2020年6月20日土曜日

判例裁決紹介【大阪地判平成28年8月4日、更正処分に伴う取引内容の変更】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成28年8月4日で、更正処分に伴う取引内容の変更によって被った損害の賠償を求めるものです。

具体的には、英国法人である原告に対して取引先が課税庁による調査、更正処分により、寄附金認定を受けたことにより(当然寄附金認定の当事者ではないので本件訴訟ではその是非については争いとはならない)、当該寄附金相当額の返還を求められ、経済的損害を被ったとして国家賠償請求を求めたものである。寄附金認定という、取引内容の変更であり、取引による無償の価値の移転が発生していたものに対して、課税処分、更正処分を契機としてその取引内容が変更され(原告と取引先の力関係が伺えるが)、返還を求められた金額相当額が損害であるとして賠償を求めているものである。実務的にも寄附金の認定はそれほど珍しいものではないだろうが、基本的に、その認定が課題となるものが殆どであり、このような寄附金の返金が争いになるような事例は珍しい(通常は納税者段階で寄附金相当額の負担を行うことが多いのではないか)。寄附金認定による顛末を垣間見るという点でも本件は参考となるべき事例であろう。

本件は、原告の主張を全面的に棄却しているが、判断の枠組みとしては、国家賠償の典型的な訴えの利益のあり方、処分の効果が争いになっているものであり、特段珍しいものではないのかもしれないが、課税処分、特に更正処分の第三者への効果がいかなるものであるのかという点が基礎となっている判断であり、一般に取引においては租税負担を考慮することが重要であり、かかる点から更正処分による変更による取引内容の修正が争点となりうるものであるのかという点が課題となっているものである。確かに一般においては、取引を行うにあたって、租税負担を考慮することは当然であり(左右するものであり)、変更によって課税処分の対象者のみならず、当事者である原告のような取引相手先まで影響が及ぶことが容易に想定されるものであり、もってかかる損害は賠償対象となるべきであるという主張は一定の納得感があるものではないだろうか(一定の理解が得られることも考えられる、内国法人であれば、別途自身の法人税申告等により修正が図られるものであり、本件のように第三者への影響まで配慮義務があるとする主張は過大なものであると評価されるが)。しかしながら判決のように、更正処分の効果は第三者に及ぶものではなく、処分対象者にのみ影響するものであって、処分を契機とした取引の変更は担保されるものではないということは、一般の理解とはおそらく異なるものであり、専門家、実務家としては認識しておくべきものであろう。更正処分に代表される課税関係は財産関係に影響を及ぼすものであるが、その効力範囲は限定的であり、経済的な影響範囲と法的な影響範囲は相違していることは留意されるべきものと考える。間接的には租税負担は、取引実施するにあたって、重要な要因であり租税法の基本原則として租税法律主義、そして予測可能性を保護することを重要視していることと矛盾するものとも言えるのかもしれないが、更正処分によってたとえ取引の修正が発生したとしてもかかる効果の影響は遮断されていることが更正処分の特徴であることは再度認識されるべきである。個人的には通常はかかる変更の影響は自身の納税申告に関わるものとして理解されるものであり、なぜ原告法人あるいは関係専門家がこのような訴訟を提起したのかという点は疑問を覚えるところでもあるが(外国法人であることが影響しているのか、専門家が税務に疎いのかなどであろうか)・・・。


「更正処分とは、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときに、その調査に基づき、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を是正する処分であり(国税通則法24条)、更正処分は、同処分の名宛人に対し、納税義務の内容を確定するという法的効果を生じさせるが、それ以外の第三者に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。そうすると、本件各更正処分は、同処分の名宛人ではない原告に対して何らの法的効果を生じさせるものではない。」

以上のように、本件は課税処分、特に課税関係の修正を求める更正処分による契約等の変更、具体的には相手先の寄附金認定による対価の変更、返還が損害として賠償対象となるものであるのかという点が争いになっている。原告が外国法人であり、課税所得の変更という形での救済は行われるものではなく(少なくとも日本の課税関係においては)、更正処分が如何なる性格を有し、もって他者、契約当事者に対する効果までも及ぼすものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。判示としては上記のように、更正処分は名宛人以外には効果が及ぶものではなく契約当事者であろうと第三者まで法的効果が生じるものではないとして理解している。

かかる点は更正処分の基本的な性格であり、判示としてこの点をもって請求を退けることは、申告納税を基礎とする我が国の税制においては、現行法規の解釈としては妥当なものであろう。賠償対象となる法律上保護された利益を、処分による影響を拡張的に見積もって、第三者にまで効果が及ぶものとして、かかる利益への配慮義務が存在することを認めることは、租税法律関係にとどまらず、各種権利にまで影響が及びうる。行政の行為は課税にとどまらず、非常に広範囲まで、その影響が及ぶものであることは否定し難いが、法的な効果を原則として判断すべきであり、効果が及ぶものではないものに対してまで、賠償と理解することは困難であろう。

但し、一般の納税者において課税処分による効力はかかる不利益を感受してもなお、契約を維持すべきような状況にあるような場合が多いだろう。課税処分により実質的に契約の変更がなされたものとして契約の相手先にまで影響を及ぼす可能性は大きい。このような点を考慮すれば、課税処分における予測可能性、法的な安定を図ることの重要性は間接的ではあるが、高いものと言える。租税負担の計算が民事法における取引関係をベースに計算されていながらも、課税関係の早期安定の要請も考慮し、法的な効果は遮断されていることは特性として理解すべきであろう(しかるに、自身の納税において修正を行い救済を図ることになるべきものであるが)。


以上です。毎度のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介【福岡高判平成30年2月28日、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、福岡高判宮崎支部平成30年2月28日で、ゴルフ場用地の評価方法と負担調整措置の適用関係が争われたものです。

具体的には、本件は、ゴルフ場用地を保有する控訴人(原告、法人)が、当該用地に賦課された固定資産税の評価を巡って、固定資産税評価基準、ゴルフ場評価通知による山林比準評価方法による評価を適用された評価結果は、宅地比準評価による評価と一致するものであり、下記、地方税法附則において定められた負担調整措置の対象となるものであって、その適用を怠った処分庁の賦課決定は違法であるとして訴訟に至ったものである。地裁では、原告の主張は認められず、控訴審ではこの負担調整措置の対象となる宅地比準土地として山林比準評価方法によるゴルフ場用地、土地が対象となるものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。

非常にテクニカルな固定資産税評価に関する、それもゴルフ場用地に関する評価方法と地方税法が定める固定資産税の負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が課題となるものであり、おそらくマニアックな事例である。租税専門家であっても固定資産税に興味関心をもっている人は少ないものと言えようが、近年は、各種調整措置が導入されるようになり(中小企業への減免措置の導入など、)従来は、地方税、特に市町村における基幹税であるとして各種措置は導入されてこなかったものであるが、その傾向は変わりつつある。地方税における訴訟もこの固定資産税を中心に増加傾向にある。固定資産税は、収益の有無に関わりなく、その財産的価値に対して一定率を賦課されるものであり、租税負担としては、負担感が強いものであり、事業者等においては、今後もより関心が高まるものであろう。本件は、基礎知識を必要とする事例ではあるが、固定資産税評価基準における評価通知の位置づけを理解する上でも重要な事例(行政実例も含め)、固定資産税評価の基礎的な事例を学ぶ上では参考となる事例ではないだろうか。

ゴルフ場は、広大な用地を有して、山林を切り開くなどその成り立ちなどから、租税法規においてこれまで、会員権の取り扱いをめぐる課題など様々な課題を提示してきたものであるが、固定資産税においてもその特性から独自の評価通知が設けられているなど、特異かつ重要なものである。本件も、その評価通知における山林比準評価方法によって評価を行っている当該用地が、商業地等を適用対象となる負担調整措置の対象となりうるものであるのかという点が、すなわち宅地並みの課税を基礎とする措置を適用対象とすることが可能であるのかという点が争われているものである。


地方税法附則(現行法のもの、第18条)
4 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・六以上〇・七以下のものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等の当該年度分の固定資産税に係る前年度分の固定資産税の課税標準額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、前年度分の固定資産税の課税標準額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等据置固定資産税額」という。)とする。
5 商業地等のうち当該商業地等の当該年度の負担水準が〇・七を超えるものに係る平成三十年度から平成三十二年度までの各年度分の固定資産税の額は、第一項の規定にかかわらず、当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格に十分の七を乗じて得た額(当該商業地等が当該年度分の固定資産税について第三百四十九条の三又は附則第十五条から第十五条の三までの規定の適用を受ける商業地等であるときは、当該額にこれらの規定に定める率を乗じて得た額)を当該商業地等に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額(以下「商業地等調整固定資産税額」という。)とする。


以上のように、本件の中心的な争点は、負担調整措置の対象としてゴルフ場評価通知にある山林比準評価を用いた土地に対して、その適用を行うべきものであるのかという点が争いになっている。控訴人は主張において
「宅地だけではなく宅地比準土地を含めた商業地等を負担調整措置の対象とした趣旨は,宅地比準土地が近傍宅地との関係で「宅地並みの価格水準」にあるがゆえに,宅地と同様に,税の据置き,引下げ措置を講じて,税の負担水準の均衡化を図ろう」

として理解しており、租税負担の引下げのためのものであるという認識が強く主張されている。しかるに山林比準評価を適用したものであっても、この対象として評価に行政実例によって補正が加えられていることをもって対象となりうると主張していることになる。これに対して裁判所の判断は、均衡化という本来の趣旨を強調し、あくまでも租税負担の引下げも含む公平性の確保を意図したものとして下記のように、理解している。一見すると同じことを表現しているようであるが、その中身は異なるものであり、基本的な立法趣旨を租税負担の公平性確保を意図したものであって緩和的に対象を捉えることを戒め、あくまでも宅地並みのという趣旨をもっているものとして解釈による拡張的な理解を否定している。

負担調整措置の沿革となった平成9年法改正の趣旨が,課税の公平性確保の観点から,いわゆる負担水準の均衡化をより重視することを基本的な考え方として,負担水準の高い土地についてはその税負担を抑制しつつ,負担水準の低い土地についてはなだらかにこれを引上げる新しい税負担の調整措置を講じることにあり,「商業地等」について負担調整措置が講じられた趣旨が,宅地並みの価格水準にある土地を商業地等として負担調整措置の対象とすることにあるとしても,いかなる土地を宅地並みの価格水準にある土地として上記のような負担調整措置の対象とするかは,立法政策上の問題というべきところ,法附則は,宅地以外の土地のうち当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって決定されたものを宅地比準土地として住宅用地以外の宅地とともに18条4項及び5項の負担調整措置の対象としているのである。そして,法附則17条4号の宅地比準土地の定義規定からすれば,当該土地の価格が当該土地とその状況が類似する宅地の評価額を基礎として評価されていない土地をも宅地比準土地に該当すると解するのは,文言上無理があるというほかなく,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないから,控訴人らの主張するように,法附則の定める商業地等に関する負担調整措置の趣旨を根拠に,周辺宅地の評価額に対して当該土地の不動産特性に応じた比準割合,補正割合にて減額された価格水準にある土地を「宅地並みの価格水準」にある土地として,宅地比準土地に該当すると解することはできないというべきである。

租税法規の解釈として、文理によるべきという原則はあるものの、その解釈においては、特に政策的な規定の解釈においては重要となる。本件はそのような趣旨の理解によって対象範囲が変わるという点で特徴的な事案でもあり、減免措置への厳格な解釈、限定解釈とも言う場合もありえようが、一面的には同様の理解しているといえども解釈が異なることは本件においては留意されるべきであろう(期待があって理解が異なることになっているというようにも評価されるのかもしれない、)本件は山林比準評価方法を受け入れている以上、その評価方法の定めの趣旨への理解が及んでいない点によって原告の衡平に欠く主張が発端であるようにも考えられる事例である。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年6月9日火曜日

判例裁決紹介【平成30年12月18日裁決、横流しによる所得と消費税法上の事業)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年12月18日裁決で、従業員である請求人が勤務先から横流しにより取得した所得が課税対象となるのか否かが争われた事例です。

具体的には、請求人が勤務する職場の倉庫管理業務に携わっていたところ、その業務内容を活用し、商材(廃棄関係のもの)を横流しして所得(2億円以上)を10年以上の長期に渡り得ていたことにつき、当該所得は雑所得に該当し、また、消費税の課税対象であるとして決定処分を受けたことから、当該横流し、不法行為によるものは裁判により弁償が確定しているとしてその取消を求めた事例である。業務上の横領による損害金額、すなわち請求人の所得金額は長期間に渡り継続して得られたものとして2億円を超える大規模なものであり、単に不法行為による所得として(雑所得として)認定するのみならず、消費税法上の課税売上に該当するとして消費税の納税義務を負うのかという点が争点となっているものである(ちなみに損害賠償金は課税仕入には該当しないので、ほぼ所得金額かける税率が消費税の納税すべき義務を負うことになる)。結果として納税者の主張は全面的い否定され、課税対象として、更には消費税法上の課税売上に該当するものとして理解されているが、本件のように不法行為による所得が課税対象になるのかという点は、多様なケースが存在し、数多くの事例が存在するものの(包括的所得概念からほぼ課税対象となることは解釈として確定しているものといえよう、不法行為を結果として国家が認めそこから上前をはねているようで体裁が悪いとも指摘はあるものであるが)、金額が多額であり、消費税法上の課税事業者としての該当性までが、争いとなっている点は珍しい。更に、多くの不法行為による事例は、調査により発覚するなど法人側において損害賠償として、取り扱われるケースが多いが、本件のように、雑所得としての課税や課税売上に該当するなどの顛末まで扱っている事例は珍しく、本件の特徴と考えられよう。

「課税所得は専ら経済的に、又は実質的に把握すべきものであり、その原因となる行為が有効なものか無効なものか等には関係なく、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受して、その担税力を増加させている以上は、担税力に即した公平な税負担の配分という見地から、課税の対象とすべきであると解される課税の原因なった行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく、当該行為が関係当事者の間で有効なものとして取り扱われ、これにより、現実に課税の要件事実が満たされていると認められる場合である限り、当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられないものと解すべきである(最高裁昭和38年10月29日第三小法廷判決・集民68号529頁」

以上のように判断では、だいぶ古いものであるが、最判を引用して、課税所得における実質的な把握を前提とした、そしてたとえ不法行為であろうとも一義的に課税対象外となるものではないものと判断している。確かに、租税の基礎として、租税法律主義を徹底する点からは価値判断への中立を、不法等の評価は、必ずしも行うものではなく、課税要件の立脚すべきであって、本件のように、不法行為であるという点をもって行為の無効であるとして、課税対象外になることは、ならないというべきであろう。錯誤無効(新しい民法では錯誤取消)等の法的な取引が無効もしくは取消しとなるような場合であっても租税負担はどの様になるのかという点は、従来課題となってきているものであるが、本件はその事実関係として、当事者において、裁判による損害賠償が確定しているものであって、経済的な意味では確かに、所得は消えているものの、法的な行為が無効となっているわけではないことが重要である。近年は、訴訟でも裁決でも同様に、法的な行為が、取引がどの様になっているのか、課税要件を充足しているのかという点を起点に判断を下す事例が増加している傾向にあるが、あくまでも不法行為自身が無効とされているものではなく、代わりに損害を賠償していることが留意されるべきである。繰り返すが経済的にはほぼ違いがないものであり、手元に残ろう所得の存在は0であることに代わりはないものと言えるが、起点となる行為が大いに相違している点が強調されるべきである。租税法規の適用においては、課税庁民間問わず、実質的な点を重視して(あるいは経済的な成果の存在をベースとして)捉えるように、理解、トレーニングされているが、租税もまた法律による処分であり、租税法律主義の徹底が強調されるべきものである。上の最判がある意味誤解を招いているような印象でもあるが、スタートとして所得の認定において経済的に実質的に把握すべきものであるが、課税の原因となる行為がいかなるものであるのかという部分が中心的な課題であり(あわせてその所得を享受、管理していることも重大、本件では遊興費に費消している)、もって課税要件の充足が判断の基礎となることが重要な点である。実質的な判断のみが強調されるように、印象を受けるものであるが、ベースとなる行為の課税要件との対比が重要な基礎となっていることもあわせて理解されるべきであろう。かかかる意味で本件は、経済的な実質と行為の原因となる行為の対比がコントラストを形成しており、重要な事例であるように認識される。

また、本件では、消費税法上の課税売上に該当するのかという点も争われた。下記のように、事業所得に関しては、

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利
性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位と
が客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解される(最高
裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁
参照

所得税法の解釈がほぼ確定しており、固有概念として理解される。本件所得は、継続的な行為であることは言うまでもないことであるが、社会的な地位として客観的に認められるべきものではないとして、まあ、不法行為による所得がビジネス、事業として認められることは期待しがたいことは常識的な判断として納得が得られやすいものであろうが、雑所得として認定が行われている。この点は不法行為による所得に対して一般的な対応であろう。

問題は消費税法における事業としてという部分である。下記のように、法は所得税と消費税において事業という文言を用いて課税要件を規定している。上記のように所得税法上の事業としての該当性が否定され(雑所得として課税される)、もって同様に消費税法上の事業として行われる課税売上、資産の譲渡等に該当するのかという点が問題となる。

所得税法(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(給与所得)

消費税法
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

所得税法と消費税法は、同じ租税法規であることからも、租税法の基本的な要請から、事業という文言に輯しては同一の解釈を行うことが予測可能性という点では妥当であるとの主張もあり得よう。但し、本件及び現状の法解釈としては、この事業は、別の概念として理解されている。予測可能性の保護という租税法規の基本的な目的とは異なるものであり、かかる解釈は批判的に捉えられるが、私見としては、現実の制度として帳簿を通じて、所得税法における所得の把握と、消費税の課税売上がリンクしているため、同様のものとして理解することが妥当とも言えるが、近年は消費税法は、所得を対象とするものではなく、取引を課税対象として、捉えることが妥当であることが通説となっている。かかる点から同一のものと理解することは困難であると解することが一定の合理性を有しているものと考えているが、シンプルな租税法律主義からは批判も大きい。


消費税法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは事業として
対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨
定義している。そして、消費税は、一般的に、物品やサービスの消費
支出に担税力を認めて課される租税であり、消費税法は、消費に広く
負担を求めるという観点から、課税対象を、国内で事業者が対価を得
て行った資産の譲渡等(消費税法第4条)としてその範囲を広く定
め、課税の対象から除外される物品や役務等を限定的に列挙している
(同法第6条)。他方、所得税は、一般的に、人が収入等の形で新た
に取得する経済的利得すなわち所得を、直接対象として課されるもの
であり、所得税法は、利得を全て課税対象たる所得とすることを前提
に、その性質や発生の態様によってそれぞれの担税力の相違を加味す
る趣旨で、その源泉ないし性質に応じて所得を分類しており(所得税
法第23条《利子所得》から第35条まで)、その一つとして事業所
得(同法第27条)がある。そうすると、消費税の課税対象が、所得
税法上の課税区分の一つを生じさせるにすぎない「事業」の範囲にお
ける過程の消費に限定されるものということはできず、上記の消費税
の趣旨・目的に照らせば、消費税法上の「事業」の意義内容は、所得
税法上の「事業」概念とは異なり、「反復・継続・独立して行われ

る」ものであると解するのが相当である

判断では、上記のように明確に異なるものとして、反復継続を重要なものとしている点が強調される。趣旨から所得税法とは別意に解するとしても、反復継続を基礎とした形式的な判断を重視することになるのかという点は疑問は残る。但し、消費税の特性から非常に形式的な取引行為に着目するという点は妥当であるのかもしれない。いずれにしても、裁決段階であり、司法判断における検討が必要だろう。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年6月2日火曜日

判例裁決紹介【平成30年11月28日裁決、現金仕入の計上漏れと立証)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年11月28日裁決で、現金売上の計上漏れとパラレルで計上していなかった(と主張する)現金仕入が必要経費として(仕入税額控除の対象としても)、認められるのかという点が争点となった事例です。

具体的には、本件はリサイクル業を個人で事業として営む請求人が、調査により指摘された現金売上の計上もれに対して修正申告を行い、もって当該売上とパラレル(プラスマイナスゼロで計上の必要がないものと認識していたと主張して)、現金での仕入や固定資産の取得(減価償却費の計上)を当該事業における必要経費として、また仕入税額控除の対象として認めるべきであるとして、不服申立てを行ったものである。中心的な争点はこのような現金仕入、による経費支出を必要経費として認めるのか否かという点が課題となっているものであり、如何にしてその必要経費が認められるのかという点が基礎となっている。かかる論点は従前から存在するものであり、特段珍しいものではないことは言うまでもなく、実務的には、おそらく日々において日常的に行っている判断であるように思われるところであるが、通帳等の一定の客観的な記録が存在する(証憑等も含め)ものではない、当事者以外に何ら証明手段が存在しない、経費支出を必要経費として認めうるものであるのかという点は古典的な論点ともいえよう(従って当然のように厳しくチェックされるものであろうが)。本件もこの類型に属するものであり、特段、珍しい事例ではないのかもしれない。リサイクル業という比較的課税上、問題が多い業務形態であるが、中心的な課題としては、このような個人の事業として行っている中で必要経費として認識されるようなものが、存在しているのか、そしてそれを立証していくことが可能であるのかという点が、いわば事実関係の評価が中心となっているものと認識される。個別具体的な事実関係が中心となるものであることは疑いようがないものであるが、各種費用ごとに詳細な事実認定、主張の対比(このように考えるならば、ある意味親切に作成されている、請求人と課税庁の主張の対比部分が重要性を有するのであろう)、立証の適否が整理されており、実務的には、ティーチングケースとして参考となるべきものであろう。納税者の主張はほぼ全面的に排斥されているが(記録を読むと至極当然のようにも思えるが)、その多くの主張は主張段階での請求人としてに立証の不充分に起因するものとなっており、立証責任が納税者にあることをまずはベースに置いて判断がされていることは留意されるべきであろう(最近の傾向にあるものであるが)。

「更正の請求は、申告内容の過誤から生じる納税
者の不利益を救済するため、租税行政の法的安定性の要請を、一定の要件
の下に制限する趣旨のものと考えられ、このことやその規定の文言等に照
らすと、自ら計算した所得金額等を記載した申告内容の更正を請求する納
税者側において、その申告内容が真実に反するものであることの主張及び
立証をすべきであると解するのが相当である。

したがって、税務署長は、更正の請求の調査手続において、上記のよう
な点について、納税者から具体的な主張及び立証がない限り、その納税者
の提出した申告書に記載された所得金額等をそのまま正当なものとして、
納付すべき税額をその申告どおり確定すれば足りるというべきである。
ロ 所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これら
の所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じ
た費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連がある
というだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、か
つ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。」

以上のように、本件ではここの費用項目において如何なる主張がなされているのか、そして反証が、あるいは立証の不足、信頼性の程度の課題が明確にされているものであり、裁決本文を参照されるべきものであろう。但し、本件において、この請求人の主張において、その立証が不充分であることが上記判断の基本的な基礎となっている。納税者である請求人も仕入相手側にある領収等の事実の証明は、納税者段階では、その活用が困難であり、自身の主張をもって経費が必要経費として認められるべきであるものと主張しているが、ほぼ全面的に排斥されている。その判断の根拠は上記のように、更正の請求における立証責任を事実上納税者に転換していることにある。従来は納税者の主張にあるように、課税庁が質問検査の行使などを通じてその立証を行うことが、必要とされることが基本的な理解であったように思われるところであるが、本件は裁決段階であるが、このような必要経費の認定のようなケースにおいて上記のように立証責任を納税者に移す考え方が主流となりつつあるように、考えられる。税理士を中心とした民間ベースでは、ほぼ計算記録の整理に軸足が置かれつつあり、その立証や、要件の充足の判断は、通達に依拠することで、ほぼ放棄してきたのが全般的な流れであるように認識されるが、このような判断はほぼ裁決レベルでは確定しつつあり(近年は裁決も法的な判断をベースにすることが確立されつつある)、訴訟段階でも同様の傾向がみられるようになりつつある。その法的な根拠は更正の請求における国税通則法の書類添付義務に位置づけられているが、この点は、より広範囲に租税法規の適用における立証責任の分配について、解釈するものとして理解することは従来の財産権保護や、質問検査の位置づけから構築された判断とはバッティングするものであり、より今後の研究課題とすべきものであるように思われるが、私見としては、少なくとも更正の請求段階において、一定の手続きが調査段階において整備されていることからも(理由附記、説明等)、かかるような立証の責は納税者においても保持されるべきものであるように考える。この場合は、どの程度の詳細な事項を記載すべきであるのか、説明、理由附記等の実効性の確保が重要な課題となるのであろう。租税の専門家としては、会計業務における計算記録の整理・調査としての機能、当該機能への習熟に加えて、租税判断における法的な判断をベースとした課税要件の理解(租税法規の基本的な解釈と事実関係の理解)は、求められることになるのであろう(ある意味、租税法規の専門としてまっとうな方向であるが、帳簿記録のみならずより取引内容に踏み込んで把握し理解していくべきであろうし、各種サポート、相談等の他の業務においてもこの点が起点となって行くのであろう)。

国税通則法23条
3 更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない。


いずれにしても本件では、納税者の主張は、主張するすべての現金仕入の金額をサポートする領収書等のサポートではなく(一部をこの主張のため相手先から集めてきたものであり、信頼性に欠けるものとして評価されている)、固定資産、消耗品の実在、給与等の相手先の氏名が異なるなど(本来のところは、立証云々より、よく更正の請求出してきたなというレベルであるのかもしれない、適正な帳簿記録等がほぼ存在しないレベルであるのだろうが)、立証の責を充足していないとして、ここの費用ごとに反証されているものである。この点は逆に立証すべき点、準備すべき資料を勘案する上では、参考となるものであり、納税者課税庁側双方においても重要なトレーニングとなるべき事例であるように捉えられる。

以上です。毎度のごとく、備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。