さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年2月6日裁決で、相続税の申告漏れに関する重加算税の成立が認められなかった事例です。
具体的には、請求人が調査により指摘された相続税申告における申告漏れとなった現金(相続発生直前に相続人口座から引き出された現金)やその他財産(USBメモリに財産状況の示した書類を記載し、相続手続きの弁護士に交付しているのかという点も争点になっている)に関して、申告漏れがあったとして重加算税が賦課決定処分された状況に関して、その処分が取り消された珍しい事例である。すなわち、重加算税の賦課要件たる仮想隠蔽の成立があるのか否かが課題となっている事例である。重加算税の成立が裁決段階で認められる事例は少なく、本件は相続税の基礎たる財産の把握、計上漏れに対して起きた事例であり、その成立の回避は、参考となる事例であろう。
より具体的には、本件は当該現金が引き出されたものであることが起点となっているが、相続の実務に詳しいものであれば、周知のように死亡により口座が成約を受けると相続確定までは引き出し等が困難になる状況であり、かかる際に、入院費や葬儀費用として一定額を引き出すことは特に珍しい事例ではない。このような事実関係において、かかる現金が申告漏れをきたした状況が仮想隠蔽の状況に該当するのかという点が争われたのが本件の中心的な争点である。
仮想隠蔽の成立においては、その行為にあたって、当初から過少に申告することを企図していたことが、あるの否かという点が、意図的であるのか否かという点が認められることが必要とされるものであるが、本件では、この点において、関与している専門家に対して、財産資料が入ったUSBメモリを渡しているのかという点もあり、現金引き出しの事実は用意に把握できることから、その意図の存在を認めなかったものである。当初はこの専門家が当該資料の受け取りを否認していたことが仮想隠蔽の起点となったものとも考えられるが、結局の所、当該USBに入っていたものと同様のファイルが弁護士事務所のサーバーに保管されていたことが判明し、当初意図の認定が回避されたものである。
なぜ、関与専門家がこのような対応を行ったのかという点は定かではないが(おそらくは、この財産漏れは専門家が十分に財産状況の調査を行いきれなかったことが原因のように思われる)、近年はこのような電子ファイルのやり取り重要な要因となってきているのであろう。調査の現場ではどのような形になっているのか(この点は実務家にも聞いてみたいところ)。従前、帳簿資料や財産資料が、調査における中心資料として考えられてきていたが、近年は裁判事例をみても、このような電子的なファイルの調査、メールのやりとり、契約書の内容確認などの事例が増加しているように認識されるところ(国際租税では随分以前から変わっていたものとも思われるが)、このような対象も含めた資料対応に対する調査制度、留置制度の検討が必要ともいえよう。メールやラインなどのやり取りが記録としてどの程度の価値を持つのか(一般の裁判でもこの評価が課題となることは多いようであるが)という点からも、租税法規における位置づけを再検討すべき時期に来ているのかもしれない。特に本件のような意図に代表される内心に関わる判断を行う上では、時系列での記録や日常的な判断の情報は重要な意義を持つものであり、租税回避の事例などにおいてもこの日常的なやり取りの記録を専門家としては留意しておくべきであろう。
重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。