2020年11月20日金曜日

判例裁決紹介(平成30年8月1日裁決、委任先職員の任務懈怠と青色申告の取消)

 

さて、今回は、平成30年8月1日裁決で、委任先の税理士事務所の職員が任務懈怠で2年連続で申告期限までに確定申告書を提出できなかったことで青色申告を取り消された処分を不服として提起された事例です。

具体的には、請求人が事業承継により、税理士事務所の顧問契約を継続し、担当者である従業員が任務を懈怠し、期限内に申告書を提出しなかったことによる青色申告の取り消しを不服として、納税者の責めに帰すべき事情ではないものとしてかかる処分の取消を求めているものである。
実務において、青色申告の対象とすることは、至極当然のものであり、この取消は重要な失点となることから、期限内申告を強く意識されているものであるところであろうが、本件は、上記のように委任先の税理士事務所の職員が懈怠し、期限後申告となった事例であり、期限超過による取消は珍しくないものであるが、本件のような事由によるものは珍しく、実務家にとって留意として認識されるべきものであろう。現在はe-Taxやシステムの発展により大幅な期限の超過は従前と比して減少傾向にあるものと考えられているが、2年連続の超過によるリスクと日々の顧問先とのやり取りの重要性が忍ばれるものであろう。
忘れがちでもあろうが、あくまでも青色申告は、恩典的な制度であり、この辺の位置づけの認識が最近は薄れつつあるように思われ、啓発的な存在として本件のような事例は捉えられるべきである。

ただし本件は、取消処分の妥当性が争われたものの、本来の中心的な争点は、任務懈怠に該当することで、その損害を納税者が負担すべきものであるのか否か、すなわち、民事における委任契約と損害賠償の問題であり、いささか論点がずれているとも言えよう。申告納税を基軸とする以上、納税者の責めに帰す事情があるのか否か、特に本件のように2年連続の期限超過が課題となっている段階では、一度限りの超過ではなく、連続的に課題が発生しているとの評価となるものであり、かかる点と青色申告の性格を天秤にかけることになるだろう。実際、具体的な任務懈怠の中身については、詳細に争われていない(個人的にはなぜその様になったのかという点は興味深いが)。


(青色申告の承認の取消し)
第百二十七条 第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度までさかのぼつて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。
一 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第一項に規定する財務省令で定めるところに従つて行なわれていないこと。 当該事業年度
二 その事業年度に係る帳簿書類について前条第二項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと。 当該事業年度
三 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。 当該事業年度
四 第七十四条第一項(確定申告)又は第百二条第一項(清算中の所得に係る予納申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつたこと。 当該申告書に係る事業年度
五 第四条の五第一項(連結納税の承認の取消し)の規定により第四条の二(連結納税義務者)の承認が取り消されたこと。 その取り消された日の前日(当該前日が連結親法人事業年度(第十五条の二第一項(連結事業年度の意義)に規定する連結親法人事業年度をいう。)終了の日である場合には、その取り消された日)の属する事業年度
2 税務署長は、前項の規定による取消しの処分をする場合には、同項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知する。この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない。

以上のように、本件は青色申告の取消をめぐる、税務署長の裁量が課題となっている。上記のように法人税法は、特に取消原因に関しては、期限超過をもってその取消を認める規定となっており、実際の法規定よりも現実は緩和的な運用がなされていることは、意外と知られていない。2年連続の処理が超過したことが事実上の実務の指針となっているようであり、かえって2年以内であれば大丈夫のような本末転倒な状況になっているようにもなっていないだろうか。あくまでもこの処理は実務運営指針のレベルでの対応であり、悪質なものは法規定に則り対応される可能性もあることが認識されるべきであろう。従前のものと整合的であるが、下記のように青色申告の基本的な性格と取り消しの関係は整理されていることは重要な点である。本件は恩典的な措置であり、比較的課税庁の裁量が強い分野であるが2年連続の状況を原則的な対応としていることで、納税者における帰責性の判断も限定されているものであろう。

青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約した納税者が、
これに基づき所得金額を正しく計算して期限内に申告納税することを期待し、
かかる納税者に対してその特典を付与するものであるところ、法人税法第
127条第1項に規定する青色申告の承認の取消しの趣旨及び目的は、青色申
告の承認を受けた納税者について、青色申告の特典の付与を継続することが青
色申告制度の趣旨及び目的に反することとなる一定の事実がある場合には、そ
の承認を取り消すことができるものとすることによって、青色申告制度の適正
な運用を図ろうとするものであると解される

青色申告の承認の取消しは、青色申告制度の趣旨から真に青色申告書
を提出するにふさわしくないと認められる場合に行うものであるから、
本件事務運営指針の4に該当する場合においても、役員その他相当の権
限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得な
いと
認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、
再発
防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期
待で
きるなど、
取消しをしないことが相当と認められるものについては、本
件事務運営指針の4にかかわらず、
所轄国税局長と協議の上その事案に
応じた処理を行うものとする

一方、青色申告の承認の取消しは、法人税法第127条第1項各号に該当す
る事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々
の事情に応じ、所轄税務署長の合理的な裁量によって決すべきものと解され
る。
そして、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されて
いると認められる場合において、税務署長がその裁量権に基づき行った青色申
告の承認の取消処分については、それが社会通念上妥当性を欠いて裁量権の範
囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合や法の趣旨及び目的からみて
裁量権の不合理な行使であると認められる場合でない限り、その裁量権の範囲
内にあるものとして、違法又は不当とはならないものと解するのが相当であ

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年11月13日金曜日

判例裁決紹介(令和元年7月2日裁決、未検収による損金計上と仮想隠蔽の不成立)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年7月2日裁決で、請負契約による成果の納入に伴う損金計上において未検収の損金を計上したとして重加算税の仮想隠蔽に当たるとした処分が裁決段階で、その仮想隠蔽の成立が否定された事例です。

具体的には請求人が手書きの図面をデータ化し、書類のファイリング(データ化資料の印刷)の提出とデータ化した記録媒体を納品されることを約した契約により費用を支払うこととなっていた事案において、電子化が完了し、検収を行っていないにも関わらず、損金に計上したことをもって、相手方と通謀し、虚偽の申告を行ったものとした更正処分につき、その取消を求めるものである。裁決段階で、課税庁が主張する仮想隠蔽の成立が否定された珍しい事例であり、事実関係に左右されるべきものであるが、多様な納入形態、検収が予定される中で、事実上、継続的な役務提供が図られている中では、このような事案の発生は特段珍しいものではなく、本件では仮想隠蔽の成立は否定されたが、微妙なところで判断が異なる結果となっており、継続的な役務提供における留意を示しているのではないだろうか(本件では書面によるファイリング段階でほぼ検収ができているとの認識、データ化に対する認識に対する課税庁と請求人における相違が結果として仮想隠蔽の成立を、意図的ではないとして否定される事となっている)。

本件では重加算税の基本的な趣旨を及びその解釈は特段、下記のように特徴的なものではなく、従前の例と整合している。したがって、事実関係の微妙な認定によって重加算税の賦課徴収が決定されることは改めて認識されるべきであろう。データ化物品の納入でありながら、請負契約によるものであり、事実上継続的に役務提供がなされるような契約形態であることも本件の相違を生み出したものであるともいえようが、このように引渡と役務提供は必ずしも分断されるものではなく、また簡単に、契約の成立履行が明確に判断できるということは必ずしも異なるのが実際のところではないだろうか。本件は講学的にあるいは教科書的に、機械的に検収が終了しているとかの判断が行われるものではないこともまた再認識されるところであって、実務的な勘所が現れている事案であるように捉えられる事案ではないだろうか。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。


通則法第68条第1項は、上記1の(2)のとおり、通則法第65条第1項の
規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算
の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は
仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、
過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
そして、通則法第68条第1項にいう「事実を隠蔽し」とは、課税標準等又は
税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏する
ことをいい、
また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等
に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲す
ることをいうと解するのが相当である