2020年2月17日月曜日

判例裁決紹介【平成30年3月8日裁決、青色事業専従者の行為と重加算税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月8日裁決で、青色専従事業者の行為が納税者の行為と同視され、重加算税の対象となりえるのかという点が争点となった事例です。

具体的には、本件は、焼肉店を飲食店として営む請求人(個人事業主)に対して、調査があり、青色事業専従者(妻及び長男)が売上伝票の破棄等を行い所得金額を隠蔽等していたとして重加算税の賦課決定処分を受けたことに対して、当該行為は委ねていた専従者が勝手に行ったものであるとして、指示したものではないとして納税者の行為と同視して重加算税の賦課に対して不服を申し出た事例である。通常、青色事業専従者における実施者が納税主体と同視できるのかという点は、従業員等を対象にして、その範囲が問題となるケースが多いが、本件は、青色事業専従者がその対象となっている。実際には青色事業専従者は納税者の親族であり、圧倒的に、このような納税事実に関する仮想隠蔽行為を行う主体として取り上げられることが実務上多いものと考えられるが、裁決段階の判断としては、特徴的であろう(ほとんどこのような理由で不服が申し立てられることがないとも祖考えられるが)。このような場合において、どのような判断枠組みにおいて、納税者の行為と同視されるのかという点が採用されるのか、興味深い事例であろう。雇用者などとは異なり、配偶者等の親族はその行為を納税者と同列に扱うことにさほど抵抗がないものと通常は想定されるものであるが(あるいはそのように考えることが一般社会の通年によるものであろうが)、重加算税は制裁的な要因が強いものであるものの、刑事罰ではないので、納税者本人以外の行為もその対象となることは解釈上明らかであるが、如何に適用されるのかという点は重要な判断要素であって、本件もかかる点から参考となる事例であるだろう。納税者が知っていたか否かという点は従前同様問題とされていない。


重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように本件は重加算税の賦課決定処分における仮想隠蔽行為を納税者本人ではなく、青色事業専従者が行った場合には対象となりうるのかという点が課題となっている。以下のように本件の判断は、趣旨目的から刑事罰との相違を指摘して、趣旨目的からその対象範囲を納税者以外にも拡張的に解釈している。重加算税のの負担が他の附帯税に比して重いことは明らかであり、このような判断を行うことは事実上の制裁として、機能している重加算税の性格からは過度に賦課を課すものであるとして指摘する見解もあり得ようが(納税者本人が知らなかった、任せていたなどのように主張して)納税者の責任を限定されるような判断を導くことも可能であろうが、現行法の解釈としては対象を納税者本人に限定されるものではないことは改めて認識されるべきであろう。ここの事実関係によっては、納税者の責めに帰すものであるのかという点が否定される事例は存在するものと理論的には考えられるが、現実的には制限があるものであるだろう。

「通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標
準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又
は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出し
ていたときは、その納税者に対して、重加算税を課する旨規定していると
ころ、この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて、隠蔽、
仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い負担
を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告
納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとする行政上の措置
であ
り、納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないことからすれば、
その合理的解釈としては、隠蔽、仮装の行為者が納税義務者本人ではな
く、その代理人、補助者等の立場にある者で、いわば納税義務者本人の身
代わりとして同人の課税標準の発生原因たる事実に関与し、同課税標準の
計算に変動を生じさせた者である場合を含む
ものであり、かつ、納税義務
者が納税申告書を提出するに当たり、その隠蔽、仮装行為を知っていたか
否かに左右されないものと解すべきである」

本件判断も、上記のように対象範囲に関して従前の判断と整合的であるが、重加算税の性格からおもすぎるとの意見もありえよう。実質的には納税者の責任を回避するすべはないものと判断されるものであろうか。本件からは離れるが、実質的に納税者行為として、あるいは責任がないようなケースもあり得ることは否定できない。最終的に本件では、申告納税において、仮想隠蔽による利益を享受していることを判断要素の一つとして、納税者の行為と同視しうるものとの判断を導いているが、如何に親族にとはいえ、このような判断は、些か乱雑だという指摘もあり得よう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年2月1日土曜日

判例裁決紹介(平成30年4月4日裁決、国外居住者への不動産の販売と厳選帳徴収義務)

各位

濱田です。
今週は、ちょっと落ち着きつつ、書き物をしています。世間は新型肺炎の話題も
あるようですが自動的に人込みを避けているような日々です。明日は一般向けの
生涯学習講座で相続税に関してしゃべるので、少し緊張しているのですが、一般
の人は相続に関心があるのだろうか・・・。税理士と弁護士の相続における一般
的なかかわり方のようなものを性質の相違から話してみるつもりです。まあ、忍
耐と寛容を持って耐えてもらおう。


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年4月
4日裁決で、非居住者としての判断が問題になったものです。

具体的には、不動産取引の対価の支払先が非居住者であったとして請求人が土地
取引に関する代金支払いを行った取引において(支払先はオーストラリアに居住、
売買にかかる領収書の一部には国内の住所を記載するなどの行為を行っているが、
基本的に本件において実際に国外に居住していることについて争いはない)、す
なわち非居住者に対して支払った国内不動産の譲渡対価に該当するとして、もっ
て源泉徴収義務があったとして、納税告知処分の対象となったことを不服として
提起された事例である。源泉徴収は、国内における給与所得等の一部所得(配当、
報酬など)を対象とした事例が中心として当該義務が発生しているのか否か(取
引、所得の発生等)が課題となるケースが多いが、本件のように、国際的な取引
においても課税を確実に実行するため、徴収を担保するためにも重要な手法とな
っており、国内取引と国際取引では若干判断の枠組みが異なる可能性もある。本
件は、このような国際取引における取引、支払いにおける源泉徴収義務が対象と
なった事例であり、特に近年、この種の取引(取引の当事者が国外に居住してい
るような取引)が課題となる事例が増加している(判例も)。その原因は国外へ
の移住等国外への居住がまれなものとして評価される時代から、選択肢の一つと
して成立するような社会的な背景が存在しているものと考えられる。従前と比し
て国外居住の判定が行われることが増加していることと認識されるべきであろう。

本件ではオーストラリアがその居住地となっているが、この国は相続税がない国
として移住先として著名になりつつあるものであるが、一見して国内に居住して
いるのかという点から対応することは的確ではなく、また、国外に居住している
者や国外との取引を頻繁に行っているような業種ではない、不動産業、特に不動
産業は基本的に属地的なものであり、多くの場合において国内での取引を前提と
しているように捉えられるが、このような業種であっても国外に居住している取
引の当事者を対象としうるような状況になりつつあるのが現代の社会情勢なので
あろう。本件は国内不動産の取引が課題となっているが、逆に国外に不動産を取
引対象とするような事例も増加しており、不動産取引においても国外との取引、
国際的な取引への配慮が源泉徴収義務に限らず必要となりつつあるのではないだ
ろうか。

本件もこのような文脈におけるものとしてとらえられるべきものであり、今後の
参考として留意されるべきであろう。以前取り上げた判例事例においても近年は
このような契約の相手方が非居住者であることを判定することが困難であった
(一見日本国籍を有している)事例もあり、通常の非居住者としての該当性や対
象となる取引が成立しているのかという判断の枠組みよりも取引の当事者とある
納税者においても合理的に相手が非居住者であることを判断しえたか否かという
事前段階の状況をいかに源泉徴収義務に反映させることができるのか否か、源泉
徴収義務の中核的な性格からの対比、検討が、問題の俎上にあがってきているよ
うにも考えらえる。

(源泉徴収義務)
第二百十二条 非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十
六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)
の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若
しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第百八十条第一項(恒
久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)又は第百八
十条の二第一項若しくは第二項(信託財産に係る利子等の課税の特例)の規定に
該当するもの及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、
これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月
十日までに、これを国に納付しなければならない

(国内源泉所得)
第百六十一条 この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
五 国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若
しくは構築物の譲渡による対価(政令で定めるものを除く

以上のように、本件は、源泉徴収義務の成立自身を問うものというよりは、主と
して請求人が合理的な配慮の下で国外居住者であることを認識しえたかどうかが
課題となっている。本来ならばこのような回避しえない合理的な予測が困難な状
況を加味してもなお、源泉徴収義務を有しているのかどうかという点は、源泉徴
収義務の法的な性格から判断されるべきものであるが、法は宥恕規定を置いてお
らず、現行法の解釈上かかるような状況を加味すべきかどうかは定かではなく、
立法によるべき救済の議論であるのかもしれない(憲法上の過度な義務であるの
かという点などは憲法論として争いになるのかもしれないが)。このような点か
らは本件は争点がずれているようにも考えられるが、国内における不動産取引に
おいてこのような相手方の判断が困難であることは現代の社会的な環境の変化が
認められよう。

本件の事実関係では、非居住者が領収書などの書類に国内の住所を記載していた
ことと覚書などには、国外の居住を示す国外の住所を記載しているなど、いささ
か予測が困難な状況をいかに評価するのかという点が起点となっている。判断と
しては最終的に覚書のような中心的な書類において国外の住所を記載しているこ
とを重く評価して、一般的に高額な取引となる不動産取引において一般にこのよ
うな相手方の居住の有無も確認されるべきとして、納税者の責任を判断している。
中心となるべき相手側に非居住者としての判断が困難であるのかという点は判断
が行われておらず、法令上はこのような問題に対して合理的な配慮が尽くされて
いるのかどうか、というような点は、争点としては現実的には困難となっている
とも考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いで
すが参考までに。