2021年2月22日月曜日
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2021年2月13日土曜日
判例裁決紹介(東京高判令和2年8月26日、消費税の調査拒否と保存)
2021年2月9日火曜日
判例裁決紹介(平成30年6月1日、印紙税における課税文書該当性、契約書内容と実態の乖離)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年6月1日裁決で、印紙税における課税文書としての該当性が契約書内容と実態の相違により争いになった事例です。
具体的には、本件は宗教法人たる請求人が不動産賃貸による駐車場施設の貸付を、設備を置く、事業形態において実施している(消費税法においても駐車場施設の貸付として処理されている)状況下において、提携事業者と作成された契約書に関して、課税文書に該当するのか否か(裁決例ではなぜか具体的な課税文書が何であるのかが黒塗りにされている)が課題となっているものである。契約書に記載された文言は、駐車場用地の貸付であり(設備の設置の許可も含む)、上記のように事業の実態は駐車場施設の貸付となっているような状況であり、契約書の文言、内容と事業実態が乖離している、齟齬があるような状況が本件の起点となっているものであり、これにより如何なるものを基礎に課税文書としての該当性を判断するのかという点が中心的な争点となっているものである。
印紙税は実務において、税理士の関与外でもあろうが、非常に形式的な判断が行われるものであり、課徴金も3倍とシンプルな構成となっている制度であるがゆえに、その紛争事例が表に出ることは稀であるが、本件は、その珍しいものであり、基本となる課税文書としての該当性を判断する上で、如何なる点を基準に置くべきであるのかという点が争点となっているものであり、重要であり、珍しいものであって実務においても参考となろう。
そもそも印紙税そのものが、文書を対象としているものであり、取引税として、消費税が登場している、あるいは電子化が進んでいる状況においてはもう時代遅れとなっているとの指摘もあるが(電子化において、すすめる誘引になると思うのだが)、未だに税収はほとんど変化がない(預金通帳などの存在があるからであろうが、これも現在は減ってきているだろう)。消費税よりもより純粋な取引に対する租税として、デジタル文書であっても課税対象として捉えるようなスタンプ税としての印紙税よりもより拡大した形で再構築されるべきであると考えているのではあるが(時代遅れと言われるかもしれないが)、取引税としての消費税を補完する上でフェアな租税制度の構築という視点からはその役割が期待されるものであると捉えているのであるが、近年では税制改正大綱でもあまり取り上げられる事がなくなりつつあり、地味ながら重要な税制として考えられる。
第3条 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。
2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。
以上のように本件は、契約書に書かれた内容(内容そのもの自体が争われているわけではない)と実際に行われている事業実態が乖離していることを起点としている。上記のように印紙税の基本通達は、その第3条において、文言の実質的意義(多くはこれがいかなるものであるのかという部分が争点となることが多いのであるが)による課税文書としての判断を解釈としている。印紙税そのものが形式的な部分を重視した、文書をその対処とするものであり、一方でフェアな課税を維持する上では上記のような、必ずしも文書の文言に依拠した判断に限定したものではないという枠組みは正当なものとして理解されている。
しかしながら、本件は、文書の記載内容ではなく、事業実態が文書記載と異なる点で、状況を異にする。
「印紙税は、特定の契約や権利等それ自体を課税対象とするものではなく、
これらの事項を証明する目的で作成された文書を課税文書とするものである
から、課税文書に該当するかどうかは、その文書に表されている事項に基づ
いて判断するべきであり、その文書に表されていない事項は、原則として判
断の要素に取り入れるべきではなく、また、当事者の約束により文書の名称
や文言は種々の意味に用いられる可能性があることからすれば、単に文書の
名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的
な意義に基づいて判断するべきものと解される。」
裁決はこの点につき、上記のように判断をください、文書文言に原則的な判断を依拠するべきであり、一定の例外的なものとして、文言の実質的な意義を追求するものと解して通達の立場から(裁決である以上当然でもあるが)、納税者が主張するように、契約による実質的な事業実態も考慮すべきとした納税者の主張を排している。
上記の通達や裁決の判断は、契約書などの文書の判断を形式的な判断に加え、文書慣習等を総合的に判断するとしているが、これは確かに文書内容に必ずしも限定されているものではなく、実質的な実態も考慮対象となりうると言う主張が合理性を有するのかという点で本件は課題となっているものである。本件は契約の、文言記載事項が、事業実態と乖離する、契約によって実際に行われている事業活動が異なることとなっており、課税文書を基礎とする印紙税と消費税申告における取り扱いに差異が生じる結果となっている(消費税法上の取り扱いの妥当性については争われていないが、一定の客観性をもって実態が合致していることは否定し難いのであろう)。このような状況は予測可能性の確保を法の基本目的とする租税法規の取り扱いとして妥当であるのかという点が問題の中核と考えられる。
そもそも契約内容と実態が乖離すること自体が発生することに違和感を覚えるところでもあろうが(我が国の法文書、契約に対する意識が現れているともいえようが)、現実的には、このような状況の発生も大いに存在しうるものであろう(長期に渡る契約期間においては実態が乖離することも想定されよう、ここで、単に契約内容と異なることがそもそもおかしいというのは現実を本当に捉え考えていないのだろう)。
私見としても、課税物件が課税文書に限定されている、文書に焦点を当てた制度構成となっていることからも、その文書内容に関して総合的に判断して、列挙された文書としての該当性に検討を行うことと、文書以外の状況を反映させることは問題の性質が異なるものと捉える。文書の内容を超えて判断をすることは不確実な要因を考慮に入れることであり、法的な安定を書くことに繋がりかねない。印紙税がその基本的な趣旨として、文書の背景にある行為や契約自体そのものに租税を負担する能力を見出しているという点に立ち返れば(文書自体はそれを表章するものに過ぎないと考える立場からは)、契約の実態を反映させることは、趣旨に合致したものと捉えるべきという意見もあり得ようが、本来ならば実態との乖離すること自体が回避されるべきであり、いたずらに契約の文言を超えた判断は租税法律関係を不安定とするものであり、回避されるべき判断の枠組みであるだろう。
以上です。毎回のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
2021年2月2日火曜日
判例裁決紹介(令和2年2月5日裁決、輸入取引価格の仮装)