2022年2月21日月曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年2月28日、医療法人と関連会社の取引、通知処分における立証責任)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年2月28日で、医療法人と関連会社の内部取引が問題となった事例であり、架空、水増し計上が対象となっているものです。

具体的には、医療法人(薄毛治療)を営む法人である原告が査察調査により指摘された関連会社の法人(税理士が代表を務める、MSと呼ぶのでしたか)に対して支出した広告宣伝・外注費(総額12億)が架空あるいは水増し計上であり、外部への再委託等で原告代表者の私的費消に活用されているとのことで、当該費用の計上が虚偽の計上であるとして、修正申告を求めたことに対して、更正の請求を行ったことを否定されたことを不服として提起した事例である。

金額も巨額なものであるが、典型的な医療系の関連法人を活用した所得分散、所得逃避であるが、架空計上、水増しによる虚偽の申告が課題となっているものであり、対象となる関連法人における修正申告額との相違をもって、被告である課税庁がその金額の相違を具体的に明らかにしていないとして不服を申し立てているものである(実質的には虚偽の計上であることは争点とされていない、原告主張によれば未練たらたらであるが)。なぜこれを訴訟として受け入れられるとして提起したのかという点は個人的には疑問な事件ではある。

「原告の主張は,関連会社社各更正処分において認められた関連会社の原告に対する売上高(平成24年2月期につき2億1532万5129円,平成25年2月期につき3億4858万0274円)と,本件各法人税修正申告における本件各減算金額(平成24年6月期につき2億0569万1112円,平成25年6月期につき3億8136万6415円)とが一致しないことを前提に,関連会社更正処分で認められた関連会社の実態のある売上の詳細については,被告が明らかにすべきと主張するものとも解される。しかしながら,更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟では,納税者の申告によって確定した税額等を納税者に有利に変更することを求めるものであることからすると,納税者において,確定申告書の記載が真実と異なる旨の主張立証責任を負うと解するのが相当であるところ,原告がこの点について具体的に主張立証をしているとはいえない。また,関連会社社の原告に対する売上高と本件各減算金額(関連会社社分)に上記のとおり不一致があるものの、以下の点が認められることを考慮すると,このような不一致があることをもって直ちに本件各減算金額に誤りがあるということもできないのであって,いずれにしても原告の主張には理由がないといえる(したがって,本件各通知処分が憲法84条に違反するという主張についても理由がない。)。」


以上のように、本件の中心的な争点は、修正申告と更正処分における金額の差異、納税者からの更正の請求に関して更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟において、具体的な立証責任をどちらが追うべきであるのかという点が、中心的な争点となっている。

「更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟では,納税者の申告によって確定した税額等を納税者に有利に変更することを求めるものであることからすると,納税者において,確定申告書の記載が真実と異なる旨の主張立証責任を負うと解するのが相当であるところ,原告がこの点について具体的に主張立証をしているとはいえない」

この中では上記のように、明確にかかる取消訴訟では、立証責任を納税者が有することが判断されている。よく質問検査、申告納税を基礎として立証責任を課税庁に委ねることが原則として理解されているものであるが、推計課税の実額反証のようなケースで一部問題になったことはあるものの、本件のような取消訴訟において、課税庁ではなく、納税者に立証責任が転換されていることが本件の特徴と考えられる。近年は、租税訴訟の段階では、納税者にその立証責任を課すようなケースが増加しているものであるが、本件のように、虚偽の租税に関する申告等を行っているようなケースにおいてと明確に限定することなく、納税者に認めているケースは珍しく特徴とも言えよう。このような立証責任のあり方が広く受け入れられ、立証責任を証拠との距離等から明確に分配することになるのかという点は今後どのように理解されていくことになるのかという点は、今後の実務においても重要なものであろう。少なくとも課税庁にその責任があるのであり、納税者にそのような責任はないのであるとして、不服を提起することが現実的には困難になるものであろう。本年の税制改正においても対象は一部であるが、立証責任の転換を明確にする制度が予定されているが、これは質問検査の段階における立証責任の転嫁であり、訴訟提起の段階とは異なるものであるが、明らかに傾向として立証責任の分配が始まっており、機械的に課税庁にその責任があるとする理解は過去のものとなりつつあるだろう。租税の実務家としては、単に計算事実の認識にとどまらず、必要性や計算の根拠が法的な価値判断として適正なものであるのかという視点からの検討が求められるものであり、ICTやソフトウェアの発達によって単純な処理は簡易化が進んでいるが、適正なものであるのかという点からの検討が必要になってきているのであろう(そういう点では監査的といってもよいのかもしれない)。今までの実務は立証責任を課税庁に委ねることが基本となってきており、かえって租税実務家の視点が計算を基礎とするレベルにとどまっており、法的な要件の充足、判断レベル・根拠の準備が劣位となってきた背景があるものであるが(実質と形式の対立ともいえるがこれが基本的には訴訟レベルでの圧倒的な課税庁の勝利につながっているものであろう)、証憑レベルの確認にとどまらず取引内容の把握や実質的な意図などが検討対象になることであろう(大量反復的な処理の中でバランスを取ることになるだろうが、ICT等の発展によってこの抽出が容易になっていくことだろう、現にシステム的な監査チェックが課税庁においても始まっているようであるし)。もちろん、実務で支配的な実質的なという抽象的な文言のみでのやり取りなどが処分の根拠となるようなケースは減少するであろうし、より各種要件の充足やその意味内容を検討することが重要な要素となっていくだろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。