さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成28年8月4日で、更正処分に伴う取引内容の変更によって被った損害の賠償を求めるものです。
具体的には、英国法人である原告に対して取引先が課税庁による調査、更正処分により、寄附金認定を受けたことにより(当然寄附金認定の当事者ではないので本件訴訟ではその是非については争いとはならない)、当該寄附金相当額の返還を求められ、経済的損害を被ったとして国家賠償請求を求めたものである。寄附金認定という、取引内容の変更であり、取引による無償の価値の移転が発生していたものに対して、課税処分、更正処分を契機としてその取引内容が変更され(原告と取引先の力関係が伺えるが)、返還を求められた金額相当額が損害であるとして賠償を求めているものである。実務的にも寄附金の認定はそれほど珍しいものではないだろうが、基本的に、その認定が課題となるものが殆どであり、このような寄附金の返金が争いになるような事例は珍しい(通常は納税者段階で寄附金相当額の負担を行うことが多いのではないか)。寄附金認定による顛末を垣間見るという点でも本件は参考となるべき事例であろう。
本件は、原告の主張を全面的に棄却しているが、判断の枠組みとしては、国家賠償の典型的な訴えの利益のあり方、処分の効果が争いになっているものであり、特段珍しいものではないのかもしれないが、課税処分、特に更正処分の第三者への効果がいかなるものであるのかという点が基礎となっている判断であり、一般に取引においては租税負担を考慮することが重要であり、かかる点から更正処分による変更による取引内容の修正が争点となりうるものであるのかという点が課題となっているものである。確かに一般においては、取引を行うにあたって、租税負担を考慮することは当然であり(左右するものであり)、変更によって課税処分の対象者のみならず、当事者である原告のような取引相手先まで影響が及ぶことが容易に想定されるものであり、もってかかる損害は賠償対象となるべきであるという主張は一定の納得感があるものではないだろうか(一定の理解が得られることも考えられる、内国法人であれば、別途自身の法人税申告等により修正が図られるものであり、本件のように第三者への影響まで配慮義務があるとする主張は過大なものであると評価されるが)。しかしながら判決のように、更正処分の効果は第三者に及ぶものではなく、処分対象者にのみ影響するものであって、処分を契機とした取引の変更は担保されるものではないということは、一般の理解とはおそらく異なるものであり、専門家、実務家としては認識しておくべきものであろう。更正処分に代表される課税関係は財産関係に影響を及ぼすものであるが、その効力範囲は限定的であり、経済的な影響範囲と法的な影響範囲は相違していることは留意されるべきものと考える。間接的には租税負担は、取引実施するにあたって、重要な要因であり租税法の基本原則として租税法律主義、そして予測可能性を保護することを重要視していることと矛盾するものとも言えるのかもしれないが、更正処分によってたとえ取引の修正が発生したとしてもかかる効果の影響は遮断されていることが更正処分の特徴であることは再度認識されるべきである。個人的には通常はかかる変更の影響は自身の納税申告に関わるものとして理解されるものであり、なぜ原告法人あるいは関係専門家がこのような訴訟を提起したのかという点は疑問を覚えるところでもあるが(外国法人であることが影響しているのか、専門家が税務に疎いのかなどであろうか)・・・。
「更正処分とは、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときに、その調査に基づき、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を是正する処分であり(国税通則法24条)、更正処分は、同処分の名宛人に対し、納税義務の内容を確定するという法的効果を生じさせるが、それ以外の第三者に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。そうすると、本件各更正処分は、同処分の名宛人ではない原告に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。」
以上のように、本件は課税処分、特に課税関係の修正を求める更正処分による契約等の変更、具体的には相手先の寄附金認定による対価の変更、返還が損害として賠償対象となるものであるのかという点が争いになっている。原告が外国法人であり、課税所得の変更という形での救済は行われるものではなく(少なくとも日本の課税関係においては)、更正処分が如何なる性格を有し、もって他者、契約当事者に対する効果までも及ぼすものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。判示としては上記のように、更正処分は名宛人以外には効果が及ぶものではなく契約当事者であろうと第三者まで法的効果が生じるものではないとして理解している。
かかる点は更正処分の基本的な性格であり、判示としてこの点をもって請求を退けることは、申告納税を基礎とする我が国の税制においては、現行法規の解釈としては妥当なものであろう。賠償対象となる法律上保護された利益を、処分による影響を拡張的に見積もって、第三者にまで効果が及ぶものとして、かかる利益への配慮義務が存在することを認めることは、租税法律関係にとどまらず、各種権利にまで影響が及びうる。行政の行為は課税にとどまらず、非常に広範囲まで、その影響が及ぶものであることは否定し難いが、法的な効果を原則として判断すべきであり、効果が及ぶものではないものに対してまで、賠償と理解することは困難であろう。
但し、一般の納税者において課税処分による効力はかかる不利益を感受してもなお、契約を維持すべきような状況にあるような場合が多いだろう。課税処分により実質的に契約の変更がなされたものとして契約の相手先にまで影響を及ぼす可能性は大きい。このような点を考慮すれば、課税処分における予測可能性、法的な安定を図ることの重要性は間接的ではあるが、高いものと言える。租税負担の計算が民事法における取引関係をベースに計算されていながらも、課税関係の早期安定の要請も考慮し、法的な効果は遮断されていることは特性として理解すべきであろう(しかるに、自身の納税において修正を行い救済を図ることになるべきものであるが)。