さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、先週に引き続き、居住用財産の譲渡特例における相続により取得した財産の譲渡資産が課題になった事例です。
具体的には、本件は相続により家屋及び土地を、取得した相続人たる請求人が当該家屋を取り壊し、敷地であった土地を譲渡したことにつき、譲渡所得課税の特例の適用(租税特別措置法35条、居住用財産の譲渡特例)のなして申告したのに対して、本件土地は、対象となるものではないとした課税庁の更正処分に対して不服として提起された事例である。請求人は当該土地を両親から相続により取得しているものであるが、両親の各相続において段階的に取得したものであり、これらの相続による取得が租特の対象となるのかという点が争われた事例である。いささか特殊な事例であるのかもしれないが、本件のように相続に関する譲渡特例が利用されやすい割には、争いが少ないものでもあり、通常相続の発生は段階的に行われることが本来であり、財産の帰属に関しては、このような特例の適用も考慮要因となりうるところであるという点は、実務においても参考となるものであろう。
3 相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第五項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)が、平成二十八年四月一日から令和五年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合(当該相続人が既に当該相続又は遺贈に係る当該被相続人居住用家屋又は当該被相続人居住用家屋の敷地等の対象譲渡についてこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する。
一 当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(当該相続の時後に当該被相続人居住用家屋につき行われた増築、改築(当該被相続人居住用家屋の全部の取壊し又は除却をした後にするもの及びその全部が滅失をした後にするものを除く。)、修繕又は模様替に係る部分を含むものとし、次に掲げる要件を満たすものに限る。以下この号において同じ。)の政令で定める部分の譲渡又は当該被相続人居住用家屋とともにする当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
イ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ 当該譲渡の時において地震に対する安全性に係る規定又は基準として政令で定めるものに適合するものであること。
二 当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後における当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(ロ及びハに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
イ 当該相続の時から当該取壊し、除却又は滅失の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ 当該取壊し、除却又は滅失の時から当該譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。
4 前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋とは、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人(包括遺贈者を含む。以下この項及び次項において同じ。)の居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由(以下この項及び次項において「特定事由」という。)により当該相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める要件を満たす場合に限る。)における当該特定事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用(第三号において「対象従前居住の用」という。)を含む。)に供されていた家屋(次に掲げる要件を満たすものに限る。)で政令で定めるものをいい、前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋の敷地等とは、当該相続の開始の直前において当該被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地として政令で定めるもの又は当該土地の上に存する権利をいう。
以上のように、本件は租特の適用要件としての35条の4項にある相続直税段階での居住の用に供していたのか否かという点が適用要件状況の争いになっているものである。
すなわち本件家屋が被相続人の居住の用に供されていた家屋であり、かつ、本件家屋に被相続人以外に居住をしていた者がいなかったことが要件となるものであるが、最終的な相続の直前には被相続人(母)と相続人が同居しており(父の相続、すなわち最初の相続では非同居)、適用がないことを不服としているものである。最初の段階の相続も含め、居住の判定を行うべきとする主張がなされたものである。確かに相続としか規定されていないため、段階的な相続を基礎とする事実関係においては、このような主張も成立しないものではないのかもしれない。納税者としては実質的に、同居していたことが譲渡特例の適用の可否を左右することは納得し難いものであるのであろうが、特例の趣旨を鑑みれば、そもそも租特という軽減措置の適用においては、拡張的に解釈されることは困難であろう。明確に財産の取得の直前の相続を対象としているものであり、拡張的な適用の判定は趣旨に反するものであり、立法の問題であろう。
通常、このような特例の適用をめぐる案件では、そもそも居住の用に供していたのかという点が課題とされることになる。しかしながら、本件ではこの点は問題とされていない点が興味深いものでもあるが、居住の用に供しているとの判断自体が幅のある概念である。特に一定の期間を居住実態を持っていたのかという点が判断において重要な点となるが、本件の特例の適用は、直前の状況を問題としており、時点判断を基軸としている点で、適用において齟齬が生まれる可能性があるのではないかとも考えられる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
良い年をお迎えください。