2020年6月2日火曜日

判例裁決紹介【平成30年11月28日裁決、現金仕入の計上漏れと立証)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年11月28日裁決で、現金売上の計上漏れとパラレルで計上していなかった(と主張する)現金仕入が必要経費として(仕入税額控除の対象としても)、認められるのかという点が争点となった事例です。

具体的には、本件はリサイクル業を個人で事業として営む請求人が、調査により指摘された現金売上の計上もれに対して修正申告を行い、もって当該売上とパラレル(プラスマイナスゼロで計上の必要がないものと認識していたと主張して)、現金での仕入や固定資産の取得(減価償却費の計上)を当該事業における必要経費として、また仕入税額控除の対象として認めるべきであるとして、不服申立てを行ったものである。中心的な争点はこのような現金仕入、による経費支出を必要経費として認めるのか否かという点が課題となっているものであり、如何にしてその必要経費が認められるのかという点が基礎となっている。かかる論点は従前から存在するものであり、特段珍しいものではないことは言うまでもなく、実務的には、おそらく日々において日常的に行っている判断であるように思われるところであるが、通帳等の一定の客観的な記録が存在する(証憑等も含め)ものではない、当事者以外に何ら証明手段が存在しない、経費支出を必要経費として認めうるものであるのかという点は古典的な論点ともいえよう(従って当然のように厳しくチェックされるものであろうが)。本件もこの類型に属するものであり、特段、珍しい事例ではないのかもしれない。リサイクル業という比較的課税上、問題が多い業務形態であるが、中心的な課題としては、このような個人の事業として行っている中で必要経費として認識されるようなものが、存在しているのか、そしてそれを立証していくことが可能であるのかという点が、いわば事実関係の評価が中心となっているものと認識される。個別具体的な事実関係が中心となるものであることは疑いようがないものであるが、各種費用ごとに詳細な事実認定、主張の対比(このように考えるならば、ある意味親切に作成されている、請求人と課税庁の主張の対比部分が重要性を有するのであろう)、立証の適否が整理されており、実務的には、ティーチングケースとして参考となるべきものであろう。納税者の主張はほぼ全面的に排斥されているが(記録を読むと至極当然のようにも思えるが)、その多くの主張は主張段階での請求人としてに立証の不充分に起因するものとなっており、立証責任が納税者にあることをまずはベースに置いて判断がされていることは留意されるべきであろう(最近の傾向にあるものであるが)。

「更正の請求は、申告内容の過誤から生じる納税
者の不利益を救済するため、租税行政の法的安定性の要請を、一定の要件
の下に制限する趣旨のものと考えられ、このことやその規定の文言等に照
らすと、自ら計算した所得金額等を記載した申告内容の更正を請求する納
税者側において、その申告内容が真実に反するものであることの主張及び
立証をすべきであると解するのが相当である。

したがって、税務署長は、更正の請求の調査手続において、上記のよう
な点について、納税者から具体的な主張及び立証がない限り、その納税者
の提出した申告書に記載された所得金額等をそのまま正当なものとして、
納付すべき税額をその申告どおり確定すれば足りるというべきである。
ロ 所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これら
の所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じ
た費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連がある
というだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、か
つ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。」

以上のように、本件ではここの費用項目において如何なる主張がなされているのか、そして反証が、あるいは立証の不足、信頼性の程度の課題が明確にされているものであり、裁決本文を参照されるべきものであろう。但し、本件において、この請求人の主張において、その立証が不充分であることが上記判断の基本的な基礎となっている。納税者である請求人も仕入相手側にある領収等の事実の証明は、納税者段階では、その活用が困難であり、自身の主張をもって経費が必要経費として認められるべきであるものと主張しているが、ほぼ全面的に排斥されている。その判断の根拠は上記のように、更正の請求における立証責任を事実上納税者に転換していることにある。従来は納税者の主張にあるように、課税庁が質問検査の行使などを通じてその立証を行うことが、必要とされることが基本的な理解であったように思われるところであるが、本件は裁決段階であるが、このような必要経費の認定のようなケースにおいて上記のように立証責任を納税者に移す考え方が主流となりつつあるように、考えられる。税理士を中心とした民間ベースでは、ほぼ計算記録の整理に軸足が置かれつつあり、その立証や、要件の充足の判断は、通達に依拠することで、ほぼ放棄してきたのが全般的な流れであるように認識されるが、このような判断はほぼ裁決レベルでは確定しつつあり(近年は裁決も法的な判断をベースにすることが確立されつつある)、訴訟段階でも同様の傾向がみられるようになりつつある。その法的な根拠は更正の請求における国税通則法の書類添付義務に位置づけられているが、この点は、より広範囲に租税法規の適用における立証責任の分配について、解釈するものとして理解することは従来の財産権保護や、質問検査の位置づけから構築された判断とはバッティングするものであり、より今後の研究課題とすべきものであるように思われるが、私見としては、少なくとも更正の請求段階において、一定の手続きが調査段階において整備されていることからも(理由附記、説明等)、かかるような立証の責は納税者においても保持されるべきものであるように考える。この場合は、どの程度の詳細な事項を記載すべきであるのか、説明、理由附記等の実効性の確保が重要な課題となるのであろう。租税の専門家としては、会計業務における計算記録の整理・調査としての機能、当該機能への習熟に加えて、租税判断における法的な判断をベースとした課税要件の理解(租税法規の基本的な解釈と事実関係の理解)は、求められることになるのであろう(ある意味、租税法規の専門としてまっとうな方向であるが、帳簿記録のみならずより取引内容に踏み込んで把握し理解していくべきであろうし、各種サポート、相談等の他の業務においてもこの点が起点となって行くのであろう)。

国税通則法23条
3 更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない。


いずれにしても本件では、納税者の主張は、主張するすべての現金仕入の金額をサポートする領収書等のサポートではなく(一部をこの主張のため相手先から集めてきたものであり、信頼性に欠けるものとして評価されている)、固定資産、消耗品の実在、給与等の相手先の氏名が異なるなど(本来のところは、立証云々より、よく更正の請求出してきたなというレベルであるのかもしれない、適正な帳簿記録等がほぼ存在しないレベルであるのだろうが)、立証の責を充足していないとして、ここの費用ごとに反証されているものである。この点は逆に立証すべき点、準備すべき資料を勘案する上では、参考となるものであり、納税者課税庁側双方においても重要なトレーニングとなるべき事例であるように捉えられる。

以上です。毎度のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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