2019年12月21日土曜日

判例裁決紹介(平成30年2月6日裁決、関与専門家へのUSBメモリの引渡しと相続税申告における財産の漏れ、重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年2月6日裁決で、相続税の申告漏れに関する重加算税の成立が認められなかった事例です。

具体的には、請求人が調査により指摘された相続税申告における申告漏れとなった現金(相続発生直前に相続人口座から引き出された現金)やその他財産(USBメモリに財産状況の示した書類を記載し、相続手続きの弁護士に交付しているのかという点も争点になっている)に関して、申告漏れがあったとして重加算税が賦課決定処分された状況に関して、その処分が取り消された珍しい事例である。すなわち、重加算税の賦課要件たる仮想隠蔽の成立があるのか否かが課題となっている事例である。重加算税の成立が裁決段階で認められる事例は少なく、本件は相続税の基礎たる財産の把握、計上漏れに対して起きた事例であり、その成立の回避は、参考となる事例であろう。

より具体的には、本件は当該現金が引き出されたものであることが起点となっているが、相続の実務に詳しいものであれば、周知のように死亡により口座が成約を受けると相続確定までは引き出し等が困難になる状況であり、かかる際に、入院費や葬儀費用として一定額を引き出すことは特に珍しい事例ではない。このような事実関係において、かかる現金が申告漏れをきたした状況が仮想隠蔽の状況に該当するのかという点が争われたのが本件の中心的な争点である。

仮想隠蔽の成立においては、その行為にあたって、当初から過少に申告することを企図していたことが、あるの否かという点が、意図的であるのか否かという点が認められることが必要とされるものであるが、本件では、この点において、関与している専門家に対して、財産資料が入ったUSBメモリを渡しているのかという点もあり、現金引き出しの事実は用意に把握できることから、その意図の存在を認めなかったものである。当初はこの専門家が当該資料の受け取りを否認していたことが仮想隠蔽の起点となったものとも考えられるが、結局の所、当該USBに入っていたものと同様のファイルが弁護士事務所のサーバーに保管されていたことが判明し、当初意図の認定が回避されたものである。

なぜ、関与専門家がこのような対応を行ったのかという点は定かではないが(おそらくは、この財産漏れは専門家が十分に財産状況の調査を行いきれなかったことが原因のように思われる)、近年はこのような電子ファイルのやり取り重要な要因となってきているのであろう。調査の現場ではどのような形になっているのか(この点は実務家にも聞いてみたいところ)。従前、帳簿資料や財産資料が、調査における中心資料として考えられてきていたが、近年は裁判事例をみても、このような電子的なファイルの調査、メールのやりとり、契約書の内容確認などの事例が増加しているように認識されるところ(国際租税では随分以前から変わっていたものとも思われるが)、このような対象も含めた資料対応に対する調査制度、留置制度の検討が必要ともいえよう。メールやラインなどのやり取りが記録としてどの程度の価値を持つのか(一般の裁判でもこの評価が課題となることは多いようであるが)という点からも、租税法規における位置づけを再検討すべき時期に来ているのかもしれない。特に本件のような意図に代表される内心に関わる判断を行う上では、時系列での記録や日常的な判断の情報は重要な意義を持つものであり、租税回避の事例などにおいてもこの日常的なやり取りの記録を専門家としては留意しておくべきであろう。


重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年12月13日金曜日

判例裁決紹介(平成30年3月15日裁決、更正の請求と調査の違法性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月15日裁決で、共有していた国外財産の持ち分の移転に伴う贈与税の発生に伴って調査の違法性を基礎として更正の請求を求めたものです。

具体的には、請求人が保有している海外に所在する共有名義の財産持分を贈与したことに対して調査により贈与税対象(贈与税を修正申告)となったことを不服として、調査の違法性を根拠に、すなわち4名による調査が圧迫であった、意図的に贈与の把握から数年を待って加算税の対象としたことを理由として更正の請求を行った事例である。判断としては、下記のように国税通則法の規定を根拠として更正の請求を対象とはならないとして不服申立てを否定した事例である。調査の違法性を課題しする主張は数多く存在しているが、調査員の人数や加算税の発生を待っていたことなどが違法性を帯びるものと主張されていてる事例は稀であろう。結局のところ、更正の請求を対象とする争い方としては、法令の規定において、その対象として調査の違法性は明確に対象としてされていないことをもって、その主張は退けれられている。上記の点は最終的に違法性があるのか否かという点は明確に判断されていない。何らかの不服があれば即座に更正の請求を行うものであるのかもしれないが実定法以外にも手続法の重要性が垣間見られる事例であろう。

国税通則法
(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。


(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
二 民法第七百八十七条(認知の訴え)又は第八百九十二条から第八百九十四条まで(推定相続人の廃除等)の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第八百八十四条(相続回復請求権)に規定する相続の回復、同法第九百十九条第二項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。
三 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。
四 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があつたこと。
五 第四十二条第三十項(第四十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定により条件を付して物納の許可がされた場合(第四十八条第二項の規定により当該許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、当該条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関し政令で定めるものが生じたこと。
六 前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたこと。
七 第四条に規定する事由が生じたこと。
八 第十九条の二第二項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第一項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなつたこと(第一号に該当する場合を除く。)。

以上のように、法は、明文をもって、更正の請求の対象としての範囲を規定している。確かに調査の違法性は含まれておらず、この種の主張は考慮される可能性はないものと言えよう。なぜ、このような争い方をしたのか、通常の処分の取消を求めることは採用されなかった理由は不明であるが、更正の請求の対象としては実定法上の対象に限定されていることは改めて認識されるべきであろう。租税法規において上記のように更正の請求が制限されていることは、救済の対象が限定される等かねてより批判があるところではあるが、その議論は立法に属する問題であり、現状の調査に対する手続法に関する改正等が背景とされているとしてもこの点をもって更正の請求対象となりうるものであるのかという点は、明らかにその対象は現状とはかけ離れている。租税の特殊性、技術性も現状に置いて高まることはあっても緩和される傾向にはないものと考えられ、この種の調査手続の違法性に対する救済に関しては、現状の調査手続に対する不備、違法性による処分無効原因として極めて限定的な状況も含め、改めてその救済方法を検討するべき時期に来ているのかもしれない。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。