当たり、普遍性を有する合理的な基準として日本標準産業分類を用いるこ
とは相当であるといえる。
計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において
社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての
経済活動を分類するものであり、統計の正確性と客観性を保持し、統計の
相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定されたものであるか
ら、課税政策に基づいて設定された消費税法上の事業区分とは目的を異に
するものではあるが、消費税法施行令第57条第5項第3号及び第4号に
掲げる業種(なお、「製造業」は同項第3号ヘに、「サービス業」は同項
第4号ハに掲げられている。)は日本標準産業分類の大分類に列挙されて
いる産業と一致している上、日本標準産業分類における分類は、社会通念
に基づく客観的なものであり普遍性を有しているといえるから、簡易課税
制度を公平に適用するためには、この産業分類が有用であるといえ、ある
事業が「製造業」又は「サービス業」のいずれに該当するかを判断するに
当たり、普遍性を有する合理的な基準として日本標準産業分類を用いるこ
とは相当であるといえる。
上記のように、日本標準産業分類の政策目的は異なることを明確に表現し(この点は珍しい)、社会通念の観点から客観性を有している点を評価して、簡易課税制度の公平な適用を起点として肯定的に捉えているのである。裁決である以上当然であるかもしれないが、課税庁の基礎的な考えとして、公平な執行を基軸においている、判断の拠り所が不安定にならないことを目標としている点は留意されるべきであろう。この点において現行法の解釈としては正当性があるものと捉えられる。フェアの概念が基礎となっていることが主観的な納税者の判断に依拠することよりも合理的と考えられるのである。そもそも所得税法においても課題となることが多いが、近年は特に事業内容が多様化しており(人的役務の提供を主軸としたサービス業が増加していることがその一因だろう)、日本標準産業分類において捉えきれない、事業内容を如何に捉えられるべきであるのかという点が課題であるように捉えられる。
13-2-4 令第57条第5項第3号《事業の種類》の規定により第三種事業に該当することとされている農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業(自己の製造した商品を直接消費者に販売する事業をいう。以下13-2-6及び13-2-8の2において同じ。)を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業(以下「製造業等」という。)並びに同項第4号の規定により第五種事業に該当することとされている運輸通信業、金融業、保険業及びサービス業(以下「サービス業等」という。)並びに同項第5号の規定により第六種事業に該当することとされている不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する。
この場合において、サービス業等とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる次の産業をいうものとし、また、不動産業とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる「不動産業、物品賃貸業」のうち、不動産業に該当するものをいう。
この場合において、サービス業等とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる次の産業をいうものとし、また、不動産業とは、日本標準産業分類の大分類に掲げる「不動産業、物品賃貸業」のうち、不動産業に該当するものをいう。
そもそもこの利用における根拠は上記のように基本通達である。分類を基礎としてという表現を活用している点は租税法規の関連にいるものとしては当たり前の表現であろうが、原則としつつも例外も許容されうるものである。今後の社会情勢の変化により登場するような事業においては、この例外をどのように判断の枠組に落とし込んでいくことになるのかという点が課題であり、製造等の文言に着目されることになるのではないか(例示としては水を採取することなども製造に該当することは有名だが)。日本標準産業分類の分類の活用自体が争点となるが、上記のように現行法としては適正な執行として係る対応は合理的であると評価されるものであり、本来ならば事例の積み重ねによってより詳細な判断枠組みが議論されるべきものであるが、日本標準産業分類の是非に関しての検討が中心であることは課題であると考えられる。実務では日本標準産業分類がベースになってしまっていて、金額的にも簡易課税であり、多くは問題にならないことが要因だろう。制度趣旨と消費税の負担分配の観点からは好ましい状況とは言い難いであろう。
しかしながら、今後は、適格請求書等の保存方式の導入により、また、比較的小規模な人的役務の提供者が増加し、最終的な消費税の負担者になることが予想される。このような状況においては、如何なるものが人的役務において、サービスと捉えられるのか、製造と捉えられるのか、この判断基準を明確化していく意義はあろう。
本件では最終的に、歯科技工においては(通常の職務内容から製造を行っていることは否定しがたいものの)法において定義された歯科技工士の職務において、医師の指示、発注書に基づいて提供される、加工の役務提供であり、医療行為の一環であるとして医療というサービス業(医療がサービスであることに異論があるかもしれないが)という分類とされている。歯科技工という法的に定義された職務内容からの判断であり、消費税が基本的に課税資産の譲渡等とベースとして個々の取引をベースに判断することとしている中では矛盾も感じるところでもあるが、所得税法における事業と同様に業務としての全体の枠組みから判断する流れを踏襲しており、製造業務に一部に着目した判断を回避している点は特徴的であろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。