2017年2月7日火曜日

判例裁決紹介(平成28年4っ月25日裁決、相続税申告におけるお尋ね文書への不実記載と重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年4月25日裁決で、相続税の申告に関する重加算税の要件としての仮装隠蔽行為の発生につき、いわゆるお尋ね文書に不実の記載を行った事例です。
以下論文調で書きます。

具体的には、本件は請求人たる相続人が相続税申告を行わず、法定納期限等後に行われた課税庁からのお尋ね文書に対して相続の発生によって取得した財産のうち、一部預金口座に関して、記載せず、課税庁による調査の申告によって一部ずつ、その口座の存在を認めるような行為を行っていた事案が、問題となったものであり、課税庁が本件において、相続財産の把握につき、困難な状況を生じさせたとして重加算税の賦課決定処分を行ったところ、これを不服として提起されたものである。

判断は結局として課税庁の主張を認めることなく、本件の事実関係にもとづく、総合的な判断で、重加算税の発生要件のうち、当該時点での隠蔽行為に対する確信的な意図の存在を認めがたいとして、退けたものである。
私見としては事実関係にもとづけば、納税申告を行わず、さらに不実の記載によって仮装隠蔽の意図は明確であるようにも評価されうるものであると考えているところではあるが、本件は最近、特に平成22年度税制改正による、調査手続の改正後利用が急増している、税務署からのお尋ね文書の存在に関して、言及した珍しい事案であり、その法的な位置づけ、調査手続における意義について検討する上で有効な存在であるだろう。

まず、重加算税の要件への合致に関しては、法解釈仮装隠蔽の発生に関して、確定的な意図の存在を要するものと解している。これ自身も議論の余地があるところではあるが、本件は通説として、確信的な意図の存在を重要視する構成要件を求めている判断を前提として本件が形成されている。この点については、重加算税の要件をより吟味すべきものであるが、私見としては申告納税制度を前提とする以上、仮装隠蔽の行為が発生している事実関係が重要であり、法は意図の存在を確信的なレベルで求めているとは理解し難いところもあるとも考えられる。重加算税の位置付け自身が多分に懲罰的なものである以上、その要件はいかなるべきものであるのかという検討は重要な課題であるといえよう。

また、前述の通り、本件は最近とみにその利用が急増している、納税に関する税務署からのお尋ね文書の発送に関するものであり、かかる書類への記載の不実が問題となったものである。実務上この文書の存在をいかに捉えているのかという点は、課税庁、納税者、専門家の間でも大きな議論は見当たらないが、具体的にどのように処理して対応しているのかという点は、適正手続の観点からもさらに、近年の情報化に対応した調査手続の変化という点からも注目に値する。

そもそもこのような文書の存在は従前から存在してたものであるのであろうか。この点は特に文献等の記載がないため、実務家による意見を待ちたいところではあるが、そもそも、このようなお尋ね文書を発送することにつき、いかなる手続規定、法的根拠に基づいているのか定かではない。もちろん、法的な根拠が明確ではないから、このような文書による情報収集はすなわち違法性を有するというような短絡的な議論は行うつもりはないものの、かかる文書の法的な意義は、調査手続における位置付けはいかなるものであるのかという点は検討されるべきものであろう。法的な根拠が存在するものであれば、その性格が当然の如く議論されるべきものであるが、現状においては中途半端な位置づけにあるように捉えられる。かつての納税申告に関しての修正申告の慫慂が勧奨という形で、国税通則法に明記されたように、実務における位置付けや資料入手の重要性等、を考慮して更にその文書の発送行為の意義が検討されるべきと考えられる。

私見としては、まず、この文書の発送による資料の収集が質問検査権の行使との関係でいかなる相違を持つか否かが検討の素材となるべきものである。文書の受領側である納税者や専門家がいかに捉えているのかは定かではないが(おそらく、この相違は特に行われておらず、質問検査と同様に解答すべきものと捉えているのではないだろうか)、国税通則法において質問検査権を規定する第74条の2以降の規定において、定める質問検査権の行使と同視されるべき部分と、その相違点については、件t脳を行う必要がある。

質問検査権の要件たる調査における必要性やおそらく事実上受忍義務の発生等は考慮されていないものと捉えられ、従って、当該お尋ね文書の発送は、質問検査権と必ずしも同一の性格を有するものではないと捉えるべきであろう。もちろん場合によっては質問検査権の行使と同視される可能性も否定し得ないが、その場合は、納税者に対する実際の資料入手であり、実地の調査との相違が問題となることであろう。いずれにしても、このようなお尋ね文書の発送の目的や必要性との関連から概念的に整理されるべきものである。従って、お尋ね文書の性格は現時点では複合的な意味を有している可能性も否定し得ない。

また、法に定める「調査」について、その多様性から考えて、本件の資料入手が調査に該当することは肯定されうるものであるともいえる。

本件の起点は、重加算税の要件たる意図の存在を立証認定する際に、本件の調査過程で、当該お訪ね文書への不実記載(この不実記載がいかなる要因で発生したものであるのかが問題ではあるが)が、スタートとなっている。最終的に本件では、意図の存在を調査段階での他の行為等によって総合的に判断し、積極的に仮装隠蔽行為を行っているものとは評価し難いとして重加算税の発生を否定している。その意味で、事実関係に基づく判断であり、お尋ね文書以外の状況も加味し最終的な判断が導かれたものであり、衡平な判断であるとも評価できるだろう。上記のように、当該文書に対して不実の記載があった場合に、法的に調査手続においてどのような意義を与えら得るべき存在として考えられるのか、かかる意味で本件は興味深いものであろう。

お尋ね文書自身の意義・性格自体は、上記のように調査手続の一環を構成する可能性がある以上、場合によっては課税処分の前提として構成されるべきものであり、純粋な質問検査権や課税処分の目的以外の資料の入手のための調査とは一線を画するものであると捉えるべきであるが、まずは従来課税手続の中核たる質問検査権の行使との相違が、いかなる方法によって整理されうるものであるのか、検討される必要があろう。本件では、当該文書に不備があったことを直接的な仮装隠蔽の資料として主張しているが、法的根拠やその性格が曖昧な存在は課税処分の効力に疑義をもたらしうるものであり、間接的な資料とはなるであろうが、その性格がまずは分類整理される必要があるように思われる。

係る検討を通じて、まずは、このお尋ね文書における性格を議論し、立法論として検討すべき点であるだろう。

以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
裁決

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