2021年2月22日月曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月30日、役員給与の不相当に高額、抽出最高額の利用)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年1月30日で、役員給与の不相当性が争われたものです。

具体的には、原告たる法人(車両輸出入)が支給した代表取締役に対する報酬が、約1億円から約5億円程度にまで大幅に増加されたことを契機に、課税庁が不相当に高額な役員給与であるとして更正処分が行われたことを不服として提起された事例である。法人税法における不相当に高額な役員給与をめぐる問題は、その具体的な不相当額の算定、抽出方法、、制度趣旨の変化、比較対象情報の入手方法やデータの信憑性等、多様な争点が従前積み重ねられているものである。古いくて新しい問題であるといえようが本件もその類型に属するものであるが、近年、また少しずつ増加傾向にある役員給与への不相当額の算定(おそらくは、団塊の世代が70代を迎えつつあり、創業者として活躍してきた層が退職する退職金の問題が多いのであろうが)の中で、近年の事情に合わせた判断を行っている点で、実務的にも参考となる事例であろう。特に本件は、詳細な事実認定が行われており、不相当性の認定の端緒となる、売上の変化や、収益率の低下、役員報酬の変化等を丹念に認定されている点は、参考となるものと考えられる。


また、本件は、法令解釈等において、従来と特段特徴的なものはないが、役員が行っている業務や業績との関連から、対比対象として抽出された同業者の中(今回は5社)から、平均を取ることが事例としては多いものであるが、その業務や実績を加味して、抽出対象の中から最高額を持って比順対象として選抜している点は、興味深い。微妙な相違ではあろうが、課税庁が機械的に算定する抽出対象の平均をもって、対象とすることで、創業者や会社の状況等を加味したものであるとして、従来基本軸となっていたものではなく、業務や実績から、一部考慮要因を付け加えて、不相当額を認定している判断は、珍しいものと捉えられる。本件の個別的な判断であるのか、それとも、他の事例においても拡張可能であるのか、考慮要因の拡大や、個別事情の一定の加味の側面から、さらに、本件は検討課題とされる必要があるものであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2021年2月13日土曜日

判例裁決紹介(東京高判令和2年8月26日、消費税の調査拒否と保存)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年8月26日で、消費税の帳簿不提示と保存の意義が課題となった事例です。

具体的には、遊技場を経営する控訴人(法人)が課税庁の調査に対して、税理士や弁護士の指導により調査における忌避を繰り返し、もって帳簿等を提示せず、かかるゆえに、適正なタイミングでの提示が行われなかったとして、消費税法が定める仕入税額控除の保存要件を満たしていないとして仕入税額控除を否定した(金額が巨大で30億円以上)更正処分を受けたことにつき、提起された事例である。事実認定として再三に渡る調査要請に応じなかったことが帳簿不提示が継続し、従前の最判にある保存の意義から、適時保存、提示がないものとして、仕入税額控除が適用されないこととされているものである。本件は金額が非常に多額であり(あまりこの点は考慮すべきものではないのかもしれないが)著名なものであるが、、実質的な帳簿不提示、調査協力に対する懲罰的な位置づけになりつつある現況が非常によく現れている事例であろう。

法令解釈としては、最判が示した保存の意義の忠実に踏襲しており、特段特徴的なものであるとは考えにくい。このような懲罰、制裁的な要因を持つようになってきている現況は、租税の専門家としては改めて認識されるべきである。最判が出た当初は拡張的な解釈であるとして否定的な見解も多かったものであるが(最判である以上当然かも知れないが、)現行法の解釈として上記のような文言の意義を解する見解は、通説としても実務上の基準としても定着しているものといえよう。本件でも関与税理士等がかかるような批判的な見解を示して、対応措置を捉えているが、現行法の解釈としては覆し難く、立法によるほかないだろう。今後は、適格請求書保存方式が導入され、より形式的な請求書の保存が基礎となる以上(もちろん純粋なインボイスとは異なり、帳簿による補完を図ることは我が国の制度的特徴であろうが)、この保存要件の解釈及び、厳格な適用は維持されることが帳簿だけではなく適格請求書にも同趣旨で適用される基本軸となるだろう。仕入税額控除の本来の趣旨(強調する人は控除権として主張するのかもしれない)を鑑みれば、このような制度構成は否定的な意見もあり得ようが、インボイス、適格請求書による相互牽連が現状において必ずしも実効性を有していない以上、立法においても現行の保存要件は維持されることが妥当であるものと考えている。

いずれにしても、保存の解釈は最判が基軸であるべきであり、今後は、質問検査の行使と任意調査、受忍義務、調査忌避として、このような仕入税額控除の否認が実質的な制裁になっていることをどのように捉えていくのかという課題となるだろう。憲法論として、調査手続きの中でこのような実質的な制裁を課題と捉える見解もあり得る。本件でも主たる争点として、この仕入税額控除の非常に高額の否認は、他の保存が争われた事例と比して、課税庁による仕入税額控除に関する説示が欠けていたとして、他の事案とは異なり、適正な手続きに反しているとの主張、説明義務を尽くしていないとして調査手続違反を主張している。判示では、この点も納税者による調査への非協力でもって説明義務に関しては放棄されていると理解されている(説明義務は必ずしも常に要求されるものではなく、放棄がありえる)。おそらく実質的に何をもって放棄していると判断されることになるのかという点は今後の実務においては明らかにされていくべきだろう。

本件は他に特徴として、租税専門家である税理士や弁護士の関与が挙げられる。両者が攻撃的に調査拒否を行った、指示していたとして、納税者本人はマインドコントロール下にあったというような、不提示、調査拒否は納税者の真意ではないとの主張も控訴審では付け加えられているが、判示では申告納税方式の下において、税務職員が行う帳簿書類の検査に対し事業者がこれに応じることは、納税義務者の当然の義務であるから、として(質問検査の通説的理解からは外れるのではないか)かかる主張は排斥されている。このような主張自体は珍しいもので、租税専門家と納税者の信頼関係が改めて重要であり、専門家として納税負担等バランスの取れた判断が求められることも示唆されるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



 

2021年2月9日火曜日

判例裁決紹介(平成30年6月1日、印紙税における課税文書該当性、契約書内容と実態の乖離)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年6月1日裁決で、印紙税における課税文書としての該当性が契約書内容と実態の相違により争いになった事例です。

具体的には、本件は宗教法人たる請求人が不動産賃貸による駐車場施設の貸付を、設備を置く、事業形態において実施している(消費税法においても駐車場施設の貸付として処理されている)状況下において、提携事業者と作成された契約書に関して、課税文書に該当するのか否か(裁決例ではなぜか具体的な課税文書が何であるのかが黒塗りにされている)が課題となっているものである。契約書に記載された文言は、駐車場用地の貸付であり(設備の設置の許可も含む)、上記のように事業の実態は駐車場施設の貸付となっているような状況であり、契約書の文言、内容と事業実態が乖離している、齟齬があるような状況が本件の起点となっているものであり、これにより如何なるものを基礎に課税文書としての該当性を判断するのかという点が中心的な争点となっているものである。

印紙税は実務において、税理士の関与外でもあろうが、非常に形式的な判断が行われるものであり、課徴金も3倍とシンプルな構成となっている制度であるがゆえに、その紛争事例が表に出ることは稀であるが、本件は、その珍しいものであり、基本となる課税文書としての該当性を判断する上で、如何なる点を基準に置くべきであるのかという点が争点となっているものであり、重要であり、珍しいものであって実務においても参考となろう。

そもそも印紙税そのものが、文書を対象としているものであり、取引税として、消費税が登場している、あるいは電子化が進んでいる状況においてはもう時代遅れとなっているとの指摘もあるが(電子化において、すすめる誘引になると思うのだが)、未だに税収はほとんど変化がない(預金通帳などの存在があるからであろうが、これも現在は減ってきているだろう)。消費税よりもより純粋な取引に対する租税として、デジタル文書であっても課税対象として捉えるようなスタンプ税としての印紙税よりもより拡大した形で再構築されるべきであると考えているのではあるが(時代遅れと言われるかもしれないが)、取引税としての消費税を補完する上でフェアな租税制度の構築という視点からはその役割が期待されるものであると捉えているのであるが、近年では税制改正大綱でもあまり取り上げられる事がなくなりつつあり、地味ながら重要な税制として考えられる。

第3条 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。

2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。

以上のように本件は、契約書に書かれた内容(内容そのもの自体が争われているわけではない)と実際に行われている事業実態が乖離していることを起点としている。上記のように印紙税の基本通達は、その第3条において、文言の実質的意義(多くはこれがいかなるものであるのかという部分が争点となることが多いのであるが)による課税文書としての判断を解釈としている。印紙税そのものが形式的な部分を重視した、文書をその対処とするものであり、一方でフェアな課税を維持する上では上記のような、必ずしも文書の文言に依拠した判断に限定したものではないという枠組みは正当なものとして理解されている。

しかしながら、本件は、文書の記載内容ではなく、事業実態が文書記載と異なる点で、状況を異にする。

「印紙税は、特定の契約や権利等それ自体を課税対象とするものではなく、
これらの事項を証明する目的で作成された文書を課税文書とするものである
から、課税文書に該当するかどうかは、その文書に表されている事項に基づ
いて判断するべきであり、その文書に表されていない事項は、原則として判
断の要素に取り入れるべきではなく、
また、当事者の約束により文書の名称
や文言は種々の意味に用いられる可能性があることからすれば、単に文書の
名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的
な意義に基づいて判断するべき
ものと解される。」

裁決はこの点につき、上記のように判断をください、文書文言に原則的な判断を依拠するべきであり、一定の例外的なものとして、文言の実質的な意義を追求するものと解して通達の立場から(裁決である以上当然でもあるが)、納税者が主張するように、契約による実質的な事業実態も考慮すべきとした納税者の主張を排している。

上記の通達や裁決の判断は、契約書などの文書の判断を形式的な判断に加え、文書慣習等を総合的に判断するとしているが、これは確かに文書内容に必ずしも限定されているものではなく、実質的な実態も考慮対象となりうると言う主張が合理性を有するのかという点で本件は課題となっているものである。本件は契約の、文言記載事項が、事業実態と乖離する、契約によって実際に行われている事業活動が異なることとなっており、課税文書を基礎とする印紙税と消費税申告における取り扱いに差異が生じる結果となっている(消費税法上の取り扱いの妥当性については争われていないが、一定の客観性をもって実態が合致していることは否定し難いのであろう)。このような状況は予測可能性の確保を法の基本目的とする租税法規の取り扱いとして妥当であるのかという点が問題の中核と考えられる。

そもそも契約内容と実態が乖離すること自体が発生することに違和感を覚えるところでもあろうが(我が国の法文書、契約に対する意識が現れているともいえようが)、現実的には、このような状況の発生も大いに存在しうるものであろう(長期に渡る契約期間においては実態が乖離することも想定されよう、ここで、単に契約内容と異なることがそもそもおかしいというのは現実を本当に捉え考えていないのだろう)。

私見としても、課税物件が課税文書に限定されている、文書に焦点を当てた制度構成となっていることからも、その文書内容に関して総合的に判断して、列挙された文書としての該当性に検討を行うことと、文書以外の状況を反映させることは問題の性質が異なるものと捉える。文書の内容を超えて判断をすることは不確実な要因を考慮に入れることであり、法的な安定を書くことに繋がりかねない。印紙税がその基本的な趣旨として、文書の背景にある行為や契約自体そのものに租税を負担する能力を見出しているという点に立ち返れば(文書自体はそれを表章するものに過ぎないと考える立場からは)、契約の実態を反映させることは、趣旨に合致したものと捉えるべきという意見もあり得ようが、本来ならば実態との乖離すること自体が回避されるべきであり、いたずらに契約の文言を超えた判断は租税法律関係を不安定とするものであり、回避されるべき判断の枠組みであるだろう。


以上です。毎回のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。



2021年2月2日火曜日

判例裁決紹介(令和2年2月5日裁決、輸入取引価格の仮装)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年2月5日で、輸入取引金額の仮装が問題となった事例です。

具体的には中国からのアパレル商品を仕入れ販売を行っている法人たる請求人が、同一の代表者が経営する中国現地法人からの請求書等に基づいて損金に仕入金額を計上し、確定申告を行っていたところ、課税庁が通関業者が税関に申告した取引価額が正当な、真正なものであり、損金が過大に計上されているとして、更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったことにつき、税関への申告額は誤りであるとして不服を申し立てているものである。

税関と国税をまたがる案件で、裁決にもそれぞれの調査が行われている事実が示されているが、近年はこのような輸入取引の関係する事案の増加が目立つ傾向にある。輸入取引が個人ベースでも拡大しているものであり、その金額をめぐる、あるいは仮装などの課題は今後も増加していくのであろう。特に消費税の仕入税額控除が着目され対応の必要性がましていくことも予想され、租税に関わるものとしては一見単純な取引であるが留意が必要な状況になりつつあるのだろう。

基本的には事実関係の問題であり、如何に代表者の証言に対する信憑性を争うことになるのかという点からも興味深いもので、通常輸出入取引は通関業者が関与するなど第三者によって関与されることが多いの【最近は郵送も含め必ずしもそうではないのかもしれないが、実際のところはどうなのだろうかこの辺は聞いてみたいところ】で、通常は記載の真実性やそれに基づく仮装であるのか否かという点を争うことは困難であるように思われるが、請求人の主張はこの真実性を主張することが主たる目的であるように思われるが、自身が代表者を務める法人が発行している請求書と通関価格が大幅に相違する事案が大量にある時点でミスとして事実関係を裏付けることは裁決が否定している。このような調査案件は今後も注目されるものであろうし、有益なティーチングケースとして認識される事案だろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。