2020年12月26日土曜日

判例裁決紹介(令和元年6月24日裁決、居住用財産の譲渡特例、段階相続)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、先週に引き続き、居住用財産の譲渡特例における相続により取得した財産の譲渡資産が課題になった事例です。

具体的には、本件は相続により家屋及び土地を、取得した相続人たる請求人が当該家屋を取り壊し、敷地であった土地を譲渡したことにつき、譲渡所得課税の特例の適用(租税特別措置法35条、居住用財産の譲渡特例)のなして申告したのに対して、本件土地は、対象となるものではないとした課税庁の更正処分に対して不服として提起された事例である。請求人は当該土地を両親から相続により取得しているものであるが、両親の各相続において段階的に取得したものであり、これらの相続による取得が租特の対象となるのかという点が争われた事例である。いささか特殊な事例であるのかもしれないが、本件のように相続に関する譲渡特例が利用されやすい割には、争いが少ないものでもあり、通常相続の発生は段階的に行われることが本来であり、財産の帰属に関しては、このような特例の適用も考慮要因となりうるところであるという点は、実務においても参考となるものであろう。

 相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第五項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)が、平成二十八年四月一日から令和五年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合(当該相続人が既に当該相続又は遺贈に係る当該被相続人居住用家屋又は当該被相続人居住用家屋の敷地等の対象譲渡についてこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する。
 当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(当該相続の時後に当該被相続人居住用家屋につき行われた増築、改築(当該被相続人居住用家屋の全部の取壊し又は除却をした後にするもの及びその全部が滅失をした後にするものを除く。)、修繕又は模様替に係る部分を含むものとし、次に掲げる要件を満たすものに限る。以下この号において同じ。)の政令で定める部分の譲渡又は当該被相続人居住用家屋とともにする当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該譲渡の時において地震に対する安全性に係る規定又は基準として政令で定めるものに適合するものであること。
 当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後における当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(ロ及びハに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡
 当該相続の時から当該取壊し、除却又は滅失の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
 当該取壊し、除却又は滅失の時から当該譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。
 前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋とは、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人(包括遺贈者を含む。以下この項及び次項において同じ。)の居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由(以下この項及び次項において「特定事由」という。)により当該相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める要件を満たす場合に限る。)における当該特定事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用(第三号において「対象従前居住の用」という。)を含む。)に供されていた家屋(次に掲げる要件を満たすものに限る。)で政令で定めるものをいい、前項及び次項に規定する被相続人居住用家屋の敷地等とは、当該相続の開始の直前において当該被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地として政令で定めるもの又は当該土地の上に存する権利をいう。

以上のように、本件は租特の適用要件としての35条の4項にある相続直税段階での居住の用に供していたのか否かという点が適用要件状況の争いになっているものである。
すなわち本件家屋が被相続人の居住の用に供されていた家屋であり、かつ、本件家屋に被相続人以外に居住をしていた者がいなかったことが要件となるものであるが、最終的な相続の直前には被相続人(母)と相続人が同居しており(父の相続、すなわち最初の相続では非同居)、適用がないことを不服としているものである。最初の段階の相続も含め、居住の判定を行うべきとする主張がなされたものである。確かに相続としか規定されていないため、段階的な相続を基礎とする事実関係においては、このような主張も成立しないものではないのかもしれない。納税者としては実質的に、同居していたことが譲渡特例の適用の可否を左右することは納得し難いものであるのであろうが、特例の趣旨を鑑みれば、そもそも租特という軽減措置の適用においては、拡張的に解釈されることは困難であろう。明確に財産の取得の直前の相続を対象としているものであり、拡張的な適用の判定は趣旨に反するものであり、立法の問題であろう。

通常、このような特例の適用をめぐる案件では、そもそも居住の用に供していたのかという点が課題とされることになる。しかしながら、本件ではこの点は問題とされていない点が興味深いものでもあるが、居住の用に供しているとの判断自体が幅のある概念である。特に一定の期間を居住実態を持っていたのかという点が判断において重要な点となるが、本件の特例の適用は、直前の状況を問題としており、時点判断を基軸としている点で、適用において齟齬が生まれる可能性があるのではないかとも考えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
良い年をお迎えください。


2020年12月19日土曜日

判例裁決紹介(平成31年1月18日裁決、介護施設への入居と居住用不動産の判定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年1月18日で、介護施設への入居により居住用不動産の譲渡に関する租税特別措置法規定の適用が否定された事例です。

具体的には本件は、請求人の父が平成15年頃より介護施設へ入居を行っている状況下にあって、もともと自宅として使用していた家屋や土地を売却した事案において、確定申告にて下記、租税特別措置法に定める居住用不動産譲渡所得に関する特別控除の適用を申告したところ、課税庁は、当該譲渡対象資産は、居住の用に供されているものではないとして、その適用を否定した処分の取消を求めるものである。

租税法規の適用において住所や、居住の用に供されているような状況は、実際の法規の適用や租税負担の起点として非常に重要な位置づけを占めることが多い。本件で課題となった特例は非常によく活用される租税特別措置法の一つであり、実務においても見かける機会が多いのではないだろうか。本件はその譲渡所得課税の特例の適用(3000万の特別控除)の是非が争点となったものであり、特に中心的な要件たる居住用財産の適否が基本的な争点となっている点で、本件は参考となるものであろう。現行の実務は通達を基礎として(治療等による一時的な離脱は許容している傾向にあるだろう)、居住に関する認定、その判断が行われている現況にあるが、通達の背景にある考えと実際の居住環境の対応が争点となっているという点で比較的汎用性が高い、留意すべき項目であろう。特に現代は社会構造が変化し、介護の社会化が進み、介護施設の利用や、近親の近接居住がまれな状況下においては介護施設への入居は一時的なもの、恒久的なもの、それぞれ、一般化しているものであり、かかるような状況から、居住の状況を如何に判断されるべきであるのか、従来と変化すべきものであるのかという点は課題となっているものである。


居住用財産の譲渡所得の特別控除
第三十五条 個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなつた場合には、その年中にその該当することとなつた全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。
 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
 第三十二条第一項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から三千万円(短期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

 その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの(以下この項において「居住用家屋」という。)の譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の八若しくは第三十七条の九の規定の適用を受けるものを除く。以下この項及び次項において同じ。)又は居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この項及び次項において同じ。)をした場合

以上のように、本件の基本的な論点は、居住の用に供されているのか否かを介護施設への入所(事実認定では一時的に帰宅したこともあり、水道等は基本料金を支払いいつでも使用可能な状況としている)ような状況を反映しうるものであるのかという点が課題とされていることになる。現況は入院等の一時的な居住地からの離脱は、居住の用に供しているのか否かという点において判断材料としないことは、主流であるが、本件のようにいつでも戻れる状況にしていることが居住をしているものとみなされるべきものであるのかという点が主張されている。

「本件特例が、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得につき一定額の特別控除額
を認めている趣旨は、個人が居住の用に供している家屋又は当該家屋と共にする
敷地の用に供されている土地を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財
産を取得するのが通常であるなど、
一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があ
り、その担税力が弱い
ことから、居住用財産の譲渡につき30,000,000
円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取
得を容易にすることにあるものと解される。
このような本件特例の趣旨に照らすと、居住用家屋とは、真に居住の意思をも
って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋
をいうと解す
のが相当である。」

裁決は、その判断として上記のように、当該特例の趣旨を他の譲渡と比べて担税力が低い(そもそも担税力という概念が定かではないが)としてかかる点を根拠に、真なる居住の意思と外観的な一定期間の生活の拠点とすることを求めている。担税力の減少という事情を反映させるべく、意思と実態による2要件を求めているものと解されよう。なぜ居住の意思(真なると表現しているところに如何なる所以があるのかという点も興味深いが)が重要視されるのかという点も、おそらくこの特殊事情の反映において重要な点を表現しているのであろう。ただし意思を重要視しつつも、実態とのバランスをとっているものである。

このように、本件では、居住実態も重視し(一定期間というものが裁量幅が広く、定かではないともいえようが)、請求人の主張するような意思を重視した拡張的な居住の用に供しているとの判断の否定している点は、留意されるべきであろう。居住の用に供するという、資産保有者の意思が介在することが予想される判断枠組みにおいて、居住実態を要求することで真実性、客観性を意図していることが本件解釈の重要な点であるように考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年12月1日火曜日

判例裁決紹介(東京高判令和元年11月6日、輸出名義人と仕入税額控除)

 


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和元年11月6日で、輸出名義人として税関長の許可証を有する原告、控訴人がなした輸出免税に関する仕入税額控除の適用を否認した事例です。

具体的には本件は、香港へ商品を輸出取引を行う原告・控訴人が、一月ごとに区分した課税期間を設置し(この時点で、いささか特殊な取引であり、輸出免税による仕入税額控除の還付を目的とした取引を行っているものであろうことが推測される)、当該商品の仕入税額を課税仕入であるとして申告し、還付申告を行った場合において、かかる課税仕入は、原告控訴人が国内で行った売買契約とは認められず、課税仕入が認められないとした更正処分を不服として提起された事例である。本件では、原審と同様に、課税庁の主張が認められ、納税者は単なる名義人、特に、輸出免税における税関長の証明書の名義人に過ぎないのであって、課税仕入の契約当事者ではないとして課税仕入そのものがなかったものとして事実認定されているものである。地判では、取引当事者の国内事業者は、香港の企業と直接契約を行っており(原告控訴人とは契約書などがなく)、国内取引として経理処理されていることを加味して、原告控訴人が契約を行った課税仕入ではないとして、仕入税額控除の認めないとした判示を行っており、基本的に、高裁でもその判断が是認されているものである。

重要なのは、地裁段階で行われた事実認定であり、契約が実際に行われているのか否かという点が基本的な争点となっているものである。いささか特殊な輸出免税のケースであるのかもしれないが、税関長の証明が存在することをもって形式的な判断を基軸におく、消費税の取引判断において、実質的な契約内容が存在するのか、本当に課税仕入が存在するのかという部分によって、課税仕入を比定した事例として、貴重な事例であるように捉えられる。おそらくは地裁段階での事実認定及び高裁で示されているように、形式的な書類保存が重視されることの多い、消費税の実務において、かかるように取引の存在を詳細な事実認定により否定した事例の存在は、今後、適格請求書が採用されたとしても
貴重な事例として考えられるのではないだろうか。

(輸出免税等)
第七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
 外国貨物の譲渡又は貸付け(前号に掲げる資産の譲渡又は貸付けに該当するもの及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和三十年法律第三十七号)第八条第一項第三号(公売又は売却等の場合における内国消費税の徴収)に掲げる場合に該当することとなつた外国貨物の譲渡を除く。)
 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
 専ら前号に規定する輸送の用に供される船舶又は航空機の譲渡若しくは貸付け又は修理で政令で定めるもの
 前各号に掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるもの
 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。

以上のように、判示では、輸出免税の対象として、下記のように納税者の主張に答え(そもそも課税仕入そのものの存在が争点となっている段階では主張が噛み合っていないものとも言えようが)、形式的な点を重視し、輸出の名義人である納税者の救済を図るべきとの主張に対して、輸出免税の対象を書類の名義人である主体に着目するものではなく、取引の内容に則るものであるべきと明確に判断している点は着目されよう。書類の保存等を重視する形式的な判断を重視している消費税の基本的な運用において、それを逆手に取るような、申告が行われている現状へ、本件の判断はより留意されるべきであろう。かかる判断は、輸出免税の法解釈から導かれているものであることは着目されるべきであろう。


「消費税法7条1項は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け」等の同項各号所定のものについては、消費税を免除する旨を定め、同条2項は、その課税資産の譲渡等が同法7条1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、消費税法施行規則5条所定の方法により証明がされたものでない場合には消費税法7条1項の規定は適用しない旨を定めている。このような消費税法7条の規定の文言に照らすと、同条1項は、取引の主体ではなく、取引の内容・態様に着目して消費税の免除の要件を定めていることが明らかであり、同条1項により消費税を免除されるには、事業者が国内において課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行ったことを要するものと解される。

本件各取引について、■は輸出許可書の名義人であったというにとどまり、■
と本件各国内事業者との間に売買契約があったとは認められず、■が本件各
取引により資産を譲り受けたとはいえないのであるから、■は、本件各取引
について輸出免税の適用を受けることはできず、輸出免税の適用者として仕
入税額控除の適用があるという余地はない。控訴人の上記主張は、その前提
を欠くものであり、採用できない。」